君へ。
タバコを吸っている君が好きだった。
ふぅ、と息を吐くと空へ消えていく白い煙、口に加える横顔、
その全部が綺麗で、ずっと見つめていた。
見ているだけだった君の姿は、いつの間にか私の隣にいるようになった。
俺、よく人に嫌われるんだよ。それなのに寄ってくるなんて、変な奴だな。そう言って笑う。
変な奴ってなによ、好きなんだから仕方ないでしょ。ムッとして返すと、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
でも、そういう所もお前の良さの1つだよな。
私はタバコと君がもっと好きになった。
君と会う時、胸ポケットにいつも入っている黄色いマルボロ。
その箱を君の細い指が取る。カチッとライターの子気味のいい音が鳴り、赤い炎が周囲を暖かくする。
苦くて少し甘い匂い。目を閉じるとその優しさに身体中が包まれているような気がした。
そうしていると、突然唇が塞がれる。苦い味が口の中に広がる。
目を開けると意地悪そうに笑う君。
毎日のように、2人で笑いあったね。
私も君も、幸せは長くは続かないなんて言葉、嘘だと思ってた。
ふと顔をあげて、君の顔を撫でる。
冷たい、ガラスの感触。
前に置かれたマルボロの箱には薄く埃が積もっていて、手で軽く払う。
目から溢れ出る液体を無造作に拭い、口の両端をぐっと上げる。
笑顔でいないとね。
写真の中の君は、ただ幸せそうに笑っているだけだから。