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09「新たな恋の萌し」【ハンドレッド】

「そうですか。マーガレットは、僕のことを護ろうとしたんですね」

「そうだ。まったく。マーガレットらしいよ」

 マーガレットがお花を摘みに席を外してる隙に、ハンドレッドとギルバートは樹の上に登り、太い枝に腰かけて会話をしている。

「マーガレットは、僕のことを大切に思ってるんでしょうか?」

「そりゃあ、植物は大事にしなきゃいけないと思ってるだろう。――だけど、ハンドレッド。お前が言いたいのは、そういう意味じゃないんだろう?」

 ギルバートが口の端に意地悪な笑みを浮かべて言うと、ハンドレッドは白を切ろうとする。

「どういう意味ですか?」

「妹の目は誤魔化せても、兄の目は誤魔化せないぞ。たとえ、自分のことを視認できた珍しい人物だとしても、好きでもない相手のことを一年も覚えてるはずがない。素直に恋心を打ち明けたまえ。マーガレットと、どこまでいったんだ?」

「この樹の洞の先にある、泉までは」

 質問の真意が理解できていないハンドレッドが見当外れの答えを返すと、ギルバートはハンドレッドの全身を食い入るように観察してから、再び話を続ける。

「その様子だと、手を繋いだ、くらいだな。――あっ、無断キスは許さんぞ! マーガレットの唇を奪うときは、必ず俺の許可を取れ」

 ギルバートが興奮気味にまくしたてると、ハンドレッドは気圧されながらも、冷静に答える。

「兄として妹さんを想う気持ちは、わかりました。それに、仮に僕がマーガレットとキスをしていたとしたら、僕は人間になってしまってるはずですから」

「ん? どうしてだ?」

 ギルバートが怪訝な顔をして疑問を挟むと、ハンドレッドは、慎重に言葉を選びながら説明する。

「精霊にも、それぞれ個体差がありましてね。僕の場合は、意中の異性とキスをすると、精霊をやめて人間にならなければならないという掟が課されているんです。このルールに反することをすると自然界の調和を乱してしまうので、これだけは覆せません」

「ほぉ。……例えばの話だけどさ。人間になれば、望み通りにマーガレットと結婚させてやっても良いと言ったら、どうする?」

 ギルバートが仮定の話を持ち出すと、ハンドレッドも仮定の話で返す。

「仮にですよ。もしもマーガレットから愛してると言われれば、人間になっても悔いは無いですよ。でも、まだまだ彼女は、これから心変わりする可能性が高いでしょう?」

「まぁ、そうだけど。でも、一緒にいたいって気はあるだろう?」

「そりゃあ、本音を言えば、ずっと近くで見守っていたい気持ちはあります。けど、僕は大樹の精で、彼女は人間。この恋路は、ままならないものです」

 諦めモードに入り、会話を切り上げて幹を伝って降りるハンドレッド。ギルバートは思案顔をして、その姿を追って降りる。二人が地面に降りたとき、ギルバートがアッと閃きの声を上げ、ハンドレッドに提案する。

「なぁ、ハンドレッド。この樹の中で、折っても支障がない枝はあるか?」

「えっ? そりゃあ、ありますけど。何に使うんですか?」

「屋敷に持って帰って、庭の日当たりの良い場所に挿し木したら、三シーズンのテレポート基地になるんじゃないかと思ってさ」

「あっ。それは、いい考えですね!」

「だろう? 明日、帰る前にコッソリ寄るから、用意しておいてくれよ」

「わかりました」

 ギルバートがアイコンタクトを送ると、二人は、どちらともなく片手を差し出し、ガッチリと握手を交わした。そして、何事もなかったかのように平然と会話を続ける。

「それにしても遅いな、マーガレットは。どこまで花を摘みに行ったんだ?」

「レディーは、身だしなみに時間がかかりますから」

「それは、そうだけど。それにしても、いつもより時間がかかってる気がする。迷子になったか?」

「本当に、妹さん想いですね。そのうち、戻ってくると思いますよ。――あっ、ほら。噂をすれば」

 ハンドレッドが前方の草むらのあいだを指差すと、ギルバートは、その指示する先に目当ての人物を見つけ、じっと見つめる。二人の視線の先には、動きやすいパフスリーブのカットソーとハイウエストのカボチャパンツ姿に着替え、両手に一つずつの花冠を持ったマーガレットが駆けている。

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