07「木蔭での再会」【マーガレット】
――この一年で、レディーとしてのたしなみを身に着けた私を見たら、きっとハンドレッドはビックリするわね。……あっ、いたいた。
榛の樹の下では、腹部に大きな前ポケットがあるリーフグリーンのロングチュニックを着たハンドレッドが、幹に背中を預けながらうたた寝している。マーガレットは、抜き足差し足で、そっと足音を忍ばせて近寄り、ハンドレッドの寝顔を間近で観察する。
――ウフフ、よく寝てるわね。
マーガレットが笑った拍子に、その吐息がかかったハンドレッドの髪がわずかになびく。その刹那、ハンドレッドは榛色の瞳をパチッと開き、至近距離に人物エックスが居るのに驚いて大声を上げる。
「ヒャッ!」
「あら、起きちゃったのね。残念」
「え、えーっと。……マーガレット?」
ハンドレッドが唇を拭いつつ立ち上がりながら、記憶を頼りにしどろもどろになって尋ねると、マーガレットは、その慌てぶりを可笑しがりながら答える。
「そう。正解よ、ハンドレッド。一年ぶりね」
「あぁ、もう。脅かさないでよ」
ハンドレッドが胸に手を当てて弾んだ息を整えながら言うと、マーガレットは、その場でクルッと一回転し、着ているサマードレスや木春菊があしらわれた髪飾りを見せびらかしながら質問する。
「ごめんなさいね。それより、この姿を見て、何か言うことは無いかしら?」
「えっ? ウーン、そうだなぁ。前に会ったときより女の子らしくなった、かな」
はにかみ気味にハンドレッドが率直な感想を述べると、マーガレットは得意気に胸を張りながら、満足した様子で言う。
「そうでしょう。ハンドレッドをビックリさせようと思って、立派なレディーに大変身したんだから」
「そうだね。君の変貌ぶりには、正直、驚いたよ。さっきは、違う意味で驚かされたけど。――それじゃあ、今日は何して遊ぼうか?」
「そうねぇ。この格好だと、木登りは出来ないし、土や砂に触れるのも汚れちゃうから駄目ね」
「じゃあ、影踏みは、どうかな?」
「良いわね。そうしましょう」
*
「背が高くて、とっても大人っぽいかただったの。この髪飾りだって、そのお姉さまからいただいたのよ?」
――物で釣ろうという魂胆じゃないかって、あとになってから気付いたんだけどね。
「へぇ。良い人みたいだね」
木蔭に並んで腰を下ろしながら、運動の休憩がてら、二人は談笑している。
「そうなの。最初は、明るくて、お話が面白くて、とっても良かったんだけどね。でも、途中で嫌になっちゃったの」
「どうして?」
「だって、遠慮ってものを知らないんだもの。あぁ、ずけずけと思ったことを言うこと無いと思うわ。お兄さまが可哀想だった」
「なるほどね。謙虚さに欠けてたのか」
「そうよ。やっぱり、レディーには慎みがなくっちゃいけないわ」
――あとで、お兄さまに昨日のことを謝っておこう。意地悪してゴメンナサイって。