05「サマーハウスの朝」【ナンシー】
「夕方には到着するらしいから、ディナーの席では、ちゃんとご挨拶するんだよ。いいね?」
「わかってるわよ。それくらい、キチンと出来るわ」
ギルバートが、コーンとレッドキャベツのサラダにフォークに刺しつつ、にこやかに確認すると、マーガレットは、ラグビーボールのようにふっくらとしたオムレツにナイフを入れながら、素っ気なく答えた。
――いつものマーガレットお嬢さまなら、一晩寝たら嫌なことをスッキリ忘れるものなのですが、今朝は違うようです。
ギルバートは、シュンとしょげた様子で高原野菜を口に運び、モシャモシャと咀嚼してから、ナンシーに手招きする。ナンシーが近寄ると、ギルバートは口元に手を当て、小声で耳打ちする。
「今朝、何か不機嫌になるようなことでもあったのか?」
「いいえ。今朝は、いつもと変わらない様子でした」
ナンシーが囁き返すと、ギルバートは、マーガレットのほうへ向き直って、機嫌を伺うような調子で言う。
「そっか。――昨夜のこと、まだ怒ってるのか?」
「お兄さまには、教えません」
マーガレットにピシャリと冷たく言われ、ギルバートは再びナンシーと小声で話し合う。
「どうしたら、マーガレットの機嫌が直ると思う?」
「さぁ。とりあえず、ゲストさまに関して、つまびらかにするべきかと」
「それが出来たら、苦労しない。それ以外の方法で、たのむ」
「そうですねぇ。ここは一つ、あれこれ干渉したくなる気持ちをグッと抑えて、少し距離を置いて観察してみては、いかがでしょう?」
「ウゥム、難しい年頃だな。これが反抗期というものか」
「そうかもしれませんね。まぁ、ご心配なさらずとも、夕方には機嫌が直ってると思いますよ」
「そうなれば、ありがたいんだけど。……以上だ。戻ってくれ」
「はい」
ギルバートはオムレツにナイフで切りはじめ、ナンシーはマーガレットのそばに戻った。
――生命人形である私やフェルナンデスと違って、お嬢さまもギルバートさまも、日々成長して変わっていくものですね。それが良くもあり、ときには、こうして衝突してしまう原因にもなるのですけれども。