04「愛しい妹との距離感」【ギルバート】
「サマーハウスに来られるゲストが、ギルバートさまのお見合い相手だとは、妹さまにおっしゃらなかったのですね」
「言わないほうが良いだろう。彼女とは、今後も付き合い続けていくかどうかも分からないんだから」
書斎のガラス扉に鍵を閉めたり、厚手のカーテンを引いたりしているフェルナンデスを、さも珍獣か何かのようにチラチラ見ながら、ワイシャツにスラックス姿のギルバートは、机の引き出しに封筒をしまい、おもむろに立ち上がる。
――見合いなんかせずに、今年も、また兄妹水入らずで避暑を楽しめたら良かったのになぁ。
ギルバートが机の上に飾ってある家族写真を見ながら、ぼんやりと突っ立っていると、ドアに向かうフェルナンデスが揶揄を含めた調子で言う。
「大人になりたくないよ、妖精さん、とでも言いたげですね」
「サマーハウスは、ネバーランドじゃない。あんまり主人をからかうと、このあと、夏が終わるまでその恰好のままで過ごさせるぞ?」
「口を慎みます」
「わかれば、よろしい」
そう言って、ギルバートはフェルナンデスが開けたままにしているドアを通り、廊下に出る。フェルナンデスは、天井照明を消し、静かにドアを閉め、懐から鍵の束を出して施錠する。
*
「さきほどの話を蒸し返すようで、恐縮なんですけど。――お水です」
台車の上で繊細なエッチングが施されたガラス製の水差しから、慎重にグラスに水を注ぎつつ、執事姿のフェルナンデスがギルバートに質問すると、パジャマ姿でベッドの上で半身を起こした状態のギルバートは、半分ほど水が注がれたグラスを受け取りながら言う。
「どの話だ? マーガレットが冬眠前のリスみたいに頬を膨らませてたって話か? ――どうも」
「水揚げされたばかりのハリセンボンではなかったのですか?」
「そうだったか? まぁ、どちらにしても、可愛らしいけどな。――はい、グラス」
ギルバートが飲み干したグラスを渡しながらデレデレと表情筋を弛緩させて言うと、フェルナンデスはグラスを台車の上に置きながら、気を取り直して言う。
「えーっと、話を続けますね。サマーハウスに来られるゲストである、カトリーナさまについてですが、何が気に入らないのかと思いまして」
フェルナンデスが言ったあと、ギルバートはスッと表情を硬くし、真面目な顔で答える。
「十七歳で、新興起業家の一人娘。写真を見る限り、豊満で人目を惹く魅力を持っている。結婚すればマーシャル家の資産が増えるし、向こうのシンディー家にも箔が付くから、ウィンウィンの関係と言えるだろうな。だけど、そういう政略的なことで将来を決めていいのか、はなはだ疑問なんだ」
「なるほど。お金があって愛のない生活は、無味乾燥としてますからね」
「まぁ、実際に会ってみたら、考えが変わるかもしれないけどさ。――おやすみ、フェルナンデス」
「最終的には、相性ですからね。――おやすみなさい、ギルバートさま」
ギルバートが眠りに落ちたのを確かめると、フェルナンデスは台車を押して主寝室をあとにした。
――多くを求めすぎなのかもしれないけど、現実のために理想を曲げたくない。少なくとも、今の段階では。第一、マーガレットが彼女を気に入るとは思えないんだよなぁ。




