03「お兄さまとの距離感」【マーガレット】
「お似合いですよ、フェルナンデスちゃん」
「そちらこそ、燕尾服姿が板についてますね、ナンシーくん」
廊下の端に佇んで控えているナンシーとフェルナンデスが、互いの格好を見ながら言葉のツバ迫り合いをしていると、ドアが開き、書斎の中から水玉模様のブラウスとフリルのスカートを着たマーガレットが飛び出してくる。
「おや、マーガレットお嬢さま。もう、お話が済んだのですか?」
ナンシーが駆け寄って質問すると、マーガレットは、やや不満そうに口を尖らせながら言う。
「そうよ。続きは、サマーハウスに行ってからですって」
「そうですか。――入りますよ、ギルバートさま」
フェルナンデスは、開いているドアをノックして部屋に入り、スカートの裾を巻き込まないように軽く押さえつつ、後ろ手で静かにドアを閉める。
*
「そうですか。サマーハウスに、ゲストが来られるのですね」
厚手のカーテンを閉めながら、メイド服に着替えたナンシーがアッサリと言うと、ベッドの上でネグリジェ姿のマーガレットは、頬を膨らませて不貞腐れながら言う。
「そうなのよ。だけど、お兄さまったら、お呼びするお客さまのことを、私には何にも教えてくれないんだから」
――私に隠しごとをするなんて、シスコンのお兄さまらしくないわ。
「そうですか。いつもは目に入れても痛くないほどの猫かわいがりようですのに、変ですね。何か、前もって伝えられない事情がお有りなのでしょうか?」
ナイトテーブルのライトを付け、部屋の明かりを消して回りつつ、ナンシーが推理を働かせて言うと、マーガレットは、タオルケットの端をギュッと両手で握りしめながら言う。
「お兄さまがその気なら、私にだって考えがあるわ。もう、何にも知らない子供じゃないんだから」
「何をなさるおつもりですか?」
ナンシーがベッドサイドに腰を下ろし、そっとマーガレットの肩を押して寝かしつけつつ、心配そうに顔を覗き込みながら言うと、マーガレットは、目を瞑って横になりながら答える。
「お兄さまのことが嫌になったフリをするの。そしたら、教えてくれる気になるかもしれないわ」
「なるほど。なかなかの妙案ですが、マーガレットさまは寂しくなりませんか?」
「ちょっとくらいなら、平気よ。本気じゃないもの。それに」
「それに?」
ナンシーが聞き返すと、マーガレットはタオルケットを鼻先まで引き寄せて口元を覆い、そのまま眠りに落ちる。
――過保護で心配性なお兄さまが、最近、ちょっと鬱陶しくなってきたんだもの。