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ピピピピッ!ピピピピッ!
刺々しい電子音が私の鼓膜に叩きつけられる。
ピピピピッ!ピピピピッ!ぱしん。
薄暗い冬の朝の光がベランダから部屋の中に差し込み、飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルが目を刺激する。
目覚まし時計を止めた指先に、鈍い痛みが走る。
目を向けると、昨日ボス猫に噛まれた人差し指にまかれた絆創膏が剥がれかけていた。
……そういえば、ボス猫に噛まれた後、どうしたっけ。悠々と過ぎ去るボス猫を見送った後の記憶がないが、いつの間にか帰って、寝て、気付いたら朝だったみたいだ。
そこまで考えた後、今日が最初の出勤日だったことを思い出し、とりあえずシャワーを浴びようとのそのそと起きだして異常事態に気付く。
お腹から胸にかけて、短く細い毛、毛、毛、毛。まるで猫っ毛の嵐に巻き込まれたかのよう。
慌ててコートにジャケットを脱いで、やっとコートのままで眠っていたことに気付き、コートのままで眠るとはどこまで自堕落なのかと昨日の自分に呆れる。
直接触れた覚えはないけれど、襲われたあの短い中でも猫っ毛雰囲気に曝露していた時間としては十分だったらしい。
昨日のことを思い出す。
……どこかでまたたびの木にでも触っていたのだろうか。
脱ぎ捨てた上着をしり目に、着替えを持って行きシャワーを浴びる。変な寝癖が治らない。直毛過ぎるのが悩みなくらいだったので、珍しさを覚えながらぐしぐしと押さえる。
戸棚に買い置いていたビスケットをかじり、リビングのコタツの上のピルケースを開ける。
昨日の自分は相当に慌てていたのか、眠かったのか、夕飯後の薬を飲まなかったようだ。それでよく眠れたものだと思ったが、コタツの上の様子を見るに、夕飯も摂っていなかったみたいだ。
ミネラルウォーターでビスケットと薬を胃に流し込み、歯を磨く。
店長にはゆっくりで構わないと言われたが、最初の出勤くらいは早めに出よう。
まだ二月と、寒さは依然に残る時節でもあり、シャツの背中と腰のあたりに使い捨ての貼るカイロをくっつける。
……約二週間ぶりに袖を通したスーツに緊張を思い出した。
頓服薬を飲み込み、深呼吸をしてドアノブをぎゅっと握りこむ。
…………昨日の自分は、鍵も掛け忘れていた。