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短編とか

やっちまった…。(色んな意味で)

 桜が咲き誇りそれが散る様に、世界は絶え間なく動いている。それは昔から変わらないことだ。それでも何処となく寂しいと感じるのは、俺がどこかでそう思う自分に酔っているだけかもしれない。


 あれは、日差しが強くなってきたと感じるようになってきた六月。俺は、取り返しのつかないそんなことをしてしまった気がしてならない。


 いや、そもそも六月と限定するのはおかしいのだろう。あの日のことは時々夢に見る。俺としては、それほどまで、今の俺を形作ったあの日は忘れられない。



 時は俺が、まだクソガキ…、中学校一年生であったことから掻い摘んで話すべきだろう。


 中学一年の時、俺は市立S中学に通うことになった。勿論市立であるので、同じ小学校の友人も一緒だ。

 そして友人とはいかないまでも、程々に田舎の中学なので学年合わせても百二十数名、小学校の学年は五十数名だったか、それほど少数であれば全員の顔と名前を一致ぐらいなんてことない。

 そんなわけで、ある程度俺としては同じ小学校の人間の人柄を把握していた。


 中学生になっても半数は顔見知り。それでもの残り半分は顔も名前も知らないそんな感じだ。なので、一年目として恒例?の自己紹介が始まった。


 俺の名字は、比較的順番が早いので(男子で二番目、全体で三番。)、知っている人も含め自己紹介を聞いていた。

 そこで、この話の冒頭の後悔は始まる。


「…。」

「ん?河崎(かわさき)さんどうしたの?」

 その子の名前は河崎 実理(みのり)。彼女は俺と同じ小学校で、そして俺の隣の席の女の子だ。


 ざわざわ…。

「せ、先生。実理は人前で話すのが得意じゃないんです。」

 気付けばそんな風に言っていた気がする。いや記憶が正しければだが…。もしかしたらもっとぶっきらぼうに心無い感じで言ってしまったかもしれない。


 話は戻るが、彼女は極度の人見知りであった。彼女と仲のいい女子と話す時も、耳元で話すように小声で話すほどであった。それでも、彼女は小声でもコミュニケーションと取ろうとしていたし、笑顔はありふれた表現かもしれないが、向日葵が咲いたようなそんな感じだった。


 そんな彼女が知らない相手、しかもそれがたくさんの前で自己紹介なんて難しいことだったろう。俺としては困っている彼女を助けたい、そう思って気付けば声を出していた。


「「「え?」」」

 担任だったか(もしかしたら俺だったかもしれない。)誰が発したか、それは実理に向けて放たれていた。

 実理の頬には涙が流れていた。


 この時の涙の理由を俺は知らない。それでも、彼女は泣いていた。



 時は過ぎ、中学三年の冬。俺達は進路について考える時期になっていた。俺の中学の成績は、ほぼ8割をキープしていた(英語?知らない子です。)。その時の志望動機は、やりたいことも無いけれど、将来やりたいことが見つけた時に後悔しないようにという残念過ぎる理由で、市内でも高くも低くも無い普通科校に決めていた。


「ねぇねぇ、どこ行くか決めた?」

「ん?N高校。」

「へぇ~、やっぱ頭良かったんだ。」

「あれ?意外だった?」

「うん。授業中とか時々寝てるのに…、不平等だよ…。」

 そんな会話もすることも増えてきていた。


 ある日、隣のクラスの実理とその友人が俺に話しかけてきた。

「N高校行くんだよね?」

「ああ、うん。」

「…。」

「そかそか、頑張りたまえよ。」

「なんだそれ。」

 俺は苦笑し、二人に別れを告げつつその日は終わった。


 俺らの中学は、受験する高校毎で纏めて出願したり、当日の行動を打ち合わせなんかもするので自然と誰がどの高校に出願したか分かる。

 そして、俺は特色選抜(多分今では推薦選抜かな?)でD高校に、実理はN高校に出願していた。


 ここでの、D高校はN高校のワンランク上の高校である。

 これは、親の希望で

「特色なんて落ちるんだし、もう少し上受けるだけみたら?どうせ一般で受かるでしょ?」

 という暴論。おいこら、母親。


 まぁ結果は、N高校に通うことになった。実理は特色選抜でN高校に合格していた。ただ、このN高校同じ中学の人が少なかった。(俺と実理を合わせて、四人。)

 もう一人は、幼稚園から一緒で顔を合わせれば挨拶する感じの女の子A。

 もう一人は、中学から同じ学校の女の子B。

 残念ながら二人と、実理が話している所を俺は見たことが無い。そう、“見たことが無かった。”


 そして、六月。女子Aと帰り道で会った。

「実理ちゃん、学校辞めたらしいよ。」

「…。」

 言葉が出てこなかった。それほどにショックだった。


 家に帰った後、俺は風呂に入りながら考えた。

 俺に何かできたんじゃないか?今思えば、中学三年の時に進路を聞かれた時、俺は頼られたのではないだろうか?

 中学一年の時に、俺は反射的だったとは言え彼女に助けを出した。あの時の涙の意味を俺は知らない。


 実は、N高校よりも同じ中学の子が沢山いるK高校がある。(多分五倍。又はそれ以上。)

 そこじゃなくて、N高校を選んだのは…。


 そこからのことは覚えてない。気付いたら朝だった。いつ布団に(くる)まったかも覚えてない。

 俺は、自分が情けなかった。もしかしたら俺は一人の人生を無茶苦茶にしたのではないか…。当時はそう思った。

 俺はそれに耐えれなかった。N高校であったのが良かった。もし実理と仲の良かった女子に会えば被害妄想で、今を生きていなかっただろう。


 実際成人式に参加するのも怖かった。責められる覚悟で参加した。実理はいなかった。

 男子たちはあまり変わってなかった。

 女子ですらあまり変わってなかった。(ただ、綺麗になっていた。)


 俺は拍子抜けした。同時に安堵している自分に嫌気がさした。誰かを救うというのは傲慢だ。それでも、俺は何かできたのではと思う。思ってしまう。


 当時、彼女が考えていたことなんて、俺には分からない。それでも…。一度でも自分の不甲斐無さを感じたあの時から、俺は…。



 昨日も夢を見た。実理が笑っている夢だ。

 本当に自分が嫌になる。

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