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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
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Case7.隣に立てる人(後)

 召集を受けてユリカゴハカバーのところへと集まり、リノと第3期適合者の4人は再び顔を合わせた。

 今度こそ、あのコブラ野郎をぶっ潰してやると情熱に満ちた表情でいる。


 ……ふたりを除いては。


 不二と城華は暗い顔をしたままで、不二は何度か城華に話しかけようとしたけれど、先にリノの暴走運転がはじまってなにも言えず、ただ振り回されるしかなかった。


 コブラの出現先は今度も地下鉄だったらしい。

 出勤か通学に関するうらみつらみを中核にしたストレセントなのだろうか。


 地下であれば、不二の首吊りの変身は簡単になる。

 しかし好都合なのはそれだけだ。


 和紙にしてもうろこにしても、戦える場所が狭くなるのは不利になる。

 重火器を放てば崩落する危険性もあるし、屋内では和紙のスピードも存分には発揮できない。


 加えて、敵であるコブラのストレセントは前戦った時に判明している通り蛇の身体は回避を行いやすく、また銃器を避けやすい。

 近づけば毒と牙の試練が待っている。


 どう立ち回るか、不二にはわからなかった。

 だがリノと和紙とうろこは自信満々なようすであり、何かしら策があるようだった。


 地下鉄の駅へと入る。

 中では倒れ意識を失っている人が大勢おり、線路の場所にコブラがちょうどおさまっている。


 これでは誰も電車を利用できないし、それどころかこの空間には微量の毒が充満しているらしく、吸い込むとぴりぴりする。


「ちょっとぶりだなヘビ野郎。今度こそ決着だ」


 うろこが威勢よく発砲し、自らを撃ち抜くことで変身する。

 同時にナイフを握る和紙もユリカゴハカバーを駆るリノも動きだし、人々の間を縫うように進んでコブラを狙っていった。


 コブラの身体そのものを道として走っていく機体と少女を銃器で援護し、なにやら後頭部まで到達させるのを目指すつもりらしい。


 あの作戦に、不二は必要なさそうだった。

 まだ変身もしていない。けれど、きっとできることがあるはずだ。


 城華とふたりっきりだが、今は戦闘中だ。

 いつもならリノが人々の避難にも使っているユリカゴハカバーは彼女がコブラとの戦闘に集中していることで使えない。


 必然的に不二と城華が人々の救助に当たらなければならない。


 まずは奥側にいた駅員らしい制服の男性を背負い、出口へ連れていく。

 そのあいだも城華は立ち尽くしているだけで、何をしようともしていなかった。


 毒が散布された空間に来るのを恐れているのか。

 仕方がないことだとは思う。あんな死に方をしたのだから。


「……あのさ、城華」


「なによ。私がなにもしなくたって」


「ばかだったのはわたしだった。自分のことばっかり考えて、城華のことに向き合おうとしてなかった。だから、何もわかってないくせにあんなことを言った」


 城華は黙って拳を強く握り、奥歯を噛み締めている。

 不二にはまだ言いたいことがあった。

 途中で背後の戦うメンバーたちが激しく音を響かせ地を揺らしても、城華に届くよう言葉を続けようとする。


「だから、謝らせてほしい。ごめん。わがままだけど、わたしがあなたの隣に立つことを許してほしい」


 目と目があって、城華は今にも涙をこぼしそうだった。

 不二も顔が熱い。もうとっくに涙が流れているのかもしれない。


 なんだってかまわない。彼女に伝わるのなら、不格好でもよかった。


「……ばか。そんなの、決まって──」


 城華の返事は、空気を読まないストレセントの攻撃によってうろこが吹っ飛ばされてきたことで中断された。

 状況は察しているらしく申し訳なさそうだが、これはもうしょうがないことだ。


 不二が抱き起こして話を聞くと、あのコブラに対して「後頭部を押さえつけ、口のなかに対戦車砲をぶちこむ」という攻略を行おうと思ったのだが。

 激しく動こうとするとこの空間に充満した毒によって大きなダメージを受けてしまうという。


 実際、倒れている人々はパニック状態になって走り回ってしまったからか誰もが喀血していて、酷い有り様だった。


 蛇の対処法を調べてみるという方法は失敗に終わった。

 では、どうすればあいつを倒せるのだろう。せめて、この毒が充満していなければ、十分に戦えたはずなのに。


「不二。この変身って、自分が死ぬのに使ったものを操れるのよね」


「え?あ、あぁ、確かにそうみたいだけど」


「じゃあ。賭ける価値はあるわ」


 城華は今までずっと怖がっていた吸入器に、カプセルをセットした。

 かちり、という音がしていつでもボタンひとつで吸入がはじめられるようになっている。


 またそれを眺め、ためらい、それでもやらなければならないとまた口元に当てようとし、その繰り返しだ。


 不二はうろこをそっと壁にもたれかけさせ、城華の隣へ駆け寄った。


 そっと手をかさね、頷いた。わたしがいる、と彼女に言い聞かせるように。


「……い、いくわよ!変身っ!」


 覚悟をもって、それでも震えながら、不二の後押しがなければ押し込まれなかっただろうほどの弱々しさで吸入器が起動された。

 カプセルの中身が解放され、管を通じて城華の身体の中へと吸い込まれていく。


 その場では変化は起きず、すこしだけ様子をみてから城華のことを労おうと不二は笑ってみせようとする。

 しかし、その数分後にこそ効果は現れる。



 弱々しさはやがて死に近づく故に力が入り、震えは怯えからのものではなくて全身痙攣に変わり、立ってなどいられなくなっていく。


 瞳は小さくなり、涙は絶え間なく流れ、もはや不二の顔さえ見えているのかわからない。


 他の体液でいえば、口からは嘔吐によって消化されかけでどろどろの朝食がぶちまけられ、下半身では失禁の症状も起きていた。


 それでも大丈夫だと、不二はとなりにいる。

 この壮絶な死への道を辿る彼女に寄り添い、やさしく抱きしめる。



 ただ、城華本人の意識はすでに失われているようであった。

 あれで意識を保っていろというほうが無理だ。

 死をもって、流した体液が光へ消えて生体隕石に吸収され、彼女の衣装が変化をはじめていく。



 まずは大きな白衣、その中に淡いピンクのミニスカート、しましまのニーソックスが形成される。

 胸部には生体隕石が露出し、その周囲を覆うように金属の胸当てがあらわれ、こちらも桜色で装飾される。

 最後に、城華の背には向こうが透けて見えるほどの薄い四枚の羽がつくられた。


 変身の仕上げとして彼女は意識を無理やり呼び起こされ、やっと目を覚ます。

 先程のように症状をもろに受けたものではなく、いつもの彼女の瞳だ。


 城華の手をとり、立つのを助けてやる。

 まだすこし脚には不安が残るようだが、どうにか立ち上がった。


「お疲れ様、城華」


「……なに、言ってるのよ。本番はこれからでしょう?」


 城華が背の羽をはためかせると、きらきらと光が舞う。

 すると空気を吸い込んだときのぴりぴりする感覚がなくなって、むしろ肺が修復されていく気すらする。


「毒をもって毒を制す、よ。これで空気はどうにかしたわ、あとはあいつ本体」


 不二が城華に促されて駅の奥を振り向くと、コブラは新たな獲物を睨む目でこちらを見ている。

 和紙とリノはそれぞれ口から血を流しているが、こちらに気づくといったん撤退して戻ってきた。

 特にリノは城華の変身している姿を見たためか、親指を立てて掲げながらであった。


「この敵にぴったりな能力だね。無事変身できてよかったよかった。で、うろこくんが戦闘不能みたいだけど、どうするの?」


「火力じゃなくても、脳天ぶち抜けば死ぬでしょう?あいつが口をあけるように仕向けて。私が動きを止めるわ。社長さんは危ない位置の人たちと、うろこの回収をお願いね」


 城華はずいぶんと抽象的な指示で作戦を説明した。

 が、要はなんでもいい。


 後頭部に回って押さえ込む方法をとらずに動きが止められれば、不二のフックショットで頭部を攻撃すればいいのだ。

 ユリカゴハカバーは動きだし、全員がそれぞれの持ち場につく。


 まずは和紙が陽動に動く、コブラは当然目の前でちょろちょろと動く彼女を狙うし、彼女に噛みつこうとする。


 その瞬間、ずっと口をもごもごしていた城華が前に出て、聞き取りにくいくぐもった声でこう言った。


「じゃあいくわよ、くらいなさい!」


 城華が放つのは猛毒の吹き矢、のようなものだ。

 それよりずっと濃く、コブラの体内へ飲み込まれていく。


 毒を持つものに毒は効くのか、という疑問はあった。

 だがそんな心配は無用だったらしく、コブラのストレセントは和紙に噛みつこうとした姿勢で大口を開けたまま固まり、動かなくなった。


「今よ!」


「あぁ、わかった!」


 ここからは不二の出番だ。

 ワイヤーを射出し、動きを止めている相手の向こう側にある壁目掛けて固定する。準備はそれだけだ。


 ワイヤーは不二の指示を受けて勢いよく巻き取りをはじめ、不二は直線上にいるコブラの頭部に加速しつつ向かっていく。

 接触時に蹴りの形をとり、頭部ごと吹き飛ばし、残った蛇体が小規模な爆発を起こす中を突き抜けていった。



 不二がキックを華麗に決め、コブラのストレセントは無事撃破された。


 今回は城華が撒いた成分のおかげで肺への深刻なダメージとなった人は幸いいなかったらしく、死人もでなかったという。

 これは快挙だとリノに褒められ、城華と不二は気分よくこの日の午後を過ごした。


「……今後はこれが当たり前になるといいわよね」


 城華の感想に不二は頷いて、彼女とふたたび手をつないだ。

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