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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
セカイハマワレリ
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Case63.この身を捧ぐ

 不二たちをはじめとするタチバナとストレセントたちが天界社に到着するころ。

 その周辺には足止めのために配置されたテラレッサーと兵器がところ狭しと並べられており、すべてを突破しなければ進めないだろうということはわかった。


 小灰によると、ストレセントとなりかけている芥子、ディアリーと名乗ったらしいが、その彼女が先へ行ったと思われた。

 結界には弱い部分があり、おそらくそこを一時的に途切れさせて入っていったばかりなのだろう。


「まだ時間は経ってないわ」


「装置も作動してないみたい」


「急いで、えっと、とにかく急ぐのです!」


 ウートレアが珠を用いてかるく穴を開け、雪崩れ込んでくるテラレッサーたちを和紙や希が対処する。

 あふれでる敵に攻撃を繰り返して、市街地への被害だけは抑えようとする。突入は難しそうだ。


「っく、キリがないっすよ!」


「いくらでも出てくるよ!」


 オヴィラトと希の嘆きももっともだ。止む気配がない。これだけの量の生体隕石を持っていたというのか。

 不二も手当たり次第に蹴りや斬撃で応戦するが、まるで減っているとは思えなかった。


「みんな聞いてくれ! あたしにいい考えがある」


 そういって、うろこは装甲を変形させた。


 極大の砲は道を作るのに使われるだろう。

 一瞬であれば薙ぎ払えて、せいぜい数秒間だけ、それも一度きり、天界社への道を作れるという。


 戦いながらも軽く話し合った結果、うろこのために和紙は残り、さらに彼女のためにウートレアが残るという。

 オヴィラトと希もまた智夜を守るのに精一杯でこれより突入すれば危険が伴う。


 装置を止められる智夜と、彼女を連れていくために不二が行くことになって。

 決まればすぐに出発だと、うろこがエネルギーを溜め始めた。


 集められた光は一挙に開放され、一本の道を切り拓く。

 射線上のテラレッサーたちはすべて消滅して、智夜を抱えあげた不二は短くありがとうとだけ告げて、出しきったらしいうろこに力なく見送られた。


「希さんに、ゆあさん。ほんとうにほんとうに大丈夫でしょうか」


「みんなを信じよう。いまは自分の成すべきことをしなくちゃ」


 屋内ではテラレッサーは数えきれるほどしかいなかったが、かわりに隠されている兵器に侵入者への敵意が込められていた。

 剣を自律行動させて防御を繰り返し、タワーを駆け回る。

 智夜によれば炉になる部分はかなり面倒な道順になっていて、いっそのこと壊せばいいという。


 彼女に指定された部分を蹴りやぶると、たしかに重要そうな部分に着いた。


「あなたたち、は」


「止めに来ました。芥子さん」


 芥子のスーツから露出の激しい衣装になっていたディアリーだが、そういった身体へ抱く感想よりも、無数に開いた口や目に見える狂気と成れの果てであるかのような姿が胸を締め付けた。


「……リノさまの邪魔をしないでください」


 今度はほんとうに締め付けようと、ディアリーの触手が伸びてくる。


 受け止めて引き裂き、イヴのような理不尽な存在ではないと悟った。

 このまま戦えば倒せる相手ではあるだろう。けれど、ただ滅していい相手じゃない。芥子はずっと、影からでも支えてくれていたのだ。


 助ける。その選択肢こそが不二の見つめるものであった。


「ふにさん、ふにさん」


「……智夜?」


「この塔の機能を狂わせます。そのあいだ、お母様をよろしくです」


 不二は頷き、駆けていく智夜を襲おうとする触手をワイヤーで射止め、引きちぎった。ちぎられても触手は動いていたが、やがて消えていく。


 リノのためにとすべてを捧げるディアリーと、誰かのためにと犠牲になる不二。

 ふたりは向き合って、互いに違うものへ自己犠牲を向けるために己の武器を構えた。


 ◇


 エイロゥが確認していた事実は、誰かを残らせると判断させるには十分すぎるものだった。


 ディアリーとなった芥子は天界社へ逃亡、そして装置の起動を試みる。

 そちらも無論止めなければならないし、重要な施設である以上守りは固くなる。戦力は必要だ。


 だが、脅威はもうひとつあった。


「こんなところにいたんだね。可恋も、ミナミも」


「……あなたですか。何の用ですか?」


「救済が行われた世界に君たちの居場所はないからさ。いまのうちに、ってことさ」


 天世リノという女。


 彼女こそが災厄であり、彼女がこうしてアジトに現れたのは悪い展開だった。

 エイロゥが消されるのはまずい。主観的な感情だけでなく、まとまりのないストレセントにおいていちおうの司令ができる者はいるべきだ。


 アジトの研究室へ進入してきたリノがゆっくりと近寄ってくるのに対し、エイロゥはゆっくりと後ずさりをする。

 いまは武器になるようなものもなく、奪われて困るようなものもない。

 強いて言うならエイロゥだ。棚のものが落ちるのは気にすることなく、壁際に追い詰められるまでゆっくりと睨みあう。


 そして、リノが動こうとして、身体が硬直した。


「わたしなしで楽しまないでよ!ね☆」


 乱入者だ。彼女はゆうゆうと現れ、リノの動きを止めている。


 エイロゥを逃がそうとしているらしい。

 その意向に甘えて研究室を抜け、外から見ることにする。そこにはすでに城華もいて、イドルレとリノのことをじっと見ていた。


「戦うのね」


「でしょうね」


 X型を得たイドルレであれば渡り合えるということはわかっている。

 そして、僅差でイドルレは敗北し、リノを越えられないともわかっている。


 それでも戦うのがイドルレの、憧れのストレセントとしての存在だ。

 エイロゥはそれを止めるつもりもなく、補助するつもりもなかった。


 いまのリノには、軽口をたたくほど心の余裕はないのだろう。

 あるいは本気でイドルレを相手しにやって来たか。どちらにしても激突はかなり派手なものになる。


 イドルレの魅了が解けて、リノが刀を下ろして動き出した。

 回避すればもちろん背後のデスクに突っ込み、ガラス瓶がいくつも割れる音がする。

 薬品がいくつかぶちまけられて、イドルレもリノも動きづらいようだ。

 いつもの速度はどこへやら、単純な技術と対応力がものを言った。


 至近距離での攻防ならば、やはりリノに軍配が上がる。

 だが、イドルレだって的確に防げるし、再生速度も追い付く。さらに彼女には超音波を操る力も、リノの動きを一瞬でも止める術さえある。


 それらを活用し、イドルレは動きを止めては腹部に振動波を浴びせて破壊、痛みでリノを押さえた。

 何度も剣とスタンドマイクを交わしてきた相手なのだから、互いに知り尽くしているのだ。


 そのまま打ち合いが続くなか、ある時リノに振動波が浴びせられ、それによって研究室の外まで吹き飛んだ。

 エイロゥは急いで別の隠れ場所へ急ごうとするが、見入っていたのか城華は動かず、無防備なままでリノの前に放り出される。

 いまのリノにとって、城華は裏切り者とだって言える。消す口実はある。


「リノさん。ひとつ、いいですか」


「……城華くん? あぁ、どうかしたのかい」


「本当に、全ての人を救えると思ってるんですか?」


 リノに対して、悠長にもその問いだ。

 城華がいつ斬られてもおかしくなかったけれど、エイロゥとイドルレは黙って見ている。

 いま、城華とリノだけが世界に言葉を運ばせている。


「思ってなくったって、これしかないんだ」


「……なにもしない、ってのは」


「あり得ない。黙っているだなんて選択は無い。君だって同じだろう、もちろん不二くんだってだ」


 リノは本気だ。

 城華は拳をつよく握って震わせて、そして絞り出すようにこう言った。


「だったら私は、不二が自分を捧げたこの世界の未来に賭けます。奪わせはしません」


「例えそれが……」


「破滅の未来であっても、です」


 城華はどこまでも不二のためにしようと。振り向いてはもらえても、自分だけ見てはもらえない恋を抱いてリノの前に立っている。

 個人のちっぽけな情動だと切り捨てればそれまでだが、リノは刀を杖にしゆっくり立ち上がり、彼女を見つめ、そして。


「ごめんね、城華くん」


 一刀のもとに斬り伏せた。

 城華の身体から血が飛び散って、そして彼女を動かしていた生体隕石が抜き取られ、リノによってそこらへ転がされた。


 少なくともエイロゥはその光景になんとも思わなかったけれど、イドルレには感情をゆさぶるものがあったのだろうか。

 飛んで襲い掛かって、受け止められて、それでもその整った顔面をなぐりつけ、その痕を残した。


「リノを越えようと思っていたつもりだけど。どうしてかな、いまのわたしはただあなたをぶっとばしたい」


「光栄だよ、可恋」


 研究室からアジト全域へと戦場を広げ、イドルレとリノが再びぶつかりあう。

 追い付けないエイロゥには、時々聞こえてくる破壊音とうめき声だけが戦況を知らせる便りであった。

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