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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
セカイハマワレリ
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Case57.奪取&脱出

 天世リノはため息をつく。


 うまくいっていないときはひっきりなしにする癖が出ているらしく、リノは繰り返しついており、そして芥子が小声で回数を呟いていた。

 いま、天界社にはこのふたりしかタチバナがいない。地下棟はさみしくなっていることだろう。


 タワーを発射の装置にしているため、そっちに警戒をまわしていて、上空は結界を幾重にも張り巡らせ攻撃兵器も各種用意されていると聞いた。

 地上階への侵入は危険だ。リノはいま智夜奪還に向けて回復しようとしているらしく、屋内で芥子を相手取るのは難しい。と、なると。


 思考の途中で扉が開いた音がしたため、ウートレア作小型ストレセント式盗聴器との通信を切って迎えに行く。


「ただいま~」


「おや、おかえりなさい。それと、そちらのふたりは」


「逃げてくる途中で拾ったの! エイロゥ、案内してあげて。もう疲れた、ねる……」


 イドルレがふたりのタチバナを連れて帰ってきた。

 当のイドルレは押し付けてさっさと自室へ戻っていったが、リノとの戦いを経て彼女もぼろぼろ。休ませてやるべきなのはひとめでわかる。


 それよりも、遅れて到着したタチバナの方が相手をすべきだった。

 エイロゥはふたりにとってもよく見覚えのある人物だったのだから。


「来ましたね。希さん、小灰さん」


「ミナミ先生……?」


 石岡ミナミ。その名は天界社の元研究者にしてそのリーダーであり、いまはエイロゥ・ストレセントである者の名だった。

 いまでも、ときおりストレセントであることを隠すのに使っている。

 いくらなんでもこの格好は奇抜で違和感を覚えるものだと思うのだが、意外になんとかなっているらしい。


 そこよりも先に、ここにいることが疑問のようで、エイロゥはいまこじらせると面倒なので適当に嘘をついてごまかし、彼女たちを案内してやることにした。


「ええと、私は暴走する天世リノを止めるため、天世智夜に協力しているのです。では、タチバナのみなさんも含めて話しますので、こちらへ来てくださいね」


 全員を集めるようリビングで激しい曲にノっていたウートレアに頼み、第三期の面々を呼んできてもらった。

 希は不二に抱きつき、城華がそれに嫉妬して、小灰に背中を押されて抱きついているタチバナが増えた。


 エイロゥは眉を動かすこともなく話をはじめようと椅子に座って、咳払いをした。

 ウートレアのヘッドフォンのほかは静かになり、そのヘッドフォンも没収した。


「こほん。全員が揃って初の作戦を命じます。まだ智夜さんのプロジェクトは完成していないのですよね」


「え、あ、はい」


「N型隕石のパターンはすでにふたりに施していますが、それだけでは相手に手の内が割れています。ですので、別の方法を試すため。天界社から生体隕石を奪ってきてもらいます」


 地上階に警備が集中していること、地下に生体隕石の保管庫があること、そして端末に必要なもののナンバーを送信し、続いて出撃する人員を指定する。

 イドルレは使えない、よってリノを食い止めることは考えない。

 見つかるよりも前に離脱するため、和紙と不二、うろこの三名が選ばれる。


 城華は文句を言おうとするが、エイロゥは彼女に研究側での協力があるだろうと言って抑えてもらった。

 才能のある者には活かしてもらわなければならない。


「では、出発は夜といきましょう。通信系統はウートレアに任せます」


「またなのですか? でも、かわいい妹のためにがんばるのですよっ」


 電波などをめちゃくちゃにしたり内容を改竄することが可能なウートレアの能力は、敵の通信を邪魔しつつこちらは使えるという一方的な状況を作り出せる。

 どのストレセントも出ないからこその戦略だ。人員があれば分業ができる。


「さて。私は私で、ちゃんと研究しましょうかね」


 テラレッサーや結界破りはお遊びだった。

 タチバナ強化の発案者である石岡ミナミはいくつかの方法を考えており、そのうちX型とN型は実現した。次は不二の例を見させてもらおう。


 ◇


 夜になり、不二たちは隠れ家を発つ準備を終えた。

 意外にも大きかったバスルームでゆっくりもしたし、こちらも意外なことに天界社と同じようなホテルめいた部屋になっていて仮眠もしっかりとれた。

 出発には十分だ。


「んじゃ、行くか」


 察されないためにはとにかく速く、だ。そのために強化をもらっている三人が選ばれたし、出発直前に変身をする。

 まずはいつも通りにそれぞれが首を吊り、手首を切り、頭を撃って。


 さらに重ねて不二は胸に手をあて、和紙とうろこは自分の生体隕石へ手をかざし、いつもとは違う衣装へ変わっていった。


 あとはひたすらに走った。

 走力は上昇しており、うろこは装甲が重くなっているもののブースターによって結果速度をあげている。


 天界社近郊の目的地にはあっという間に到着する。

 そびえ立つ夜のタワーがやけに大きく見えて、自分達はいまリノたちにとっては敵だということを自覚しつつ、とある地点で立ち止まった。


 これは、ユリカゴハカバーが飛び出すためのハッチだ。常にある程度開いているため、抜け穴のように使うことができる。

 まず和紙が入り、特に反応もなくドアロックも当然のように解除し、螺旋階段を飛び降りてショートカットしつつ地下15階にまで急いだ。扉は壊されたままで、保管庫は丸見えだ。


 三人でみっつ、それぞれひとつずつを探してまわり、奥のほうにあるのを簡単に見つけた。

 ケース入りのを取り出すには不二の剣を使い、盗人らしく早急に退散しようとする。


「……こんなところで。何をしているんですか」


 止める者の声がした。煙草蒲芥子だった。

 和紙がこっそりとウートレアに連絡を入れ、全員は逃亡の姿勢に入った。

 芥子は火のついた玉、つまり爆弾を取り出し、自らの腹部を爆破する。


 そういえば、あの姿はタチバナとなってからはじめて見る姿だ。

 スーツを元に銀色のフリルで装飾されたかわいらしい衣装だが、油断はできない。芥子は10年も前からリノと共に戦っている実力者だ。


 速度に優れる和紙が生体隕石を持ち、逃げ出そうとしたところで爆発が起きた。芥子の手のひらから発されたものだった。

 うろこが装甲をシールドとして使うことで和紙を救いだし、直撃は免れる。


 生体隕石が宙を舞い、不二に託される。爆風はもう一度うろこによって起こされ、その中を突っ切っていけということらしい。

 和紙はいまだになにかを抱えている演技をしている。


 不二は気配を消しつつ、そっと逃げ出した。

 この姿になるとA型ストレセントだったアメリィの力が入っているため、どこからかネコ科の特徴が扱える。

 つまり、靴を肉球のついたけものブーツにするくらいは簡単で、そして獣のスピードも身に付く。

 和紙には及ばずとも、不二は壁を伝って階段をショートカットしながら地上を出て、ひとり脱出した。


 後ろを振り返ると、その瞬間に何かをぶち抜くような音がしてうろこと和紙が地上へ飛び出してきた。

 うろこの頭が血まみれなのは、無理やり突っ切ってきたからだろう。


 合流を喜ぼうとすると、走れ、と言われてまた駆け出した。

 直後に爆発音が響いて芥子が追ってくる。相手は爆風で加速してくる。追い付かれる可能性はあるだろう。


 そこで、和紙を投げて逃がすとうろこがランチャーを構えた。爆風によるガードが行われるが、それでうろこも芥子も速度が落ちる。

 さらにその爆風を突っ切って和紙のナイフが芥子の足元を襲い、転びかけたと同時に銃弾が追い撃ちをかけてくる。

 さすがの芥子も脚を負傷しては爆風のみに頼ることとなる。


 そこからは振り切るだけだ。

 迷子にならぬように空を駆け、レーダーの範囲内から抜け出し、民家のあいだに飛び込んで消息を絶った。


 それからしばらく寝静まった街で夜風を浴び、やっとの思いで隠れ家に到着する。

 玄関をくぐると希と城華と智夜に出迎えられ、彼女らに生体隕石を渡すと急いで研究室へ戻っていった。

 うろこと和紙と不二でハイタッチして成功を喜び、ふたりは自室へ戻って休もうという。


 不二もそうしようと歩いていると、小灰だけが窓際にひとり佇んでいるリビングの光景が気になった。何をしているのかと思わず問う。


「……何でもないわ、でも、これで後戻りはできないわね、って」


「そう、ですね。でも、リノさんのやり方は間違っていると思います」


 小灰はなにもいわず、外に広がる闇を眺めていた。

 不二も同じように夜空を見ていると、曇り空の切れ目から淡い月がかすかに覗いていて。


 それもやがて雲に隠されていった。

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