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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
セカイハマワレリ
59/69

Case56.行き先

 不二たちのストレセント本拠地突入作戦は、いつ成功したのかもわからないまま終了した。

 ひとまず追っ手の気配もないことに安心して、気を入れ直す。


 まず、天界社にはまだ小灰と希が残っている。彼女たちがどちらに賛同するのかは聞いておきたい。

 また、ストレセントたちの脅威もある。この地区はレーダーが及ばない、ストレセントたちの隠れ家がある場所なのだ。

 見つからないように逃げ回らなければならなかった。全員で話し合い、これからどうするか考えなければ。


「相手はリノさんだし、いまストレセントに見つかるわけにはいかないよね」


 と、言った矢先に、あのやかましい声が響いてくる。タイミングが悪すぎた。


「お、いたのです! きりさ!」


「……ここなお姉ちゃん」


 和紙のことをきりさと呼び、和紙は彼女をここなと呼ぶ。彼女、ウートレアが駆け寄ってくる。

 逃げようにも変身しておらず、唯一変身状態の和紙もウートレアからは逃げようとしていない、むしろ近寄っていく。


「話がある。いいかな」


「うちもなのですよ。いまはきりさたちに敵意はありませんし、とりあえずついてくてくださいなのです」


 ウートレアの誘導に乗って、より地区の中心へと歩いていく。

 同じ街であるため街並みや人通りにほとんど変わりはないが、不二はずっと首のあたりが疼くような感覚に襲われていた。

 それは城華やうろこも部位こそ違えど同じようで、耳の後ろや胸を違和感がない程度に押さえている。


 これからどこへ連れていかれるのか、ウートレアもこんな性格だがストレセントだと思っていると、なにやらそれなりに高そうな一軒家に到着した。

 まさか、ここが隠れ家だというのだろうか。中へ入るよう促され、疑いのない和紙から順にひとりずつ入っていく。


 外国式であるらしく、靴はそのままで上がっていって、リビングらしいところへ誘導され、そこではエイロゥが待っていた。


「ようこそ、私たちのアジトへ。さっそくですが、手を組みませんか?」


「手を、って、どういう」


「停戦協定ですよ。私たちはリノに計画を遂行されると困ります。あなたたちも、天世智夜を信じているでしょう。なら、ともに天世リノを止めましょう」


 エイロゥの提案は予想できたことであった。だが信じきれるものではなかった。


 既にイドルレに助けられている身である智夜は、不二たちに乗りましょうと耳打ちをしてくる。

 しかし、タチバナにとってはいままで殺戮を繰り広げてきた相手であり、ストレセントは倒すべき敵だった。

 いつ寝首を掻かれるかもわからない、という不安も少なからずあった。


「リノを倒した、そのあとは?」


「全力でこちらと戦ってくださってかまいません。というか、そういう仕事なのでしょう? 前金として、和紙さんうろこさん両名の強化プロジェクト完成に手助けをさせていただいたはずです」


 うろこが合点のいったような表情になって、和紙の視線はウートレアに向き、ウートレアが得意気になった。

 本当ならイドルレは城華の担当のはずだったが、といい、エイロゥは提案を改めて持ちかけてくる。


 全員の視線は不二に集まってくる。なぜか、決断は不二に委ねられるようだ。


 たしかに、自分達だけでリノや芥子に勝つのは難しいだろうし、ここで話を蹴ればエイロゥ、ウートレア、イドルレの強敵三人がまた別の敵に回る。

 であれば、ストレセントとは手を組んだ方が危険は少ないといえるかもしれなかった。


「わかった。その話、受けよう」


「ありがとうございます。お礼ですが、この建物を宿泊に使ってください。共同生活になってしまいますが、天界社には戻れないでしょう?」


 エイロゥの言葉に甘え、不二たちはストレセントと協力することとなった。


 この判断が正しいのかは、まだわからない。


 ◇


 天界社前にて、魅了の能力でリノを止めていたイドルレ。

 その効力がついに途切れ、イドルレは深いため息をついた。意識して抵抗されるとイドルレの魅了は解除が早まってしまう。

 もっとも、すでに目的は達していて、そんな弱点が露呈してもこれから始まる戦闘においては関係ない。

 一瞬でも止まれば勝ち、あるいは殺される。X型どうしとしてイドルレとリノははじめて向き合って、そして軽口をたたく。


「君はいつも間が悪いね。もうすぐ救済に手が届くのにさ」


「良いときのこと忘れてるだけじゃないかな!」


 開戦の合図は、リノの持つ刀に反射してきらめく光。

 それだけでじゅうぶんだった。動き出すのは同時、リノを追いかけてきたイドルレには息遣いがわかる。

 そしてリノにも、かつて共に戦った仲間であり数度刃を交わしたイドルレの手の内は知っている。

 経験では有利も不利もない。となれば、素の実力での勝負になる。


 当然、肩を並べていた時代からすでにリノが勝っていたのだから、勝機は彼女のもとへめぐってくるはずだ。


 マイクスタンドと刀での剣戟が繰り広げられ、火花を散らして隙を突き、それを防いでは火花を散らす。

 前戦ったときと同じように激突し、しかし今回は状況が違っていた。


 リノはついに救済の答えにたどり着こうとしている一方、イドルレはもうただのストレセントではない。

 理想郷の名を冠し、自らのストレスである「憧れ」つまりリノのために舞い戻ったのである。


 ゆえに、本気のリノを知るイドルレと、イドルレ・ザナドゥを知らないリノでは差が現れる。

 しだいにリノが圧されはじめ、ついに身体から刃を出す手段に出た。

 イドルレはそれも知っている。マイクスタンドで受け止め、さらにマイクへとアイドルらしくない金切り声をあげ、音波で刃を割ってみせた。

 驚くリノに蹴りが入り、しかし同時に身体より飛び出た刃がイドルレの肌を裂き、互いにダメージを負った。


「驚いたね、そんな芸当ができるなんて」


「ウートレアに教わったみたいなものだから、あの子に感謝だよ!」


 イドルレはマイクスタンドを棍のように扱い、自身の防御よりも相手の傷を優先するよう切り替えた。

 切腹による変身を行うリノは外傷には強い回復力を発揮するが、裏を返せば内臓には弱いということになる。

 テラレッサーのような再生阻害は持っていなくても、再生する部分をもう一度破壊すればいいのだ。


 刃を砕き、刀を弾き、時には蹴りや斬撃に血を吐きながらでもイドルレは自らの武器をリノに届かせる。

 棒状の部分が突き刺さればいい。イドルレは力いっぱい叫び、あたり一帯を破壊する。

 鼓膜は簡単に破れ、もはや金切り声とも聞こえない叫びであった。


 その一撃により、天世リノの身体には深刻なダメージが発生する。

 アザがいくつも浮かび、血を吐いた。内臓に響いたのだ。

 このままでは再生が追い付かない状況に追い込まれるであろう。


 ただ、イドルレもその一撃を叩き込むまでに費やした体力は大きかった。

 もうすぐ力尽きるだろう。持久力のないリノに対して時間稼ぎではなくこうして短期決戦を持ち込もうとしてきたのは、宿した力への過信か。


「どう? このわたしの魂のビート!」


「あぁ、心に響いたよ。文字通りね」


 リノはこれを好機とみた。

 相手は必ず追撃してくる。そして相手は瀕死だ。なら、ここで仕留められる。


 リノが改めて刀を構えた。イドルレも同様に構え、ふたたび踏み込みからの剣戟が始まろうとしていた。


「リノ、ひとつ聞いていいかな」


「なんだい、可恋」


「今の天気、なーんだ?」


「……晴れ、じゃあないのかい?」


 これから雌雄を決する、という場面で出る問いではなく。リノはイドルレを警戒しながら、ふと上を見た。

 イドルレのことばかり警戒し、上空には何も思わないまま、である。


「青天の霹靂……なんつって! 次は勝つって言ったでしょ?ね☆」


 リノの頭上には、光の速度で襲い来る電撃があった。回避は間に合わない。


 予想外の攻撃を受けたリノへ向けて、イドルレはウインクをしてみせ、勝ち誇った笑みで天界社から去っていく。

 リノは電撃により刀を杖にして持ちこたえたが、痙攣しているせいかイドルレへ言い返すことはなく、また天界社から飛び出していく光に気づくこともなかった。


 ◇


 突然の警報のしばらくあと、希の姉から携帯へ連絡が来た。電話で、だ。


 希はリノが出撃したため待機として、小灰と合流して窓から見ていたのだが、智夜がリノに刀を突きつけられていた。

 さらにイドルレが不二たちを逃がそうとしており、敵と味方がぐちゃぐちゃになって、状況がわかっていなかった。


 これでやっと理解した。智夜を使った救済の計画は、希にとっても強引に思えた。


 リノの考えていることは希にもわかるところはある。

 ミナミと名乗る女性についていって生体隕石手術を受けたのは姉といっしょにいたいからだった。

 けれど、時を失ってまでその選択に踏み切ったのは自分のことだからだ。

 リノのそれは強制、時を失うことへの反感を持つものだって多いだろう。


 そして、生体隕石を宿せば元の生活には戻れない。戻れるのは生体隕石が分離し、すべてを止めるときだけだ。


「そうね、誰もがこんなのを望んでいるわけがないもの」


 小灰と話したとき、彼女はこう言ってくれた。

 意を決して変身し、そしてリノに向かって電撃を放ったのであった。

 おかげで追い詰められているように見えたイドルレは撤退したようだ。


 希はというと。同時に小灰を背負って、不二たちがいるという地区めがけて飛び出していった。

 晴天のもと、なによりも姉と歩むことを選んだのだった。

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