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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
セカイハマワレリ
58/69

Case55.こたえあわせ

 エイロゥが戻り、三人の幹部格ストレセントが揃う。

 ウートレアとエイロゥはきっちり仕事を終えたあとであり、買いだめしてあるジュース類などから好きなものを選んで乾杯をはじめる。

 イドルレだけはまだであるせいで、まだ飲ませてもらえない。水で混じるのはプライドに響く。


 しかたなく、ふたりに作戦の進展を聞くことにする。どうみても、成功したあとの顔だが。


「ふたりとも、ちゃんとできたの?」


「もっちろんなのですよ。うちのかわいいかわいい妹はちゃんと乗り越えてくれたのです」


「エイロゥは?」


「こちらも問題なしです。さすがは水戸倉夫妻の娘ですね」


 ストレセントのいまの目標は、天夜智夜が行っているプロジェクトの完成だった。自分達の願望より、より大きな敵の阻止を優先しなければならない状況にあるのだ。


 タチバナに勝手に倒してもらうにしても、前までの実力では難しかったはずだ。

 よって、タチバナの強化はこちらとしても得になる。

 もちろん、解決したその後は損になるわけだが、使わなければこちらの願望も挫けてしまうのだった。


「なんでふたりとも縁のあるタチバナがいるかなぁ」


「あら、イドルレだって身体で繋がったのがいるではありませんか」


「だからって担当にされても、わたし自身のことで揺さぶれって? 無理だよ!」


 イドルレは文句を吐くが、円不二、円希、十二車小灰とあとはもっと関係がない。

 どうにかして城華の強化を成功させるしかなく、けっきょくイドルレは文句を言えず出向くことになった。


 外出が久しぶりのことだと気づくには、すこしだけ時間がかかっていた。


 ◇


 城華はふと、数ヶ月ほど前のことを思い出していた。


 初めて変身した時のことだ。あのときも、不二に励まされていたのだが、いまはそれはいい。不二のことは考えていると胸がくるしくなってくる。


 では、なぜ思い出していたかというと、和紙に続きうろこも強化プロジェクトに成功したというのを聞いたからだった。


 城華は智夜に腕を治してもらって、一緒に理論を立ち上げた。

 だがあれはまだ未完成で、肝心な部分であるN型を取り込んでも拒否反応が起こってしまわないようにすることと、起動の方法が固まっていなかったのだ。

 それなのに、和紙とうろこはやってみせた。


 精神論は城華の好きではないものだが、そう結論付けるほかにない。

 生体隕石は元からストレセントなんてものを感情から作るほどには心というものが好きで、だからこそ不二もあの姿になれたのだと思う。


 また不二の話になりかけた思考を戻し、悩みの根幹を見つめてみることにした。やっぱり、うろこと和紙のほうが変身が早いのだ。

 城華はまだ強化に至っていない。前だって一番最後だった。

 変身することが、自分が一度選んだ過去が怖くて、目を背けている。

 きっと、それらに向き合えるタチバナだったから強くなれたのだ。


 だからといって、逃げ出す城華ではない。

 元より、城華は自分であの生物兵器を模倣までした研究者だ。

 そのため、何がなんでも智夜とともに完成まで至らせてやろう。


 そう思って研究室へ戻ると、倒れている智夜と怪しい人影が見え、ひとまず影から見てみることにした。

 眠ってしまった智夜とふとんをかけに来た職員さんだったらとても申し訳ないからだ。

 しかし、よく見てみると人影は芥子のようであった。智夜を担いで、連れていこうとしている。


「っちょ、な、なにしてるんですか!」


 思わず飛び出し、逃げ出そうとする芥子を追う。素ではインドア派どうしのせいかほとんど差がつかない。

 きっと経験のあるぶん芥子のほうが本来は速いのだ。あいだの距離が変わらないまま進み続け、階を一周しようというとき、警報が鳴り響いた。結界が壊されたときのものだ。


 警報を聞き焦る芥子から智夜を奪い取り、彼女に息があるのを確認して、外に出るまで駆け出した。

 すでに不二とうろこと和紙は到着しており、結界の内側にまで入ってきているイドルレと睨みあっている。


「イドルレ、久しぶりね」


「あ、いたいた。しかもその肩に乗ってるのは……ま、いろいろ好都合かも、ね☆」


 イドルレが何の話をしているかはわからなかったが、ひとまず智夜を安全な場所へ連れていかなければ。

 この場をみんなに任せて駆け出そうとしたとき、日本刀が差し出された。


「……困るなあ、可恋。こんなときに来るなんて」


 リノだ。城華が逃げ出さないように止められている。いったいどうして。

 その場にいる、リノとイドルレを抜いた全員が驚きで固まり、ふたりの会話をただ聞くだけになる。


「なんで来ちゃうの? わたしほどになるとファンがストーカーめいてきて困っちゃう」


「ここは天界社だよ。社長は私さ。忘れないでくれよ、可恋」


 イドルレはそれより先は答えず、目を見開いてリノを止めた。

 街全域にかけていたのと同じ、魅了の能力だ。いったい何が起きているのか。


「詳しくはそのロリに聞いて! このわたしがリノを止めてるあいだに逃げること!」


 イドルレを信用していいのだろうか。

 だが、リノに刃を向けられたことは事実であり、芥子が智夜を連れ去ろうとしていたことも事実だ。


 走るしかない。日本刀の下をくぐって、後ろを振り返り、すでにほかのみんなも駆け出していることに気がついた。


「いったい何が起きてるんだよ? リノが敵なのか?」


「智夜は間違いなくリノさんと芥子さんから作られてるけど、ストレセントと何の関係があるんだろう」


「ああもう! いま疑問あげるのなし! むこうはこっちの居場所わかってるはずだから、はやく済ませなきゃ!」


 途中で和紙が変身して速度を上げ、智夜を運んでもらった。

 使われていなさそうな小屋にでも避難し、いったい何があったのか、智夜を揺り起こして聞こうとする。

 彼女は不二がやさしくゆすり、何度かすると目を覚ました。眠らされていただけのようだった。


「ん、ここは……知らない知らない天井です」


「智夜。リノさんの目的、話してくれないかな」


 そう言われて固まる智夜。

 だが、わざわざこんな場所を選んでいること、不二たちの表情からなにがあったのかはだいたいわかったらしく、リノの考えていることを話してくれる。

 みなさんが私のことを信じてくれなくなると思って話さずにいたのですが、と前置きをして、こう続けた。


「悪い冗談のように聞こえてしまうかもしれませんが、お父様はとんでもないことを考えています。私のXとN、侵食と癒着を使い、全人類を適合者に、ひいてはタチバナにしてしまおうという計画です」


「……そんなこと、できるのか」


「非常に非常に強引ですが、大きな発射台と、私と、たくさんの生体隕石があれば理論上は可能です。人々がもう別れを経験しないため、悲しみを断つためであれば、そんなこともやってのけるでしょう」


 でたらめな話だったが、リノであればそこまで実行しようとするだろう。不思議と説得力がある。

 しかしそんな方法で人間を救おうとすれば、生体隕石を宿すうえでの問題がいくつかついてくる。

 いまのところ城華たちにはささいなことに思えても、あとから大きく膨れ上がることもあり得るのだ。


「男性に適合者はいないみたいだけど」


「X型の侵食は遺伝子にまで作用します。お父様の計画が成功すれば、女性に作り替えられるかもしれませんね」


「でも、私たちは妊娠できない」


「誰も死なないのですから、新しく作る必要もないでしょう」


 それに、自分たちと同じように成長も止まる。子供は子供のまま、老人は老人のまま悠久の刻を過ごすことになるのだ。

 うろこはなんだよそれ、と呟いたし、和紙も視線を落としている。


 確かに人間を思ってのことなんだろうけれど、あまりに強引だ。

 また、ストレセントたちにとっては望ましくない結果なのだろう。だからイドルレは城華たちを逃がしてくれたのだ。


「止めなきゃ、だよね」


「あぁ。命の生まれない、成長もない世界に妹は巻き込みたくねぇからな」


 全員の意見は同じだ。他人の幸せが不老不死とは限らない。

 リノのことをずっと信頼してきて、彼女にはいろいろと手を尽くしてもらった。なのに、裏切ることになってしまう。

 城華の心は痛んだが、見過ごせば世界から変化が失われる。そんなの、間違っていると、不二たちの言う通りだと思っていた。


「でも、どうするんだ? こっちの居場所は割れてるだろ」


「向こうが捕まえに来られない場所、ある」


「どこだよ?」


「……ストレセントの本拠地」


 和紙の出した驚きの案。しかし、理にはかなっている。あの場所へ突入したことはなく、リノも積極的には来ないだろう。

 ストレセントに狙われる危険があっても、リノよりは撃退できる。

 目的地はそこに決まって、ふたたび全員で駆け出した。ただ、今度は一番遅い城華とうろこは和紙が両脇で抱えることとなったが。

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