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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
ワカレハマドカニ
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Case48.願いの先、悪夢の空

 アメリィとの決戦から一夜。

 唯の遺体は霊安室に置かれることとなり、N型のかけらは研究へ回された。


 そして、彼女を動かしていた生体隕石は希の強い要望で不二に託された。

 どうして姉の形見を自分で持とうとしないのか不思議だったけれど、希がそういうのならそれでよかった。


 きっと一番つらいのは、最後まで救いを信じていた希だったろう。

 だから、唯についての判断は希に任せることにした。復活させようと思えばきっとできるけれど、唯はそれを望まない。


 あのとき生体隕石が身体から抜け出たのは、ストレセントとしての存在意義であった「怠惰を遠ざける」ことをやめてしまったからだとリノは言っていた。

 だとすれば、わざわざアメリィを復活させるのは彼女との決着を捨てるということだった。


 タチバナたちは、唯のことには触れない。それが正解だと自分でも思う。

 思慮のない人々が気の毒だとか言ってきても、思い出されるのは最後に食べた唯の手料理の薄味とかすかな思い出だけ。心が重くなるだけなのだ。


 そしてこの日は、リノの計らいで完全オフの日になる。そのはずだったのだが。


「……みんな。正義の味方、休日出勤だよ。とんでもないことになった」


 ◇


 一日が経った。リノを逃したイドルレも機嫌は損ねず、ウートレアは無事くっついて振る舞いはいつも通りとなり、ふたりでライヴを行って観客ひとりの大盛況となっていた。

 アメリィという便利な仲間を失いはしたものの、これも計画通りといっていい。

 いくつかの切り札を使えば、さらなる強力なカードが手に入るというわけだ。


 アメリィから抜け出ていったN型のエネルギー。

 あの戦いにおいて、アメリィはN型ストレセントを作るのではなく自分が取り込むことを選び、彼女は神話生物の力を獲得。さらに体内のエネルギーは戦闘によって増幅された。

 アメリィが生体隕石を失ったのも、恐らく増幅したエネルギーに耐えきれなかった部分もあるだろう。精神という蓋がゆるめば、中身は飛び出ていってしまう。


 そして、こぼれでた中身が行き着く先は決まっていた。

 元はネヴラ・イヴから生まれたものだ。イヴに帰りつくと決まっている。


 これによって、復活に十分なだけのエネルギーが蓄積されたことになる。


「っふふ、やはり私がいないと甘いですね。リノは」


 エイロゥがすべき行程はもはやひとつしかない。核だったN型隕石を彼女の身体に戻し、復活させるのみだ。

 そっと彼女の胸にあたる部分に嵌め込んで、漏れ出る光を浴び、エイロゥはそれを讃えた。


 金色とは最も美しい色である。天世リノやアメリィの優しい金色も良いけれど、こうして退廃に満ち人類を解しない鉱物のような光沢もまた素晴らしいものである。


 ネヴラ・イヴは美しくも恐ろしい金髪を揺らし、小柄な身体に炎を灯し、しかし真っ赤な瞳には生気を宿さずに降り立った。


「お、おぉ、素晴らしい! 会いたかった、ネヴラ・イヴ様!」


 エイロゥの言葉には反応を見せず、ただ呆然と立ち、そのあいだにも炎は燃えている。

 復活したばかりで本調子ではないのだろうか。すこし不安で、エイロゥは近寄ろうとするが、それは無駄な気遣いであった。


「……死にたい」


 目覚めて最初の一声がそれであった。エイロゥは驚きと共に、彼女の性質を思い出す。

 ネヴラ・イヴの性質は「生」を嫌うテラレンドだ。そのような言動も自然なのかもしれない。


「お待たせいたしましたイヴ様、ほら、皆が待っています」


「死にたい」


「ええと、イヴ様」


「死にたい」


 さすがはストレセントの上位の存在、なかなか面倒な存在であるらしい。

 それも仕方がない。テラレンドの力があれば天世リノをも葬れることは確かなのだから。

 たしか、データによるネヴラ・イヴの制御のしかたは、とすこし携帯端末を確認すると、すでにイヴは歩きはじめていた。


「あ、ちょっと!」


「死にたい……」


「えっと、これは自分を殺せる存在を探しに行く、ってことでしょうか?」


 エイロゥの言葉にイヴが頷いた。驚かざるを得ない。人語が通じるとは、死にたいしか言わない時点で思っていなかった。

 肯定と否定の意思表示くらいをしてくれるなら恐らく大丈夫だ。

 死にたいといい続けている以上、勝利など求めてはいないだろうが、戦闘を求めているならそれでいい。


 彼女についていって、エイロゥは街へと出ていく。誰もの目を引く人外の美貌をイヴは持っているが、特に問題は起こさない。

 何をしてもおかしくはないと思うのだが、何かに興味を示すことはあまりないようだ。


 イヴの保護者のような形でその後ろをしばらく行くと、途中に立ち塞がる人間があった。

 見覚えがあると思えば、エイロゥが抱えていた第二期被験者の残り、十二車小灰であるようだ。

 彼女はエイロゥが共にいることと、そしてなによりイヴ自身が放つ異質な雰囲気を感じ取って警戒しているらしい。


「あんた、何者よ?」


「死にたい」


「……は? 何者かって訪ねてるでしょう」


「彼女はネヴラ・イヴ。テラレンドですよ」


 このままではコミュニケーションすら怪しいため、エイロゥは助け船を入れた。イヴも頷き、逆に小灰は青ざめる。

 連絡のためか取り出した携帯端末はエイロゥが切断の能力で破壊し、あとは交戦か逃亡しか選択肢をなくしてしまおうとした。


「っち、戦略的撤退を」


 そう言って離脱しようとした小灰へ、イヴの炎が贈られる。

 死因が焼死だった彼女のことだ、予定外とはいえ都合がいいだろう。炎の中から変身、復活して現れた小灰は炎の拳で突撃を試みるが、イヴには炎は通用しない。

 N型の中でも、彼女は生ける炎の神性を特徴として持っている。単純に相性が悪いのだ。


 イヴは小灰が自らに抵抗してくる者だと知ると嬉しそうに笑って、炎をさらに燃え上がらせて小灰を襲った。

 自分に歯向かってくる者、すなわち自分を殺す覚悟がある者だと思っているらしい。


「っく、なんなのよこいつ!」


「死にたい」


「だったら素直にやられてよっ!」


 小灰の力では、殴り付けてもイヴの頬にはほとんど傷が残らない。仮に残ったとしても、生という性質を持ったイヴにはほとんど無傷も同義だろう。

 エイロゥは心底から笑いそうだったが、どうにかこらえて炎どうしの激突を見守ろうとした。


 しかし、それは叶わなかった。

 何故ならば、すでに小灰が吹き飛ばされ、壁にめり込んだまま気絶しているからだ。


 変身後のタチバナは死という最高位の衝撃を乗り越えているため、意識が途切れることはめったにないというのに。

 イヴが持つのは逆位相における最高位。あまりに遠すぎる位置からのダメージは深刻になるだろう。

 ストレセントが存在意義を失うように、生をぶつけられたタチバナも戦えなくなる。イヴを自分が復活させようとしていた理由に自分で納得した。


 一方で、イヴはとても不満そうだった。

 自分を満足させてくれると思ったのに、小灰がさせてくれなかったからだ。


 煮え切らない気分のまま、次の獲物を探すのだろう。イヴを殺せる生き物なんて、恐らくこの現代には存在しないだろうに。


 ◇


 不二がリノから聞いた話では、非常に強力なN型の反応を検知、ネヴラ・イヴの復活だと思われるそうだった。

 付近のE型ストレセント反応がエイロゥだろう、とも。


 まだ心が切り替わっていないと思いきや、希は逆に燃えているようでもあった。


「不二お姉ちゃん。唯お姉ちゃんのぶんまで、がんばろう」


 そういうことか。彼女との別れを糧にして成長できれば、唯も喜んでくれるだろう。

 受け入れられないから別の感情で逃げたかった、という部分があったとしても、希がつらそうにしているのに比べたらずっと心が楽でいい。


 すでに小灰との連絡がつかなくなっており、彼女の反応が動かなくなっていることから、すでに敗北してしまったとみられている。

 小灰をも容易く倒してしまう相手だ、単独では話にならないだろう。なら、仲間と共に戦うまでだ。


 不二はひとりではない。和紙も、うろこも、希も、リノも、城華だっている。

 それに、不二の懐には唯の形見があった。だったら、不二が負ける理由も義理もない。


 全員でユリカゴハカバーに乗るといつもよりすこし狭かったけれど、それでかまわなかった。みんながいてくれれば、元気も勇気も出るものだ。


 まだ見ぬ強敵ネヴラ・イヴとの戦いへ向け、棺桶は空へ漕ぎ出し、久しぶりにその暴走運転に悲鳴をあげることとなった。

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