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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
ワカレハマドカニ
47/69

Case44.これからも

 薄暗い空間に、廃れたバーかなにかにありそうなボロの椅子に三角座りで乗って、自分から椅子を回している少女。

 その隣では、にやにやと怪しげな笑みを浮かべる女性がワインを飲んでいるらしい。


 ストレセントのアジトでは、元の身体が未成年であろうとアルコールは平気で飲むものになっている。

 ストレセントであれば、強い酒でもほんの短いあいだしか酔えないのだから、あまり気晴らしにもならない。

 よってこの女性、エイロゥくらいしか飲む者はいない。

 椅子で回っているウートレアも、きっとワインよりぶどう味の炭酸飲料のほうが喜ぶだろう。


「あ、うぅ、目が回ったのですッ」


「馬鹿ですか、ウートレア」


「こうなったら腹いせに逆回転なのです」


 今度は逆に回りだし、エイロゥはその滑稽さにくすりと笑ってまたワインに口をつけた。安物だが、カッコつけにはなるものだ。


 ウートレアがふと回転を止め、そういえば、と切り出した。


「さっきのあれ、いいのですか? 通信機ぶっ壊されちゃったみたいなのですが」


「いいんですよ。それに目的のものはもう手に入れましたとも」


 エイロゥはさっと、一見普通の生体隕石を取り出した。

 サイズはそこそこ、発光パターンも正常。イドルレに使ったようなA型ではないらしい。


「こいつがXじゃないのはわかりますよね……ですが通常5つのどれでもありません。これはN型。向こうで言えば、煙草蒲芥子と同じです」


「希少ってことなのですね。でも、なんでそんなの?」


「決まっているでしょう」


 ストレセントが反応を追跡されていたとしてもアジトを変えず、天世リノたちもまた攻勢に出られないのには理由がある。

 ひとつは向こうに攻め込むだけの戦力が整いきっていなかったこと。

 もうひとつは、天世リノだけでは対処しきれない最悪の事態を免れるためだ。


「ウートレアは知っていますか? ストレセントに関する一般人の記憶が消える理由」


「知らんのですよ、そういう技術的なのってエイロゥの管轄なのです」


「まぁそうですが。では説明しましょうか」


 これだけ何人もが消え、そして何人もが殺されているストレセント関連の事件。

 しかしストレセントの存在は一般人に広められておらず、知っているのはほぼ天界社の人間のみだ。その理由は、このアジトのあるひとつの装置にある。


 その装置には、アジトを変えない理由にも通じる目的が含まれていた。


「それは『テラレンド』の復活です。彼女たちはあらゆる人類のストレスを吸収して生まれた、純粋なる異星人」


「大ボスがいるのですか?」


「そうなりますね。二体のテラレンド……ネヴラ・イヴとゼノ・ノエル。このふたりには、さしもの天世リノもひとりでは勝てません」


『生』のストレスを持つイヴ。『死』のストレスを持つノエル。


 イヴとノエルは10年前に天世リノと交戦、最終的に核となる生体隕石を抜かれ眠りについた。

 それは第一期被験者たちの尽力と、エイロゥがまだ人類側であったことから生まれた奇跡の撃破だ。

 彼女たちがいま動き出せば、第三期など塵のように扱うのだろう。生と死のストレスとは、それほどに強力だ。


 一般人の記憶の吸収は、死への恐怖というストレスをノエルに、生きなければという使命の感情をイヴに吸収させて修復を早める目的がある。


「そのうち、このN型を使えばイヴが復活します。まったく、円不二のことなどどうでもいいほどに重大だというのに。リノはいつも情ばかり見てしまう」


 エイロゥにはそれらが心底可笑しかった。

 天世リノはそれだから人を惹き付けるし、それだから人が離れていく。


「んーと、よくわかんないけどすごいのですね」


「えぇ、それこそやつらは終わりでしょう」


 ウートレアはいつでもストレセントの味方だ。

 アメリィ、イドルレ、エイロゥ、そしてオヴィラト。皆のことを好いている。

 やかましいのと頭が足りないのを除けば、やはり有用な駒になる。彼女を無為に捨てないためにも、理解は必要なことだった。


 ◇


 不二が次に目を覚ましたとき、その視界に飛び込んできたのは、どこか見たことのある病院の天井と、こちらを覗き込んでいるふたりの顔であった。

 希も城華も不安そうにこっちを見ていたらしいが、不二と目があったとたんに大喜びして、抱き合ったりハイタッチしたりと忙しくなった。

 いったいいつの間にそんなに仲良くなったのだろうか。


「お帰り、不二」


「お帰り! お姉ちゃん!」


 自分はどこかへ行っていただろうか。たしか、エレベーターで希と会って……それからの記憶はない。

 そのことを聞こうと思ったが、きっと知らないほうがいいことだってあるのだろう。気絶していつの間にかベッドに寝かされているだなんて、ろくなことがなかったに違いない。


 ベッドの周りには和紙とうろこも座っていて、小灰とリノが入ってきて病室に鍵がかけられた。


「不二くん、体調は?」


「えっと、特になんでも」


「ならよかった。じゃあ、改めて。希くんの歓迎といこう。ほら、自己紹介を」


 城華に背負われていた希は話をふられてきょとんとし、そのあとでこうして自分や姉を含めて集まっているのははじめてだと気付いたのか頷いた。


「えっと、不二お姉ちゃんの妹です。円希っていいます。希少の希っていう字で、まれです。小学校4年生です。よろしくお願いしますっ!」


 和紙が拍手をはじめ、つられてみんなで希のことを歓迎する。

 不二にはまだ割りきれない気持ちもあったけど、それが彼女の選択で、自分と一緒に暮らせるのが希にとっての幸せだったなら仕方がないだろう。

 そう、自分に言い聞かせて、不二もまた拍手に混ざった。


「4年っつーと、和紙と同い年か?」


「む、そんなにちっちゃくない。小学生はおぼろさんでしょ」


「そうだったっけか!はは、悪い悪い!」


 和紙とうろこの漫才は姉妹のようで微笑ましく、希も笑っていた。

 ここでリノが口を開く。リノとしては、タチバナたちに親交を深めてもらい、どんな組み合わせでも敵に対処できるようになってほしいのだろう。


「希くん、好きなものは?」


「お姉ちゃんです。お姉ちゃん、好き!」


 そういってくっついてくる希。懐かしい日常茶飯事に頬をほころばせるが、不二はひとつ重大な問題を見てしまった。

 不二と希がくっつくのを明らかに快く思っていない、そんな人物がひとりいたのだ。


「じー……」


「あ、ちょっと、公衆の面前ではくっつかないでほしいな」


「えー、あぁ、そっか。もう彼女持ちなんだっけお姉ちゃん?」


 彼女といっても、まぁ実質そんなようなものだろうか。否定はできない。


 城華を見てにやりと笑ってみせる希。その城華の目は真剣だ。

 視線で殺すとはこのことだろうか。あの嫉妬は深い。その位置に私も混ざりたい、と思っているに違いない。


 不二と城華、どちらの反応も見た希は、笑みを残したまま不二から離れ、今度は城華の耳に顔を近づけてささやいた。


「お姉ちゃんはね。鈍感で受動的だから、自分からいかなきゃダメよ」


「えっ、な、なにをっ」


「あ、夜の方もね! そっちは鈍感じゃないと思うけど!」


 みるみるうちに城華が真っ赤になっていく。いったいどういう話なのだろう。城華と不二の関係のことだろうか。

 だとしたら、城華が自分の気持ちを伝えてくれるのは嬉しいことだ。希がアドバイスを聞かせているのも悪くないと思う。


「いや、いいのかい? 妹にいろいろばらされるよ?」


「別に、城華がわたしのことを知るくらいならかまわないけど」


「強いな君は……」


 リノには知られたくない秘密があるらしい。いや、乙女としては当然だろうか。

 それでも、城華になら知られてもいい。隣に立っていると約束したんだから、お互いのことを深く知っているべきだとは言える。


「城華」


「ひゃ、ひゃいっ!? にゃにかしらっ!?」


 驚いた城華が変な声をあげ、希はくっついたままこっちに目を向けた。彼氏は彼女に正直な気持ちを伝えるものだろう。

 不二は深呼吸して、表情をやわらかくした。


「これからもよろしくね、城華」


 まだ片付いていない問題はたくさんある。けれど。彼女の隣にいると決めた。


 赤く染まった頬を希につつかれてからかわれる城華は、どこか嬉しそうに見えた。

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