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自殺少女戦士★オトタチバナ  作者: 皇緋那
ワカレハマドカニ
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Case37.和紙の長そうな1日たち

 その日、和紙はうろこと一緒に食事に出掛けていた。


 見回りのついでにお昼ご飯という話になり、お金はあるしたまには女子らしくスイーツビュッフェもいいだろうと思ってやって来たのだ。

 うろこと和紙のふたりだけで外のお店に寄るのは、ないわけじゃないが珍しいことで、うろこの方は「和紙ってスイーツとか食べるのか」と聞くほどだった。


 和紙もあまり自分から甘いものを食べようとは思わないが、食べたらおいしいと思う。

 スイーツビュッフェのお店に入って、とりあえず時間は短めに設定して席についた。


 平日だからか、たぶん休日もだが女性客がまばらに入っている。

 子供連れのお母さんの集まりがあったり、みんなケーキだとかを美味しそうに食べていた。


「うし、あたしらもとってくるか」


「まず、ごはんのほうから」


「わーってるって。いくら肉にならないからってケーキしか食べないなんてやらないってば」


 そういって、うろこはデザートではなくちょっと小規模な主食のほうへと歩いていく。

 見送った和紙はさっと水や食器をふたりぶん用意して、自分の食べるサラダを盛った。ひとまず葉物野菜を多めに食べる。


「お、野菜から入るタイプか」


「……リスカだけに刃物野菜……なんつって」


「いや、わりと笑えないぞそれ」


 和紙渾身のブラックユーモアは肉やピザを取って帰ってきたうろこに受けなかった。笑えなかったか。失敗。


 うろこが一度にたくさん持ってきたたくさんの食べ物にとりかかっているあいだ、和紙はサラダを食べ終わって焼き魚だとかお味噌汁を取りに行った。


 慎重にこぼさぬよう運びながら戻ってくると、うろこは知らない子供と話しているようで、いつの間にかお皿にはいちごが欠けたショートケーキが乗っていた。どうやらあの子がほしがるのであげてしまったらしい。

 ビュッフェだから変わりはないものの、ほほえましい光景だった。


 和紙がこっそりケーキを追加しておき、自分もゆっくりチーズケーキを食べることにした。

 和紙だって年下は好きだが、口下手でうまく関わっていける気がしない。

 見ているだけでいいし、見守っているだけで満足ではあるのだが。


「おいしい?」


 いきなり横から聞かれて、くすりと笑ってしまった。

 振り向くと和紙よりも幼い女の子がいて、うらやましそうに見ている。


「おいしいよ」


「あっ、すみません! うちの子が……」


 お母さんが即座に反応、女の子を回収していく。

 それからいっしょにチーズケーキを取りに行っているのはまたかわいらしくて、ずっとそれを眺めていた。


「ん、和紙ってばそんな顔するんだな」


 子供の拘束がはずれていたらしいうろこにいきなり言われ、和紙は自分の頬をさわってみた。なるほどゆるんでいる。無意識だった。

 いつもは隠そうとしているけど、子供の前では警戒されるのが嫌なのか、ふだんより外に出ているらしい。

 らしいとは言っても、自分のことだから間違いはないのに。


 子供の前、なんて状況は天界社じゃ滅多にないからうろこはあまり見ていなかっただろうし、こうして無防備なのも我ながら珍しい気がする。

 いや、こう安心している場合とは言い切れない状況なのだが、時にはゆるんでいないと疲れてしまうだろう。


 そう説明しようと思うと、先にうろこが口を開いた。


「和紙ってさ、笑ってる方がかわいいよな」


 うろこは暗に口説いているのだろうか、とこのときはとっても思った。


 ◇


 その日、和紙はリノとのトレーニング中であった。


 生身と生身で向かい合い、駆け出し、和紙がリノの首を狙って立ち回り、彼女はそれを防御する。

 長らくこうしてやっているのだから互いの戦い方や癖を把握していて、なかなか進展はない。

 隙を作っては防がれ、隙を与えては防ぐ。それがずっと繰り返される。


 天世リノを相手としてここまで立ち回れると聞けば、ここの関係者であれば驚くだろう。

 ただ彼女との練習には慣れているところがあり、まだ勝ってはいない。どっちも息が切れて、一緒に倒れる。

 砂の地面でも寝っ転がるとなかなかに心地よくて、疲れたときはこうしてならんで倒れて話をした。


「きょうもよく戦ったよねー」


「うん、つかれた」


「そうそう、つかれた! 時間は日に日に伸びてってるけど、それでもまだ続けてられないよね。わかるよ!」


 和紙もリノも欠点はスタミナだといえる。今日だって昨日から30秒ですらも伸ばせていない。

 基礎トレーニングもやってはいるはずなのだが、この身体では筋肉を鍛えようとしても鍛えられず、意味があるとは思っていない。

 リノの食生活でも身体のバランスが崩れないというし、そういった変化はないのかも。


 となれば、スタミナについては筋トレじゃ補えないことになる。スタミナ切れを起こす前に敵を刈るのが必要になるのだ。

 速度は他のタチバナよりも上であるという自信があるが、問題は火力だろうか。

 やっぱりナイフだけでは歯がたたない相手だっているわけだ。


「ま、根は詰めすぎないようにね。考えすぎはよくないしさ。それに、君には仲間たちがいる。君の弱点を補うのは彼女らの仕事で、和紙くんの仕事は逆に君の長所で彼女らの穴を埋めることだよ」


 リノはそういって、和紙の頭を撫でた。

 リノの特訓は、ときに何の番組に影響を受けたのかスパルタになったりもするけれど、結局リノは優しい人だ。


 こうして頭を撫でられていると、自殺するよりも前のことを思い出すけれど、育ての親とはまったく違うと言っていい。

 こうも違うものか、と思うとちょっと面白い。和紙にはどっちのスタイルが合っているのだろうか。


 ◇


 その日、和紙はついに現れたストレセントの討伐任務についた。


 このときはうろこと一緒に受けることになり、各地で発生しているストレセントらしき事件の調査を行った。

 街を這うようにして動く巨大生物、との目撃情報があったものの、なんと地中を潜行しているためどこで顔を出すかわからず、しかも一度ならず何度も屋内へ床を突き破って現れたという。

 幸い襲われても軽傷までで済んでいるようだが、何か目的があって動いているのだろうか。


 顔を出してきた場所の法則性を求め、どんな人を襲いに来るのか、それとも無差別なのかを調べてみようとした。

 するとほとんどが女性の集まる場所で、男性は巻き込まれた程度だった。

 もしや適合者狙いかと思って職員さんたちに頼んで調べてもらうと、予想は大きく外れ、関係がないようだった。


 次に、現場に赴いて穴に入ってみれば誘き寄せられるかもしれないと踏んで和紙自ら行ってみたが、暗くて何も見えずとても迎撃できる状況ではなく、気づけば食われていそうで断念した。


 このまま放っておけば、いまは怪我までしても人死には出ていないのに、よけいな死人が出る。

 穴の頻発している地区には避難命令が出されているが、一番危ないのが避難所になってしまうかもしれない。ストレセントは警備員やおまわりさんではどうにもならない。


 うろこと和紙は確信を得るために、いくつかの現場を飛んでまわった。


 被害に遭った高校のひとつでは、ほとんどのものが壊されていてひどい光景が広がっていた。好き放題暴れて回ったらしい。

 その中にひとつ、なにやら強い匂いを放つものがあった。毒物や爆発物の類いではなく、なにやら香水らしかった。

 割れている瓶をつなぎあわせてみると確かに新製品のお高い香水のようだが、女子高生がお高くとまろうと購入したのだろうか。


 いくつか現場を見ると、共通点は高校で最初に気づいたふたつだった。

 好き放題壊されていることと、特定の香水がぶちまけられていることだ。

 その中にはこの前のスイーツビュッフェもあって、思わずなんて有り様だとこぼしてしまった。


「……んで。どうするんだ、いま一番危ないのって避難所だろ?」


「やっぱり、その香水はふつうみたいだから、ストレセント側が勝手に嫉妬してるのかな」


 避難所にはこの香水を持っている人がいるかもしれないし、人がたくさんいるのは確実だ。現れるときは屋内にも現れる。


 大急ぎで移動して、避難所担当の職員さんに協力してもらい、件の香水を持っている人を探してもらった。

 何人か持っている人が見つかって、預かろうというときに、タイミングの悪い地響きが鳴った。

 とっさにうろこが避難所から脱出するように誘導し、屋内でも構わず現れる怪物と和紙は相まみえた。


 和紙は手首を切って、出血を纏って変身を遂げた。

 地面からぶよぶよしたストレセントが現れる。現生種にはない口の先の部分があるため、さしずめ古代ミミズといったところだろうか。


 じたばたと暴れる体当たりをかわし、その表皮に刃を突き立てようとするが弾力によって返されてしまう。

 やわらかいために刃が通らず、人々の避難から帰ってきたうろこが自らへの発砲を経て射撃をはじめてもなお弾かれ、強敵であった。


 古代ミミズの狙いはあくまでこの香水のようで、執拗にそちらへ行こうとしている。

 攻撃が通らない、心ここにあらずという感じもふくめ、まるでイドルレに初めて出会ったときのクラゲのような印象を受ける。


 あの、切れないものを斬るという感覚を思い出さなければ。

 そう思っているうちに和紙とうろこは体当たりで突破され、香水の瓶を壊して満足されてしまった。


 慌てて追いかけようとするが、地中の古代ミミズは予想以上に素早く、闇雲な攻撃では切ることができず、逃亡を許してしまったのだった。

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