CaseEx.めりくりすとれす!
メリーなクリスマスの番外編です。イフのお話でもありますし、「シトトナリアワセ」の途中でもいいと思います。とにかくわかることは、これを書いていて楽しかったということです。
三品結礼、もといオヴィラト・ストレセントは舌打ちをした。
吐息は白く漂うくせして、舌打ちはなんにもならない。
それにもまた苛ついて、舌打ちを繰り返す。
彼女が座っている場所は華やかに飾り立てられたクリスマスツリーの下で、さっきまでは座ってはいなかった。もう飽きてしまったのだ。
そう、今まではクリスマスだからと手をつなぐ男女のあいだに体当たりして台無しにしたり、待ち合わせ中の人に背後から目隠ししてみたり、といたずらを繰り返していたのに、もう反応がワンパターンでつまらないのだ。
オヴィラトを苛立たせているんだからお詫びに面白いリアクション取ってみろよと自分勝手な注文を心のなかでしつつ、彼女はため息をついた。
ここでストレセントを発生させたら面白そうだが、あいにくと生体隕石の手持ちがないし、そこまで癪に障るやつもいない。
仕方なく、オヴィラトはツリーの下で座ってもっと楽しいいたずらを考えようと思考を巡らせていた。
ただ立ち止まって考えているだけでは名案は生まれない。
街中を歩いてアイデアを得よう。そんな考えが浮かんだのはすこし時間が経ってからだった。
オヴィラトの姿はとても目立つため、タチバナどもに出会わぬように警戒している必要があったけれど、こんな彼氏彼女持ちどもの儀式に彼女たちがまじっていることはないだろう。
あれはあの中で付き合うような集団だ。男女の仲が入り込む余地はない。
街行く人々を見ても、当然見知った顔なんていないし、いてほしくもない。
「……ん?」
前言撤回だ。
いま、見知った顔があった気がした。後ろを振り向くと、ふわふわの髪をうしろでひとつにまとめた少女とくるくる巻いたツインテールの少女が手をつないで歩いているし、さらにきれいに切り揃えられたショートカットの少女とぼさぼさの金髪に赤まじりの少女は腕を組んで歩いていた。
オヴィラトは戦慄する。あいつらダブルデートとかするのかよ、と。噂をすれば影がさしてしまう。
今はクリスマスだ。幸せそうなタチバナに会うといたずらしかしていない自分がみじめになる。
絡まれるのはごめんだった。
そうしてオヴィラトは周囲を警戒しつつも街をうろついて、いたずらの案を探す。
なかなかピンとくるようなものはないのだが、あるときふと、サンタの衣装が目に留まった。不覚にもかわいいと思ってしまった。
今まで服なんて最低限でいいと言われていたから、服屋そのものでさえ久しぶりに見たのではないか。
オヴィラトは反射的にポケットをまさぐり、この前おこづかいとしてエイロゥにもらった諭吉のお札が三枚ほど出てきた。これだけあれば足りてくれるだろうか。
そのお店に入ってみて、店員に向かって「あれが欲しいっす」と伝え、いまの身長に合ったサイズを持ってきてもらった。
諭吉を三人出し、こんなにいらないと言われる。
オヴィラトの格好と体躯と羽根と尾羽、さらに出した金額からしても怪しいと思われて仕方がないのに、その店員はクリスマスにまで仕事である疲れのせいで見えている幻覚だとでも思っているのか、なにも言わずふつうの会計をしてくれた。
こども用のサンタ衣装であるが、大満足だ。
余分に返ってきたお金のせいでちょっと重くなったウェディングドレスで、サンタ衣装が詰まった袋を抱え、オヴィラトはるんるん気分でアジトへ戻っていこうと思った。
その時であった。オヴィラトの中のてんしがこう囁いた。
「着て帰ったら、いいサプライズにならない?」
いいことを思い付いた。
上空に出たオヴィラトは適当な人気のない場所を探して、てきとうな森林を選んで目的地を変更する。
山の中なら、クリスマスの人々とは無縁だ。そこで着替えてしまうことにした。
到着し、人がいないのを確認したあと、まず最初の関門にぶち当たった。
そう、このウェディングは脱ぎづらいうえ、羽根という障害もあるのだ。
めちゃくちゃに苦戦してなんとか突破して、オヴィラトはその素肌をやや肌寒い空気に晒した。
同年代にしては貧相ではない、と思うのだが、どうなのだろう。
まともにものを食べていなくて細かったのは認めるし、ストレセントになってからは体型が変化しないということだって知っている。
でもうらやましいものはうらやましい。
自分の胸をさわってみて、やわらかいけれどふくらみとしては未発達な丘に舌打ちをして、そういえばまだサンタ衣装を出していなかったことに気がついた。
袋をひっくり返して、タグをひきちぎったり包みをやぶいたりして、ほぼはじめて自分の意思で買った衣装を間近で眺めた。
やっぱり、こういうイベントに自分でも参加できるという新鮮さでよりかわいらしく見えているかもしれないが、そうであっても憧れを手にしたのだ。
喜んで赤と白の上着をまとい、尾羽が引っ掛からないようにミニスカートを試行錯誤しつつはき、サンタのぼうしをかぶった。
この場に鏡がなくて残念だったが我ながらいい買い物をしたとは思う。
ウェディングドレスのほうを袋にしまって、破いたりして出た残骸もきっちり回収し、オヴィラトサンタはさらなるわくわくを胸に飛び立った。
◇
アジトへ戻ってみると、迎えに来たのはエイロゥで、彼女はオヴィラトサンタを見て驚いた顔をしてから笑って返してくれた。
「おかえりなさい、小さなサンタさん」
「……っふふん! ただいまっすよ!」
住み処に帰ってきても憂鬱な気分じゃないのは、オヴィラトにとっては大きな安心をもたらしてくれる事実であった。
たしかにイドルレやウートレアはやかましく、エイロゥやアメリィは世話を焼きすぎるところもあるが、それは多少のものだ。
オヴィラトだってわがままに振る舞っていて、それはストレセントとして正しいことなのだ。
そのイドルレたちの姿は見えない。
遠くから聞こえてくるのがいつもの激しい音楽ではなくクリスマスっぽい鈴の音で、その音を辿ればきっとウートレアのところへ行ける。
そうやってストレセントたちのところへ行こうとして、エイロゥによって止められてしまった。
「おっとと、今は駄目ですよ」
「……は、なんでっすか?せっかくの聖夜っすよ?」
「だから、まだなんですよ」
いったいどういうわけであろう。
クリスマスなのに、サンタコスなのに仲間はずれにするというのか。
オヴィラトがエイロゥに対して噛みつこうとしたとき、部屋のほうからイドルレの声で「いいよ」と聞こえてきて、やっと通してくれた。
オヴィラトはちょっと怒っていた。
扉を勢いよく開け放ち、叫んでやろうと思った。
破裂音に遮られ、驚いた瞬間に顔に色とりどりのテープがかかってきてそれは没になったが。
クラッカーが鳴ったのだと気づくまでにすこしかかって、オヴィラトは出迎えの三人に言いたいことを先に言われる。
「メリーだよ、オヴィラトちゃん!」
「メリーなのですッ!」
「同じく、メリークリスマス」
楽しそうな出迎えを受け、オヴィラトの心に生まれていた負の部分は割れてなくなっていった。
「……っ、メリークリスマス、っすね!」
笑顔でこう言えたのなんて、ほんとうにはじめてかもしれない。
エイロゥが言っていた、まだだというのはこの出迎えの準備のことで、皆でがんばっていてくれたのだ。
「おや、可愛い格好をしてるじゃないか。似合ってるよ」
「はっはーん、わかるっすか? そっちこそ、いい感じじゃないっすか?」
真っ先にこの衣装を褒めてくれたのはアメリィで、彼女もまたトナカイの衣装を着ていた。
ふだんのメイド服とはぜんぜん雰囲気が違うけれど、よく働くという点では同じかもしれない。
ストレセントは全員元からコスプレみたいな衣装だけれど、あえて方向性の違うものを着てみるのも面白い。
クラッカーを鳴らしてオヴィラトを迎えてから、またそれぞれで動き出す。
イドルレは一番準備に時間がかかったであろう特設ステージに立ち、ウートレアは席についてタンバリンを用意し、エイロゥも部屋に入ってきてテーブルに料理をならべはじめ、アメリィは散らばった色テープを片付けていく。
オヴィラトはとりあえずウートレアのとなりに座ると、特設ステージのほうを見た。
「いっくよー! このわたしによる、みんなのための、楽園イドルレライヴ! 今夜はわたしらしいクリスマスプレゼントを、おもいっきり受け取っちゃってー! ね☆」
最後のウィンクで会場は大盛り上がりとなった。
はじまるライヴ、隣で響くタンバリンの音。テーブルに置かれるフライドチキンたちの香り。
オヴィラトのテンションだって自然と上がる。
イドルレの歌声は、アイドルらしい上手くない歌唱ではなく、全力で習得した者が手に入れるアツい歌声であった。
オヴィラトもつい聞き入ってしまい、曲が終わってからようやく終わっていたのだと気がついた。
「ふぅ、じゃあ次いこっかー!」
「では、イドルレの歌を聞きながら、冷めないうちにご馳走をいただきましょうか」
「そうそう、わたしほどになると歌声で食べ物をおいしくできるのだ!」
エイロゥのお言葉に甘えて、オヴィラトはフライドチキンに手をつけ、そして二曲目がはじまった。
ライヴが終わる頃にはフライドチキンもなくなっていて、エイロゥがイドルレ用にとっておいたご馳走を全力を出しきったようすのイドルレに渡す。
ご馳走もなくなったし、もう終わりだと思った。
だから、オヴィラトは自室として与えられている部屋に戻ろうとした。
そこでウートレアがオヴィラトの前に躍り出てくる。
「ちょっと待つのですよ! プレゼント・タイムが終わってないのでーす!」
彼女に押されるままにふたたび座らされ、エイロゥとウートレアに加えて食器を台所へ片付けたアメリィも席へつき、それぞれ包みを取り出した。
イドルレはそれらを眺めながら食事中だが、あのライヴが全身全霊のクリスマスプレゼントだったんだろう。
それぞれの包みがオヴィラトに差し出され、どうやらすべてオヴィラト宛らしかった。
サンタ衣装のオヴィラトに渡るというのは、ちょっとふしぎではあるけれど。
「え。いいんすか?」
「もっちろんなのです! せっかくの後輩ですし、たまにはプレゼントする側もやってみたいわけなのですし!」
「……えっと、ありがとう、っす」
それぞれの包みが並んでいるのを見て、オヴィラトの心臓の鼓動は速くなる。
いったい何がプレゼントされるんだろう。まずは、エイロゥからの一番大きなプレゼントだ。
「……これって、最新の据え置きゲーム機じゃないっすか!」
「ちゃんとソフトもつけましたよ?」
「ほんとだ……!」
オヴィラトにとっては高嶺の華どころか、これでゲームをはじめて与えられたことになる。
しかも最新のやつだ。面白いらしい人気作品も入っている。
エイロゥの選択を心のなかで称賛し、そっと箱を包みにいちどしまう。
次はウートレアの、一番小さい包みにしよう。
開けてみると、中身はお守りであるらしい。手縫いで「大盛況」と書かれている。
なるほど、巫女モチーフのウートレアらしい。
「来年もよろしくなのですよ。もちろん楽しく! 騒がしく!」
「ありがとう、もちろんよろしくっす」
オヴィラトは思わず笑って頷いた。
ウートレアはうるさいけれど、やっぱり一緒にいて楽しい奴だ。
彼女に好かれているのは嬉しかった。
ふと裏返してみると、大盛況ではなく、小さめの文字で「幸運守り」としてあって、これにも口元がゆるんでしまう。
最後はアメリィの中くらいの袋だ。
開けてみると、出てきたのはマフラーだった。
緻密に編まれていて、やわらかくてあったかい。
「僕からは手編みのマフラーだよ。気に入ってくれるといいんだけど」
マフラーにはデフォルメされたコウノトリが描かれていて、とってもかわいらしかった。
試しに巻いてみると、なんだかアメリィに守ってもらっているみたいで心地がいい。
その旨を、さすがにそのままは恥ずかしくてぼかして伝えると、アメリィもうれしそうにして、テーブルを拭く速度が上がっていった。
それぞれにこんなにいろいろともらって。
自分でも満足するはじめての経験を重ねて。
オヴィラトがストレセントとして迎えたクリスマスは、どうやら幸福と言えそうであった。




