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馬車の中。
ガタガタと走る馬の蹄の音が聞こえないほど、
メイドさんは大声で小言を言っていた。
「あの、ところで今どの学校に行くんだっけ?」
一方的なかい対話が続き、
20分ほどが経ってからやっと言えるチャンスを得ることができた。
僕がそう聞くと、
メイドさんは信じられないという顔で言った。
「それも忘れたんですか!まったく、中央魔法学院に入学すると一週間前から耳にたこができるほど言いましたのに!そもそも昨日寮に持っていく荷物をまとめたんじゃないですか!」
「あぁ、うん、ごめん。」
僕は隣に置いた荷物を見た。
寮に持ってくる荷物としてはちょっと少ない気がした。
「えっと、僕、何で中央魔法学院に入学するようになったのかな。」
小言が飛んでくるようでちょっぴり指で耳を塞げたが、
返ってくるのは予想外の言葉だった。
「申し訳ございません。私のせいで…。」
メイドさんはなき声になってそう言った。
あ、あれ…、
こんな反応が出るとは。
メイドさんは涙を拭いながら話を続けた。
「この前にあった花の事件、覚えていますか?」
「花の事件?」
「はい。ちひろ様が触った花が黒く染まった事件の事です。」
花が黒く染まったなんて、
なんとなく目安がついた。
「実は、その花は魔力花と申しますが触った人の魔力に反応して色が変わる特徵があります。花が黒くなったのは黒魔法に適性があることを意味します。」
黒魔法か。
私生児に黒髪黒目、さらに、黒魔法まで。
「口外禁止令を下しましたがメイドさんの誰かがそのことを言いつけたようで…。」
ふむ。
今までのことがある程度理解できてきた。
あの事件までは別館に隠すことで終わらせようとしたが、
黒魔法に適性があるとしれた今、その程度では不充分と判断したようだった。
「中央魔法学院は表面上は魔法使いを育成することとなっていますが実際には貴族たちの流刑地として使用されています。私は最後まで反対しましたが結局、守ってあげませんでした。」
メイドさんは泣きながら顔を伏せた。
メイドさんは責任感を感じていたが、
僕はそれがメイドさんのせいじゃないってことをよく知っていた。
むしろ、僕はメイドさんに暖かさを感じていた。
「ありがとう。」
この人がどれほど僕を大切にしているのかが伝わってきた。
その姿をみていると、僕が死んだ時のお母さんの顔が目の前に浮かんできた。
それで僕は少し切なさを感じた。
とにかく、
その後にはいろんな話を聞くことができた。
ほとんど以前の僕が、しして以前の僕の周りがどうだったのかの話だった。
いくつかの家に対する話も聞くことができた。
僕は私生児で、父ととあるメイドの中で生まれたみたいだった。
最初には、父も僕を真の家族のように扱ってくれた。
しかし、7歳の時突然僕の目と髪の毛が黒く染まってしまった。
さらにその時母も急性肺炎でしんでしまって、
おかげで父は僕のことを恨み始めた。
その後、父は僕を別館に放置した。
以前の僕は別館を出ることも許されなくて、ずっとその別館にとじ込まれていたみたいだった。
まあ、聞いてみると世間でよくある【可哀相な私生児の話】だった。
僕としては追い出されたこの状況がむしろいいかもしれない。
家の事情に巻き込まれたい気持ちはいささかもいないし、
魔法学院に行ったら、おもしろいことがいっぱい起きそうだった。
そしてこのメイドさんの名前はマリア。
僕の母とはとても仲が良かったみたいで、
母が死んだ時から僕を育ててくれた母みたいな存在だった。
「氣をつけてください。」
馬車が魔法学院に到着した。
マリアはハンカチで涙を拭いながら、僕を見送ってくれた。
魔法学院に入学する。
学院に通うことができる。
一度も学校に行ったことがない僕は、
校庭に立ったそれだけでなんか嬉しい気持ちになっちゃった。
今までのいろんな事が、何でもないように思われてきた。
なにもかもうまくいきそうな予感がした。
僕は身なりを整えた。
下半身が心もとない感覚はまだあったが、それも大丈夫な気がした。
そうやって、
色んなことがあったが僕は未来に向かって小さな一歩を踏み出した!
…
そして入学してから1時間、
僕は明らかな悪意に挫折してしまった。