偽りの英雄 エピメテウス
偽りでも、いい。
英雄プロメテウスは「選ばれし者」だ。
過酷な実験を耐え、訓練を耐え、そうして成功を勝ち取った「成功者」である。
そう、国民には周知されていた。
彼女の出自に関しては、公式発表もゴシップも、詳しいことは書かれていない。
兵に志願する以前の記録は、ない。
「次に向かう帝立アリーナでは、第三皇女の警護の指揮を執っていただくことになっている。まぁ、皇女のそばで立っていてくれればいい」
戦争が苛烈さを増していく中、国は兵を募り、国民に協力を求めた。
多くの国民が支持するプロメテウスは、そのための大きな役割を担った。
けれど。
プロメテウスでは足りないものがあった。
プロメテウスは「選ばれしもの」である。
それはともすれば恵まれた環境で育ったと、生まれながらのエリートなのだと国民には誤解させることとなった。
プロメテウスというブランドを作るために、国があえてそうした部分もある。
しかしそれが、彼女に靡かない一定の層を作り出してしまうこととなる。
彼女を支持する者も、彼女に憧れこそすれ、親しみは持てない。自己投影もできない。
眩しすぎるのだ。
だから国は、もう1人の英雄を作り出した。
プロメテウスを支持しない層に受け入れられ、誰もが親しみを持てる、そんな英雄を。
「わかりました」
立っているだけ。
そう。胸を張り、立っているだけで仕事は終わる。
腰の軍刀が、血を浴びたことなど一度もない。
周りにバレないよう、小さく溜息をついた。
農民出身、徴兵で軍に入った青年。
苦労を重ね、手に入った功績と地位。
けれど気取らず、誰にでも気さくに話す。
いざとなればその身を呈して国を守り、勇猛果敢に戦う姿はまさに獅子。
そう宣伝された人物。それが自分だった。
話しの半分は嘘だ。
戦地へ行った経験も一度きり。大した戦果はあげられなかった。
けれど自身が、国の求めていた英雄像に近かった。
たったそれだけのことで、二人目の「英雄」に祭り上げられた。
今では、プロメテウスと並んで双璧とまで言われるほど。
国にいながら、ただ立っているだけの自分が、どう戦果をあげられるのか。
思わず笑いが漏れる。
車から降りて、会場に向かう。
歓声が上がった。
彼らにとっては、自分は間違いなく英雄で、希望、なのだろう。
そう、それが国が望んだこと。
「今日はよろしくお願いしますね、エピメテウス様」
第三皇女が可愛らしく頭を下げる。
礼を返して仕事に移った。
プロメテウスの兄弟の名。
それが自分の英雄名。
古い文献には、愚鈍で愚かな神の名だと、記されていた。
御誂え向きの名だった。
こうして、使われる自分には。
何度か会ったプロメテウスは、想像以上に傷だらけだった。
機械の四肢は、いつもメンテナンスされていた。
機械化兵細胞のおかげだろう、目立つ傷もない。
けれど、いつも苦しそうで、悲しそうだった。
周りに気づいた人間はいなかったようだが。
戦没者の慰霊に向かった時、誰よりも長く祈っていたのは彼女だった。
自分とは違う。
彼女は本当の英雄だった。
だから。
自分も英雄になろう、と。
そう、思った。
ハリボテでいい。
操り人形でいい。
偽物でも、誰かに希望を与えることができるなら。
英雄でいる意味があると、思えた。
だから、精一杯英雄を演じるのだ。
本当の意味でプロメテウスの隣に立てるように。
この国が負けて、彼女が裁かれる時には。
一緒に罪を背負えるように。
偽りでもいい。
愚か者でもいい。
彼女と同じ、英雄でありたい。