プロメテウスの子ども。もしくはデウカリオン
終わりは唐突におとずれる。
「右翼後方、3機頼む」
「了解」
刺激的といえば刺激的な。
単調といえば単調な日々だった。
国は戦争状態。
正直負けそうだと考えていたところに、戦局を覆す兵団が現れた。
俺は、その兵団に所属する1人である。
「チートだもんなぁ」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
100人に1人と言われる機械化に成功し、今こうして戦線に駆り出されている。
命のやり取り。
そう言ってしまえれば、まだ聞こえは良かった。
だが、俺が行なっているのは、一方的な蹂躙に近い。
戦力に差がありすぎるのだ。
空を自由に駆けもできない戦闘機が、空で俺に敵うはずがなく。
のろまな戦車が、俺を捉えることはできない。
レーダー、サーモグラフィ、暗視スコープ。その全てより、俺の五感の方が優れている。
俺に敵う敵はいない。
「ひゃっほう!」
3機目を落とした俺は、つい大きな声を出してしまった。
ザザ、と通信が入る。
「はしゃぐな。最前線だぞ」
お堅い隊長からのお叱りの通信だ。
「すみません」
俺に敵う敵はいない。
けれど、俺より優れた味方なら何人もいる。
この、隊長もそうだ。
一個師団の団長。
この1番隊の隊長でもある男は、俺と同じ機械化兵で、俺よりずっと強かった。
この出撃でも、俺が3機落とす間に、6機撃墜していた。
数字にして倍。
それが隊長との差というところだろうか。
隊長は、英雄プロメテウスの子飼いの兵でもある。
階級や率いる軍隊の規模は隊長の方が上であるが、どうやらプロメテウスの「部下」でもあるという。
隊長を含めた数人の、第2期から第7期の機械化兵。
細胞の適応率が低い段階での実験的に造られた、いわば試作機である。
ただ、リスクが高かっただけに見返りも大きく、試作機は皆、他の機械化兵とは一線を画す性能を持っている。
その中でも、長い戦争を生き延びた生え抜き。
彼らを軍の中では、プロメテウスの子から名をとり、デウカリオン、と呼んでいる。
プロメテウスとデウカリオンで倒した敵の数は知れず。
何度も戦局を覆した英雄達。
「くそ」
思わず悪態を吐く
俺にはなれない。
どうあがいても。
能力の差ならば、あるところで諦めもついただろう。
けれど、それが、他者の技術の差であるならば。
諦めなど、つくはずもない。
「ご苦労だったな」
基地に戻ると、先に降りた隊長が声をかけてきた。
「……はい、どうもです」
返事のような、そうでないような。
上の空で返事を返す。
「……」
「何か言ったか」
ぼそり、と呟いた言葉を耳聡い隊長が聞き返す。
「いいえ、ただ……」
死んでくださいーー
そうして、兵器を展開させようとした瞬間。
身体の中の装置が、首と胴が離れたことを告げた。
こんなに呆気なく、唐突に。