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予兆

ぽろりがあるよ(詐欺ではない。ギリギリ)

フタツとプロメテウスは動かなかった。

ためらいではない。

確実に相手を仕留めるための、殺すためのにらみ合い。

分はプロメテウスにある。

あるはずだった。

最初に作られたプロメテウスは、ほかのどの機械化兵より優れた性能を持っていた。

異常なほどの金属細胞との親和性。

それが、彼女を成功体第1号にし、彼女を最強の機械化兵にした。

他の誰の追従を許さない強さを。

スピードを、威力を、彼女は持っている。

けれど。

ーー不気味だ。

ミツはそう思わずにはいられなかった。

フタツのことは知っているつもりだ。

デウカリオンとして一緒に戦った。

仲間だった。

フタツは強い。

三期の試作機である自分より性能は上。

単体として行動すれば、その戦果はプロメテウスに次ぐ。

その体捌きも、射撃の精度も、何を取っても自分より彼の方が上だった。

デウカリオンの総力で彼は殺せる。

けれど、その時にはデウカリオンにも甚大な被害が予想されるだろう。

それだけの強さがある。

けれど、それ以上に

プロメテウスは強い。

だから。

大丈夫だ。

大丈夫なはずだ。

そう思い込もうとして、さっきからずっと、失敗している。

不安が、拭えない。

彼女が負けるはずないのに。


「流石に、格下だとは自覚していましたが」

「戦闘中によそ見されるほどとは」


だから、自分の役割を全うしなくては。

早くプロメテウスの援護に向かうのだ。

この裏切り者達を倒して。


「格下も格下。相手になるかどうか」


そう言って笑ってやれば、すぐに弾丸が飛んできた。

翼を動かして回避する。

この弾丸に細工がないとは限らない。

弾丸にも、彼らにも、接触は極力控える必要がある。

翼を羽ばたかせる。


「1214、1433」


目の前の機械化兵のデータ照合が終わった。

長く戦線にいた者たちだ。

多くの仲間を救ってきた者たちだ。


「後悔はないな」


この国を、軍を、プロメテウスを、守った仲間を裏切ることに。


「私たちは私たちの正義のために動いています」

「後悔はありません」


その目は、真っ直ぐに。


「なら、いい」


一層強く羽ばたいた。

1214と1433の間に入る。

両の手を2人に向ける。

義手に埋め込まれた砲身をむき出しに。

装填済みのそれを同時に放つ。


「なるほど避けるか」


戦線で戦い続けていただけのことはある。

2人ともなかなかの反応だった。

ふ、と力を抜く。

重力に従えば、頭上を弾丸が通りすぎた。

1433が近づいてくる。

義手に金属細胞をまとわりつかせ、成形、硬化。

その慣れた様子に、1433の戦闘での様子が伺える。

砲身をしまい、細胞を全身に纏う。

1433は正確に、急所を狙って刃を繰り出す。

動作は小さく。けれど確実に、ミツはその刃を避ける。


「くそっ」


上がった息で1433が悪態をつく。


「時間切れってやつか」


そう呟くと、ミツに組みつこうとする。

1433の背後に、銃を構える1214の姿があった。

振りほどき、1433を地に蹴り落とす。

肩のエンジンを撃ち抜く。

これでしばらくは飛べないはずだ。

下のイツキが対処するだろう。

手に展開した銃は、1433からすぐに1214へと狙いをつける。


「……一つ、聴きたい」

「いやです」

「なぜ、本気を出さない」


その言葉に、1214は苦い顔をする。


「それとも出せないのか」


1214も1433も、たしかに戦線を生きた手練れのはずなのだ。

それは随所で見受けられる所作の一つ一つでわかる。

だが、遅いのだ。

金属細胞の増殖も、その身のこなしも。


「これが、今の本気ですよ」


ミツに向けていた銃口を自分のこめかみに持っていく。


「やめろ!」


ミツが手を伸ばした。

その手が届く前に、1214は落ちて行く。

銃声は聞こえなかった。


「2人とも、生きてます」


イツキが地上で2人を回収する。


「なぜ機械化を解いた?」


死ぬ気だったはずだ。

自殺しようとしていた。それは本気だった。なのに。

地上に落ちて、すぐに拘束された1214は黙っていた。


「解いた、わけではない、です」


1433が言った。

肩を撃ち抜かれ拘束され、無力化されている。


「解けたんですよ」

「喋るな」


その言葉を、1214が遮る。


「解けた……」


それ以上、彼らは何も言わない。


「あぁ、でもこれで……死ねるな」

「そうですね」


しばらくの沈黙の後、1214が言った。

1433も相槌を打つ。


「まさか」

「自爆っ」


周囲に緊張が走る。


「そんな上等な者、僕らには残っていませんよ」

「……私たちの細胞は、もう多くが死んでいますから」

「どう言うことだ」


そう正すも、彼らの目は虚ろだ。


「眠い」

「あぁ、すごく、……眠い」


そう言うと、彼らは静かに目を閉じた。

そして、もう目覚めることはなかった。


「心拍が止まっています。呼吸も」


シチが駆けつける。

2人のバイタルサインを確認し、首を振る。


「どういう、ことだ」


1214の右の義手が、ぽろり、と取れた。


それはまるで、不吉の前兆。

いよいよあとちょっと

あとちょっとが、長い。

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