表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

ヘラクレス6

ーーやられた。

ナナが気付いた時には、パンドラは血を流し倒れていた。

事前には知らされていないシナリオだった。

だから、動揺した。

唇を噛む。

所詮は自分も、駒の一つだったと言うことだ。

フタツの共犯者には、自分はなれなかった。

なれはしない。誰も。

どれだけプロメテウスのことを想おうが、違うのだ。

ベクトルが、量が、質が。

フタツの抱えるそれは、まるで別のものなのだ。

彼には、ついていけない。

今回の襲撃だってそうだ。

ここまでのことを、自分は了承していなかった。

知っていたなら止めただろう。

パンドラを殺すことに、意味があったのだとしても。

今や国の大きな支えとなっていたパンドラを失うことは、大きな損失だ。

それを、英雄とはいえ一軍人の命と秤にかけ、よりによって軍人の方を取るなど。

国を想えばありえない行為。

そう、ナナは考えていた。

考えてしまっていた。

だから、彼女は選ばれなかった。

あくまでも軍人として、国を守ることを第一とするナナ。

個人的にどう考えていようと、その優先順位は変わらない。

彼女は、心の底から軍人だったのだ。


「投げ出すか?」


彼女の心を見透かしたように、そう声が響く。

うるさい声だ。

この声の主こそが、フタツの選んだ相棒。

今や情報の集合体とも言える、この帝国の最高頭脳。

ペルディクス。


「もう、後戻りはできない」


声は続ける。


「目論見通り、帝国は崩壊した」


そう。崩壊した。

そう仕向けたのは、ナナ達だ。

行動はパンドラやエピメテウス達だった。

けれど彼らに情報を与え、思想を植え付け、誘導したのはナナ達だった。


「会議も、おおよそ想定通り」


機械化兵の技術に関して言えば、国際法違反を誰も強くは言えない状況だ。

追求する側も、無人機やステルス機など、国際法に違反する技術を使用していることがわかっている。


「彼らがああも簡単に飛びつくとは思わなかったがな」


使用させたのは、やはりナナ達だった。

技術提供をしたのだ。

ペルディクスが開発し、データを連合軍の研究機関に送りつけた。

方法は簡単だった。

ペルディクスは電子の世界を自由に動ける。

敵国のコンピューターに入り込むことなど、造作もないことだった。

匿名のメールだろうが、誰かになりすましての研究レポートだろうが、彼は自由にできた。

そして連合軍は、その餌に食いついた。

研究は加速し、連合軍は戦局をより有利なものへと変えたのだ。


「帝国側の犠牲者には、まぁ申し訳ないことをした」


連合国の新兵器は、同胞達を次々と殺して言った。

ナナはその犠牲に目を瞑った。

少しでも有利な形での戦争終結。

それが彼女の願いだったからだ。

そのために動いていた。

そのための犠牲であれば、耐えられた。

けれど。

今回は。


「死に追いやった同胞より、今回の犠牲は少ないさ」


コンピューターからの味気ない音声のはずが、笑いを含んだ声に聞こえる。

ナナの抱えた罪悪感から、だろうか。


「何千殺した?」


ペルディクスは畳み掛けるようにいう。


「今更、何を動揺する。命は平等なはずだろう」

「うるさいっ」


世の言う綺麗事が、こんなにも憎らしい言葉になるとは思っても見なかった。


「やるわよ、やればいいんでしょ」


コンピューターに接続する。

事前の打ち合わせなどない。

ペルディクスが指示を出す。

それが後にどんな影響を与えるかなど、ナナは知らない。

けれどやるのだ。

もう、後戻りはできない。

泥舟に乗ったなら、沈むまで一緒だ。

共犯じゃなくても、相棒じゃなくても。

同じ船に乗ると、決めたのだから。


「プロメテウス達の映像を、各首脳の端末および全世界に繋ぎます」


今、起きていることを。

世界にーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ