01326
「ナンバー01326、出ろ」
プロメテウスは軍に従い国へ戻り、すぐに拘束され収容所へと入れられた。
多くの機械化兵がその収容所に入っているようだった。
第1期326番。ナンバー01326。
その呼ばれかたが、プロメテウスは大嫌いだった。
プロメテウスより先の325人は、機械化兵となることなく、その命を絶たれた。
忌まわしい数字だった。
その番号で呼ばれると、プロメテウスは多くの屍の上に立っていることを痛感させられる。
325人の命と、それ以降に続く、この戦争に駆り出された兵たちの命。
あまりにも、多い。
多い犠牲だった。
その一因は間違いなく彼女だった。
帝国に引き際を見誤らせた。
国民に犠牲を強い過ぎた。
それは、プロメテウスという希望があったからこそ。
もしかしたら、と期待を、抱かせてしまった。
彼女の罪だ。
「入れ」
見知らぬ兵に案内された部屋に入る。
すぐに扉は閉められ、施錠された。
その気になれば脱出可能な部屋だ。
壊すに容易い壁、大体の位置関係も把握した。
「そう、警戒なさらないで」
「……パンドラ様」
そこにはパンドラと、エピメテウスがいた。
「はじめまして、になるかしら」
「そうですね。お見かけしたことは何度か」
この2人が、反逆軍の首領。
否、国家が崩壊した今、反逆軍は反逆軍ではなくなった。
むしろ、プロメテウスが裁かれる帝国の遺物。
「お座りになって」
席を勧められ、パンドラの正面に座る。エピメテウスはパンドラの斜め後ろに立っている。
「今、連合国の方と、色々と話をしているわ。私たちの新国家および新政権を受け入れるかどうか、とかね」
この穏やかな少女が、帝国を終わらせた。
プロメテウスにはなまじ信じられないことだった。
細い腕だ。自分の金属の腕とは違う。
けれど、彼女は導いた。
きっと彼女の心は、鋼より強い。強く、あろうとしている。
「問題の1つに、あなたたちが挙がっているわ」
「機械化兵」
「そう、国際法で禁止されている人体実験の果てに、帝国がたどり着いた一つの成果。見逃すには、問題がありすぎる」
「……連合軍の感情も、許さないでしょう。多くを、殺しましたから」
「お互い様……なんて言葉は言えないわね」
被害は断然、帝国軍の方が多い。
けれど機械化兵に殺された連合軍の兵の数だって、決して少ないものではない。
一人で殺した兵の数など、一般兵とは比べ物にならない。
「国際法違反については、向こうも禁止されている無人機の投入に、禁止技術を使用したステルス装置。叩けば色々出てくるから、イーブンには持っていける。実験の犠牲は、帝国民でしたし」
幸い、ほかに国際法を破るようなことを、帝国はしていなかった。
正々堂々と、戦おうとしていたのは帝国だった。だからこそ、窮地に立たされた。
「ただ、機械化兵については、所有する戦力が大きすぎることもあって、国際均衡保持機関も処遇を決めかねている」
エピメテウスが言った。
帝国の遺物が大きな力を所有しているというのは、外野からすれば面白くないだろう。
「そこで、ある一点が争点になっています」
人差し指を立てる。
「機械化兵は兵器か、人か」
「それは」
「あなたたちに当てはめる人としての定義が定まっていないから……とでも言いましょうか。人なのか、人のような機械なのか、彼らは測りかねているわ」
パンドラが緩く、首を振った。
「その定義如何によっては、あなたたちの処遇は大きく変わるわね」
「……はい」
人でなければ、簡単に処分できてしまう。
機械ではない、と当事者が言ったところで、意味はないのだ。
「私たちは、あなた方機械化兵を当然人だと考えています。むしろ、この戦争の被害者である、と」
「ただ、どうにかしてあなた方の力を手に入れたいと望む輩がいる。それができないならば」
「亡き者にしたい、と」
プロメテウスにも、その感情は理解できた。
自らの手の届かない力。ならばなくなってしまえ。
「私たちは、あなたを、あなたたちを、連合軍に渡すつもりはありません」
機械化兵の戦力は、未だ彼らの戦力だ。
反逆の際、共に戦った機械化兵も。
こうして拘束されているプロメテウスたちも。
機械化兵は全て、新国家の手の届く場所にいる。
連合軍が手を出す前に、新国家が手元に置いた。
軍の上層の一部も、反逆軍に加わっていたこともあり、そのまま軍は新国家でも機能する。
だから、連合軍は新国家に迂闊に手を出せない。
戦力の確保。
戦力の低下の抑制。
少なくとも、外部には戦力があることをアピールしなければならない。
そのため、敵へは決して機械化兵を渡せなかった。
一人たりとも。
1秒でも早い全員の国内収容が必要だった。
けれどその行為は、対外的な戦力のアピールだけではない意味があった。
庇護下に置いた、のだろう。
この二人を見て、話を聞いて、守られたのだとプロメテウスは理解した。
「情勢は五分五分です。この情勢を有利に運ぶために、あなたには働いてもらう必要があります」
「私にできることであれば」
「けれどその結果、命を……失うことになるやもしれません」
もとより、この戦争で尽きる命だと、プロメテウスは思っていた。
この戦争が終わる時、裁かれる命だと。そのために、生き延びてきた命だと、考えていた。
「プロメテウス」と呼ばれた時から。
機械化兵として、立った瞬間から。
「覚悟の上です」
否、それこそが。
彼女の望んだことだった。




