ここに立つ理由
「プロメテウス!」
そう、親しげに呼ばれたのはいつぶりだろうか。
「イツキ」
その声に振り返れば、5期試作機のイツキがいた。
イツキは人懐こい青年だ。
プロメテウスにも気軽に声をかける、数少ない人物の1人だった。
「この作戦、プロメテウスも参加するんだな」
「えぇ。万全を期して、というところね」
試作機が複数集まる戦線などあまりない。
機械化兵とて、一隊に二人いれば多い方だ。
「最近の連合軍の動きに警戒してるんだろうけど」
機械で視認できない敵、金属細胞の働きを抑制する物質、無人の戦闘機。
急増してきたそれらのイレギュラーに、帝国は対応しきれずにいた。
できることなど、たかが知れているのだ。
機械化兵の増員もままならず、配置を徒らに動かすだけで、対応した気になっているに過ぎない。
「俺のいた戦線は放棄されたよ」
「こちらも戦線を下げざるを得なかった」
周りは2人を気にしつつ、近づこうとはしない。
2人の周りには空間が生まれていた。
「プロメテウス」
少しトーンの下がった声で、イツキが名を呼ぶ。
「きっと、遠くない将来、この戦争は終わる」
「……そうね」
それは、上にいれば上にいるほど感じる事実だった。
この国は延命しているだけに過ぎない。
最近、一般兵も勘付いている。
それは士気の低下に如実に表れていた。
何も新しい兵器の存在だけが、この帝国の死期を早めているわけではなかった。
「なんだか、さ」
空は晴れていて、雲も、飛行機も、何もない青が広がっている。
「最近戦いづらいんだけど」
「うん」
「これが、生身の兵やサイボーグ兵が抱える不自由なのかと、思う時があるんだ」
機械化兵の身体は、あらゆる面で生身の兵より優位になっている。
だからこそ、知らないこともある。忘れ去っていたことも。
いつどこから襲ってくるかも知れない恐怖。
被弾すれば傷つき動けなくなるからだ。
処理しきれない数の敵。
「忘れていたんだよね」
「私は、知らずにいたわ」
初めから機械化兵として戦地にいたプロメテウスには知り得なかったものたちだ。
「俺はサイボーグ兵上がりだから、ちょっと、思い出してるよ」
笑いながら言うイツキも、かつてはただの兵だった。
怖くて、泣き喚きながら戦地で戦ったこともある。
「ねぇ、プロメテウス」
イツキがまた、名前を呼んだ。
一層低く、はばかるような声だ。
「逃げちゃう?」
2人の間に沈黙が流れる。
それも一瞬のことだった。
「軍法会議ものの発言ね。データとして送られていたらどうするの」
「冗談だよ。それに、帝国は貴重な戦力を無駄に散らせはしない」
「そうだとしても」
「バレたら過酷前線祭りかな。……今のプロメテウスと変わらないかそれじゃあ」
そう言ってに笑ってみせる。
本心からの言葉だったのかどうか、プロメテウスにはわからない。
「私は、逃げるわけにはいかないもの」
重ねて、プロメテウスはそれだけ呟いた。
沢山の兵を戦地に送ってきた。
その責任の一端はプロメテウスにもある。
広告塔として国内から兵を募り、戦地へと送ってきた。
その責任は取らなければならない。
少なくともプロメテウスはそう考えていた。
だから。
「私は裁かれなければ」




