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箱の中で

「久しい……という事もないか」


ミツはエレベーターに乗り合わせたナナにそう声をかける。


「そうだな」


最近似たような事があった気がする。


「プロメテウスも呼ばれてる」

「また、余程のこと、か」

「そうかもしれない。デウカリオンから脱落者が出るのは久々の事だ」

「……リク……か」

「ムツもだな」


彼らは2人で1つのような存在だった。

リクを失うという事は、同時にムツを失ったも同然だろう。

先の戦闘でリクの異変に動揺したムツは、その後の戦闘に精彩を欠いた。

結果、辛くも防衛は果たしたものの、想定以上の犠牲を出すことになった。

その責任は、重い。


「上も優しいものだ。ムツ、リクの両名を内地へ戻した」

「優しい?」


皮肉のこもったナナの言葉に、ミツも皮肉を言葉に乗せる。


「新しい兵器の犠牲者と目撃者。それを目の前に上が行う事など分かりきっている」

「恐ろしい話だな」

「不便な身体だ。我々の身体は」

「だが、この身体でなければできない事も多い」

「解体されてデータを暴き出される事とかな」


彼ら機械化兵のデータは視覚情報をはじめとして逐一記録されていく。

データの多くは回線を通じて随時情報部隊に報告され戦略に活かされていく。

けれど膨大な量の感情を伴うその他のデータは、機械化兵本人たちが身体のどこかに埋め込んだブラックボックスに記録されていく。

今回、ムツとリクはそのブラックボックスを取り出す作業を受けることとなった。


「さて。彼らは、我々は。心をどこに置いてきたのか」

「脳は、人のものだろう?」


そこに手を、加えられてはいないはずだ。

ならば、心は脳にある。


「さあ。そう、言い聞かされているだけかもしれないよ」


にい、と笑うナナの表情が、しばらくミツの頭から離れなかった。


「きつい冗談だな」


そう言って笑ってみても、心に生まれた不安は簡単に消える事はなく。


「仮にそうだとして。今回の件で2人は」

「抜け殻になるかもしれない。新たな人格が埋め込まれるかも」


恐ろしいことを平然と言ってのける。


「だとしたら、我々は何者なんだろうな」


人か、機械か。それとも別の何かか。

ふと湧いた疑問に、ナナは軽く答えた。


「さあ。我々だろうな」

「ーーなるほど」

「安心しろ。彼らに関して脳をどうこうという話はない。悪い冗談だ」

「……安心したよ」


随分と哲学的な話をしてしまったものだ。

世に言う無駄話というものだった。

戦地ではあまり、できない行為。

ようやくついた会議室に、プロメテウスの姿があった。

無表情に近いながらも険しい顔をしている。

珍しくフタツもすでに到着し、ちらほらと他のデウカリオンの姿も見えた。

とくん、と鼓動がなった。


ーーあぁ、そうだ。


何者でもよかった。

守れるならば。共に行けるならば。

けれど、1人より。


「我々、の方がいいな」

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