ペルディクス
闇に明滅する光。
世界はただそれだけで、とても居心地が良かった。
このまま深く沈んでいきたいと、そう思ったとき。
強い力で引き上げられるのを感じた。
目覚めたとき、そこには見慣れた背中があった。
「目が覚めたか」
男はそう問いかけてきた。
後ろに目でも付いているのか、いや、付いているのだ。
彼は機械化兵試作機の1人。
360度死角はない。
「フタツか。意外だな」
試作機の中では1番の性能を持つフタツは、その性格に難があった。
人を束ね動かすことにとことん向いていなかったのだ。
戦闘が始まれば、周りのことなど気にも留めない。
基地に戻っても一言も喋らず、一人テントに引きこもる。
要は意思疎通が図りづらいのだ。
彼は部隊を率いる立場ながら、その任は部下に任せ、もっぱら前線で敵を殲滅することに専念している。
そんな彼が、話しかけてきた。
それが意外だった、と言うのが一つ。
そして。
「私の意識を引き上げたのはお前か」
バラバラに霧散しようとしていたこの自我を、繋ぎ止め繋ぎ合わせるという巧緻を彼がやってのけた、というその技術力。
「私の部下に欲しかったな」
過去に思いを馳せれば、後悔などしたりない。
「ごめんだな。仲間に殺される上司など」
その言葉に、やはりと呟く。
自分はすでに、死者なのだ。
「ナナが見つけた時には、お前の体は既に活動を停止していた」
「こめかみを撃ち抜いたからな」
「記憶はあるか」
鮮明に覚えている。撃たれた腹の熱さ、歪んだ仲間の顔。
「私は個人で構想していた計画を実行に移した」
「あぁ。ナナはお前の死骸と、一台のパソコンを回収している。死骸は政府に。パソコンは俺に」
「背信行為ではないかね」
「今からでも政府に渡せるが」
「遠慮しよう」
下手に解体されて消滅するのがオチだろう。
「ナナは自分の手には余ると判断して、俺にパソコンをよこした」
「あぁ、お前は今内地か」
「あぁ」
プロメテウス以外の試作機は、政府と皇族、そして国の守護のための警備に、内地に配属されることがある。
フタツはちょうど内地に配属されていたのだ。
「それにしても、個人の持つ情報全てをネットに移し替えるとは……」
「この端末は窮屈だな。半分は成功したようだが」
自力での自我再形成までが、自分の構想だった。
けれど、煮詰める前に死が訪れてしまったのだ。
人の手を借りての再形成は少し癪だが、まぁ結果は良好だ。
「恐ろしいな、ダイタロス」
その才能が、恐ろしい。
「私はダイタロスに嫉妬され殺された者。ペルディクスの名がふさわしい」
「俺はその辺りの教養はない。好きに名乗ればいい」
なんともつれない返事である。
「それで」
フタツに問う。
「ここまで手間暇かけて、ただのボランティアってわけじゃないだろ?」
何が望みだ。
そう尋ねれば、答えはすぐに返ってきた。
「国家転覆」
にい、と笑うその顔を、恐ろしいと思わなかったのは、既に自分が、人ならざるものだったからだろうか。




