妬む者ダイタロス2
彼の者は発明者、彼の者はーー
「ぬかったなぁ」
ダイタロスは扉に鍵をかけると、その場にへたり込んだ。
押さえた腹からは、赤黒い血が溢れてくる。
酷く熱かった。
身体は寒くて、凍えそうだというのに。
腹に空いた穴は、激しく熱さを主張する。
銃創というものがこれほどまでに苦痛を与えるものだとは知らなかった。
プロメテウスたちは、こんな痛みを何度も経験してきたのか、と考えて、苦笑する。
彼女たちをそうさせたのは、他ならぬ自分だったと思い至ったのだ。
「まだやりたい研究や実験が山ほどあるのに」
そう未練を口にしながら、自分がそう長くは持たないと冷静に考えていた。
ならば、やらなければならないことがある。
痛みと熱さに苛まれる身体を叱咤して、ダイタロスは立ち上がり部屋の奥へと進んだ。
「しかし……」
人の顔とは、あんなにも醜く歪むものなのか。
銃口を向けてきた仲間だった研究者達の顔を思い出し、そう呟いた。
それはすでに、声になっていなかったかもしれない。
霞む目に、その時が近いことを悟る。
銃口を向けてきた者達ーー彼らを恨む気持ちはなかった。
研究者として、科学者として、その気持ちは痛いほどによくわかった。
ただ発散の仕方を、やり場のない気持ちのはけ口を間違えただけだ。
彼らは国を裏切ったわけではない。
逆だ。
国に忠誠を誓うあまり、視野が狭くなってしまっていた。
それ以外、を考えられなくなっていた。
自分を殺さなければ、前に進めなくなっていたのだ。
自分の生み出した成果は、確かに希望の光だった。
けれど光が輝くほどに、周りの闇は濃くなっていく。
彼らは暗闇の中を、さまようことになったのだ。
それは、自分の過ちだろう。
気づこうともしなかったことに、今更になって気づくのだ。
「バカと天才は紙一重だな」
乾いた笑いに、相槌を打つ者もいない。
足音が近づいてきた。
もう直ぐ、仕留め損ねた自分を探し当て、とどめを刺しにくるだろう。
銃なんてほとんど持ったこともないような奴らだ。
全く、健気で泣けてくる。
バカと天才が紙一重なら、羨望と憎しみも紙一重だった。
銃口を向けてきた彼らの顔に、憎しみや妬みだけではない感情があった。
そう思ってしまうのは、少し感傷的にすぎるだろうか。
ロマンチストだ、なんて、プロメテウスに言われてしまう。
それはごめんだな、と笑う。
勢いよく扉が開かれた。
銃を手に、そこに立っているのは、白衣を着た研究者が二人。
血にまみれた手を見る。
自分の血でなくとも、もうとっくに血にまみれた手。
たくさんの犠牲の上に、我々は立っていた。
けれどそれは、研究者としてだ。
マッドサイエンティストと言われようが、それは信条あってのものだった。
だから。
「君たちに、殺されてやるつもりはないよ」
こんなことで、彼らの手を汚したくはない。
私情でなんて、殺されてはやらない。
だから。
こめかみに銃をあてがう。
「さよならだ」
次に目を開けた時、そこは明滅する光と、闇の広がる世界だった。
0と1しかない、静寂の世界ーー
彼の者は発明者、彼の者は妬まれるものペルディクス。
本題
妬まれる者 ペルディクス




