最初の1人
私は最初の1人だった。
遠くで土煙が上がった。
続いて響く爆音。
「花火みたいなものかしら」
そう、呟く声に、答えるものはいない。
ーー不謹慎ですよ。
ーー光と音の早さの違い、昔やりましたねぇ。
ーーたーまやー
そんな風に、かつてならば。
考えても栓のない事だ。
やるべき事をしなければ、と身体を動かす。
あれは、敵による攻撃だ。
すぐに対処しなければ、こちらが見つかってしまう。
また、失ってしまう。
下に降りると布の仕切りを開く。
「動けるものは速やかに避難を」
バカな事を口走っている。
動けるものなど、ほとんどいない。
皆苦しみ、呻いている。
データベースにある知識を使って応急処置をし、直しもしたが、所詮は技術の伴わない素人だ。
彼らを救うには至らない。
「もうすぐ救援が来るからな。少し我慢してろよ、お前たち」
私の率いる部隊は、すでに壊滅状態だ。
けれど、撤退の指示はない。
あるのは前進の命令のみ。
能無しどもが、と毒づいてみても、それを覆す力のない自分は、能無し以下だ。
「ここを留守にする。お前たちは寝ながらそこを守ってろ」
無茶な命令に、数名が反応した。
壊れた機械の奏でる音は、言葉というには遠かった。
うめき声は答えですらないだろう。
けれど、それで十分だ。
「行ってくる」
左腕は先の衝突で欠損しているが、他に大した損傷はない。
私は、まだ動ける。
地を蹴り、空へと跳ぶ。
目標は目視した戦闘爆撃機とその周囲の戦闘機が数機。
仕損じはしない。
一気に高さを稼いで、背に生やした翼で空を滑空する。
使える資源は少ない。エンジンは使わない。
残った右手を主砲に。残弾は6発。
貧相な装備に笑いが漏れる。
笑ってくれる者はいない。
ひゅ、と息を吸う。
戦闘機群の遥か上から垂直に落ちる。
大きく展開した翼は、戦闘機を切り裂いた。
「脆いのね」
そう呟いたはなに、銃弾の雨が降り注ぐ。
上からの銃撃。
蛇行しながら弾を撃つ。
落ちていく機体に、惚けた顔の操縦士の姿が見えた。
ーーごめんね。
なんの慰めにもならない言葉を吐いて、次の機体を射抜く。
残弾は4発。
空を舞う。
酷使した翼は、本体に痛みを伝える。
「痛覚なんて始めのうちにとってくれればよかったのに」
痛みに顔をしかめても、翼を止めることはない。
また一機、両断する。
機体にへばりつき、至近距離で1発。
落ちていく機体を乗り捨て、次の機体に飛び移る。
油臭い煙が、鼻についた。
「お疲れ様です」
基地に戻ると、救援が来ていた。
技術者も数人いる。
「両腕がなくなっているとは思いませんでしたが、まぁ、スペアはあるので問題ないでしょう」
でもあんまり傷つけないで欲しいですね。
無くなった腕を付け替えながら、男が言う。
「……兵たちの様子は」
「生身の兵が3人亡くなりました。サイボーグの兵も1人間に合いませんでした」
「……」
「使える部品はもらって、あとはスクラップですね」
「……そう」
機密保持のため、サイボーグの兵の体はスクラップされる。
遺体が国に戻ることはない。
骨の一片さえも。
「どこからが悲劇の始まりなのかしらね」
私は最初の1人だった。
大国との戦争において、資源も不足し、劣勢に立たされる国で。
技術者たちの技術の粋を集めて完成したサイボーグ。
学習し増殖するチップを埋め込み、兵を育てる非人道的な実験だった。
増殖に耐えられるように機械の部分を増やし、人ではなくしていく。
1人で一騎当千の働きを望まれたそのサイボーグの、最初の成功体が、私だった。
たくさんの失敗、犠牲の上に生まれた私は、望み通りの働きをした。
そして、実験は加速する。より強く、より丈夫に。
チップに対する拒絶反応を起こさない身体。
機械に馴染む身体。
それらを満たす人間は100人に1人。
多いような少ないような成功確率は、国を躍起にさせた。
そして一握りの成功体と、多くの死体の山ができたのだ。
敗戦が濃厚だった戦局に差した一条の光。
それは、国から、人から、諦めを奪った。
私が、成功体でなければ。
私が、もっと使えないものであったなら。
実験は終わり、戦争も終わっていたのかもしれない。
望む結末ではなくても、今よりたくさんの人が、救われていたかもしれないのに。
英雄と称えられる私は。
近い将来大罪人として処罰されるのだろう。
ーー私は最初の1人だった。
そして、最後の一機となるだろう。ーー
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