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こんな俺でも生きていける!  作者: 高橋 紫苑
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戦争?

 その後、俺は深沢と途中で別れ、自宅に着いた。

「ただいま。」

 俺のその声は空しく響いた。この家には今俺しかいないから当然だ。

 実は俺の母親は数年前にある事件に巻きこまれて死亡している。詳しくはわからないが、殴り合いの喧嘩にたまたま出くわした母はそれを止めようとしたが、逆に殴られてしまい、その衝撃で倒れた時の頭の打ちどころが悪かったらしい。あっけなく母はこの世からいなくなった。そのときは突然のことすぎて悲しいという思いも湧いてこなかった。つまりは、理解ができなかったのだ。今まで家に帰れば当たり前のようにいた母がもういないという現実を。泣いたのは、葬式が終わった3日後だった。涙が自然と出てきて、枕に顔をうずめて思いっきり泣いた。

 今は俺の声に誰も反応しないこの状況に慣れた。父は仕事で夜遅くまで帰ってこないので気分は一人暮らしをしているようなものだ。母親が亡くなる前は、一人暮らしに憧れていたが、実際にそのような暮らしをしてみるとそんなにいい暮らしではないことに気づかされる。色々とあるが、特に、家に帰れば当たり前のようにご飯が用意されているということがどれだけありがたいことなのかをよーく思い知らされた。

 俺はすっかり慣れてきた料理をしながら明日からのことを考えていた。

 深沢の様子だと本気で明日から文芸部に入るつもりらしい。俺と一緒に帰るためにわざわざ入ってくれるのだからありがたいと言えばありがたいのだが…

「やっぱり問題は浅井と深沢が一緒にいることになることだな…。」

 あの二人が一緒に勉強会をしようものなら、本当に戦争が起きるだろう。どうにかして戦争が起きないようにはしたいが…

「そんな策がすぐに思い浮かぶならここまで憂鬱になってないよな…。」

 俺はそう呟いて、ため息をついた。


 次の日の放課後。今日もいつもの3人で勉強会をする予定だったので、部室には3人…ではなく、4人が集まっている。そして予想通り、深沢と浅井の間には火花が散っている気がする。しかし、意外だったのは、お互いに何も言わないことだ。いつもならどっちかが戦いを仕掛けにいくのだが、今日はその様子がない。俺は不思議に思ったが、戦争が起きないなら願ったり叶ったりだ。

「じゃあ早速始めるか。今日は何をする?」

「私から一つ提案があります。」

「提案ってなんだ、大竹?」

「今日は新しい部員が入ったことですし、お互いのことについて知る時間にしたいです。」

「なるほど!それはいいな!」

 俺は深沢と同じクラスなので深沢のことはそれなりに知っているが、浅井と大竹は俺たちの隣のクラスなので知らないことが多いだろう。

 やはり同じ部員同士、お互いのことを知っておく必要はあるだろう。もしかしたら浅井と深沢がいがみ合っているのもお互いのことを知らないことが一つの原因かもしれない。もしかしたら、これをきっかけに仲良く、とまではいかなくても、いがみ合うことがなくなる可能性も…!

「よし、じゃあ早速やっていこうか!」

 しかし、俺の期待は見事に裏切られた。

「『アイスクリーム事件』が好き?あれのどこがいいのか私には全く理解できない!あれは、ミステリー小説のはずなのに人間関係の描写に力を注ぎすぎてミステリーが浅い、ダメな小説じゃない!」

「何を言っているのかしら。そこがあの小説の面白いところじゃない。犯人の動機や心理といったものがあそこまで深く描写されているのは、私が人生で読んだなかであの小説だけだったわ!」

「確かにそうかもしれない!だけど、ミステリー小説なのにミステリーの部分が浅いのは本末転倒でしょ!」

「まあまあ、とりあえず二人とも落ち着こう…?」

「落ち着いてる!」

「落ち着いてるわ!」

「は、はい…」

 落ち着いてた様子は全くないが、これ以上口を挟むと戦争に巻き込まれそうなので黙ることにした。あの戦争に巻きこまれたら精神がボロボロになるのは確実だ。今日わかったことはあの2人はとことん気が合わないということだ。何の話をしても必ず言い争いが始まるのは逆にすごいことではないだろうか。

 最初の時の沈黙の時間は嵐の前の静けさだったのだろうか…

 その後も2人の戦争は勉強会が終わるまで続いたのだった。しかし、お互いのことを知るという最低条件はクリアできたのでまあ良しとしよう。


「浅井さん、思った以上に強かったわ。あれを潰すのは時間がかかりそう。」

「もはや潰すって普通に言ってるな…」

 というか、昨日は冗談って言ってたはずなんだけど…

「大丈夫よ。ちゃんと活動はするから。」

「それならいいんだけどな…」

「それよりも、明日はどうするの?勉強会はお休みでしょ?」

「どうするって…普通に帰るんじゃないのか?」

「もー!こういう時はデートとかに誘って!」

 そう言って深沢はふくれっ面をした。その姿が少し子供っぽくて、深沢にもそういう面があることを初めて知った。

「しょうがないから今回は私から誘うわ。私の家の近くの洋菓子店に新発売のお菓子が出たの。明日それを一緒に食べに行かない?」

「もちろん、一緒に行く!」

 こうして、俺たちの初デートの予定が決まった。


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