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時代錯誤の剣闘士  作者: フラクラ布教委員会書記
2/2

第一刃・変動

次からちゃんと話が動きます

皇歴2108年。それは発見された。

 

 当時、四大国家による第二次世界対戦の終戦直後で各国はみな疲弊し兵力も底をつきかけていた。度重なる戦争で世界人口も激減しており、もはや戦争どころの話ではない。そんなことは誰の目にも明らかだった。

 戦争をすれば人は死んでいくのだということを、国のトップを勤める業突張りたちは手遅れになってから気がついたようで、第二次世界対戦は開戦から終戦までなんと二十年もの間争いを続けていたのだ。その間に減少した人類の人口はなんと総人口の約2割にも及んだという。

 大陸の大半の面積を領土としてもつ四つの大国の戦争は、想像を絶するものだった。

 

 しかし気がつけばすぐに対策に乗り出すその身軽さだけは一流なのもまた政治家の特徴で、戦争が終わり比較的まだ余裕の残っていた(他国と比べてだが)イグニド皇国はこの戦争による人口減少対策を模索し始めた。

 はじめは机上の空論。所詮絵に描いた餅だと周辺国家からは失笑されていた。が、それも考えてみれば当然のこと。

 歴史を振り返って見てみてもわかることだが、人間など二人いれば争いを始めるものだし、戦争というのはもはや人類の性、習性ともいえるレベルにまで身に染みてしまっているのだ。それをやすやすとやめれるのなら誰も苦労はしなし。まして、戦争というのは儲かるのだ。勝てばの話ではあるが、確かにそこには大きな利益が生じる。戦争特需による経済的利益、敗戦国への賠償請求に領土割譲、政治への介入。そして何より飛躍的な技術の進歩。これだけのものが、わずか数年、下手をすれば一年未満で手にはいるのだ。例え八割の国が武力を放棄し平和を望んでも、残りの二割がそれらを食い荒らすことだろう。それをわかっているからこそ、各国は平和を望もうとも武力を放棄は出来ない。そして武力を持つがゆえに、結果最終的に武力を行使するのだ。

 

 当然、このイグニド皇国の研究も、失敗に終わるだろうと思われていた。そう、2108年までは。

 

 

 

 それを発見したのはイグニド皇国第三研究室・新規魔導兵装企画部に所属する平の研究員だった。発見は偶然だった。

 

 魔導を行使するために必要だったエーテル魔素と呼ばれる物質から、不純物を完全に取り除くとその現象はおこった。研究用のガラスケースをそれは何の抵抗もなく貫通したのだ。それもケースを破壊し穴を開けている訳ではない。まるで幽霊のようにガラスをすり抜けていたのだ。

 

 エーテル魔素という物質は、別名生命の素とも呼ばれていて、それはあらゆる生き物の体内に存在しているとされていた。

 そして、この物質にはとても特殊な特徴があり、それを用いることで魔導というものが生まれたのだ。

 

 その特徴は"変質"

 

 生物の脳波や精神に影響され特徴を著しく変化させるのだ。脳波の波形により発現する特性が異なり、人によって炎に変化したり水に変化したりと一貫性が全くない。長年研究されてはいるが、いったい何を基準に変化しているのかはいまだに一切解明されていない。

 

 人類はこの変質をサポートする道具を作ったのだ。精神とエーテル魔素をリンクさせ、変質を促進させる道具"魔導兵装"を産み出した。これらによって発現する現象を"魔導"、それを扱う人間を"魔導師"と呼ぶようになった。

 

 このときの実験では、そんな魔導師が作り出した氷の結晶が使われていた。実験内容は単純で、純粋なエーテル魔素を観測することにあった。

 そもそもエーテル魔素とは生き物の体内にあるとされているのだが、過去どんな文献をみても、解剖実験の結果にそれらしきものを発見できたという記録はない。あるはずなのに見つからない摩訶不思議な物質なのだ。いや、もはや物質なのかすら定かではないのだ。そんなものを使い魔導兵装を完成させることが出来たのは一重に、装備がなくとも魔導を行使することが出来た人間が過去にいたからだ。彼らとの研究の末産み出されたのが魔導兵装。その中は実はいまだにブラックボックスであった。

 

 研究員の彼はこの魔導で産み出された結晶から、不純物を取り除いていけば純粋な、変質する前のエーテル魔素を発見することが出来るのではないかと考えた。そして、その純粋なエーテル魔素が発見できれば、魔導兵装のさらなる発展に繋がるのではないかと。

 

 そして彼は発見することになる。この純エーテル魔素を。

 この時の実験で発見された純エーテル魔素は、重力に従い地面に向かって落ちていった。であるのにガラスなどの物質には一切影響されることなくすり抜けていくのだ。落ちるということは質量があり、物質ではあるはずなのだが、いかんせん特殊すぎた。

 このとき、あまりの出来事に混乱した研究員は、とっさに手を伸ばしてその純エーテル魔素を受け止めようとした。しかし彼にまっていたのは物質としての重さではなく、突き刺さるような鋭い激痛だった。純エーテル魔素が手のひらに接触した瞬間、まるで脳神経を焼き切られるような鋭い痛みが、神経系統を駆け抜けていった。

 あまりの唐突な激痛に、彼はその場で意識を失ってしまったのだという。目が覚めた時には、同僚に担ぎ込まれた医務室のベッドの上だった。同僚に訪ねると、同僚が見たときには研究室のどこにもそのような物質は存在しなかったという。おそらく地面を透過し落ちていってしまったのだろう。

 

 彼の話を聞いた他研究員たちや所長はこの純エーテル魔素についての研究に研究室全体で取り組むことを決定する。もし彼の発券した物質が純エーテル魔素であるのなら、まさに世紀の大発見だと、彼らは研究に尽力を尽くした。

 

 彼らの類い希な働きにより、純エーテル魔素の特性は次々と発見されていった。

 

 曰く、純エーテル魔素には個体差があるということ。

 

 個体差のある純エーテル魔素どうしが接触したとき、強い反発力を生むこと。

 

 この強い反発力こそが、研究員の彼が体験した激痛の正体だということ。

 

 純エーテル魔素は個体差のある純エーテル魔素以外のあらゆる物質を透過、貫通するということ。

 

 純エーテル魔素に生物が接触すると強い激痛を感じ、接触した部分に痺れが残る。複数回接触すると徐々に感覚がなくなっていくということ。

 

 しかしそれも一日たつと元通りになり後遺症もないということ。

 

 他にもさまざまな事柄が発見された。そして、それらの情報を元に画期的な、まるで新しい魔導兵装の開発へと乗り出した。

 そう、死なない兵器という全く矛盾した兵器を作り出したのだ。

 

 純エーテル魔素はあらゆる物質を透過する。それは人間の肉体も例外ではない。研究員の彼が純エーテル魔素と接触した時に痛みを感じたのは、純エーテル魔素に触れたからではなく、体内に存在する自信のもつエーテル魔素が反発反応をおこし神経系統を強く刺激したからだ。

 そこに気がついた研究員たちは、まずショック死を防ぐため、痛覚を制御するリミッターのような装置を開発する。これはある一定以上の痛覚による刺激を遮断するというものだった。こめかみの少し後ろ、耳の上辺りに二つの装置をつけることで、一定以上の刺激を遮断し、その際に装備者を気絶させるという機能があった。

 気絶という状態で勝敗を決することで、死なず殺さずの決闘を実現できるのではと考えたからだ。

 

 次に製作されたのは、当然武器だった。研究室は純エーテル魔素を利用した全く新しい武器の製作に取り組む。

 まず、肉体から純エーテル魔素のみを放出できるようにしなくてはいけないわけだが、これは思いの外簡単に作ることが出来た。もとあった魔導兵装の機能から精神とのリンクをなくすことで、存外簡単に実現した。

 次に放出された純エーテル魔素を安定させ、武器として利用するという構想を思い付いたのだった。純エーテル魔素を武器の形状にし展開することで、相手を殺さず気絶させることのできる武器を作ることに成功したのだ。異なる波形の魔素同士は反発するため、純エーテル魔素を利用した武器同士なら打ち合うことも出来た。

 

 この画期的な発明は、爆発的に世界に広まり、急速に浸透していくことになる。

 まず、これ以上の兵力の低下を恐れていた各国の軍部がこれを導入。四大国家による会合の末、この純エーテル魔素を用いた魔導兵装を使った戦争の競技化を目標にしていくことが決定する。

 各国の軍部から優秀な人間を選出し、剣技や魔導の分野で競い会う"代理決闘"の始まりだった。

 

 この魔導兵装たちはすぐに軍の養成学校などの教育機関にも配備され、時がたつにつれ戦争の記憶は薄れていき、弛緩した平和の空気が流れ始めた。新しく生まれてくる子供たちは戦争など教科書で学ぶ想像上の世界。次第に人々から闘争の気配は薄れていった。

 

 

 

 そして現在、皇歴2214。

 

 もはや対戦当時の人間はおらず、平和と安全が当然という世界がそこにあった。平均寿命はこの百年で十歳以上も上がったという。

 殺し殺されなど時代遅れ。今や街行く演劇団が演ずる時代劇の中でしか出てこないような、どこか遠くの話となっていた。

 

 そんな時代、身のうちに獣を住まわす一人の少年がいた。魔導兵装が一般化されているなか、武骨な金属武器を好み、生死をとした凌ぎの狭間で笑う男。

 

 名をシオン=ボーンダッグ。

 

 後に鬼神と呼ばれ、武に生きるものたちすべてから畏怖される伝説の男の物語が、今始まろうとしていた。

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