謎と戦争する日11
グルを攫った日の夜、オークの国ピリミリアから東に数kmの丘陵地帯に謎の生物とグルはいた。
グルは<謎の魔眼>の効果によって動けない。
そんな動けないグルを謎の生物は触手を鞭のように扱い、叩いている。
正確には<謎の人格>がやっているのだが。
グルはろくに回らない舌で喋る。
「こ、こんにゃ…こと…してみょ……われは…」
(何を言ってるんだこいつ?)
(恐らく、こんなことをしても無駄だ的な事を言いたいんだと思いますよ。しかし、本当に何を言ってるんだか。今はまだ肩慣らしならぬ触手慣らしの段階ですのに…ふふ)
(もうやるのか?)
(いえ。<謎の魔眼>の効果が切れてからにしましょう。朦朧としていては効果が薄れそうですし、それに楽しくありませんから。)
(あ、そうですか…。俺は寝ててもいいですか?)
(ええ、どうぞ。私がしっかりと拘束しておきます。もしかしたら豚の鳴き声がするかもしれませんが、お気になさらず…ふふ)
謎の生物は目を閉じると、疲れていたのかあっさりと眠りに落ちる。
次の日、謎の生物は奇妙な声を聞き、目をゆっくりと開ける。
視界に映ったのはオークの恍惚とした顔だった。
(うぉ! 寝起きにそんな顔見せんな、気持ち悪い)
(貴方がなかなか起きなかったので、先に始めてしまいました。すいません)
(いや、うん。まあいいんだけど、こいつ大丈夫なのか?)
(じっくりやろうと思ってたのですが、どうやらやり過ぎてしまったようです。ですが、気を失っているだけなので大丈夫です。)
謎の生物が心配するのも無理はない。
グルは恍惚とした顔で涎を垂らしながら、虚空を見つめたまま動かないからだ。
(それで、こいつはもうオークの街に送り返すのか?)
(そうですね。私は満足しましたから、もう要らないですよ。)
まるで飽きた玩具を捨てるように言い放つ<謎の人格>
(じゃあ面倒だけど行きますか。)
(飛ぶのも、触手で豚を縛るのも、全て私がやるんですけどね。)
(細かい事は気にしない。気にしない。)
そう言いながらグルを運ぶ謎の生物。
少しの時間をかけ、オークの街の上空に着いた謎の生物だが、オークが一匹も見当たらない事を不審に思う。
(どういう事だ? 何でオークが一匹もいないんだ?)
(逃げたのではないですか?)
(たかが一匹のオークが攫われただけで逃げると思うか?)
(この豚が指揮官だったのでは? ここから見ている限りでは罠などもなさそうですし、結局は行くしかないですよ。)
(まあそうなんだけど…)
謎の生物は不審に思いながらも、ゆっくりと降下していく。
城壁の内側にある庭に降り立つが、何も反応はない。
やはり逃げたのか、と思う謎の生物だが、その時、城の門がゆっくりと開かれる。
びくっと身体を震わせながらも身構える謎の生物。
門が開いて出てきたのは、顔に無数の皺を刻んだ老オークだった。
「お主は一体何者なんじゃ?」
老オークは口を開くやいなや、謎の生物に向かって言い放つ。
(謎生物です。)
律儀にも答える謎の生物だが、頭の中で答えるだけなので、当然相手には伝わらない。
「答えてもらえんか…。それならば仕方ないの。ところでグル将軍は生きておるのか?」
老オークは、謎の生物が触手で縛っているオークを指差しながら言う。
(こいつグルって名前だったのか。一応生きてはいるけど、これからはまともな生活を送るのは無理だろうな…)
謎の生物は触手を動かし、グルを解き放つ。
その瞬間、意識を取り戻すグル。
グルは幽鬼のように立ち上がり、謎の生物に縋り付くように手を伸ばし口を開く。
「わ、我の…我の血をもっと吸ってくれ!」
謎の生物は嫌なものを感じ、反射的に蹴り飛ばす。
吹っ飛んだグルは城の壁に埋もれる形でめり込む。
しかし、鍛えられたグルの身体はそんな事では活動をやめない。
さながらゾンビの様に、埋もれている壁から這いずり出てまた立ち上がる。
(…逃げるか。)
(我々はとてつもない者を生み出したのかもしれません。)
(我々じゃなく全部お前がやったんだけどな。)
(誰しも失敗はします。)
(まったく…)
溜め息を吐きながら飛び立ち、去っていく謎の生物を愛する者でも見るかの様に見つめるグル。
「無事…とは言い難いの。」
老オークの溜め息が漏れる。
ここでひとつ疑問が残る。
何故、老オークだけがまともな精神だったのか…それは老オークの死期が近く、それを受け入れていた為に恐怖という感情には支配されなかったからだ。
とにもかくにも、こうしてオークの国は崩壊していった。
当の謎の生物は、街を混乱に陥れただけだと思い込んでいるようだが。




