謎が苦悩する日1
冒険者と遭遇した翌日の朝、謎の生物は泣いていた。
別に今泣いた訳ではない昨日からずっと泣いているのだ。
心と体は傷つけられてボロボロになっており、満身創痍に見える。
謎の生物にとって、前世も含め過去最大の事件であり、未知の体験だった。
一体何があったのか?
時は冒険者と出会う少し前まで戻る。
謎の生物はマンモス?の遺体の横で血について考察していた。
(こいつの血は本当に美味かった。俺はどうしたらこの血と同等のレベルになれるんだ?
マンモスの血は極上の肉、濃厚なデザート、食後のミルク入りコーヒー、血ひとつで3つの味を楽しめた。……果物みたいに甘い物を食べまくってたらいいのか?……いや……だけど……じゃあ………。)
謎の生物の血に関する考察が止まらず、延々と考え続けるのかと思われた時、<謎の人格>が謎の生物に問いかけた。
(いつまでも馬鹿なことを考えていないで、森の方を見てください。お客様が来てますがどうしますか?)
そう言われ森の方を見る
(あれは……人間か!?)
(その様です。ここからでは距離があり過ぎて正確な人数は分かりませんが10人以上はいると思われます。どうしますか?)
(人間………ハッ!!
もしかして人間なら血を美味しくする方法を知ってるんじゃ!?)
ただの馬鹿である。
(そんな事はどうでもいいですから真面目に考えて下さい。これ以上調子にのったことを言うと……刺しますよ?)
(ピエッ)
謎の生物は頭の中で奇声を上げ、これ以上は不味いと思い真面目に人間達をどうするか考える。
(ん〜……ここからじゃあ相手の様子が全くわからんからどうするって言われてもな…。
そんな事を言いながら人間達をじっと見つめていると段々と人間達の姿がハッキリと見えてきた。
(んん?なんか急に視力が上がったんだが?)
(恐らく<謎の魔眼>の効果の1つではないですか?)
(なるほどな。魔眼って言うぐらいだから視力ぐらい上がっても不思議じゃないな。)
(スキルを作った者がスキルの効果を知らないなんて不様にも程がありますね。)
(そ、その事はもういいじゃん!知らなかったから仕方ないんだよ!)
謎の生物は話を変えようと人間達の様子を観察し話のネタはないか探す。
しかし、すぐに1人の人間に目が止まる。
(あの先頭でこっちを見てる女の人すっごい美人だな!真面目そうな顔してるし騎士的な人かな?)
(顔で判断するのはどうかと思いますよ。)
(まぁ別に騎士だろうが冒険者だろうがどっちでもいいんだけどね。重要なのは美人って言うとこだ!美人な女性と触手、これはやるしかないだろ!わはははー突撃だ〜!!)
(最低のゴミクズ野郎ですね。)
そうして謎の生物は危機感など全く持たず突撃していくと人間達は5人を残し森の中に走っていく。
(なんだ?……おいおいこれからが面白いのにどっか行くのか?<謎の人格>の華麗な触手プレイが始まるのに勿体無い…。)
(なぜ私がやらなければいけないんですか!?)
流石の<謎の人格>もこれには驚きを隠せない。
(だって俺より触手の使い方上手いじゃん!)
(分かりました。人間達の前で謎の生物を挽肉にすればいいんですね?)
(いや、違うよ!?目標はあの真面目そうな女性だから!)
(分かりました。あの女の前で謎の生物を辱めたらいいんですね?)
(だから違うって!)
そんな馬鹿な言い争いを頭の中で繰り広げながらも走り続け、謎の生物と人間達の距離は50m程まで縮まる。
だがその時……
「うおおおおおぉぉ!!!」
突然、人間の男が雄叫びを上げたことにより謎の生物は驚き立ち止まる。
(なんだこの野郎急に叫ぶなよ!吃驚するだろうが!むかついたからやり返してやる。)
謎の生物は尻尾を立て翼をゆっくりと広げる。
(自分でも吃驚するくらいだからな、これで驚かないやつはいないだろ!)
「があぁ!!」
(いくぜ!!)
その瞬間、翼と尻尾が数百の触手に変わる。
「「「「「ひっ」」」」」
双子と思われる少女達と1人の男が恐怖で腰が抜け座り込む。
(……やりすぎたかな?男はどうでもいいけど可愛らしい少女を泣かせるのは俺の趣味じゃないんだよな……。どうしよ?)
(私に言われても困ります。)
(心が痛む……。謝ろうにも喋れないし、近づいたら怖がられるだろうし……。)
そうして考えるもいい方法が浮かばない。
(……逃げるか。)
謎の生物は触手プレイの事など頭の中から消えて、かわりに罪悪感で一杯になりながら元来た方に歩き出す。
そしてここから地獄は始まる……




