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ダフォトスルート 契約の下

挿絵(By みてみん)


「ダフォトス様がいれば安心ですね。私は陛下を探しに行って参ります」


ディオは固まって行動するより、効率が良いからと単身で探しに出た。



「私たちも探しにいきましょう」

「……嫌だ」


ダフォトスは移動を渋っている。


「お兄様……?」

「そろそろ日が上るだろう」


――――ああ、眠いってことか。



「でも人間がくるわ、眠るのは移動してからにしましょう」


「……仕方ないか」

「なにを……?」


ダフォトスは私を抱えて、大きな翼を広げて飛んだ。


さすが純粋な魔族、私よりもずっと速い。


「……おやすみ」

ダフォトスは宿のベッドに入って三秒で眠った。


「はあ…もう……」

仕方ない。私は一人で探すことにしよう。



「フロライナ様?」

「あら、シャルドネ」


「こんな時間……いえ、貴女は魔族でしたね」


視点を一瞬。私からそらした。視線の先になにかあるのだろうか。



「貴方だってこんな時間に彷徨いているじゃない」

「―――そうですが」


シャルドネはとつぜん私の手をひいた。


「気をつけないと、簡単に悪い虫はついてしまいますよ」


「自分を虫なんて、いくらなんでも卑屈すぎよ」

手をふりはらって、宿に戻った。



朝になって、ダフォトスを起こしにいく。

どうせ朝は眠りの時間だ。

と言われるし、無駄だろうけれど。


「お兄様」

体をゆすろうと、左肩に手を伸ばす。

すると、右手をつかまれた。


「え!?」

「……フロライナ」

ダフォトスは横になりつつ、しっかり目を開いている。


「な…起きている……ですって……?」

「昨夜はどこに行っていたんだい?」


「……え」

なぜ、それを、寝ていた筈なのに知っているの。


「逢い引きだろう」

ダフォトスは、清々しいほどの笑顔だ。

間違いなく怒っている。

こんな顔、今までされたことがない。

笑顔すらここ数年で初めて見た。


「違うわ」


ダフォトスは恋人がいないからそんな邪推や苛立ちがあるのだ。

眠るのを止めて活動時間を三時間以上にすれば、恋人くらい簡単にできるはず。



「そうか、おやすみ」


ダフォトスは寝てしまった。


朝から昼は人間が彷徨いていて、捜索できない。

夜までどうやって時間を潰そう。


時間を潰すと言ってもただの宿屋に娯楽などない。

念のために食べ溜めでもしようかしら。

もしも敵に見つかった場合、食事をする間もない筈。

カロリィを採れるときにとっておこう。



「……もう食べられないわ」


ハムスタァのように頬袋でもあればよかったのだが、いつも食事するのと同じ分量以上は食べられないようだ。


本来の魔族は生きるのに食事をする必要がなく、たんなる嗜好。

ただ私の場合は混血のため生きるのに必須。


彼らのような角がないが、羽はあるため飛べるのは便利だ。

こうして並べると私は魔族とも人間とも違い、難儀な生物だと思う。


おそらく魔王レヴォル・クラウリオン・クラウンはそれに目をつけて私を拾った。


だからいま私がこうして生きているし、ダフォトスやディオとも会って、家族になり、今は彼を探している。



そういえばダフォトスは性格の印象からして、人間が好きではないようにみえる。

だが、私を見ても初めから好意的だったので、いま改めて考えてみると意外だ。



食事を終えると宿屋の中年夫婦がなれそめやら世間話をし始めた。

精神的につかれたが、時間がつぶれたので、ダフォトスを起こすことにする。



「お兄様、夜よ起きて」

「断固拒否する」


仕方ない、驚かせて起こそう。


「お・に・い・さ・ま~すきよ。ハート」

「……」

さすがにバレバレである。


「……起きてくれないと私、お兄様を置いていっちゃうわー」

「……」


それがどうしたといわんばかりの無反応。

置いていっても彼は着いてくるだろう。


「はやく起きないとお兄様の一番大事な場所にイタズラ書きするわ」

「さあ探しにいくぞ」


ダフォトスはやっと起きた。マジックペェンをしまおう。


「よかった。お兄様から顔をとったらただの三百年ネタロウだもの」

「……」



「まったく、兄上はどこに行ったんだ」


探すといっても、ただそこらを歩いているだけではダメだ。


ディオがいればクラリオンの居そうな場所もわかるはず。

だけど彼は一人で捜索に行ってしまったし、困ったわ。


「お兄様、何かお父様が行きそうな場所に心当たりはない?」

「……ないね。」


ダフォトスは睡眠したい病を抜きにしても探す気がないようだ。

以前から気になっていたが、兄弟仲はあまりよくないのだろうか。


10年ほど魔城で暮らし、ダフォトスのことも知っているつもりでいる。

しかしダフォトスはあまり起きてこないので、印象が薄い。

よって、私は兄弟仲など知らぬのである。


二人は私より長生きだし、出会ったときにはもうこの姿で、彼らの幼少時代など想像もつかないくらいだ。



「お兄様はお父様を探すのが嫌なの?」

「いや別に、ただ寝たいだけだ」

なんだか歯切れが悪い。


「お兄様が居眠りせずに頑張って協力してくれれば早く眠れるわ」

「……」


更に嫌そうな雰囲気になった。


「まさかとは思うけど、お兄様はお父様が嫌い?」

「なぜ?兄上が嫌いならとっくに殺してるところだろう」


あら、違うみたい。じゃあ何が原因なのかしら。


「違うならいいの」

「……お前はそんなに兄上が好き?」


「ええ、好きよ」

嫌いなわけがない。


「……」

「どうしてそんなことを?」

やはりダフォトスの様子がいつもよりおかしい。本当にどうしてしまったのだろう。


「昨日の男は?」


もしかしなくとも、シャルドネのことか。


「興味ないわ」

「……そうか、ならよかった」


まったく、どうして私が――――


「あ、もしかしてお兄様ってそういう趣味だったの?」

「違う!」


「半分冗談よ」

「……なぜ目をそらすんだい?」


「だって私がシャルドネと話していたことと、お父様のこと聞いていたら勘違いしてしまうわ

……それにお兄様は女達からも人気があるのに浮き名もないから、てっきり。」


魔族は命が長いため、婚姻などしなくてもいいだろうが、浮き名上等のはずの魔族の彼が夜遊びの一つもしていないなど、心配だ。


「……そういう心配はむしろ魔王のくせに独り身の兄上にしてくれ」

「そ……それもそうね!」


なぜかクラリオンには女が寄り付かないのだ。


魔王に釣り合う女がいないのだからしかたない。としても、なんだかいたたまれなくなってきた。



「お前はどうなんだい?

半分魔族とはいえ、魔族よりも寿命が少ないし……」


ダフォトスは私が死んだ先ことを考えているようだ。


「心配しなくても、私はお父様が結婚したら城を出るつもりよ」


出ていって私は独り、小さな小屋に住み、白い子犬を飼って、土へかえるつもりだ。

葬式の迷惑を彼等にかけるつもりはない。


そもそも半魔の私は土へ返れるのだろうか?

まだ先は長いにしても、今から心配になってきた。


「どうしてそんなことを……あの兄上が出ていけなんて、言うわけないだろう。

出ていく必要なんてないだろう?」

「でも……きっと私に気を使ってお父様が独りなのかもしれないわ」


「……あの兄上が気遣いなんてするわけがないだろう?」

「そうね。言っていて違和感しかなかったわ」


気遣いなんてするくらいなら、そもそも乗り気でないパーティーに強制参加などさせられていない筈である。



「……僕のことは好きかな?」

「……?もちろん」


「兄上より?」

「ごめんなさいお兄様。それはないわ」


「………」

「お兄様……!?」

急にお兄様が倒れかかってきたので心臓がどくりとする。



また眠っているようだ。


「こんなところを誰かに見ら……」


まあここは森だし、誰も見ていないからそれはいいか。


こうして近くで顔を見ると、睫毛が長いわね。


外に向かって細く鋭く生えた角は触れたらたそうだ。


眠っている相手をジロジロ観察なんて、私まるで変態のようだわ。

――逆スリープ姫と考えればまだ救いがある?


ひとまずこれじゃ敵が攻めて来たときに危険だ。


あたりを見渡すと洞窟がある。


私はそこへダフォトスを運んだ。


「ああよく寝た……」

「……お兄様、いつも寝ているのに寝過ぎ……」


なんということだろう。「お兄様、いったいどうしたの?どうして目が生きているの?」


いつもダフォトスの顔は整ってはいるが、目はいつも生気がなく死んでいた。


「お前はなにを言っているんだ?」


魔王のクラウリオンより魔らしく。

なのに今は死んでいないどころか、むしろ生きている。そんな感じだ。


「なんだか生き生きしているような……」

「まあ、まともに寝たのは10数年ぶりだからだろう」


「……不眠症?」


ダフォトスがいつも眠っているのは眠れないからだったのか。

―――なんでいままで黙っていたのだろう。


「お兄様、さっそく探しにいきましょう」

「ああ、なんてすこぶる快調だ……今なら探査機にいけそうな気がする」


私たちは洞窟を出る。ダフォトスが羽を広げ飛空したので追いかけた。


下はあたり一面、飽き飽きするほどに深緑、目に優しい。


「いないわね……」

「あそこに変なのがいる」


ダフォトスがローブを着た者を指差す。


もしかして―――――


「前と後ろで挟んでやろう」

「ええ」


一人だし直接確認しても問題はないだろう。


「おい」

「そのローブをとって顔を見せてもらえる?」


「はい?」


ローブをとったのは男、しかし人間だ。


「なんだ……」

「ちょうどよかった。旅の魔族の方、私は薬師です。よかったら何か買っていかれませんか?」


人間が魔族相手に商売なんて珍しい。


「魔族を恐れないか、その無謀な勇気に免じて、見てやろう」

「たとえばこれは、嫌いな相手が常にバアナナの皮に滑る感覚でこける薬、こちらがハゲる薬、これは……」


「まともな薬はないのか」

「私は隣国で魔族専門に商売してましたから。」


「隣国の魔族といえば、ダークサタンスか」

「はい。それでまともな薬といえば…」


薬師はおもむろにピンクのビンを取り出した。


「なんだそのいかがわしい桃色のビンは」

「これを飲むと目の前にいる相手を好きになるんです」


「最初から好きだから必要ないわ」

「ああ、そうだな」


「これはこれは……野暮でしたね。それではまたどこかで……」


そういって不思議な薬師は去った。


私たちはふたたび空からの捜索を続けた。



「なにかしら?」


とつぜん妙な気配が辺りに浮かぶ。私とダフォトスは警戒し、辺りを見渡す。


姿無きそれは、見えないのに強い存在が感じられた。

すぐに気配の消えた場所へいくと、その場には紙が落ちていた。


「やぶれているが、手紙の下半分のようなものか……

“クラウリオン”“ヴィルサーチ”ここに契約を交わす―――?」


「契約?」

ヴィルサーチが誰かはわからないが、クラウリオンは何らかの誓約をしたのだろう。


なぜ大切なそれがこんな場所に落ちていたのかはわからない。だけど彼への手がかりが見つかった。

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