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ディオルート 契約の上

挿絵(By みてみん)



ああそうだ、聞きそびれていたことがある。

ディオは昨夜、お父様の近くに控えていた筈。

何か知らないのかしら。


「ねえ、あの晩のこと話してくれる?」

「私は貴女と話をしてから陛下の元へ移動したのですが、また下がれと命じられました」


つまりは、煙たがられてしまったと。

であれば、敵からクラリオンを庇えずとも無理もないだろう。


「陛下の事が気にかかりますか?」

「どうしてそんなに落ち着いていられるのよ」


「忠臣は表情を悟られぬものですよ」

「……有能だわ」


きっと内心では怒りを通り越した感情が渦巻いているだろう。

それを表に出さないなど中々出来ることじゃない。


「……これからどうするの」

私は今すぐにでも捜し回りたい。

だが人間の兵達が近くを彷徨いている。


下手に身動きはとれない。




「ごほん」


ダフォトスは咳払いで存在を表した。

さっきまでディオのことばかり考えていたからか。


「さて、邪魔者は寝るとするか……」


目立ちたいのかと、思いきや自ら空気と化しにいくようだ。


「邪魔者だなんて、ねえディオ」

「そうですね」


この返答はどういう意味だろう。

もしや、会話を聞いていなかったのだろうか。

こいつ、たぶんクラリオンのことしか考えていない。

そんなこともあり得る。


「夜は眠りの時間だ。二人もはやく寝るといい」

「ちょっと待って、お父様を探さないと……」


もうじき人間が攻めてくるのに眠ろうなんてありえない。

吸血鬼族ではないダフォトスの場合、朝から昼に眠るのはただの怠慢だ。



「それにまだ夜じゃないわ」

「あと数時間で朝になるだろう。なあディオ」


ダフォトスの活動時間はたった三時間である。

三時間も動けるととらえるか、たったの三時間と考えるか……。


「私に同意を求めないでいただけますか」


ディオは主のクラリオン以外には塩対応だ。


「とにかく無人宿を探しましょう」

主にダフォトスに睡眠をとらせるため。


「ええはい、そのまま投棄して魔王様を探しに行きますか」


ディオは悪意なく、さらりと言った。

ダフォトスは寝ぼけ眼で彼の発言は聞いていない。


まあ―――それが私たち、ダフォトスのためかもしれない。



「いい考えだと思うわ」

三百年ネタロウのダフォトスがいてもいなくても、ディオと私がいれば捜索はできる。


「よし、宿にお兄様を設置したわ」

「そして神殿の扉が……」

「何か言ったディオ?」

「いえ、なにも」



「それで、お父様が身を潜めている場所に心当たりはない?」

「無難な洞窟でしょうか」


洞窟……この辺りにそんなものがあるのか、城の外をほとんど出掛けない私にはわからない。



「……」

なんだかお腹が空いた。


私はパーティーの食事にまったく手をつけていない。


でも食事をしている暇はない。

はやくクラリオンを探さなければ。


「……食事でもしませんか?」

「え?」


ディオが宿に戻るようなので、私も入った。


私はパンを二切れほど食べる。

ディオは飲み物を飲むだけで、食事はしないようだ。


おそらくパーティーでワインや軽食をとったのだろう。

もしかしたら、私に気を使ってくれたのかもしれない。



彼はクラリオン以外には冷たいと思っていたのに、案外まわりを見ているようだ。


「こんなところに洞窟があったなんて……」


食事を終えて一時間ほど経過してから、ディオに案内され、洞窟の中を探索している。


「なんとも、獣の類いが襲ってきそうな雰囲気がありますね」


「お父様はいるかしら」


ごつごつと歩きにくい地を、転ばないように気を付けながら歩く。



奥地まで進むが、ただ形の悪い洞窟の内部。というだけで、何もない。



「ここにはいないんじゃないかしら」

「そのようですね。念のため奥まで簡単に確認して行きましょう」


こくりと(うなず)き、ひたすら先へと進む。



「え?」

とん、なにやら後ろから肩を叩かれた。


ここにはディオしかいないが、彼は私の前を歩いている。


あたりを見渡しても、ディオ以外に誰もいない。


「不思議ね……ディオ?」


ディオが変な生き物の触手につかまっていた。


「……ちょっと! ディオを放しなさい! そういうのは可憐な乙女にやるものよ!?」

「逆ですよね」


[わたしお婿さん探してたんです~]

「あなたメスなの!? …というか、ディオを返してもらわないと困るわ!」


[彼はあなたの恋人~?]


「違うわ。私達はいま、とある男を探しているの。

一人じゃ色々不便だから、今は困るのよ」


[ふーんじゃあその男が見つかれば彼はもらっていいのね?]


「それについては、ディオの意見を尊重するわ」


「……そこで私にふる、と。」

―――――――――――



「ふう……なんとか逃げられましたね」

「触手とはいえ騙すのは気がひけたわ」


「私といてもあの触手は幸せにはなれませんよ」

「……そうね」


彼は魔王の側近、一番大事なのは主だろう。

触子に限らず好きな相手の一番大切な相手は、自分がいいと思うはず。


私達はあれからしばらく探して、夕暮れには宿へ戻っていた。


普通の人間は出歩かないであろう時間帯を狙って、捜索してみた。


怪我をしているなら血痕が見つかるだろうし、落ちている彼の毛髪は一本もない。

まったく手掛かりはなく、困っていた。


「今宵は満月ですね」

ディオが窓を開け、夜空を眺めた。


私も椅子から立ち、窓のほうへいき、月を見る。


―――そういえば、私が魔城に来た日も、満月だった。


――――――――――



あるとき森を一人でさ迷っていた私を男が見つけた。


魔王レヴォル・クラウリオン=クラウン。


私が混血で、両親は亡くした。と答えると、彼は私を娘にすると言われる。

わけもわからないまま連れていかれた。



魔城へつくと、黒髪の男を筆頭に魔族たちが出迎える。

家来の中で一番偉い黒髪の男、それがディオだった。


『陛下、その少女は?』

ディオは私を見て、何者なのかを魔王にたずねる。


『拾った。俺の娘にする。後はお前に任せた』

彼はさらりと答え、去った。


『了解いたしました』

すべてが急なのに、大して驚いた様子はみられず。


魔族の女中が私の身の回りを整え終わると、ディオが料理を運んできた。


『これはなに?』

『食物です』


当時食事をしたことがなかった私は、はじめて食物を見て驚いた。


『毒なんて入っていませんから、どうぞ食べてください』


食器の使い方がわからなかった私は、パンを手にとり口に持っていった。


『おいしい』


魔族は食物から栄養をとる必要がなく食事をしなくていいが、半分魔族の私は数年しなくても生きていたが、食べ物を一度口にしてからは、空腹というものを感じるようになる。

半分人間の私は食事をとる必要があると、このとき知った。


『今夜は綺麗な満月ですね』


私が退屈そうにしていたのを気遣ったのか、ディオは窓を開け、それを見せた。


『まんげつ?』


彼は言葉を知らなかった私に、一つ一つ説明していった。


思い起こすとディオは魔王だけでなく、私のことも見ていてくれた。


「……ありがとう」

「どうなさったんですか?」


私が感謝の言葉をいったのはよほど驚くことなのだろうか?

ディオは珍しく怪訝そうに表情を変えている。


「どうもしないわ。思い出しただけよ」


「ディオ、お父様を見つけたらその後どうなるの?」


まだ彼は見つけていないが、先のことが気になった。

答えは聞かなくてもなんとなく頭に浮かんでいるが、他者の意見がほしかった。

おそらく沢山の軍勢が、城内を占拠しているだろう。


であれば人間を倒すか、拠点をうつるかする他にないが。きっと穏健派の彼は後者を選択するに違いない。


「そうですね……きっと新しい場で、静かに暮らすことになる。と思われますが」


わかっていたけど、あの思い出深い美しい城をはなれるのは惜しい。



「そしてゆくゆくは貴女も由緒ある魔族へ嫁ぎになるでしょう」

ディオが何気なく言ったであろう言ノ葉に、あんぐり。

私はとてつもなく大きく口を開き、己の耳をこれでもかといわんばかりに疑った。


「冗談はよして、私は嫁がないわ」

ため息まじりにいった。


「そうですか、ですが陛下は……」

ディオが何かをいいかけやめた。


「……?お父様が嫁いでほしいとでも言っていたの?」

もしそうなのだとしたら、従うつもりはある。

まあ、魔王に政略なんて必要なさそうだが。


「いいえ、人間の世界での一般論を語っただけです」

煮えきらない。彼はなにが言いたいのだろう。

いま、魔族の側である私に、人間の概念を持ち出すなんて。


「貴女はただの人間よりわずかに長く生きるとしても、我々魔族と比較すると、貴女の命はいかに混血といえど長くないですから」

「だから、なに?はっきり言ってくれないと、私には貴方の考えてることがわからないわ」


「以前人間の街へ出てから気になっていたのです。誰も愛さないままに、その短い人生を終えて貴女は寂しくはないのだろうかと……」


私はディオに答えられない。こればかりは寂しいか、寂しくないかで決められない。

人間も魔族もやはり好きになれないから、婚姻など考えられないのだ。


「ところで以前、なにがあったって?」

「はい、人間の街へ出るのは希にありましたが、頻繁に出入りするようになったのは、貴女に食事を提供するようになってからですね」

「そう」


「以前、やや10年前に人間の街へ買い物へ出たときのことですが……」


ディオは思い出すように語り始めた。

魔族にとっては10年は以前なのだろう。


「若い恋人達や老夫婦を観て、不思議と云わざるを得ないものを感じました。」

「それだけ?」「はい。ですから、貴女はどうなのか、お聞ききしたかったというわけです」


言いたいことはなんとなくわかるが、もっと深いエピソードやオチはないのか。


「……魔族や人間は嫌。だけどそれ以外ならいいかもね」

「そうですか……」


「ディオは私が嫁いだら嬉しい?」

「……そうですね。それで貴女が幸せにおなりになれるなら」

―――



ふたたび探しに出た私は少しの間ディオと別行動になる。

この安全とは言いがたいが、やはりそのほうが効率がいい。


カサリ”小さく葉の揺れた音と、あまり感じたことのない神に連なる者の気配。


それが消えるまで、じっと自らの存在を悟られないように息をひそめる。


すぐに何かはいなくなり、私はこわいもの見たさでその場へ行く。


「ん……?」


一枚の紙が落ちていた。それを拾って中を開いてみると、文字が書かれていた。


手紙かと思ったが、宛名はなく、中を読んでみても、意味がわからない。


魔法の呪文かなにかのように、まるで文献から抜き出したように堅い文だった。


目についた単語を頭に浮かべる。


‘契約’‘花嫁’‘呪い’


これを落としたのは先程の気配を持つ誰か、いったいこんな大事なものを落としてどうするのだろう。


タイミングの悪いこと、ポツリ”と小さな雨がふってきた。

紙だし、ここにそのままおいておくのも忍びない。


紙の落とし主を探そうか―――――?


いや、やめよう。


しばらくして、私はディオと合流した。

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