全員共通 分かれ道
―――私は人と魔族の混血に生まれた。
両親は私が小さな頃に魔族、人族に殺された。
人も魔族も互いを憎み殺しあう。
だから私は人も魔族も嫌い。
そしてなにより二つの種族が合わさった自分自身が嫌い。
―――――――――――
「お父様ったら、またパーティーなの?」
闇に潜みし稲妻鳴り響く、蝙蝠飛び交う暗黒の魔城。
漆黒のゴシッティックロリィタァのドレスに身を包み、曼珠沙華のごとし朱緋紅赤<スカーレッディオン>の髪をした少女が問う。
「ああそうだ」
一言、答える男の闇を照らせし白銀の髪は、夜のとばりが嫉妬するようなほどに輝き流れた。
「なんで、もう一週間よお父様は魔族だから丈夫だろうけど私は混血なのよ わらわ躍り疲れたわ」
「ファッション妾は流行らないぞ。早く着替えろフロライナ」
――――――――――――
「着替えたわ」
「女の支度は長いな。これだからパーティーは嫌なんだ……」
彼は私の義父‘クラリオン’
魔族の長である魔王だ。
両親を亡くしてさ迷っていた私を見つけてくれた。
魔族は嫌い人間も嫌いだけど、彼は恩があるから別だ。
「ならパーティーを開かなければいいじゃないのよお父様」
ほんと、なんでここ最近はパーティーばかり。
つまらない魔族しかあつまらないのに。
だいたい魔族のくせに、まるで人間みたいにパーティーを開くなんて、どうなってるのよ。
「またパーティーか」
「お兄様、おそよう」
彼はクラリオンの弟ダフォトス。
叔父様と呼ばれるのは嫌、というわけでそう呼んでいる。
「……魔族は夜に起きて朝に寝るものだよ。変な挨拶はやめたまえ」
「太陽あびると死ぬ?」
「ははは……それは吸血鬼じゃないか。
ただでさえ奴等と一緒にされて不服だというのに……」
「なら早く起きろ。日光も浴びろ」
「ああ嫌だ……兄上は魔族のくせに暑苦しい」
二人が争っている間に、私は庭へ出る。
植物を観るでも、噴水を観るでもなく、一人で静かな時間を過ごしたい。
「フロライナ様」
どうやら先約がいたらしい。
‘ルヴィストス’だ。人間の城の大臣の息子だが、外交のため唯一城への出入りを許可されている。
ただ、人間は嫌いだ。無視に限る。
「ご返答は要りません。話だけ耳に入れさせてください」
まあ聞くだけ聞いてやる。
こいつは静かだし。城に行っても賑やか。
せっかく静かになったのだから、ここで佇もう。
「パーティーでは絶対に誰かについて行かないでください」
「……は?」
さすがに気になって、聞き返す。
だがルヴィストスは答えず庭を去っていった。
しかたがない。今夜もパーティーだ。
―――――――――――
「めんどうだわ」
やはりこんなの毎晩開く必要ない。
「フロライナ様、よかったら僕と躍りませんか?」
「……?」
こいつは羽が灰色。おそらくは堕天使族だ。
堕天使と魔族はケースバイケースだが、歓迎される。
だいたい魔族と仲の悪い天使は人間とも仲はよくない。
人間が一方的に魔族を嫌い、天使を好むだけだ。
「まあいいけど、躍るわ」
堕天使は魔族でも人間でもないから嫌いではなく、無下にする理由もない。
「僕はシャルドネ、お気づきとは思いますが堕天使です」
「そう」
踊るといいつつ、面倒だからダンスは相手に任せた。
曲が終わって、私はシャルドネのそばを離れ、隅に逃げた。
「お疲れようですね」
「ディオ……そうね、確かに疲れたわ。
それよりお父様のところにいかないの?」
クラリオンの側近だ。右目に黒蝶の眼帯をしている。
いつもは影に隠れてクラリオンを護っているようだ。
「私は常に影から陛下の身辺警護をフロライナ様を見てこいと」
あからさまに不服そうな顔をされた。
「なら行っていいわ」
ディオが去った。これでようやく落ち着ける。
「その赤い髪、貴様がフロライナだな」
首筋にナイフ状の暗器が突きつけられているようだ。
いつのまに背後をとられたのだろう。
今の今まで気配も殺気もなく、まったく気がつかなかった。
「……声を出すな。魔王の命が惜しくばただ俺について来い」
魔王が一介の暗殺者ごときに殺せるわけがないのに、馬鹿な人間。
そして人間相手に混血の負けた私はもっと馬鹿。
『ついて行かないでください』
ルヴィストスの言葉の意味、今になって気がついた。
なんで彼がそんなことを予見したか、なんて今は考えなくていい。
大事なのはこの暗殺者をどうするかだ。
そうこうしていると、城内から悲鳴がきこえた。
「終わったようだな」
「なにが……」
「魔王は今、死んだんだ」
「嘘よ!! お父様……魔王クラリオンが死ぬわけない!!」
「なら確かめてこい」
首から刃物が去って、私は城内へ向かった。
中は荒れ、魔族は逃げおおせ、裳抜けの空となっていた。
探してもどこにもクラリオンの姿はなかった。
「フォッフォ……お困りのようですな」
「誰よあんた」
人間というより脂肪の固まりだ。
「大臣ヴサです」
「……人間が何の用?」
こいつ、ルヴィストスの父親には見えない。
「魔王が亡くなった今、城を守る物が誰もおりませんな」
「……そうだけど?」
「それを知られれば、魔族が人間に根絶やしにされるのも目に見えますぞ」
「……そうね」
クラリオンが居ないなら魔族など滅んでも別に構わないけど。
「実はこれを仕組んだのは王様なんですぞ」
「……人間の王が?」
こいつはなぜそれを私に話すのかしら。
「実は魔王が生きてます……」
つまり死体がなかったのは、生きているからということか。
「ここだけの話、私は魔王と協力し陛下を陥落させようとしているんですぞ」
「なら私に協力しろと?」
「いえいえ、ただお話したかっただけですぞ」
「私に用でもあるの?」
「いやはや……息子と婚姻していただきたく……」
「ルヴィストスと?」
「間もなく城には王のつれた兵士がまいりますぞ」
「……つまり私がルヴィストスと婚姻すれば生きられると?」
「そうでございます」
人間に城を明け渡し、人間の世界で生きるか。
交渉を拒否し、魔族としてもがくか。
―――――私は選択を迫られた。
どちらを選んでも、私は魔王クラリオンを救い、城を奪還してみせる。