DPインフレ
DPインフレ
朝の食事中にジャニとフェブは、今後の方針を確認し合った後さっそく行動に移る。
優先順位として6個あげたが、別に一つずつ順番に片付ける必要は無い。
同時に出来る物は平行して行うし、優先順位が低くても短時間で終わるならそちらを先に済ませる場合もある。
まず最初に行うのは町や街道などの確認である。
有無が分かればいいのでジャニ自身が行う必要は無い。魔物たちを呼んで確認して貰えば済む事なので先に始めてしまう。
洞穴の外へ出ると、長距離飛行に適した魔物を16体【召喚】する。
「キミはこっちの方へで真っ直ぐ飛んで町とか道を探して欲しいんだ」
(ガァ)
「キミはあっちの方だね。同じく真っ直ぐ飛んで町や道を見つけて欲しい」
(ガァ)
「きみは・・・」
(ガァ)
全ての魔物に指示を与え終わると一斉に飛び立つ。
飛び立った方向を合わせると洞穴を中心とした円状であるのが分かる。こうやって全方位を調べるのだ。
「(こっちは直ぐにでも何らかの連絡が来るだろうけど・・。こっちは問題かな)」
昨日から周囲を警戒させているネストスパイダーから何の音沙汰も無いのだ。
これは獲物となるモノもいなければ、害するような敵もいない事を意味する。
正直由々しき事態だ。
本当に居ないのであれば、偵察や警戒の魔物の選択が難しくなる。
逆に何かの理由、ボス的な存在やそのための討伐隊が出された後なら非常に不味い。
「(まだ一日目だしもう少し様子を見るか、それとも・・・)」
少しの間目を瞑り考えると、フェブの元へと戻る。
「ただいま」
『おかえりなさーい、ご飯にする?』
「いやいや、食事はさっき済ませたでしょ・・」
出掛けるたびに食事させられるとしたら、えらい事になってしまう。
魔物たちからの一日目の情報から、これからの行動の話をする。
「しばらくは外回りをする事にするよ」
『どうしてかしら? 内勤から外勤に部署移動かしら?』
そう言う冗談はおいといて、と現在の外の様子から、抱いている危機感を伝える。
『侵入者がいないのね。気にし過ぎだと思うけど?』
「あぁ、確かに気の回し過ぎだと思う・・けどな」
まだ一日目なのに、そこまで神経を尖らせる事は無いとはお互いに感じる。
『蜘蛛ちゃんたちじゃダメなの?』
「指示をしたとしても、こちらが知りたい細かい情報は無理だ。
例えば野宿の跡や争った形跡は一つの風景として判断するだろう。
排泄物を追える魔物こそ、此処で使えるかを調査している段階だしな・・」
『あくまでも単純な命令って事なのね。
バンバン魔物ちゃんを使って、見つかっちゃって大騒ぎじゃ元も子もないもんね』
知能の低い魔物たちは、単純な閉じられた質問でしか命令は難しい。
それこそコミュニケーションを理解出来る魔物は、上位種で大騒ぎになってしまう。
「その点俺一人か、俺と魔物なら何とかなる・・と思いたい」
『言い切って貰わないと、心配になるわ』
ふぅー、と溜息が聞こえてくる。自分やダンジョンのために気を使っているのが分かるからだろう。
『何時から? どのくらいの期間?』
「んー、まだこの辺りから離れない様にしたいから、朝飯喰って、弁当持って、晩飯までに帰るってパターンだな」
ほぼネストスパイダーの警戒領域内を見て周る位の範囲となる。
『まぁ、お弁当が要るのね。腕によりをかけるわ』
「いやいや、弁当は宝箱からだから」
『えっ!? だからワタシでしょ?』
何を言っているのかしらこの子は、とのセリフを聞き流し予定を伝えてしまう。
「今日の所は、この洞穴周辺をグルっと見て周る。明日から始める」
弁当になりそうな物が出るまで食料の宝箱を開け、装備などの準備を整える。
「よし。ちょっと行ってくる」
『いってらっしゃーい、夕食の準備しておくわね』
・・もういいって、宝箱出すだけじゃん。
洞穴の外で、狩人のパートナーとなってる動物に似た犬系の魔物を二体【召喚】。
周囲を状況をつぶさに確認しながら調査に出掛ける。
洞穴の周辺に一日、北から始めて時計回りに八方向で計九日調査を行う。
魔物たちからの連絡や実際見てきた状況を頭の中で整理する。
最終的な調査報告をするためにフェブの部屋へ戻ってくる。
コアの部屋ではフェブが、かなりご立腹でジャニを待ち構えていた。
『ねぇジャニちゃん。ちょっといいかしら?』
「ちゃん? なんだ? これから晩飯喰いながら最終報告をと思ってた所なんだが?」
『報告と晩御飯は、ちょっと後にしてくれるかしら?』
「? どうした?」
『あなた知ってて騙したでしょう? 分かってて言わなかったんでしょう?』
底冷えするような気迫に、ちょっとビビりが入る。
「ど、どうした?」
『しらばっくれてもダメなんだからね!』
ジャニが誤魔化しているようにしか見えず、ブチ切れ叫び声をあげる。
頭に直接の会話だから、耳栓が全く役に立たない。が、アピールで耳栓をする。
「だから何の事だ!?」
『DPの事よ。生活費の事よ』
「あぁ。・・えっーと、何の事かな?」
何を言わんとしているのか理解し頷いてしまうが、首を傾げて知らないフリをする。
『今、・・あぁ、って言ったわよね? あなたの召喚士としての高い能力を使えば、こういう結果になるのは知っていたわよね。
ワタシだって知っていれば、あんな生活費絶対に認めるはず無いもの』
「今更そんなこと言われても・・」
心外だと言わんばかりに、肩を竦め首を横に振る。
『こんな事が出来るって、黙ってたわよね?』
「さぁ? まぁ、ヒントは出してあったし、正直ここまで上手く行くとは・・。
そもそも俺の事を何も聞かなかった事にも責任があるだろう?」
『グッ!? そ、それはそうだけど・・』
「じゃあ諦めて下さい」
此処まで言ってしまえば、間違いなく確信犯であると自白している様な物だ。
『ダメよ。あんなDPを手にしたら人生踏み外しちゃうわ。凄いDPの量なのよ?』
「ダンジョンを守るために、日夜巡回してくれている魔物のお蔭だよ」
『その巡回にあなたは入っていないわよね!? どういう事かしら』
「・・さぁ?」
『さぁ?、じゃありまあせん。しかも何で疑問形なのよ!』
巡回の事で言い包められたと分かり、膨大なおこずかいを認めた事が許せない様だ。
『あなたが一日中歩き回っている姿を想像して、これは大変だと思ったわ』
「うんうん」
一日頑張って1000往復して、一人と二匹で3万DPしか稼げないと言っていた。
『そんなに頑張っているならばと思うからこそボーナスも認めたわ』
「ありがたいありがたい」
だから頑張った分のご褒美として、プラス歩合10割のおこずかいを認めさせた。
『一日の必要なパンでさえ、8アスと言われれば認めるしかないわよね』
「そうだねぇ」
人々の暮らしは最低でも一日8アスと言われて、お金の宝箱12回分となる固定給4割を認めさせた。
しかし結果はどうであったのか。
当初は準備もあってなかなか貯まらず、やっぱり厳しいのねと言っていた。
日が経つにつれ、DPについては何も言わなくなり、九日経った今では70万DPを超え、直ぐにも百万に達する勢いだと言う。
まぁ、言い包めた時と前提がおかしくなっているのだからそうなるだろう。
人である自分が1000往復は厳しいだろうと思わせておいて、当人は全く参加せず、魔物たちに巡回と称してやらせている。
魔物たちもテリトリーを巡回する種族を選び、昼夜を問わず、しかもきちんとローテーションを組んでいるので苦ではないだろう。
3万DP以上は歩合であるため、かなりの額がジャニの物となってしまう。
『もっと魔物増やせるわよね? DPバンバン稼げるのよね?』
「ど、どうかなぁ?」
『出来る事は分かっているのよ? やろうとしている事だって』
一通り叫ぶとハァハァと、切れ切れの息を整える様に黙り込む。そこへわざわざ油を注ぐ。
「終わったなら晩御飯食べていい?」
『ジャニちゃん! 話を聞きなさい』
原因である風景、ダンジョンと外をグルグルと周る魔物たちを、憐れむ様な目で見るイメージが伝わってくると、キッとこっちを見据える感じがしてくる。
ジャニとしては、少なくとも養って貰える生活基盤が出来たと、内心ほくそ笑んでいた。
両替以外は、自分の労働(能力)で、ヒモはフェブの方のままには気付いていない。
お説教を適当に相槌をしながら夕食を済ませ、周囲の状況について報告する。
「監視させている魔物たちからの報告と、実際に周辺を歩いて見た結果なんだが・・」
『そうそう、どうだったのかしら?』
「悪くは無いかったよ」
『うん? どういう意味かしら?』
良くも無く悪くも無く、どちらとも取れる話し方に首を傾げる感じが伝わってくる。
「魔物たちからは、実際に獲物の侵入があったと報告があった。
また実際に見て周ると、木の芽とか餌を食べていた様子が見受けられた。
ただ捕食や、争った形跡は見つからなかったけど」
初日という事もあって、些細な事が気になっていたが、結局のところ問題無しと言える。
少し神経質過ぎた様だ。まぁ臆病が決して悪い訳では無い。
『なんだ、そうだったのね』
「所々だが、薬の素となる草や実といった素材も量は多くは無いが自生していた」
『ふむふむ』
「此処から南東の方角に泉と言うか湧水があった」
『聞く限りなかなかいい場所だと思えるんだけど?』
全く悪い所が無いように思われるのだろう。
「此処までは良い点だ」
『悪い点がある訳・・なのね?』
「人の姿を見ていない。というか野営や狩りなど人が入ってきた形跡がない」
『えっ!? 何か問題でもあるの、それ?』
人が入って来ていないという事は、見つかるリスクが減るという事に繋がる。悪い事では無いように思える。
「ごく稀に未知の領域を目指して、開拓や調査をしてくる人たちがいる」
『なんでかしら?』
「ハイリスクハイリターン。一攫千金は一番乗りといった所だ」
『お金のために命を懸けるの!? 人間って馬鹿な生き物なの?』
「そうだな・・」
呆れた声に肩を竦めて返事をするが、富だけじゃなく、名声のためにもと聞いたらどんな返事が帰って来るか。
「そこで事前に、この周辺の情報を得ようと思っている。
町や街道を調査させた魔物には、北西の方向に町があると伝えられてきているからな」
『鳥たち飛ばして直ぐに見つかった所でしょう?』
「そうだよ」
鳥の魔物たちからの報告は昼前には届けられていた。
「距離的な感じでは、三日から四日といった所だな」
『どんな感じなのかしら?』
「流石に町の規模とか、雰囲気は無理。距離感で精一杯だ」
偵察用に飛ばした魔物には、そこまで高い知性は求めてはいない。
人間とのコミュニケーションが出来る様な魔物は、かなりの上位種になってしまう。
『じゃあどうするの?』
「実際に行ってみるしかないのは確かなのだが・・」
『行けばいいじゃないの?』
珍しく歯切れの悪さに、フェブは何か問題でもあるのかしらと首を傾げる。
「自分の立場とダンジョンの事がな」
『自分の立場って?』
自分のことを心配してくれるのは分かるが、ジャニの立場とはなんなのだろうか。
「旅と言うのは、何か目的があって、ここら辺が何処で、これからどこへ向かうのかと言った事がハッキリしているのが普通なんだ」
『ふーん、そういうものなのね』
普通は生まれた村や町から出る事は、殆ど無い事を説明する。
「理由のない旅だと、犯罪者や逃亡者、まぁ俺は実際逃亡中の身だけど、あと盗賊の下見として疑われたりする事になる」
『あなた逃亡者なの?』
「まぁな・・」
ダンジョンに落ち着いているジャニは、目的の無い旅をしている事が分かるのだろう。
いずれ話さなくてはと、後日、ジャニ自身の事について話す事になるのだが、余りの事に大いに怒り、大いに泣き喚き、保護欲を掻き立てられてしまう事になる。
『でもワタシは、どんなあなたでも受け入れてあげます』
「へいへい有難いこって」
お互いそう言うと、笑って済ませてしまい話を元に戻す。
「脇道に逸れたが、町の人に犯罪者として警戒させたく無い訳だ」
『なるほどね』
「自分の立場と言うか、旅の目的を作っておく必要がある」
『そうだったのね。で、どうするつもりなの?』
「どうしたもんかそれを悩んでいる」
殆ど即決の姿しか見た事が無いためか、物珍しそうに眺めるイメージを感じる。
フェブが良いアイデアが浮かんだと、アイデアを出してくる。
『そうだわ』
「ん? どうした急に?」
『あなたの特技を生かせば良いのよ!』
「特技?」
『召喚士になれたから、冒険者登録に来たって・・』
「すまんが、召喚士の事は伏せておきたい」
フェブには召喚士と言う存在がどういう物か伝えていないから仕方がない。
話しの途中に被せる様に、召喚士の事を隠して置きたい事を伝える。
「召喚士は不味いんだ」
『召喚士って良くないの?』
フェブとしては、召喚士としての高い能力を使う事を提案するつもりだった。
「まぁ・・な」
『さっきの逃亡者と関係するの?』
「・・・・」
『まぁ、いいわ。じゃあ、他の職に就く様にしたらいいのよ』
「うん・・、その通りだ」
言い淀む姿に何かを感じ流してしまう。
召喚士にしかなれない事も伝えていない。何も言わずアイデアを受け入れる。
「ありがとうフェブ。その手で行こう」
『ワタシのアイデアが役に立ったなら光栄だわ』
もっとどんどん頼っていいのよ、という感じが伝わってくる。
「よし。そうと決まれば、早速準備に取り掛かろう」
『何の準備がいるの?』
そのまま旅に出ると思っていたので、何をするのかと疑問に思う。
「俺の方は問題なけど、フェブの方は何もしなくて良いのか?」
『あっ、そうね。その通りよね』
あははは、忘れていたわ、と乾いた笑いが聞こえてくる。
ダンジョンの強化計画の話し合いが始まった。




