優先順位を考えよう
優先順位を考えよう
前日に周囲の警戒と、食糧事情を確認すると、巡回させている虎と獅子の2体を戻そうとすると、フェブからクレームがでる。
『なんで猫ちゃんたち戻すのよ!?』
「こいつらな、戦闘特化型だから、巡回する小型のヤツに交代させるんだ」
『えーっ、こんなにかわいいのに・・』
フェブなりに愛着が湧いたのだろう。6キュビット(288cm)の虎と獅子にいう言葉ではないが。
ダンジョンの中で【召喚】したのでは、ダンジョンの魔物と判断される事を考慮して、一旦洞穴の外へ出る。
巡回している2体を【送還】すると、これから夜に向けて夜行性の小型の猫タイプの魔物を8体【召喚】する。
8体を巡回と休憩の二班に分け、4体で洞穴の外からコアの部屋を往復という巡回をさせる班と、休憩する班に分ける。
一定回数が終了すると巡回と休憩を交代するローテンションを組む。
朝が来れば今度は昼行性の魔物と入れ替える様にする。
フェブは猫ちゃんたちがいっぱいと大喜びしていた。
一日中、巡回と言うDP稼ぎが出来る様にすると、ダンジョンコアの部屋で初日を終える。
翌朝「『おはよう』」の挨拶を交わし、新しい一日が始まる。
「しかしこれはどうなんだ?」
『一応加工食品?になるんじゃないかしら?』
お互いに首を傾げる。何故こんなやり取りがあるかと言うと朝食の出来事である。
昨晩は大量に出した食料があったためそれで済ませたが、朝が来れば自然と腹が減る。
一日12000DPだからと奮発して、1000DPの食料の宝箱を3つと、お金の宝箱を1つ出して貰った。
お金の宝箱からいきなりの200アス、普通に三泊は出来る金額に驚く。
ならばと期待して食料の方を開けてみたら、意外な物が出てきた。
「葡萄酒に蒸留酒、麦酒・・。朝っぱらから酒かよ」
『お酒を食事の代わりにする人っているのかしら?』
「さぁな・・」
『でも飲み過ぎは体に良くないわ』
ランダムとは言え、フェブ(ダンジョン)が出したじゃないかと思ったが、嫌な予感がするので、余計な事を言うのは止めておく。
諦めて100DPのを3つ出して貰い、パンが3種類出てくる。
それを水の精霊を【召喚】し、水袋に入れて貰った水で食べる。
バランスよく出る訳では無い事を再認識すると、予備の食料は必ず用意しようと決意する。
食事をしながらこれからの事を伝える。
「昨日寝ながら考えたんだが」
『ちゃんと睡眠はとらないと、体に毒よ?』
いちいち付き合っていたら話が進まないので、適当に相槌を打つ。
「一応魔物による警戒だけはしたんだが・・」
『えっ!? それだけじゃない、危ないのも出してたでしょ?』
「ま、まぁ状況が分からないから、最低限を・・な?」
『そうだったの』
咄嗟だったとはいえ昨日行った事は、今考えれば最善とは思えないのだ。
一晩経って頭も冷える事で、別の方法が浮かんでくる。
「これから本格的に手立てを考えようかと」
『頑張り屋さんなのね』
「いやいや、キミにも手伝って貰うから」
『そうなの? でもワタシ何にもしない方が良いんじゃないかしら』
階段を作ったら、いきなり外と繋がるという失敗をしているので戸惑っている様だ。
「でも、こうして欲しいとか希望があるだろう?」
『うーん、良く分からないから、あなたに一任しちゃいます』
「はぁ・・。まぁ、やっていって、何かあれば言ってくれ」
『はいはい。で、何を考えたのかしら?』
二つ返事で分かりましたよ、っと返してくる。
「まずフェブ、君自身の事を何とかしたい」
『ワタシ?』
いきなり自分の事を言われて、ビックリしている。
「いいか。洞穴のすぐ先がダンジョンコアの部屋と言うのは大問題だ」
『まぁ、普通はそうよね』
洞窟を抜けたら、無防備なダンジョンコアなんてダンジョンが存在するはずが無い。
「確認したいんだけど、君は移動できるのか?」
『ダンジョンの中であれば、DPを支払って移動できるわ。
あっ、先に部屋なり、移動先の空間が作られている事が前提よ』
「それならまずは一安心だ」
この場所から移動出来るかどうかで、安全性は大きく変わってくるのは当然だ。
「じゃあ次だが、階層はどうやって増やせるんだ?」
『DPで購入するのよ』
説明してなかったかしら?と首を傾げる感覚を伝えながら教えてくれる。
「すまん。そういう意味では無くて。
自分より上や下に作れるのか、離れた場所にも作れるのかという事だ」
『あぁ、そういう意味ね。何処にでも出来るわ。
階層って言っても、あくまでも場所を確保するみたいなものね。
考え無しに適当に掘って、変な所に出ちゃうと困るのは自分だけど』
自分の失敗からの貴重な体験談に、ペロっと舌を出すイメージが伝わってくる。
「なるほど、冒険者ギルドの傍に出たら、一発で破壊されると言うわけだ」
『そういう事ね』
ダンジョンの拡張も、計画的に行う必要があると言う訳だ。
『階層は通常は単なる穴を掘っただけの状態なんだけど、オプションで灯りの有無や石造りの迷路、草原と森林とか、昼夜とかいうのが出来るのよ』
「へぇー、凄いな」
オプションによって、さまざまなダンジョンが出来る事に素直に感心する。
「掘ったままのダンジョンの灯りはどうなってるんだ? 石造りならこの部屋みたいに床や壁、天井が発光する様になっているのだろうけど・・」
『むき出しの土って事よね? 基本は何もないわ。最低限の光のオプションで、光るコケや草を生やしたり、光る石が所々埋めることが出来るのよ。
ち・な・み・に、持ち出しは不可ですからね』
持って帰って売ったら儲かるかと思っていた矢先に、釘を刺されチッと舌打ちする。
「じゃあ、階層と部屋の違いってなんだ?」
『大きさね。それによってオプションの差が出るの。
例えば最小の部屋には、迷宮とかオプションは存在しないわ』
小さい部屋に、迷宮や森を作ってもあまり意味は無いし、物理的にも無理だろう。
「例えばこの部屋を大きくして、迷宮みたいに作り変える事は出来ないか?」
『部屋のサイズ変更、つまり拡張や収縮する事は可能ね。
迷宮化だけど、小さい部屋の場合は壁なんかを購入して自分で作る事は出来るみたい。
草原や森も、色々なパーツを購入してデコレーションみたいな事は出来そうよ』
「ほぉー、それはそれで面白そうだ」
単に空っぽの部屋を用意して、自分なりに作り替えられると言うのは楽しそうである。
『あと部屋を拡張してする事で、迷宮とか森や草原にするためのオプションが追加されるから、お望みの環境に変更が出来る様になるわ』
「なるほど、それは助かるな」
『ただ、最初から計画して作る場合は初期投資が大きいけど、後から追加する場合はDPが嵩んで、結局は割高になってくるわよ』
「どちらにせよ先立つ物が必要と言うわけだな」
『そういう事ね』
ヤレヤレといった様子で溜息を吐くと、自分の事なのに「ドンマイ」と返してくる。
「離れている場所に階層や部屋を作る場合は制限があるのか? 移動方法は?」
『制限は特に無いわ・・、さっきのリスクだけね』
「どうやってリスク回避してるんだ?」
単に上下という言う階層型ダンジョンもあるが、転送系ダンジョンも存在する。
『契約者という存在ね』
「契約者? 俺みたいにか?」
『ちょっと違うわ。はジャニとの関係は協力者ね。殆ど無関係に近いわ。
契約者はダンジョンの魔物の一種として認定されるの。
そうなるとダンジョンの能力の一部を共有出来るから、その能力を使って契約者に場所を特定して貰った後、部屋や階層を作るのよ。
離れた所の階層には、転移用魔法陣を設置する事で、移動出来る様になる。
あと自然の洞窟とか、廃鉱山をそのままダンジョン化する事も出来るわ』
「転移用魔法陣って言うのは言葉通りだよな? ダンジョン化って言うのは?」
サラッと流されそうになる聞きなれない単語の意味を問いただす。
『転移用魔法陣って言うのは想像通り、離れているダンジョンを階段や通路で繋ぐ訳にいかないから、その場所に転移するための手段が魔法陣って事ね』
「なるほど」
『あっ、わざと長い通路や階段を作る場合もあるけどね』
先の見えない通路や階段は精神的に追い込む。一種のトラップと言えるのだろう。
『ダンジョン化って言うのは、火山や氷河、古い坑道を丸ごと自分のダンジョンに組み込む事ね』
「スケールがでかいな」
『階層は土地の権利購入と似ているわ。先に占有者が居ると階層を作る事も、ダンジョン化出来ないのよ』
全ての土地を管理している何かが存在していて、DPを支払っているのだろうか?
「ふむ、移動用魔法陣の設置は出来ないのか?」
『出来るけど、コア同士は直接話し合いが出来無いみたいだから、下手に繋ぐとこちらを潰しに来られる可能性があるけど・・』
ワタシとしては、是非とも仲良しさんになりたいのよ、っと何やらブツブツ言っている。
「話し合いが出来ないなら、問答無用で潰しに来るかもな」
コアの性格にもよるだろうが、こういったリスクは避けるべきだろう。
「ダンジョンコアの話が出てきたから丁度いい。
コアの偽物とか予備みたいのは無いのか?」
『うーん、ある事はあるけど・・、とーってもお高いわよ?』
「あると分かっていれば希望が持てる」
『それはそうよね』
ダンジョンコアの予備。これがあればダンジョンの安全性が格段に上がる。
フェブ自身の問題の改善策を確認すると、これからについて話をする。
「今の話とDPの増加率から優先順位と言うか、今後の予定を確認していこうと思う。
フェブも何か気になる事があったらどんどん言ってくれ」
『はいはい』
又もや二つ返事だが、本当に大丈夫だろうかと思わさせられる。
「まず第一に、周辺の環境調査」
『昨日も言っていた事よね?』
「そうだ。出来るだけ目立たない様にするためにも必要だ」
『うんうん』
周囲から目立つ浮くと言うのはリスクを上げるため、今一番気にしている事である。
「第二に、この近隣の価値の調査」
『価値の調査? そんなのがいるの?』
この周りの価値という言葉に首を傾げる。
「当然だ。町が近いのか、街道は近いのか、周りに生活に必要な物があるか・・」
『そっか、そういうのがあると人が集まってくるのね』
「それだけじゃないと思うけど、人が集まるという事は価値があるという事になる。
人が集まれば見つかり易くなる」
『確かに重要ね』
必要な物や欲しい物があれば人が集まる。人は人を呼び寄せる事になってしまう。
「第三に、悪いが俺の拠点だ」
『あなたの拠点?』
「今この部屋で寝泊まりしているが、正直旅と同じ状況だ」
『そうなの?』
旅と言うのは肉体的にも精神的にも負担を強いる。一人旅となれば尚更だ。
「確かに雨露は凌げるが、休息をしても披露は蓄積されてくる。旅であれば定期的に町に入り、宿でしっかりと休養する必要があるんだ」
『へぇー』
そのため普通は町を目指して進み、定期的に宿に泊まり心身ともに疲れを癒す。
「とはいえ休養のために町まで行って戻ってでは、旅をしているのと変わらないし、その間傍を離れれば何かあった場合の対策が取れない。」
『なるほどなるほど』
町へ休息のために旅をすると言うのでは、労力も時間も無駄だろう。
「だからと言って近くに小屋を作る訳にもいかないから、どこかに拠点を置けないか考えないと・・」
『あなたの部屋作れば良いと思うのだけど』
「はぁ!? いやだからそこのテントじゃなくて・・」
この間から言おう言おうと思っていた事なんだけど、と前置きする。
『家具あるよ? ベッド、机、イス、棚とか。あぁ、台所とかトイレ、風呂もあるよ?』
「・・・本当か!?」
テントでの素泊まりから、風呂付の高級ホテルに変わると聞いて大声が出てしまう。
『わあ!? 何? いきなり大声出されると、吃驚するでしょう』
「今のは本当なのか?」
『え? えぇ、本当よ』
「素晴らしい! しかし何故そんな物がDPで交換できる?」
『えっと・・、ダンジョンと言うのは決った形は無いのね』
「そりゃそうだろう」
何当たり前の事を言い出すんだ?と言わんばかりの表情になる。
『ひたすら侵入者と戦うタイプもあれば、共存するタイプだってある』
「ふむふむ」
『ダンジョンを大きくするという目的であれば何をしても良い。
特に禁じられている事は無いのよ』
「へぇー、そうなのか」
ダンジョンの意外な一面を感心するかの様に聞く。
『共存がさっき言った協力者や契約者、その他外部と接点を持つ関係に当たるわ。
そんな理由からか、居住系のアイテムはいっぱい揃っているのよ。
例えば調理器具だって食器類もね。地下でも窓を付ける事が出来るのよ』
部屋の飾りつけが出来ると言っていたのは、こういう事も含まれているのだろう。
「そうだったのか・・・。フェブ!」
『な、何かしら!?』
見た事の無いジャニの恍惚とした表情に、かなり引き気味に答える。
「素晴らしい! キミは実に素晴らしい!」
『えっ!? ・・まぁ・・いや・・それほどの事も・・あるかしら?』
お互いが出会ってから、これほどまでに無い程のベタ褒めにデレデレである。
「良し! 自分のDPが貯まるまでは野宿で凌ごう」
『先に言っておくわね、家とか館といった建物も出せるのよ。残念ながら内装は付いてこないけど』
「なっ!? じゃあ平原オプションで階層を買って町づくりも可能なのか?」
『どのくらいの規模を考えているか知らないけど、出来ると思うわ』
「凄い! もう何でもありだな」
しきりに感心しっぱなしである。興奮が収ままでフェブを褒めちぎる。
「良し! このまま第四に移るぞ」
『えぇ!? まだあるの?』
「勿論。一応、第六まであるぞ」
『・・考えるなとは言わないけれど、ちゃんと休みなさいね』
フェブとしては一晩で考えた事よりも、ジャニの体調を心配する。
「住居者としては、寝首をかかれたくないからな」
『ま、まぁそういうものかもね』
健康よりも命を守る。正しいのだろうが、何とも恐ろしい話にビビりが伝わってくる。
「じゃあ第四について説明するぞ」
『どうぞどうぞ』
「人と接触する事だ」
『そうね・・って、はぁ!? 何言ってるのかしら?』
今までは隠れる、目立たない、見つからないと言っておいて、此処に来て人と接触である。
「人との接触イコール即バレにはならないぞ」
『そうかもしれないけど・・』
あれだけ危険危険と煽っておいて、話が変わり不安気の様である。
「さっきも言った第二の近隣の価値に大きく関係している」
『そうなの?』
「あぁ。さっきの価値は俺の価値観だ。第三者による価値と違う事は十分にある」
『うーん、そっか・・』
人の価値観は簡単には図れない。ゴミが宝になる事も十分に考えられる。
「他の人の目から見た、近隣の価値や情報を手に入れておきたいんだ」
『確かに・・。でもその通りなのかしら?』
「まぁすぐ目の前が町だったりして、人が多いようなら考えよう」
『そうしましょうね』
不安は残るが、ジャニの言い分にも一理はある。無理やりにも納得する。
「第五だが・・」
『うん』
「此処までやるのには、かなり時間がかかると考えているんだ」
『そうよね、説明だけでもかなりあったわ』
フェブのチックっとした一言を、スルーして続ける。
「DPの量によって、キミの場所を移動させたり、目的に応じた階層を増やしていく」
『うんうん。忘れずにお願いするわね』
のほほーんとお願いしてくるイメージに、こっちがしっかりしないとダメかも思う。
「最後に第六になるが」
『長かったわ、本当に長かったわ』
フェブからやれやれと、深い溜息を吐くイメージが伝わってくる。
「悪かったな。本当に最後になるが、偽のコアの準備だ」
『確かにあると無いとじゃ大違いよね』
「ちなみに偽のコアの効果はどんな感じなんだ?」
『偽のコアと言うより、サブコアね』
「サブコア?」
サブコアとはどういったコアなのか、今一想像が付かない。
『そうね ダンジョン‐サブコア‐ワタシ といった関係で、ダンジョンの一部の管理を委任するの』
「へぇー」
『で、もしサブコアが壊されたとしたら、管理していたダンジョンの機能が停止するの』
「なるほど、コアが壊されたと分かる訳だ」
相手から見ても、ダンジョンが死んだと受け取られる訳だ。
『その後に、このまま破棄するか、再接続するか選択できるのよ』
「いきなり再接続したら危険じゃないか?」
死んだと思ったダンジョンが、動き出せば偽のコアとバレてしまう。
『大丈夫よ。接続だけで、再稼働は別のタイミングだから』
「違うのか?」
『接続が権利のみ維持で、稼働がダンジョンとしての機能させる事よ』
どうやらダンジョンマスターが倒された後と、別のマスターの復活の様な感じらしい。
「なるほど、それなら大丈夫そうだな」
『そうでしょう、そうでしょう』
安心して。そこまで間抜けじゃないわよと、にこやかに言ってくる。
「どちらにせよサブコアは欲しいな」
『そうね』
「とりあえずは最終目標という事で。DPもかなり掛かるだろうし」
『はいはい』
一通りやるべき事の優先順位を説明し、了承を得て、最終確認をする。
「今までで質問とかあるか?」
『特に無いわ』
「よし。さっそく取り掛かってくるよ」
『いってらっしゃーい』
ジャニとフェブが出会って2日目がこうして始まる。




