生きる場所
生きる場所
その日は、主都の自宅に生活感を持たせるため、普通の家にありそうな物を買って来ては飾ったり、料理をしたり、部屋の模様替えをしたりしている時だった。
玄関の扉を激しく叩かれ、何事かと少し開けた瞬間、ドカンとジャニを吹き飛ばしながら、その人物は家の中に入ってきた。
「お待たせ致しましたディズ様。私たちが手配出来る最高の人物たちをご用意しました」
「姫ちゃん。ジャニ君は気を失っているよ?」
「おぉ! これぞ召喚士の神の思し召し。さっさと取り掛かりましょう」
ディズの事で頭がいっぱいの姫は、ジャニの事など眼中に無い様だった。
ダメだこりゃとレオは、右手で顔を覆うと天を仰ぐ。
本人を無視するのは、と全員でディズ姫を押し留め、レオがジャニを介抱する。
「大変申し訳ありません」
「いえいえ、どうか顔をあげて下さい」
この姫様に謝られてばかりだなと思ってしまう。
「お気持ちは分かります。俺もディズには会いたいですから」
「そう言って頂けますと・・」
ジャニを蔑にしたい訳では無く、純粋に憧憬の念からの暴走と理解出来る。
「ジャニ君、人が良いね」
顔には仲間四人から生き延びて、ただ人が良い訳では無いよねと書いてあるが。
非礼を詫びられ、突然の来訪の理由は分かっているが、きちんと説明がなされる。
「ジャニ殿にご協力頂きたいのは、ディズ様がどういう状態にあるのかと、ディズ様がジャニ殿にどの様な影響を与えているのかの二つを調べさせて頂きたいのです。」
「分かりました。どうぞ」
「いやいやジャニ君、安請け合いし過ぎ。もう少し質問とか無いの?」
余りの無防備さに、レオが待ったをかけてくる。
「いえ特には・・」
「では私の方から少し説明いたしますね」
レオは小さく溜息を吐き、ディズ姫はバツが悪そうに同行者の紹介をする。
神官、霊媒師、降霊師と言った霊や魂に関する職業の人や鑑定士であった。
この方々によって、ジャニとディズの関係性を調査するとの事。
「何処から始めますか?」
「ディズ様の魂をご自身に【憑依】させたとの事ですから、神官殿に魂そのものの有り無しや、魂の状態を見て頂きます」
「分かりました」
「では失礼して」
神官の方へ向くと、早速ディズの魂の状態を調べる。
しばらくの間、顔を顰めたり、首を傾げる。
最後に目を見開いておもむろに口を開く。
「鑑定をした方が確かですが、何らかの魂がジャニ殿にあります」
「本当ですか!」
姫様の喜びようは尋常では無い。
しかし神官は非常に悩ましい表情を浮かべる。
「特異な事なのですが・・」
「何かありますか?」
口を濁す神官をジャニが促すと、続きの言葉にその場にいる全員が驚く。
「もう一つの魂は、守護霊になっていると思われます」
「「はぁ!?」」
「守護霊は加護を与えながら、影から見守りますので、声が聞こえなくなった事や、無意識の危機回避といった事の説明が付きます」
意味の分からないレオが、固まっている二人の意識を取り戻させる。
「ぼけっとして無いで、次にやることやっちゃったら?」
「はっ!? そうですね。ジャニ殿、次は鑑定をさせて頂きます」
「・・どうぞどうぞ」
鑑定能力は人によって能力差が大きく現れ、物の良し悪し、適正職、ステータスの数値化、隠れた才能などを見る事が出来る。
早速鑑定が行われると、神官と同様に目を見開いて驚き、恐る恐る姫様が尋ねる。
「如何でしょうか?」
「鑑定の内容は本来秘匿が原則ですので、今回の件に関する部分だけ申し上げます。
彼には三つのギフトが存在します」
「「ぇぇ!?」」
ギフトは福呪であり、何かのきっかけで与えられ、普通の人はギフトなど持っていない。
関係者知らない事であるが、勇者のレオでさえ二つなのだ。
「一つ目は守護霊の加護。
【請願】【降霊・憑依】が可能になります。」
「「「なっ!?」」」
レオを除く全員が驚く。
神官職や霊に関する職で無い者が、【請願】【降霊・憑依】が出来てしまうのだから当然だろう。
守護霊が取り成しをしてくれれば、神や霊と言った存在に話は通り易くなるということか。
「二つ目は召喚士の理。
無限【召喚】、【召喚】の際の付与が自在に出来ます」
「「・・・」」
無限【召喚】って、魔物を無限に召喚出来る事?
付与が自在って、普通は付与は、精々二つ三つじゃないの?
召喚士のあり方を根本から覆す事態に、聞いた二人は固まってしまう。
「三つ目が姫様がお探しの物となります」
「はっ!? では間違いなく?」
ディズ姫の問いに、鑑定士がしっかりと頷く。
「最後にディズの祝福。魔力量の劇的な増加、魔力の超回復となっています」
ディズの存在は嬉しいのだが、もたらされる祝福がとんでも無い。
ジャニ自身、召喚士の能力が高さの異常さに気付いていたが、ディズのお蔭である事を改めて理解する。
ディズ姫は羨望のまなざしで、自分の事を凝視され居心地が悪い。
「守護霊と言うのは、【降霊】に応じて下さるのでしょうか」
彼女は霊媒師や降霊師にディズとの会話を期待する。
「守護霊と言うのは、霊の中でも好意的な状態で、存在の場所も確定してますので可能と思われます」
「では、すぐに!」
早速取り掛かろうとするディズ姫を押さえて、レオが質問する。
「【降霊】に守護霊が応じた場合、ジャニ君に何か影響は?」
「見える形となるだけで、繋がりは解消されませんので何の問題もありません」
何の影響もない事を確認すると、ジャニの中に居るであろう人物に話しかける。
「聞こえているなら応じたら? 【憑依】以降、お互い何も話してないんでしょ?」
言うだけ言ってしまうと、儀式を続けてと促す。
儀式が始まりしばらくすると、ジャニの傍らに金色の光が人の形をとって現われる。
恐る恐るディズ姫が声を掛ける。
「初代ディズ様でいらっしゃいますか?」
『初代と言う意味は分からないが、ディズで間違いない』
その場にいる全員の頭の中に、ジャニには懐かしい声が響く。
「ディズ無事だったんだな」
『あんな大馬鹿をした君に、無事とか言われたくは無い』
ジャニの言葉に、金色の人影が苦笑いをしている様に見える。
そこからディズ姫の暴走が始まるが、ディズは教え諭す様に優しく答えて行く。
金色の人影が消える時間いっぱいまで質問攻めにする。
あまりの感動に魂の抜けた様な彼女を余所に、レオが話しかけてくる。
「いいのかい? 感動の再開をぜーんぶ姫ちゃんに取られちゃったけど」
「ええ。自分の中にディズが居ると分かっただけで十分ですよ」
「本当に君、人が好過ぎ」
いつの間にか復活したディズ姫は、霊媒師や降霊師にもう一度、初代様を呼ぶように訴えるが、霊との扉を開いた後は、しばらくは固く閉ざされる事を説明を受け、ショックに呆然としている。
レオはチャンスとばかりに、姫様を連れて出そうとするが失敗。
途中で意識を取り戻すと、ジャニもディズ様もと大騒ぎとなるが、連れてきた人を戻すのが優先と説得されてしぶしぶ帰って行く。
ディズ姫の来訪とディズとの再会の後、第三ダンジョンに新たに作られてた、フェブとメイドの階層へとやってくる。
「本当に空気の読めない男なのですね」
『捕まってこないと、特殊部隊の活躍の場が無いでしょう』
「無事に帰ってきた事を喜ぼうよ」
前回と同じ様なやり取りに、実は心配されていなんじゃないかと思ってしまう。
「まぁ、まだ特殊部隊の準備も整っていませんし、次回に期待でしょう」
『そうね。流石に無策では心許ないわね』
ジャニの訴えは無視され、特殊部隊の運用に花が咲く二人?を置いて、一人寂しくと主都の自宅へと帰って行く。
ジャニが一人さびしく帰った後では、悪巧みが再開される。
「ディズ様との再会。これでジャニ様が元気になると良いのですが」
『そうね。空元気・・と言う訳では無いでしょうけど』
生き延びるためと神経をすり減らしていた頃と比べると、昔の仲間との出来事の後は、何をするにも上の空であった。
『召喚士という新しい仲間は、良くも悪くも影響を与えるわよね』
「友人は選んだ方がよろしいとは思いますが」
メイド長は首を傾げて、不思議な言葉を紡ぐ。
「フェブ様、思ったのですが」
『何かあった?』
「ジャニ様は、ご結婚されないのでしょうか?」
『はあ!? 結婚って・・あの結婚?』
「はい、その言葉通りです」
『でも相手が居ないと、結婚って出来ないのよ?』
「餅は餅屋、人の事は人間に相談するのがよろしいかと」
『・・なるほど』
全てのメイドが集められ、第一回ジャニ花嫁探しの決起集会が開かれる事となった。
ジャニは、自分の身の上にそんな事とが起きているとはつゆ知らず、トボトボと主都の自宅に戻ると、目ぼしい物が無いか町へ出る事にする。
食料品、日用雑貨、衣類などは、DPで出せるため必要性を感じない。
またダンジョン品の売り先を探しながら、あちらこちらと歩き回る。
そんな時、小さな子供が大きい大麦の袋を背負って、店から出るのを見かける。
昔の自分に重ね思わずその後をついて行くと、教会に併設された孤児院にたどり着く。
「(やっぱり大麦粥なのかな)」
気になって教会の方へ入っていくと、傍にいたシスターに声を掛ける。
「隣の建物は何ですか?」
「あぁ、色々な理由で一人となった子供を預かっている孤児院です」
やっぱりと言う思いで、話を聞いて行くと色々分かってくる。
主都だけあって孤児院は、此処を含めて五つある事。
金策は主都からの援助と、人々からの寄付である事。
子供たちの将来就くべき仕事の多くが、冒険者である事。
前に居た孤児院と、変わらない実情がそこにはあった。
持ち合わせがありませんので些少ですがと、財布袋ごと渡してくる。
後で中身がデナリウス銀貨を含む1アウレウスほど入っており、すべてアス銅貨と思って有難く受け取ったシスターが大いに驚く事になる。
教会から出ると罪滅ぼしではないが、孤児院の子供たちに何か出来無いかと考える。
短期的には、主都からの報奨金や開拓の町からの代金や、ダンジョン品を売ったお金でどうとにでもなるが、長期的には良いアイデアが浮かばなかった。
後でフェブやメイド長、オウグたちに相談してみる事にする。
そのオウグは商業ギルドの窓口で、大いに悩んでいた。
最初に冒険者ギルド経由で、ダンジョンコアから呼び出しがあり何事かと訪れたのだ。
『ジャニについてどう感じてる?』
「どう・・、とは?」
ジャニの何処の部分を、どう感じていると言うのだろうか。
『昔の仲間を殺して、ただで済むと思ってる? 特に心が』
「そうですね・・、変わらないと見える点をどう捉えるか」
普通の人が、人を殺めて平気を装えるかと問わる。
平静を装っている姿の裏は、誰にも分からないし、容易に踏み込めるものでもない。
『ワタシには空元気と見える訳なのよ』
「で、どうしたいと?」
ダンジョンコアとしては、ジャニを元気づけたい、その手伝いという事だ。
『話しが早くて助かるわ。
今の彼には、良き支え手が必要と考えたのよ』
「なるほど。良き友、良き理解者と言う訳ですね」
一人此処まで逃げて、最後は仲間を自分の手に掛けたのだ。支えは大切だろう。
『でも訳知り顔の友人なんか、ジャニの傷を深くするだけ』
「しかし、今からでは無二の親友と言うのも難しいと思います」
事が起こってからの友を作るのは難しいとも感じる。
『そこで考えたのだけど、ジャニに意中の人はいないのかしら?』
「意中の人? ほぉ、それはそれは」
ジャニの結婚相手探し。確かに彼も良い歳ではある。思わず笑みが零れる。
「分かりました。少し探りを入れてみましょう」
『頼むわね』
既に頭の中で候補者の洗い出しを始めながら、ダンジョンを後にする。
ギルドの窓口業務をこなしながら、結婚相手の絞り込み中に次の悩みが現れる。
ダンジョンコアの見立て通り、ジャニの心の傷の深さを感じる相談だった。
「孤児院の子供たちを助けたい、ですか?」
「主都にも孤児院があり、あの子たちの将来も不安定でした」
孤児院の子供たちを助ける。
普通なら気に留めないが、ジャニの場合は別だろう。
「どうしたいと?」
「多分お金を渡しただけじゃ、何の解決にもならないと思うんです」
「短期的、もしくは一時しのぎでしょう」
孤児院の中に居る間は、それでもいい。
しかし外に出てからは、何の助けも得られない。
故に冒険者で命を落とすか、犯罪に巻き込まれる事が多いのは確かだ。
良くも悪くも経験をした一人である。
「長期的と言うか、彼らが孤児院を出てからの事を考えたくて」
「その相談という訳ですか」
この問題はどの主都、町にも根強くあり、未だ解決策が無い状態である。
「この問題の解決策が無いから、長く現状が続いています」
「分かっています。それでも何とか出来ないかと」
「昔から取り組まれてきた方法を纏めておきますので、後はジャニさん次第かと」
多分罪滅ぼしの気持ちが大きく、孤児院の子供たちに拘るのだろう。
気持ちは理解できる。できる限り協力もしたい。
しかく冷たい様ではあるが、どうしても金策の問題となり、個人で出来る事など限られてしまう。
「しばらくしたら、また来ますので」
「時間を見つけて用意しておきます」
ジャニを送り出して、孤児について調べると驚いた事に、いくら金策の問題があるとはいえ、彼らの救済の取り組みが全く無いのだ。
これではジャニを説得すること材料にはならず、長く関わる事になってしまう。
そしてジャニの婚活にも影響を少なからず及ぼす事になる。
しばらく後で、フェブもジャニから同様の相談を受ける。
『お金のかからないダンジョンのメンバーに、そんな重大な相談されたって』
「そうだよな。でも何かヒントになりそうなアイデアは無いか?」
彼女をすっ飛ばして子供である。計画の大幅修正が必要である。
「オウグ様からの情報を待って、再度相談では如何でしょうか」
『そうよね。こっちも何か手立てが無いか考えながら待ったら? 今まで成功例が無いんだから、慌てても良い事は無いと思うわ』
「それもそうか・・」
ジャニの心の傷に何とかしたいと思いつつも、これはこれでどうしようもなかった。




