告白
告白
ギルド会館の別室に、オウグ、フォールのパーティ、古株のパーティが揃っていた。
ジャニが殺したと言う三人の魔物使いの件で、事前の話し合いである。
「今回の魔物使いの三人を殺したことについてだが、先のエイプの一件も含まれる」
古株のリーダーが話し始める。
「詳細は本人が来てからとなるが、何か気付いた事は?」
まず初めにオウグが口を開く。
「特に大きな変化は見られませんでした。事後は酷く憔悴していましたが・・」
続けてジューラが話しをする。
「身贔屓じゃねぇけど、あいつが喜んで人殺しをするとは思えねぇ」
「主観や推論は必要無い。事実のみだ」
古株のメンバーがピシャリとジューラを黙らせ、他のメンバーが繋ぐ。
「エイプの時は嘘をついている様子は無かったが、何かを隠している様子はあった」
「数少ない魔物使いが四人も、ジャニを探していた理由がそこだろう」
先の話し合いから自分たちの考えを伝えると、ジャニの到着を告げられる。
「では本人から直接話を聞くとしよう」
ジャニは冒険者ギルドに呼び出され、直ぐにギルド会館へ向かうと別室へと通される。
誰とも目を合わせる事無く、うつろな表情である。
しかしフェブと話した事は単に冗談で、逃げ隠れするつもりは全くなかった。
「今回のそもそもの原因は何だ?」
単刀直入に古株パーティのリーダーが切り出す。
「・・・俺が召喚士だからです」
「召喚士? 冒険者登録していないはず」
「昔に冒険者登録しようとした事があって・・」
何故自分が召喚士が、適正職である事を知っているか説明する。
「その召喚士と、今回の件は何の関係がある?」
「・・? 召喚士何です・・あぁ」
里での話では、召喚士の事は秘匿されていた事を思い出す。
「昔話をしても良いですか?」
「今回の一件に関する事なら」
ジャニはこの町に来ることになった経緯を話す。
自分が殺した四人とは同じ孤児院で、魔物使いになる事を夢見ていた事。
魔物使いの里の存在を知り、訓練を受けた事。
召喚士がこの世の悪で、魔物使いたちだけが殺すことが出来る事。
自分の適正職が召喚士しか無く、仲間たちに殺されそうになった事。
命からがら逃げて逃げて、この町に辿り着いた事。
「これで全部です」
「お前が何か隠していると思っていたが、召喚士であるという事か?」
「他に何があるんです?」
古株パーティからの確認の質問に、さも当然と質問で返す。
その場にいる全員が視線を合わせる。オウグとフォールの面々は憐れむ表情である。
古株パーティのリーダーは、責任を持つものと自覚し話し始める。
「ジャニ。酷な話をする」
「何だって聞きますよ」
裁かれる事を期待していたのかもしれない。
「召喚士は、普通に存在し暮らしている」
「そうでしょうね」
領王が召喚士の危険を秘匿しているのだから当たり前だろう。
「領王様の一人に、召喚士の姫様が居る」
「そうです・・か?」
言葉の意味が理解できずに、初めて古株パーティのリーダーと目を合わせる。
「何の冗談です?」
「召喚士は、邪悪な存在では無い。
召喚士だけでは無く、他の職も使う人間の心根の問題だ」
細かくは説明されない。
既に頭では納得し、心が受けきれない。
「何を言っている!」
ジャニはいきなり立ち上がり怒りを露わにするが、誰の目からも泣いている様に見えた。
「まだ理解出来ないのか?」
「はっ・・ははは」
その一言に、から笑をするジャニを、一同見守るしかない。
「俺は何で殺される事になった?」
「里の事だ。知らん」
自分が殺される理由を求めるが、冷たくあしらわれる。
「俺は逃げ隠れる必要が無かったのか?」
「無駄な努力だった」
誰かに相談出来れば、庇護を求められたかもしれない。
「俺はみんなを殺す必要が無かったのか?」
「分からんな」
「ははは・・」
再び笑が始まる。
そんなジャニに厳しい一言が突き刺さる。
「これが事実で現実だ」
から笑は止まる事無く、そのまま激しい慟哭へと変わっていく。
『ジャニは大丈夫かしら?』
「逃げるより裁かれる方を選んだ、馬鹿の事でしょうか?」
ジャニに対して厳しい物言いをする。
『そう、その大馬鹿者よ』
「さあ? フェブ様のお慈悲を袖にした者の末路までは」
自分の創造主を蔑にされて、かなりご立腹な様子である。
『まあまあ、許してあげなさい』
フォローを入れる自分に、何故ワタシが部下に気を使うのだろうとも思う。
「襲われたのは事実ですから、余程の事が無ければ大丈夫でしょう」
『まっ、それならいいかしら』
勝てば官軍、生き残った者が真実を作る世の中だ。例え捏造だろうと。
「但し、召喚士の事を話した場合は別ですが」
『・・えっ!?』
召喚士が世の悪であるのならば、追う理由が正当化されてしまう。
『・・・話すかしら?』
「大馬鹿ですから、どうでしょう」
『ここまで来れば何とか出来ると思うんだけど・・』
最悪、第一、第二のダンジョンを切り捨てる事で、追跡を躱し逃げ延びる事は可能だ。
「全く別件ですが、ご提案があります」
『へぇ!? 何かしら?』
ジャニの心配の話など、どうでもいいかの様に話題を変える。
「今の所、外出できるメイドが一人だけです」
『その通りね』
基本はダンジョンの移動を正確に行うためだから、一人で十分と考えている。
「もしジャニ様が居なくなれば、心もとないと言わざろう得ません」
『ま、まぁそうよね』
あっさりとジャニが居なくなるという、メイド長に戦慄を覚える。
「あれでも、かなりの戦力があった事は事実です」
『あれでもって、ちょっと酷くないかしら?』
もしかしてジャニは、自分に隠れて、メイド長に酷い事をしていたのだろうか。
「戦闘力、索敵能力、隠密性などが高い、外出部隊を準備しておくべきかと」
『部隊って大げさでしょう。しかも外出・・なんて?』
途中でメイド長の真意に気付く。この娘ったら照れ屋さんと微笑ましく思う。
『・・詳しく』
「畏まりました」
ダンジョンではダンジョンで、悪巧みが始められる。
魂の抜け殻の様になったジャニを気遣いながらも見送ると、誰かにでは無く尋ねる。
「どう思う?」
「言葉もありませんな」
「いくら里のしきたりとはいえなぁ」
オウグやジューラの言葉にフォールのメンバーが頷く。
「多分、あいつの真実なんだろう」
部外者が立ち入れる問題では無い。事実の確認は必要だろうが。
ノックの音がして、職員が来訪者を告げる。全員が顔を見合わせ首を振る。
「構わん、通せ」
しばらくして、男女合わせて10名が別室に入って来る。
「初めまして。六ノ領を拠点とする魔物使いです」
「!?」
今まさに話をしていた件の魔物使いたちが目の前に現れる。
「こちらの五名の魔物使いが居ると聞いてきました」
彼らは僅かな手がかりを集め、何とかここまでたどり着いたと事情を説明する。
「彼らは今どこにいますか?」
その言葉に全員が沈黙で答える。
「・・・!? まさか!」
魔物使いたちが顔を見合わせ、既に犯罪に手を染めてしまったのではと考える。
「何があったかお聞きしても?」
古株パーティのリーダーが代表して、ジャニと一連の話を語って聞かせる。
「もう少し、もう少し早く来れていれば・・」
仲間同士の殺し合いと言う結末に、各々深い悲しみに包まれる。
「今回の一件で何か知っている事は?」
魔物使いたちのリーダーらしき人物が、苦々しげに知っている事を話す。
「魔物使いの一部に、自分たちの不遇を召喚士のせいにする者が居ました」
「はぁ? 過去のしかもあれ冤罪だった話だろう」
思わずジューラが口を挟むが、皆の視線が黙って聞けと言っていた。
「その者達は、魔物使いたちの思想を一つにするため、禁忌を冒し離反しました」
「禁忌とは?」
里の方にあったしきたりの禁忌では無く、魔物使い本来の禁忌であろう。
「人間に魔物使いの力を使う事。
悪魔の儀式、すなわち洗脳であり、人間に対する強制従属化です」
「なっ!?」
「召喚士は悪の存在で、殺す事が出来るのは魔物使いだけであると刷り込む事で、共通の敵を作りつつ、魔物使いの意味を見出そうとしました」
ジャニの昔の仲間たちは、召喚士を殺すように洗脳されていた。
これが真実。全てのピースが出揃い、これで一連の出来事が一つに繋がる。
重苦しい雰囲気ではあるが皆は知っていた。
何処にでもある話だと。
それが身近の知り合いで起こってしまっただけなのである。
沈黙の中再びノックされ、来訪者がある事を告げる。
「随分と客の多い日だ」
全員に来訪者の入室を確認すると、溜息と共に許可をする。
入ってきた人物が女性だった事と、身なりと美しさの場違いに全員が唖然とする。
「皆様、初めまして。五ノ領の領主の娘です。ディズとお呼び下さい」
「そのディズ姫がどのような用件で?」
不遜とも取れる対応にも、さして気にした様子は無く話をする。
「要件は・・、そちらからの依頼の件です」
「!?」
古株パーティの面々が顔を見合わせ、他の参加者は首を振る。
それぞれの違った態度に、彼女は「おや?」と首を傾げる、と同時に轟音と激震が建物を襲う。
「「「なっ!?」」」
「もう、待つ様に言っておいたのに。どうしてあの方は大人しく出来ないのでしょう!」
彼女の発言に、古株パーティのリーダーが問い質す。
「何が起こっているか分かるか?」
「多分、レオ様・・は勇者ですが、ターゲットと接触したかと」
勇者たちへの依頼は、既にこちらで完了したばかりで伝わりようが無い。
「ちっ! ディズ姫、依頼はキャンセルだ」
「え? えっ!? ど、どちらにせよ、レオ様を止めに行かないと」
主だったものが慌てて、ジャニと勇者レオを探しに飛び出していく。
城門をくぐり町を出ると、草原にクレーターが出来ていた。
「これか!? さっきの音と揺れの原因は」
「しかしどうやったこんな風になるんだ?」
各々が口にする言葉に、ディズ姫は内心、勇者様だろうなーと確信していた。
クレーターの先には小山程の大きさの虹色に輝くスライムが居た。
「おいおい。なんだありゃ?」
「カイザースライムですね。目に見えない大陸にしか居ないはずなんですが」
スライムを挟んで二人の人影を見る。片方は地に倒れ伏している。
「あぁ!? 倒してしまったら依頼達成になりません」
「今そこ!? そこじゃないよね、大切な事は!」
この姫様は、大概の性格を持っている様である。
少し時を遡る。
フラフラっと町を出た所で、20歳位の黒い髪と黒い瞳の青年に声を掛けられる。
「俺はレオって言うんだけどさ、ジャニってやつ知らない?」
「ジャニは俺ですが・・、人違いでは?」
「ありゃりゃ、そっか・・」
いきなり剣を抜き切りつける。皮一枚と言う技量を見せつけられる。
「ッ!?」
思わず飛び去り、右腕で短剣を構える。
「うーん、反応も動きも今一。短剣の構えもほとんど素人同然か・・」
「いきなり何なんです、あなたは?」
自分の考えにニヤニヤしている姿は、別の意味で危ない人だ。
「加えて正体不明とくれば・・、やっぱ訳ありだよな」
全く人の話を聞かないならと、思考にどっぷり浸かっている間に逃げ出す。
「悪いがお前の事を聞かせて・・って、おい、逃げるな!」
話しの途中で居なくなった事に気付いて文句を言う。
追い掛けようと走り出だそうとすると、その前にジャニが立ち止まる。
うん?とたたらを踏むとジャニの傍に、人の二倍近い大きさの猿が突然現れる。
「なっ!? 一体何処から現れた?」
「(あいつ何者だ?)」
高い剣技を持っている。魔物使いではないが時期的に無関係ではないだろう。
辺りを見回し、自分が事前に描いておいた魔法陣へ一目散に走りだす。
パワーコングを【喚起】すると、すぐに別の魔法陣へ移動する。
「何でこんな所に、こんな魔物が居るんだ?」
パワーコングを一刀両断にすると、トカゲの様な魔物が足元に襲い掛かる。
跳んで攻撃を躱しながら首を刎ねた所へ、ツバメの様な魔物が向かってくる。
「ちょっ!?」
レオの周囲に放電が起こり、魔物を迎撃する。
「(なっ、何が起きた?)」
レオは転がるように地面に降り立つと、全身を蟻の魔物に覆い尽くされる。
振り払うのは不可能と判断したのか、自分ごと炎で周囲を焼き尽くす。
「(魔法なのか!? これじゃ魔法陣も詠唱も間に合わない!)」
後ろ手に隠している左腕に握っているスクロールに魔力を込め【喚起】する。
「何だこの魔物たちは? あいつが何かしてるのか?」
流石にこれだけの種類の魔物に連続攻撃を受ければ、嫌でも原因が分かる。
「えっ!? 血色の・・オーガだと?」
全ての魔物を倒した後、目の前には普通のオーガより二回りは大きい血色のオーガが居た。
全身の闘気を高めつつ、剣に魔力を込め、血色のオーガの頭上へと跳躍する。
全ての力を剣の振り抜きに合わせて解放する。
閃光と轟音と衝撃の後には、クレーターだけが残されていた。




