魔物使いたちの狂宴
魔物使いたちの狂宴
しばらくすると監視をしている魔物から、それらしき人物の通知が来る。
出来る限りの準備を済ませると、町の城門から離れた場所で待つ。
「ふん・・、です」
前方に人影を見つけると一人呟き、跨ったブラッドコヨーテの歩みをゆっくりな物にする。
「出迎えとは殊勝な心掛けです。
左腕はエイプお兄ちゃんですか」
人影の目の前まで来ると、薄笑いで語りかける。
「犬の魔物の上位種でやって来たんだ。てっきり熊だと思ったよ」
「・・どういう意味です?」
何故では無く、どうして?という感じで聞き返す。
「言った通りだよ。
あと何故、正面から一人で戦おうとするんだい?」
「たかが召喚士相手に・・」
「戦う前に相手を知り、出来る事は全て準備しておく事は学ばなかったのかい?」
「煩いです! 何を偉そうに」
淡々と説教じみた事を言うジャニに怒りを露わにする。
「髪を伸ばしたんだね」
おかっぱだった髪は、腰位まで伸びている。
「さっきから何なんです。もう直ぐに殺すです」
メイは要領の得ない会話に苛立ちを露わにする。
その言葉を聞きジャニは残った右腕を挙げると、10匹のリトルウルフが集まってくる。
「プッ、流石は召喚士様。偉そうな事を言ってもこんなもんですか」
さっきまでの怒りの表情は消え失せ、嘲る様に笑い出す。
「あの森で良く出没するのは、犬や狼系の魔物だ」
「・・はぁ!?」
「そしてメイが【捕獲】出来る魔物で、一番強いのは熊系だろう」
「・・何なんです、一体」
嘲りの表情は一転して、眉をひそめ困惑の表情になる。
「メイならどんな魔物を連れて来るかなって。
犬系なら【合成】が何度か成功して上位種に、そして熊ならキラーベア辺りを【捕獲】したんじゃないかなってね」
「ッ!? 何故それを?」
自分の手持ちの魔物を知っている事に動揺する。
「勉強したんだよ。これから戦う相手の事を知るのは大切なんだ。弱いからね」
「どんなに勉強しても無駄です。もう死ぬですから」
コヨーテの上位種である、ブラッドコヨーテから降り一歩下がる。
「ねぇメイ。ソニックファルコンって知ってる?」
「はぁ? なんですそれは?」
いきなり知らない魔物の話を振られ、真意を掴み兼ね顔が曇る。
「ハヤブサ系の魔物でね。ウィンドブレードの魔法が使えるんだ」
ジャニの右腕が振り下ろされる。
「今更何をしようと・・えっ!?」
ヒュンっと音がしたかと思うと、ブラッドコヨーテが切り裂かれ、地面に倒れる。
「えっ!? えっ? なん・・で?」
「相手の事を知っていれば、分かったかもね」
ハッとすると撤退しようとするが、直ぐにリトルウルフに囲まれ攻撃を受ける。
「ひぃ!? 嫌! 痛い痛いぃ。ごめんです。許してです」
泣き叫びながら許しを願うと、リトルウルフの攻撃が止まる。
「え!?」
「二度と俺の前に姿を現さないって約束するなら逃がしてやるよ」
「分かりましたです。約束するです」
そう言うと振り返る事無く、逃げ去っていく。視線の先には熊の魔物が見えていた。
一歩でも早くと駆け寄り飛び乗ると、勝ち誇った表情でジャニの方へ振り返る。
「これがキラーベアです。もう絶対死・・え!?」
振り返った先に居たものを見てギョッとする。
金属のような光沢を放つ一匹の虎が、ゆっくりとこちらに向かって来ていた。
「何なんです・・、それは?」
「分からないのかい? ちゃんと相手を知らなくちゃ。これはメタルタイガーだよ」
メタルタイガーは、キラーベアに攻撃を仕掛ける。
キラーベアの背に乗っていたメイは、あっという間に地面に放り出される。
「ぐぅ! ・・えっ?」
物理防御に優れているメタルタイガーは、爪や牙の攻撃を物ともしない。
圧倒的な戦力差で、既に死骸となったキラーベアを呆然と見つめる。
「もう終わりだよ」
「っ!?」
恐る恐る後ろを振り返ると、リトルウルフに囲まれ向かってくるジャニが居た。
「ヒィイィィィ」
悲鳴を上げ一目散に逃げたすメイに、「やって」と一言呟く。
後ろからメタルタイガーが牙をむく。ドサッという音と共に血まみれのメイが倒れる。
メイの体を両手で抱えると、森の中に横たえる。
監視をしている魔物たちから、次の戦いの場所の方へ足を向ける。
「(何か変ね)」
マチは三つ目の村の近くまで来て、違和感に捕らわれる。
最初の西の村で、獲物の臭いを見つけほくそ笑む。
慌てて気を引き締め直し、注意深く調べるが獲物の存在を確認出来ない。
次の村でも同じぐらいの臭いを見つけ、村々を回っているとの考えに至る。
そしてジュンの囲い込みの意味を理解する。
三つ目の村でも同様で、これは先を越されるかもと思っていた時の事だった。
「(一旦、みんなを集めましょう)」
群れのボスであるコヨーテリーダーに、召集を命令すると10匹居る筈のコヨーテが半分になっていた。
「(どういう事?)」
急ぎ他のコヨーテに追わせると、すべて死骸となっていた。
「(いつの間に狩られたの?)」
お互いがいくら距離を取っていたからとはいえ、敵の気配に気づかないとは考えにく。
そして五匹いたはずのコヨーテは、既に四体となっていた。
「(獲物に狩られるとは、良い恥ね)」
油断なく周囲を見回すと、グゴキッと音がする。そちらを向くと目を見開く。
「どうやって・・」
一体が倒されているのを見て、思わず口にする。
自分だけで無く、魔物でさえ気づかない程の敵が近くに居る事に緊張が走る。
残った魔物たちを自分にピッタリと寄せる。
視界の端に人影らしきものを見つける。傍には10体程のリトルウルフも見える。
「(居たわね)」
此処からはかなりの距離がある。気付かぬ振りをする。
フェイクを交えながら、少しずつ少しずつ近づいて行く。
半分までの距離を詰める。ギリギリではあるが残りの四体に攻撃を命じる。
逆方向に回避行動を取りながら、同時に状況を確認する。
コヨーテ一体に付きリトルウルフが三体、多分負けるであろう。
コヨーテリーダーはと探すが、既に倒されていた。
「なっ!?」
人影が近づいてくる。既に退路も絶たれ、自分の敗北が確定を知る。
「こんなに簡単に負けるとはね。結構自信あったんだけど」
目の前にジャニが現れると、自分の魔物を倒した魔物を聞いてみる。
「私のコヨーテたちを倒したのは何?」
「カモフラージュボアだよ」
「何それ!? 聞いた事無いわよ」
「たいした事ない。姿、音、気配、臭い、魔力でさえ周囲と同化させるだけ。
ただし自分のより強い魔物にはバレバレだけどね」
ボアが迷彩を解いて姿を見せる。
「とんでもないわね・・。こんなのが居るなら負けて当たり前だわ」
「もし魔物使いのままだったら、こっちが負けていたよ」
ジャニの物言いに引っかかる物を感じ聞いてみる。
「どういう意味よ?」
「・・何故一人で来た? それが魔物使いか?」
「えっ!?」
メイにも発した同じ質問に、視線を漂わせて考えるが答えは無い。
「終わりにしよう、マチ」
「見逃しては・・、貰えないわよね」
あり得ないだろうとは思いながらも、命乞いをする。
「二度と俺の前に現れない事を約束するなら」
「・・約束するわ」
それを聞くと黙って背を向けて、その場から立ち去ってしまう。
「ふぅ・・、本当に見逃してくれるとは」
弓を取出し、猛毒が塗られた矢を番える。
「甘いわね・・、ぇ!?」
一瞬で全身が何かに巻きつかれ、体中の骨の砕ける音と共に地面に倒される。
「カモフラージュボアが、何故一体だけだと思った?」
首だけマチの方へ向けると、既に聞こえないと分かっていても呟く。
そして東の村から動かない、魔物使いと思しき人物の所へ向かう。
自分の傍にいる魔物たちが、一方向を向きを警戒し始める。
木々の間からジャニが姿を現す。傍には魔物は居ない。
「へぇー、マチを倒すなんてね」
「やっぱり皆を使って、囲いこみをさせたのはジュンか」
村のほぼ中央にある広場で、二人は対峙する。
「もしかしてメイもかい?」
「あぁ、その通りだ」
「二人は強かっただろう?」
「そうでもない。エイプが一番強かったよ。左腕を持って行かれた」
孤児院の仲間四人の中で、一番弱かったエイプを強いという言葉に首を傾げる。
「うん? エイプが? 四人では一番弱かったんだけどね」
「それでジュン、お前はどうする?」
聞きたかった質問の答えは無く、他の質問が来る。
「どうする・・、とは?」
「俺を倒すのかって事だよ」
右手で顔を隠す様にしてから、さも残念そうに言う。
「僕は皆より弱いから逃げ出したいんだよ」
「その割には村から動かず待っていたじゃないか」
「一応マチとの待ち合わせの最後の村だからね」
ジャニの指摘に、特に意味は無いという風に応える。
「俺が来るとは考えもしなかったと?」
わざわざ村の真ん中で、敵味方関係なく待つとは考えにく。
「フフン・・」
図星だったのだろう。自分の考えが読まれ不機嫌になる。
「勝ち目のない戦いをお前がするとでも?」
「もしかして時間稼ぎかい?」
ジャニの答えを求めない質問は、何かを待っているのでは無いかと考え始める。
「何故、単独で俺を狩ろうとした?」
「終わりだよ」
ジャニの質問に答える事無く、傍のコヨーテに攻撃を命じる。
一瞬でジャニとの距離を詰め、引き倒し切り裂き食いちぎっていく。
ジャニが貪られる姿をニコニコと見ていたが、おかしなことに気付く。
「うん!? ・・血が出ていない?」
ヒュンと音と共に、ソニックファルコンが、コヨーテを切り裂いていく。
先程と同じ様に、ジャニが木々の間から出てくるのを目を見開いて見つめる。
「えっ!?」
「コピースライムだよ・・」
コヨーテと同じ様に、ソニックファルコンに切り裂かれて地面を転がる。
「グゥッ!?」
「村の中でなら勝てると考えて、此処を戦いの場に選んだんだろう?」
離れた距離からの攻撃ではあったが、体中に無数の切り傷が刻まれている。
「ははは・・、僕の負けだね」
「あぁそうだよ、もう終わりにしよう」
ジャニは目を閉じ開くと右手がゆっくりとジュンに向けられる。
「なぁ、見逃して貰えないかな・・」
右手の動きが途中で止まり、再び下ろされる。
「二度と俺の前に現れないでくれ」
ジュンは驚いたように目を見開くと、微笑んで起こしてくれと右腕を差し出す。
「約束する・・よっ!」
ジャニの右手首を捕え自分に引き寄せると、左手を突き出す。
握られていた毒薬が顔に撒き散らされると、全身がドロッと溶ける。
「コピースライム!? 何時の間に?」
スライムから転がる様に離れ、最初に引き裂かれた方を見る。
「そっか・・、二体居たんだね」
至近距離からのウインドブレードを受ける。
森の中からジャニが姿を見せ、ジュンに向かってもう一度問い掛ける。
「何で魔物使いとして、何で皆揃って狩りに来なかったんだよ」
既に事切れているジュンからは、何も答えは返ってこない。
三人から集めた冒険者証を持って、冒険者ギルドへと向かう。
オウグはギルド会館に入ってきたジャニを見て、別人のかと思う程憔悴していた。
冒険者ギルドの窓口へ向かうと、笑顔の受付嬢に冒険者証を黙って三人分渡す。
「!? これは一体?」
手に取った冒険者証を見て、思わず大声を上げてしまう。
「この三人に襲われたので倒しました」
「なっ!?」
余りの出来事に、口をパクパクさせて言葉が出てこない。
「薬作りの拠点に居ますので、何時でも呼び出して下さい」
固まってしまった受付嬢をその場に残し、ギルド会館を後にする。
『左腕の具合はどう?』
「全く問題ない。本当に助かったよ」
仲間との戦いを想定して、再生薬で左腕を回復させていた。
油断させるために後ろ手で失ったままの振りをして、スクロールを掴んでいたのだ。
実際には、スクロールを使う事も無く済ませてしまったが。
いくら考えても彼らの行動はおかしかった。
魔物使いは、単騎で乗り込んでくる様な事は絶対にしない。そのように訓練を受けてきた。
しかも相手の力量が分からない内に、バラバラになる様な囲い込みを仕掛ける事も。
禁忌の召喚士であれば、それこそ徹底的な調査を行うと考えていた。
しばらくの黙考をどう受け止めたか分からないが、フェブが言葉を発する。
『昔の仲間・・、全員倒せたんだ』
「あぁ・・」
倒せたという言葉に、二つの意味を感じる。殺した事と生き延びた事と。
それ以上その事には触れず、他の事を尋ねる。
『里の人たちは来ると思う?』
「・・どうだろう」
禁忌とまでしている位だ、多分来るのだろう。
それは四人の死を知ってからなのか、既に動いているのかは分からない。
『冒険者ギルドから呼び出しはあるかしら?』
「絶対にあるな」
人を四人も殺しておいて、音沙汰なしはあり得ないだろう。
『どうするのよ?』
「これだけ大事になれば隠しようが無いからな・・。全部話すよ」
全てを話さなければならない事態に発展している事は確かだ。
『逃げちゃえば?』
「・・それもありかな。匿ってくれるか?」
『もちろん』
ダンジョン解放のため、第三ダンジョンの構築を計画し、西の村から一か月程進んだ第四ノ領と第五ノ領の境辺りに作る事を決めていた。
既に第二のダンジョンを元に、大体の構築は終わり、魔物もDPで購入してあった。
あとはDP稼ぎの階層と引っ越しを待つばかりとなっている。
魔物の【召喚】はジャニが現地で行う必要があるため進めようが無い。
そして直ぐに、冒険者ギルドから呼び出しが掛かる。




