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ダンジョンの同居人  作者: まる
仲間と
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戦いの始まり

戦いの始まり





商業ギルドへ、主都での生活拠点を確認のために町へ出かける。

それは建前で、本当は各ギルドの動きを調べるためである。


ギルド会館の扉を開くと、オウグが待ってましたと別室へ連れて行く。




「冒険者ギルドの・・、暴走ですか」


物件の紹介の合間に、先日の冒険者ギルドとのやり取りを話す。


「そこまでとは言いませんが・・」

「功を焦っていると?」

「そう言えば、そんな感じですね」


顎に手を当て、少し考えるように視線を宙に向ける。


「この町の冒険者ギルドは、ダンジョンと言う手柄を独り占めしたいのかもしれません」

「独り占めって・・、出来るものですか?」


幾らダンジョンからの利益が莫大と言っても、一組織でどうにか出来るものではあるまい。


「町や村、商業ギルドはダンジョンからの利益は計り知れない。

しかし冒険者ギルドは違います」

「何故ですか?」


ダンジョンからの利益が、冒険者ギルドに回らない理由が分からない。


「冒険者ギルドは通常、依頼によって成り立っています。

しかしこの町は開拓のために専属の冒険者が居る、形だけのギルドとなっています」

「そうなんですか?」

「冒険者ギルドの本部から横やりが入る前に、自分たちの手柄にしておきたいと考えたのでしょう」

「そこまで手柄の取り合いをしなくてはならないのですか?」


ダンジョンという存在の影響力に驚きを隠せない。


「普通ギルドの長なんてなりたがりません。

なのにわざわざ開拓の町に来る位です」

「何か人物的に問題か、特別な理由がある?」

「そこまでは何とも・・、まぁ前例もありますしね」


不良パーティを指しているのだろう。

冒険者ギルドというよりは、寧ろギルド長代行に何かありそうである。


「商業ギルドを差し置いて、話は進めさせませんよ」


オウグは商業ギルドが、冒険者ギルドを押さえると言い切る。




「それで主都の物件はこちらでよろしいですか?」


広々としたリビングを兼ねた台所、風呂と二部屋の付いた一階部分、二階には四部屋あり、更に屋根裏部屋がある。

希望の地下室も一部屋あり、井戸付の庭まである邸宅である。


「ずいぶんと立派な家ですね、良いのですか?」

「構いません。さる成功した商会がもっと便の良い所にと引っ越された後の物です」

「なら結構な金額だったのでは?」

「金額が折り合いつかず売れ残っていました。

全部こちら持ちですからお気になさらず」


かなり良い物件に違いない。

ダンジョンの一件で上手く丸め込んだのだろう。


「分かりました。この家でお願いします」

「早速手続きを致します。

主都の商業ギルドに行って頂ければ引き渡しされます。

表向きはダンジョンの用地買収のためと話をしてあります」


ダンジョンの協力者うんぬんは内緒ですと付け加えてくる。


「準備が出来次第、そちらへ行きます。

一通り住める様にしてから戻ってきますが、その後で拠点の引き渡しで良いですか?」

「それで構いません」


時間が掛かっても良いのは、冒険者ギルドとの駆け引きに使うつもりだろう。






物件の契約を取り交わし、別室を出るとフォールの面々とバッタリ会う。


「先日はお疲れ様でした」

「いやいや、こっちは良いトレーニングになったよ」


護衛という事もあって、前回は殆ど会話が出来なかったため話が弾む。


「最近は魔物と戦ってなくてよ、腕が鈍ってるって感じがしてさ」

「へぇー、それでどうでしたか?」


訓練や巡回と、実際の戦闘で得られる経験に違いがあるのだろう。


「久しぶりの戦闘で、いい緊張感があったよ。

あと、なかなか先に進め無くてな」

「魔物が強すぎましたか?」


最初の部分は作り直したばかりだし、どのような魔物を配置したか分からない。


「いや魔物のレベルは高くない、寧ろ低すぎる位だ」

「それなのに簡単に先に進めないと言うのは、どういう事でしょうか?」


フェブとしては、一応最初の関門という事で弱い魔物を用意したようだ。


「それはそうなんだが、戦闘回数がな・・。

時間湧きと言うのも戻る事を考えると結構きつい」


作り直した際に、一定時間が過ぎると魔物が湧く仕様に変更している。


「セーフティスペースなどがあれば良いのですかね?」

「出来ればそういうやつがあれば助かる」


本来ダンジョンの難易度は、階層の深さや魔物の強さ、トラップの種類などから総合的に判断される。

あまり進みにくいと難易度が上がり、高ランカー向けになってしまうので、安全に休息を取れる案を提示してみる。


「ダンジョンの解放はまだ先ですし、体験者として意見をギルドに上げたらどうです?」

「そうするか。ギルドがどう判断するかは分からんが」


こう言う調整が出来るのは、共存ダンジョンならではであろう。


「まぁ悪い事ばかりじゃなかったがな」

「何か良いことありましたか?」

「ダンジョンから帰って、適正職見てみたら、全員増えてたよ」

「へぇー、おめでとうございます。内緒で何かプレゼントしますよ」

「期待してるよ」


どんな装備が良いとか話し込んでいると、後ろから声が掛かる。


「少しよろしいですか?」

「へぇ!?」


振り返ると、冒険ギルド長代行の秘書が立っていた。


「あぁ、、先日はどうも。何か御用ですか?」

「お話したい事がありまして、お時間を頂ければと」

「構いませんよ」


フォールトの話を切り上げさせられ、別室へと連れて行かれる。


「先日ダンジョンコアとの話し合いにあった商業ギルドとの協調です。

何とかなりませんか?」

「・・はぁ!? どういう事ですか?」


フェブとしてはどうでも良い事だか、ジャニの引っ越しは譲れないと考えている。


「あのダンジョンは、既に共存ダンジョンとして認定されています」

「ええ。その話は聞いています」

「後は解放を待つばかりの状況となっています」

「そうですが、受け入れの準備が・・」

「本来、人が集まってから村や町となっていきます。

大きくなったから人が集まる訳ではありません」

「そうですが、何か急ぐ必要があるのですか?」


確かに秘書の言い分には一理ある。

しかしダンジョンの解放を急ぐ理由にならない。


「町の受け入れを待っていたら、あと二か月は掛かるでしょう」

「その程度で終わるのですね」


敢えて早くに準備が完了する事を強調するが、お構いなしに勧める。


「他のギルド支部からの催促や情報を求める声が、日毎に増えています」

「それでどうしろと?」

「受け入れ準備が出来たと、ダンジョンコアに話して欲しいのです」


どうやら冒険ギルドの中で、何かゴタゴタがある事は確かなようだ。


「入場制限がありますから、ご迷惑はお掛けしないと思います」

「勝手にやって、町や商業ギルドと揉めませんか?」

「根回しはしておきます」


少しの間考える素振りを見せてから、肯定的な回答をする。


「分かりました。根回しが出来たのであればという事で」

「有難うございます。早速取り掛かります」


別室を後にしながら、先程のオウグとの話と照らし合わせて無理だろうなと思う。


ギルド会館を出る時、オウグと目が合い、チラッと冒険者ギルドのスペースに視線を送り、肩を竦めて見せると、憐れむ表情で首を振ってくる。






会館から出ると、男性と連れの魔物の後姿を見止める。


黄色がかった茶色い髪をお坊ちゃま風に切った、ちょっとポチャリ気味の男性。

思わず声を掛けてしまう。


「・・エイプ?」

「うん?」


エイプと呼ばれた男性は振り返ると、目を見開き一瞬驚いた表情を浮かべる。

そしてすぐさま転がるように離れると同時に、傍にいた魔物をジャニに襲わせる。




エイプは自分が致命的なミスを犯したと痛感していた。


前の町まで一緒だった仲間のジュンから、開拓の町で調査をするために分かれる。

町の周辺で魔物に獲物の匂いを調べさせるが、はっきりと嗅ぎ取れない様子だった。


町では慎重に警戒しながら、獲物の匂いを調べ、ギルド会館で他より強い反応を感じる。


冒険者登録をしたとの情報は、今まで確認出来ていない。

それなのに何故かは分からないが、ギルド会館を利用するために頻繁に足を運んでいる。


ジュンと合流するまで、ギルド会館を中心に入念な調査をする。


此処からエイプの致命的なミスが続く。


町で一泊して、追い付くであろうジュンの匂いを探させてしまう。

その結果、獲物の方から声を掛けられる、つまり見つかる事になる。


魔物使いの習性で、敵との距離を開け様とするため、相手に隙と時間を与えてしまう。

僅かとはいえ遅れて、魔物に攻撃命令を出す事になった。




ジャニは、ほんの少しの幸運に恵まれていた。


その時まで自分の立場を忘れていた、逃亡者である事を。

明らかに油断ではあるが、それだけ幸福な時間を送れた証しだろう。


エイプと思しき人物を見かけた時、孤児院の記憶がエイプに声を掛けさせる。

しかし、何故昔の知り合いが此処に?と問いかける存在が居た。


転がるように離れる時、何故逃げるんだと言う思いがあった。

しかし、攻撃が来ると感じる存在が居た。


魔物使いの魔物と違い、【召喚】された魔物は、意識下で繋がっている。

そのため明確な命令が無くても、動く事が出来るのだ。


もう一人の存在が攻撃されるとの意識は、護衛を兼ねたグレートバーナードに伝わった。

主人にして召喚者を守るために、三体は瞬時に動き出す。




お互いのわずかな差が、お互いの運命の天秤を、ジャニの方へ傾ける事になった。



グレートバーナードは、魔物としては比較的おとなしく、戦いは不得手である。

しかし魔物である以上、戦闘が出来ない訳では無い。


グレートバーナードの一体が、ジャニの前に出て立ち塞がる。

エイプの魔物は、グレートバーナードの喉を爪で引き裂きながら乗り越える。


二体目のグレートバーナードが、その僅かな隙に横から魔物の喉元へ喰らい付く。

ジャニもその動きに合わせ、体を捩じる様に躱す。


首を狙った攻撃は逸れるが、左腕を噛み千切られる事になる。


「グゥガァァァァァ!」


敢えてあらん限りの声で悲鳴を上げ、膝と右手を地面に着ける。


体勢の完全に崩れた魔物の腹へ、残りの一体が牙をたてる。

エイプの魔物は二体を引き剥がすため、身を捩り手足の爪でひたすら切りつける。


エイプは状況から撤退すべきと判断し、逃走のため後ろへ振り返る。


そのため彼はジャニの足元の魔法陣を見ず、詠唱も聞く事は無かった。


「−の森。ブレードスワロー。加速を付与・・【召喚】。あの敵を討て」


魔法陣より鳥型の魔物が高速で飛び立ち、エイプを襲う。



ブレードスワローは、掌ほどの大きさの鳥系の魔物で、その名が示す通り翼が刃で出来ており、飛行しながら獲物を切り刻む。


ブレードスワロー一体であれば、回避も反撃も不可能では無い。

しかし加速を付与された超高速攻撃のブレードスワローを回避するのは至難の業である。

ましてや逃走のため後ろを向いていたエイプには、魔物を見る事すら許されなかった。


「!」


声をあげる事すら出来ずに、全身を切り刻まれ大量の血を地面に流しながら転がる。



ブレードスワローが命令を終え、煙のように消えるのと同時に、ジャニの悲鳴を聞いた人々がギルド会館から飛び出してくる。






ギルド会館で処置をした後、引き止められるも自宅に居ますと言って町を出る。


『エリクサーとか、ネクタルとか、神丹とか言った再生薬出そっか?』

「今は不味い。ダンジョンに来ている事になってないから」

『それはそうだけど・・』

「しかし自作の薬を、自分に使う事になるとはな・・」

『運が良いんだか悪いんだか』




あの騒ぎの後、フォールのメンバーやオウグ、冒険者ギルドの職員が総出で対応していた。


ジャニの怪我を見るなり、直ぐに止血と常備していたジャニ作の薬で治療が行われる。

エイプは既に息絶えており、魔物たちも敵味方関係なく同様であった。


治療が一段落すると、簡単に状況の説明を求められ、出来る限り正直に回答をする。


詳細は後日という事で解放され、薬作りの拠点から、ダンジョンに戻っての会話だった。




自分を追っている昔の仲間からの攻撃である事を伝える。


『しかし何故見つかったのかしら?』

「分からない。

いくら逃げた方角に目星が付いているとはいえ、こうも早く追い付かれるとは・・」


ニノ領から四ノ領までを、わずか一年で調べる事は不可能と考えていた。


『他の人たちも来るのかしら?』

「・・多分来る。いや、もう来ていると考えるべきだ」

『どうするの?』

「もう隠すとか逃げるという状況じゃない」

『話してくれるのよね? 全部』


フェブを守るという事以外、殆ど自分の事を話さずに過ごしてきた。


「ああ、もちろん聞いてくれ。その上で俺の事をどうするか決めてくれ」

『分かったわ』



ジャニは、ダンジョンに出会うまでの事を全て話した。

自分が魔物使いになりたかった事。

召喚士は邪悪な存在である事。

自分の適正職が召喚士だけである事。

そして里と昔の仲間に追われ逃げている事。

そして自分の中にもう一人ディズという存在が居る事。



『召喚士が邪悪な存在ねぇ・・。まぁ、あなたのとんでもな能力を見れば分かるわ』

「やっぱりそうなるよな」

『でもあなたが悪いんじゃなくて、使う人間に問題があるんでしょう』

「それはそうなんだが・・」

『やっぱり人間て馬鹿よね』


フェブは、ジャニの思い悩む姿に、改めて考え深く人間の愚かさを指摘する。


「で、どうする?」

『どうするって?』

「冒険者ギルドにおれを引き渡さないのか?」

『引き渡す? 何で?』

「邪悪な存在なんだぞ? 引き渡せば立場的には有利になると思うが」

「失礼します」

「ん? ゴガァ!?」


突然のオートマトンのメイド長が現れ、ジャニに右ストレートを喰らわせる。


「申し訳ありません。フェブ様が一発殴れと」

『あんたね何言ってる訳? あなたが召喚士だとかどうでもいいのよ! ワタシには全く関係ないの。

ワタシとあなたは一心同体・・って、あれ?』

「申し訳ありません。少々強く殴り過ぎたようです」


細腕のメイド長とはいえ、オートマトンの不意打ちの一撃は、ジャニを気絶させるには十分だった。





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