大切な事なんだ
大切な事なんだ
ジャニは、ダンジョンコア自身の生き方?を探すという約束を交わした後、大切な話があると切り出す。
「住まわせて貰うに当たって、とても大切な話があるんだ」
『大切な話って?』
コアである自分に向かって大切な事と言う。間違いなくこれからに必要な事なのだろう。
しかし告げられた言葉に理解が追い付かなくなる。
「生活費の事何だが」
『・・・・はぁ!?』
「知らない? お金の事だよ。生きること全般に使うお金の事」
『・・・・』
何でそんな話をと唖然としてしまう。お金などダンジョンが考えるはずが無い。
これが大切な話?とショックから回復すると、率直に聞いてみる。
『知ってるわ。お金をどうしろと?』
「えっ!? 養って貰えるんでしょう?」
『養うって・・、住むってそういう事なの?』
「だって此処に住むためには、必要最低限の物は必要になるから」
ふと此処までどうやって、ジャニが生活してきたのか聞いてみる。
『あなたは、今までどうやって生計を立てていたの?』
「うーん、狩りして素材を売って、必需品買ってた」
『そうすればいいと思うんだけど?』
今まで通りにするのはどうと勧めてくる。
すると顎に手を当て何か深い事を考える表情になるとポツリと呟く。
「ふむ。そうなると(まずい)・・」
『そうなると?』
「守りにくくなるな
(ヒモとしての立場が逆になる)」
『えっ!?』
その一言に愕然とした様で、慌てて説明を求められる。
『ちょ、ちょっと、どうしてそうなるのかしら?』
「いいか? ちょっと考えて欲しい。
自分の生活をするためには、どうしてもお金が必要になる。
お金のためには働かなくちゃならない。
そうなればどうしてもダンジョンを出る必要が出てくる」
『まぁ、そうね・・』
「良く考えてくれ? 俺の生活を優先したら、キミに手が回らなくなるぞ」
『うーん・・』
自分がヒモになりたい事は隠しながら、生活費の必要性を説いていく。
しかし恐るべき思いもよらない一言が、ジャニを戦慄させる。
『確か・・、家で養ってもらって、家の人が不在の間、家を守る職業ってあったわよね』
「なっ!?」
ダンジョンコアが、情報を調べている間、まずいと全身を冷や汗が流れる。
『あったあった。自宅警備員って職業ね』
「へ、へぇー。そんな職業があるんだ。
ま、まぁダンジョンコアは不在になる事無いから、ち、ちょっと違うかも」
『そういえばそうね』
自分の望む職業に気付かれず安堵する。どちらも大して変わらない事には気付いていない。
『でも払える物なんで何もないわ。あればあなたを追い出しているもの?』
「うーん、なんか無いのか?」
『やっぱりワタシの体が目当て?』
「はぁ!?」
『ワタシの体を自由にしたいがために・・』
「お・ち・つ・け」
思考がおかしな方向に進むのを止める。
「いいから落ち着け」
『はーい』
変わり身の早さと笑いを堪える感覚に、ワザとからかったとの思いに至る。
「借主が大家をどうこうするはずがないだろう」
『どうかしらねー』
分かっているわよっと、何か頭をいい子いい子されるイメージが伝わってくる。
「はぁ・・。もう少し考えてみるか」
『そうしましょう』
実は召喚士の力を使えば、普通の生活をしながらダンジョンを守る事はさほど難しく無い。
此処まで来て働くのかと頭を掻くと、何か思いついたかの様に動きが止まる。
しかし自宅警備員という職業を知っているのだ、働きたくない事を悟られると、ヒモと言う職業も気付かれるだろう。
「なぁ、聞きたいんだけさ」
『うん? 何にかしら?』
「ダンジョンに宝箱とかアイテムがあるよな? あれどうやって用意しているんだ?」
『あぁ、アイテムの類ね。あれもDPで交換して出しているのよ』
その事か、といった風に明るく答えてくれる。
「なるほど」
『それがどうかしたかしら?』
「アイテムにはどんな物があるんだ?
『武器や防具に薬、素材、食料、それこそお金だって・・あるわよ?』
かなり重要な事に気付き、話の途中で疑問形で返してくる。
「それは俺の給料になら無いのか?」
『えっ!? 無理よ。いい? そもそもがそのDPが無い事自体問題なんだから』
「ちょっと待っててくれ。考えた方法を試してみるから」
『試すって、何をかしら?』
ジャニは階段を昇って行ってしまう。
『待って!? 捨てないで・・』
しばらくすると虎が現れる。直ぐに向きを変え階段を昇る。
『あら、縞々猫ちゃん。おかえりなさー・・。サヨナラなのね』
今度は獅子が降りてくる。さっきと同じ様に上に消えていく。
次はジャニが現れピースサインしてくる。思わず声を掛ける。
『いったいこれは何をしてるのかしら。いじめ?』
「まぁ見ててくれ」
まったく取り合わず、30往復程の階段昇降が行われる。
訳が分からずジャニと魔物が行ったり来たり、出たり入ったりするのを黙って見る。
そのため、ダンジョンコアは重要なメッセージに気が付かない。
『気が済んだかしら?』
「どうだ?」
『どうだ? じゃないわ。こっちが聞いているのよ? 何をしてたのかって』
全く説明を受けていない人が、何の結果を求められても分かるはずが無い。
「そっか、悪かったな。説明の前にDPを見てくれ」
『DP? たった1000DP・・1000DP!? 増えてるわ?』
「うんうん、上手くいったようだ」
『いったいどういう事かしら!? きちんと説明してくれるのよね?』
聞いている本人が一番知っているはずなのだが、やはり気付いていない様だ。
「俺たちが出入りしている事は分からないのか?」
『分かるわ。侵入しましたとか撃退しましたってメッセージがあるから』
「じゃあ、次にDPを得る方法は?」
『侵入者を倒したり追い出す・・事?』
ダンジョンコアが、ハッと気が付いたように言葉が止まる。
「分かった?」
『ジャニが出入りする度に、撃退したとしてみなされる・・』
「そういう事」
『すごいじゃない! これならDPが稼げるわ』
DPが稼げずに困っていた所へ、天の助けとばかりに縋り付く。
「納得して貰った所で、生活費の話に戻ろうか」
『何言ってんのよ。大変な事なのよ』
「はぁ・・」
ジャニにとっては、今までの話しから当たり前の結果で、何が大変か分からない。
『良い? 一回平均侵入者の撃退で精々50DP、退治で500DPなのよ』
「ふーん、それで?」
『ふーんって・・、ちょっと聞きなさい。いい? ダンジョンっていうのは1年で2万DPから、多くて10万DPの稼ぎがいい所なのよ?』
「まぁ良いじゃないか」
『良いかって・・、とんでもない事なのに』
ジャニのやろうとしている事は、ダンジョンの革命になるのに話しを聞かない。
「じゃあ生活費、つまりDPの取り分の話しに戻るぞ」
『取り分?』
「そう。稼いだDPの何割が、俺の生活費になるかと言う話だ」
『そっか。そのDPでアイテムを出せばいいのね』
「必要となる食料やお金なんかもだが、そういう事になるな」
『ふむふむ』
「基本俺が稼いでる訳だから、全額俺の物となる」
DPが手に入ると分かると、お互い少しでも取り分を多くしようと躍起になる。
『はぁ!? なにバカなこと言ってんのよ。
いい? 若い内からそんなお金を手にしたら身を滅ぼすわ。ワタシが預かります』
「没収!? それはいくらなんでもあんまりだ」
お金(DP)が絡むと人もダンジョンコアも醜くなるのだろうか。
『ワタシはあなたの事を思って言っているのよ』
「基本は俺が稼いで来てるんだよ?」
『それはそうだけど・・。せめておこずかい制が良いと思うわ』
「おこずかい制!?」
ジャニの養ってもらう(ヒモ)生活からも、おこずかい制が相応しい。
永遠に続くかと思われた醜い争いに、ダンジョンコアの一言で流れが変わる。
『どうかしら? しかも日々の生活費をおこずかいとしてあげるのよ』
「なるほど・・。歩合か」
頭を捻りながら考えるジャニは、ある提案をする。
『どうかしたの?』
「なぁ、おこずかい制じゃないけど、固定+歩合制でどうだろう?」
『・・どういう事かしら?』
「キミの気分で生活費を決められたらちっと寂しい。
基準となる部分を固定にして、それ以上は頑張りとして歩合にしてもらいたい」
『へぇー、面白そうね』
「で、俺の取り分が固定が8割の歩合が2割でどうだ?」
『うーん、固定0で歩合10割ね』
「・・理由があるなら聞かせてくれ」
ダンジョンコアが感情的にならず、考えてから答えを出しているので理由を聞く。
『頑張りが歩合な訳でしょう? だったらそっちが全額だと思うのよ』
「なるほど・・。でも最悪おこずかいが貰えない事がある訳だろう?」
『何か問題があるのかしら?』
ジャニがきちんと理由を聞いてくれたからか、コアも大人しく話を聞く。
「基本となる固定が、どうして必要にになるかを説明したいと思う」
『ふむふむ』
「一日歩けるのが歩数にして4万グラドゥス(32km)位だ。
この部屋は上の洞穴に繋がっている。一応洞穴の外まで出て戻って来るので、まぁ40グラドゥス(32m)位としよう。つまり一日1000往復する事になる。
一往復で10DPだから1万DPは一日に稼げることになる」
『えっ!?』
一日往復する回数が半端ではない事に驚く。得られるDPも凄い事になるが。
グラドゥスはこの世界の距離の単位で、人の一歩=80cmで表される。
「まぁ外で待たせている二体と回ったとしても、3万DP。その1割で3000DPなんだが、幾ら位になりそうだ?」
『ごめん・・』
「どうした?」
『お金に関しては、金貨何枚とか銅貨何枚じゃなくて・・』
「うん?」
『DPでお金入りの宝箱と交換するの』
「えーっと、つまり?」
『幾ら出てくるか分からないの・・』
「マジか・・」
中身はお金である事は間違いないのだろうが、額が不明なランダムボックスという事に唖然とする。
『宝箱にはランクがある上に、DPの高い宝箱が必ずしも高額を出すとは限らないの』
「うゎーを!? ちなみに3000DPで交換出来るのは?」
『一番下のランクが3個ね、宝箱には最低銅貨一枚は入っているはずだから・・』
「一日3アス・・って。一日の食費だけで8アスは必要だぞ」
一人が一日に必要とする小麦がだいたい4アス程である。
人並みの食事をするのには、最低でも12アスが必要になって来る。
アスとは、この世界の通貨の一つで、一番小さい単位である。
他の貨幣は以下の様になっている。
小銅貨=1アス
大銅貨=64アス
銀貨=4096アス=1デナリウス
金貨=8デナリウス=1アウレウス
『でもでも最低だから。運が良ければ金貨が出てくるかも?』
「最低ランクで金貨が出るか! 最低に合わせるべきだ。
その上で頑張って1000往復を超えて、お駄賃が1アスじゃあ、心が折れまくる」
確かに1000往復の労力が無しでは、やりきれないものがある。
これはダンジョンコアでさえも分かる事だ。
『た、たしかに・・。これが固定のおこずかいの部分て訳ね』
「せめて1000往復の労力に見合う分は確保しておきたい」
何故必要かを力説して、固定部分を認めさせる。
『そ、そうね。じゃあ固定給は3割にしましょうか』
食費が8アスとなれば、3回引けば確実に9アスは稼げる計算になる。
「もう一声! もう一声欲しい」
『ぐっ、粘るわね。流石に食材だけで食生活というのも成り立たないし。いいわ4割、4割よ。これ以上は出さないわ』
「よし良いだろう。固定給4割プラス歩合10割で」
『うー、でも、流石に12回引いて銅貨12枚は・・無いわよねぇ。ボラれたかしら?』
DPの取り分の事で、何やらブツブツと呟いている。念のため釘を刺しておく事にする。
「ちなみに町で食事付きの宿に泊まると、普通一泊60から70アス程掛かるから」
『なっ!?』
さっきの8アスはあくまでも一日に必要な食材の金額である。
大体宿一泊が、一般家庭4人暮らしの一日と同じぐらいである。
住宅費や食費、その他の経費などで、一日に64アス位必要になる。わざわざ大銅貨が出来たのもそれが理由と言われる程だ。
となれば宝箱一個で6アス以上出さないと、宿に泊まれない計算だ。
「後は特に問題は無いと思うが、何かあるか?」
『な、無いわ!』
「そっか。じゃあこれで正式に賃貸契約成立な」
流石に藪蛇になると思ったのか、ピタッと黙ってしまい、話し合いに終止符が打たれる。
うんうんうんと首を縦に振るイメージに訝しみながらも話を続ける。
「その上で頼みがあるんだが?」
『頼み? どんな?』
今までは契約として平等な話し合いだったが、これからはお願いと言う。
「例えば、町へ出かける、病気、怪我などで必ず固定分働けるとは限らない」
『そりゃ生きていれば、そう事もあるでしょうね』
「その時にもDPの支払いを頼みたい」
有給休暇制度の様である。常に働き続ける事は誰にも無理がある。
『そりゃそうよね、当然だわ。ワタシだって無駄遣いしなければその位貯まるしね』
「助かるよ。ただ残りが9000DPを切った場合はその限りじゃない」
『うん、支払できないしね』
お互いにDPが無くなれば、助けたくても助けようが無い。
「そういう事だ。そうならないように努力はするけど」
『ただしサボった場合の生活費は認めないからね』
「分かってるって」
ジャニの健康や状況を考慮した、例外的な約束事が追加で交わされる。
「じゃあ改めて宜しくお願いします。大家さん」
『うーん、大家さんか・・・』
「どうかしたか?」
『大家さんっての止めて欲しいの』
大家さんと言われても、今一ピンとこないのだろう。
「と言われてもなぁ・・」
『こんな契約だって結局あなたの建前だった訳で、ワタシを助けるためでしょ?』
「あっ、バレてた?」
『はぁ・・、何となくだけどね』
冷静に考えれば、コアである自分を壊したり、無視した方が楽なのは分かる。
なんやかんや理由を付けて、自分の傍で助けてくれようとしてくれている。
ダンジョンコアは知らない事だが、逃亡生活を送っているジャニにとって、一か所に留まる事は、発見されるリスクを高めてしまう。
コアを破壊して力を手に入れた方が、ジャニにとっての生存率は上がる。
「とは言っても、名前も無いんだし何て呼べばいいんだ?」
『そうよね・・。そうだわ。名前、名前付けて貰えないかしら?』
お互いが対等な立場であると言う証に、名前を付けて貰う事を提案する。
「名前? 付けられるのか?」
『いいのよ。あなたとワタシだけの間の呼び名で』
「うーん、ぱっと浮かぶのは、ダン、ジョン、コア位か?」
『人を馬鹿にしてるのかしら? 自分のペットとかにもそんな名前付けてる訳?』
「そういえば昔、スライムに、スラとかイムって名前を付けようとした事がある。止められたけど」
『そうなの!? 最悪よ。全く成長してないじゃないの』
「そうかな・・」
『少しは考えなさい。・・まったく』
全く成長していないネーミングセンスに、クレームが飛び出る。
「うーん、うーん・・・。フェブ」
『フェブ?』
「そう。フェブってのはどうだ?」
意味は全く分からないが、響きからして特別な感じがする。
『どういう意味か聞いても良いかしら?』
「二番と言う意味だ。ちなみに一番て意味がジャニになるけど」
『ふーん。二番ってのが気に入らないけど・・』
「じゃぁ別のにするか?」
『いいえ。そういう意味なら良いわ。もう一番が決まっているのだからね』
何故かニコニコと言ったイメージが伝わってくる。
「そっか。ではフェブよろしく」
『ええ。こちらこそよろしく。・・えっ!?』
「どうした?」
『え? え? ワ、ワタシ・・に・・が・・』
「どうしたフェブ?」
『ワタシに・・名前が・・フェブで・・認められた』
「どういう事だ?」
『頭の中・・情報が・・フェブで登録されたって』
「・・そっか。良かったな」
『・・はい!』
自分が単なるダンジョンコアから、フェブと言う存在になった。
ジャニから与えられたフェブという、大切な自分を表す言葉。
他の誰かにも認められた事が、フェブにとっては何よりも嬉しかった。




