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ダンジョンの同居人  作者: まる
魔物と
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魂の結晶

魂の結晶





『召喚士』


確かにボードにはそのように表示されていた。

就ける職業としてその一択である。


「なんだ・・、どういう事だ・・」

「いったいどういう事よ!」

「・・・召喚士、しかも一択とは」

「うん」


四人とも驚きが隠せない。思わず三人に聞いてみる。


「おまえらは『召喚士』ってあったのか?」

「無かったわ」

「うん、無かったね」

「うん」


三人の答えを聞き、何かが音を立てて壊れていく気がする。

自分だけ召喚士があったという現実、召喚士にしかなれないという事実。


この時三人は自己申告で、嘘や隠している可能性があった事に気付かなかった。


「これはどういう事なのでしょうか?」

「えっ!?」


呆然するジャニを置いて、ジュンが職員に確認する。


「普通なら職業はいくつか選択出来るはずです。一択というは故障ではないのですか?」

「あぁ! これは稀にあるケースですね。とても素晴らしい事なのです」

「どういう事でしょうか?」


職業が一択しかないのは故障ではないかと質問すると、職員は素晴らしい事だと言った。

理由を確認するために、もう一度確認する。


「ご存知かと思いますが、例えば剣士として修業をしても、剣士だけではなく類する戦士、騎士、果ては盗賊や鍛冶師まで、現時点で適性のあるものは全て表示されます」

「知っています」

「また今は表示されなくても、ご希望の職業に近い職業に就いて鍛錬を続ける事で、後々表示される様になり職業を変更する事が出来ます」

「はい」


適正職に関して基本的な確認をする職員に頷き返す。


「稀なケースでこれに該当せず、必ずこの職業に就くべきといった場合があります」

「それはどのような場合でしょうか?」

「【恩恵】や【ギフト】、【加護】、【祝福】などと呼ばれ、生まれ落ちる時、又は何らかの理由で神より与えられた特権にして、選ばれし者と言われる方々になります」

「「「・・・」」」


職員の話を聞くと三人は目配せして頷くとその場を立ち去る。


職員は「え!?」と思いながらもジャニの方へ目を向ける。

彼は呆然としたまま三人が出て行ったことに気付かない。


仕方なくジャニに声を掛ける事にする。


「ジャニさん、ジャニさん、ジャニさん!」

「えっ!?」


何度か体を揺すられながら声を掛けられると、やっと意識が戻ってくる。


「大丈夫ですか?」

「あっ・・、ええと・・、大丈夫・・です」


少し深く溜息をつくと、一人残されたジャニに話をする。


「では冒険者登録の職業は『召喚士』でよろしいですか?」

「『召喚士』・・。

ちょっと待って貰ってもいいですか。みんなと相談したいので・・」

「分かりました。

ただ一緒に来られた三人なら外に出られましたけど?」

「えっ!?」


職員の言葉に振り向くと、誰もいない事に気づく。


慌ててギルドを飛び出すと街の中を探し回る。

三人の風貌を伝え町の外へ出たことを知り、すぐさま追いかける。




町の外へ出てしばらく走ると三人を見つけ駆け寄る。

後10グラドゥス(8m)といった所で、彼らの魔物が立ち塞がり威嚇し、慌てて立ち止まる。


「おい!? 待ってくれ、どういう事だよ!?」

「「「・・・」」」


三人に声を掛けるが返事は無く、彼らのジャニを見る目は冷たく敵視していた。


「何かの間違いだって。

そうだ、他のギルドに行ってみようぜ」

「「「・・・」」」


頭にこびり付いた不安から喋らないではいられないが、不安が現実の物となる。


「なぁ! 話をき・・」

「召喚士はわが宿敵」

「召喚士はすべての禍」

「うん」


聞いてくれ、という声が掻き消される。


「召喚士は抹殺すべし」

「召喚士は殲滅すべし」

「うん」


待ってくれ、という思いが届かない。


「われはすべての責を持つ」

「われはすべての咎を受ける」

「うん」


何を間違えたのだろう。

どこで間違ったのだろう。

魔物から目を逸らせず、しかし少しでも遠くへと後ろ向きに離れだす。


「「「死ね(うん)!」」」


絶望という牙が向けられる。


『緊急脱出、下方向に全開放』


ジャニは迫りくる魔物をゆっくりとした時間で見ていた。全て見ていた。


肩に居たスライムがジャニの前に飛び出し、膜の様に広がるのを。

スライムの核が眩しいばかりの光と激しい轟音で、魔物の足元に向かって弾けるのを。

スライムの膜が瞬く間に自分を覆い包み込むのを。


そして世界が前に流れ自分が空高く舞い上がるのを。






「・・・・ぐっ! がは・・生きてる?」

「あぁ・・何とか・・」

「・・う・ん」


突然の閃光と爆発。

回避も碌に出来ずもろに喰らってしまう。


どのくらい飛ばされ、どのくらい転がったのか、体中に激痛が走る。

全くの予想外の出来事に、もろにダメージを受け、良く生きていたものである。

爆発が下方向に向けられた事が幸いしたのだろう。


「あんな・隠し玉・・を・もって・・」

「あし・・き、召喚・士か・・」

「うん」


各々手持ちの薬を全て使うが、ダメージが大きくなかなか回復されない。

それでも少しは痛みが治まってくる。


「まずは傷を癒し、長老に報告ね」

「そうだね、その前に何とか町まで戻らないと」

「うん」


ここに居たら魔物のエサでしかない。無理をしてでも町まで戻るべきだ。

まだ痛みが残る体に鞭打って歩き始める。






ジャニは今、空の人になっていた。

しかしそれを楽しむ余裕は全くなかった。


世界の風景が後ろから前にものすごい勢いで流れて行く。


胸の前にある核からは炎の様に燃えるものが進む方と反対に伸びている。

突如その炎の様なものが消え、今度は落ち始める。


地面に激突するがスライムの体が衝撃を吸収する。


スライムの体は粉々になり飛び散り、ジャニの体は転がりながら速度を落とし止まる。


「ぐぅ・・、あぁ・」


あちこちぶつけた際の痛みに呻き声をあげるが、ハッとして周囲を見渡す。


「ッ!? スライム」


落ちたであろう場所の近くに駆け戻る。文字通り這って辺りを探し回る。


「!? スライム・・か?」


近くに転がっていた握り拳より一回り小さい瑠璃色の石を見つける。

余りの変わり果てた姿に驚くもそっと拾い上げ胸の所で握りしめる。


「悪るいな・・、助かったよ・・」


一度に沢山の出来事が起こった。


一択の職業、三人の態度、飛行、変わり果てたスライム。

頭の中が混乱し見てきた事なのに理解が追い付かない。


「どうしたら・・」

『動け』


頭の中に声が響く。混乱した状況で事のおかしさに気付かない。


「動く?」

『夜になると魔物が来る』


頭の中の声と何の疑問も持たず会話する。


「魔物・・、そうだ・・な」


頭の中の誰かとの会話によって、正しい行動だと判断し移動し始める。




逃避行は、四年という魔物使いとしての訓練が如何なく発揮され滞りなく済ませる。

しかし常に胸に刺さった棘が疼く。


「これからどうすれば・・」

『頭を冷やすべきだ。少し距離を置こう』

「その方が・・、いいかな」


思い悩む。

仲間の事、里の事、職業の事、頭の中の自分に導きに従って行動する。




しばらく旅をすると、頭の中の自分に気付き始める。

自分はおかしくなったのだと思った。

だからもう一人の自分の声という幻聴すら聞こえるのだと。


だから聞いてみた。


「君は誰だい? 俺はジャニって言うんだ」

『わたしはディズという』


もう一人の自分に自己紹介する。ディズと言うのかと自分を嘲笑う。


「何処に居るんだい」

『皮袋の中だ』


皮袋? 頭の中ではなく? 初めて疑問を感じた。


「どの皮袋だい?」

『君の首から下がっている』


自分の首? そこにはスライムの核を入れた皮袋を首から下げていた。

慌ててスライムの核を袋から出し手の上に乗せる。


「今は?」

『君の掌の上だ』


掌の上のスライムの核を見つめる。


「頭の中の声は、君なのか?」

『その通りだ』


この時初めて自分以外の存在を知る。

最初の質問を聞き直す。


「君は誰だい?」

『わたしはディズ。

今は魂の結晶となった、召喚士だった人間の成れの果てだ』

「なっ!?」


魂の結晶? 召喚士と呼ばれた人間? 混乱に輪をかける。


ディズの長い話が始まる。






「というわけです、長老」

「ふむ・・、なるほどのぉ」


怪我を直し、体力が回復すると急いで里に戻った三人は、長老に報告する。


「召喚士の恩恵・・。そんなものを持っているなんてね」

「うん」

「はっ! 【捕獲】なんか出来なくて当たり前よ!」

「そうじゃのぉ」


世の厄災と言われる召喚士の恩恵を持つという、余りの事に激高する。


「じゃあのスライムは何だったのでしょう?」

「多分、魔物をという気持ちが強く、偶然呼んだのではないかの・・」

「そうでしょうか・・」

「正直分からんがの」


今となっては、あのレア種のスライムは何だったのか調べようも無い。


「如何しましょうか?」

「まずはおぬしら力を取り戻すんじゃ」

「分かりました」


まだ体調も十分ではなく、魔物も失っている今、長老の言葉は尤もだった。


「お姉ちゃんたち、ありがとうです」

「何が?」

「召喚士を生かしておいてくれて」

「なんでだい?」

「うん?」


召喚士を生かす、魔物使いではありえない言葉に疑問を投げかける。


「召喚士の肉って食べてみたかったんです」

「メイは食いしん坊ね」

「まったくだね」

「うん」


狂気を孕んだ笑みを浮かべるメイ。

理由が分かり、仕方のない妹だと苦笑いを浮かべる三人。


あり得ない、明らかにおかしい事だ。


お兄ちゃんと呼んで慕っていたジャニを食べるというメイも、それを当たり前の様に受け入れる三人も。


何よりもその様子を見てニタリと笑う長老が。


自分の計画が思い通りに進んでいるのを確信しているかのように。






「ふーん、魂の結晶ね・・」

『そうだ』


ディズの長い話が終わると、掌の上の石をマジマジと見る。

声が実際に聞こえる訳では無く、『念話』と言って頭に直接語りかけているとの事だった。


念話には言葉だけで無く、感情がイメージとして頭に伝わる事があるらしい


「しっかし、魔物使いと召喚士にそんな因縁が・・」

『話を聞けば、今も昔も変わらないようだが。どうする?』

「どうするって?」


ディズが何の事を言わんとしているのか分からず聞き返す。


『召喚士が厄災なら、わたしを壊すかね?』

「えっ!?」


魔物使いの考え方をディズに指摘される。


『壊さなくてもその辺に転がすだけもいい。それとも・・』

「それとも?」


壊す以外の方法に興味を惹かれる。


『一緒に旅するかね? 話し相手ぐらいだが』

「・・・」


喋る石との旅。

今までと同じ事なのだが改めて提案され黙り込んでしまう。


『ゆっくり考えるが良い。何も出来ないからな』

「何も出来ない?」

『もう術は使えない。知識だけだ』


魂の結晶となった事で当然自分で動けない。

更には術さえ使う事が出来ないと言う。


「そっか・・、じゃあ旅でもするか」

『いいのかね?』

「分からない・・、保留という事だな」

『なるほど』


何故かニヤッとされたような気がする。


『召喚士の知識しか無いがどうする?』

「うーむ・・、まぁ貰っとくか」

『・・・・・』

「ん? どうかしたか?」


召喚士の知識を貰うと言うと黙り込んでしまう。


『不思議だと思ってな』

「何が?」


違和感を感じたのか、探るかのように言葉を選んで話をする。


『先の三人組と全く違う。

彼らは召喚士を嫌悪や忌避に満ちていた。

君には全くといっていいほど、それが無い』

「そう・・かな」


改めて指摘され、召喚士と聞いた時の違いを思い返す。


『この違いは、どこから来ているのだろうと思ってな』

「違い、違い・・ね。まず年齢だろ。

後は『成人の儀』ぐらいか・・」

『『成人の儀』とは?』


聞きなれない言葉に反応する。


「まぁ、初めての【捕獲】、15歳、就職の三回あるお祝いみたいなもんだ」

『なるほど・・』


何か考える様に、再び黙り込んでしまう。


「何か思い当たるのか?」

『・・いや何、そんな慣習があるのだなぁと思って』


確かに何か思い当たった様な感じを受け取ったのだが違ったようだ。


「変か?」

『変も何も、その地域独自の慣習という物は存在する。比べようが無い』

「そういうもんか」

『うむ』


場所が変われば価値観が変わる。

隣の村でされ違いがあるのだから、そういう物だと言われれば受け入れるしかない。

否定すれば異物として弾かれる。


話の中でふと村の事や仲間の事を思い出す。


「みんなどうしてっかな・・」

『どうしているかは分からないが、やはり時間を置いた方が良い』

「やはりそうなのか?」


昔のような関係に戻る事が出来るのか、里に戻れるか悩みは尽きない。


『時間を置く事で落ち着きゆっくり考えられるし、誤解も解けよう』

「そうだな、そうすっか」


何故かジャニが笑い出す。


『何か良い事でもあったのかね?』

「いや、ちょっとした思い出し笑いだよ」

『どんな事か聞いても?』


この状況で笑えるのなら、聞く事で彼の心を少しでも軽く出来るのではないかと考える。


「俺はヒモのような生活を夢見てたんだけど」

『随分と自堕落な夢だ』


何を思い出したのかと思えば、彼の将来が心配になる。


「これじゃディズがヒモだよなって」

『私は養われる必要は無い』


余りの物言いに、憮然としたイメージが伝わってくる。


しばらく笑いながら涙を流す。ディズは笑い終わるまで黙って待っていた。






距離を置くならここに居ても仕方がない。

一人と一つ?は旅立つ事にする。


旅を始めるに当たり、ここが全く分からない事にはどうしようもない。

手始めに、空の旅をプレゼントしてくれたディズに聞いてみる事にする。


「なぁディズ、ここは何処なんだ?」

『分からん』

「はぁ!? 分からんってどういう事だよ!」

『空を飛んだためか、距離感がハッキリとしないのだ』

「・・まぁ、そういえばそうだよな」


空を飛ぶ。


余程の事が無い限り、人には縁のない事である。

ましてや魔物使いの里への旅以外、外に出た事の無い人間には想像もつかない事である。


「どうしたらいいんだ」


旅どころか住んでいた場所を出る事すら少ない者にとって、対処の方法が思い浮かばない。


『先ず街道に出て町を目指そう。そうすれば人にも出会えよう』

「そうするのが一番か」


旅の始まりから躓きそうになるのを、アドバイスで救われる。


ディズの話を聞いたので、今度はジャニ自身の事を話をする。

この旅は長くなる。どんなに話が長くても構わないだろう。

自分が魔物使いに成ろうと思った切っ掛けから話し始める。




ジャニの昔話を聞きながら、ディズは一人思いを巡らせていた。


『(成人の儀・・まさかとは思うが)』


何か隠された悪意を感じ取っていた。





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