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ダンジョンの同居人  作者: まる
魔物と
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禁忌

禁忌





村の中央にある広場では宴の準備が進められている。


綺麗に切り出された石を使って竃を組んでいると、子供たちの様子を見てきた者たちに話しかける。


「どんな様子だ」

「良く眠っている、疲れが溜まっていたのだろう」

「三か月か・・。まぁ当たり前か」


お互いに頷きあっている所へ長老が現れる。


「なぁ、森の奥なら何処にでもいるあの魔物を【合成】品って言ったのか」

「悪いか?」


長老の声に里の人は苦笑いして肩を竦める。


「術の準備の方は?」

「問題ない。いつでも『成人の儀』として行える」

「それは重畳」


既に組み上がり火の入っている竃で、大きめの肉の塊を焼いている者に声を掛ける。


「肉の方はどうだ、宴には間に合うか?」

「こっちも問題ない」

「フフッ、きちんと精力を付けてもらおう」

「あぁ、これから働いて貰わなくちゃいけないからな」




長老の言葉にみんなが頷く。

子供たちと接していた時の様な言葉遣いではない。里の者も雰囲気が変わっている。


何かおかしい・・。それを指摘出来る者はこの場に居なかった。






日が傾き始め宴の準備が始まると、里の人たちが子供たちを起こしに向かう。


子供たちはしばし自分の置かれた状況に戸惑っていたが、直ぐに里に着いてからの出来事を思い起こし慌てて起きる。


その様子に里の人たちは微笑んで頭を撫でたり、肩を叩いて優しく声掛けをする。




子供たちを里の広場に連れて行くと、里の者全員揃っており、飲み物を手渡される。

長老の奥方からありがたい挨拶があった。


「よう来てくれた。肉も焼けておる、まず喰おう。乾杯!」

「「「乾杯!!」」


いきなりのスタートに驚く子供たち。

トップの人間は総じて話が長くお預けを食らう。

流石に長老の奥方、空気の読める女性である。


全員に肉ひと塊が「ノルマじゃぞ」と配られる。

遠慮するであろう子供たちに配慮しての事だろう。


食事があらかた進むと、改めて長老の奥方の挨拶、自己紹介と進み、里や魔物使いとしての自慢話が始まる。


「この竃を組んでいる石、ピチッとなってるだろ。おれんとこの魔物で切り出したんだ。他じゃこうはいかんぞ!」

「この肉は魔物のでな。どうだうまいか? そうか良かった。これは俺の魔物が仕留めてきたんだ!」」


それぞれ持っている魔物の自慢話が始まる。


「しかしこればかりはいかん。どうしても行商人か町まで行かんと手に入らんのだ」

「うむ、何とかこいつを生み出す魔物をと思っているのだが・・、なかなかなぁ」


大人たちが飲んでいるお酒の入った木製のコップを軽く振る。

そこへ女性陣が割り込む。


「何言ってんだい! そんなモノなんかに貴重な魔石や素材を使うなんて!」

「そうそう! この肉にも使っている調味料が優先だろう!


調味料、特に塩は生きていくのに不可欠である。

普通の町でも高価な部類に入るが、山間の里では尚更であろう。

男性陣は剣幕に押され隅っこで小さくなる。




さっきから気になっていた方に指差す子供たちに、それは恐ろしい笑顔で答える奥方様。


「あの・・。あれ・・は?」」

「なんだい? あれ? あぁ・・メインディッシュだね」

「「「えぇっ(うん)!?」」」

「ちぃーっと筋張っちゃいるが・・。まぁ、なんとかなるじゃろ」


そこには簀巻きにされて木にぶら下げられている長老がいた。

長老の奥方が宴を仕切った理由である。




夜も深まり殆どの肉が腹に収まると、火が落とされ宴会はお開きとなった。


子供たちは最初に案内された、それぞれの家に戻り休む事になっていた。


明日からの事や慌ただしい一日を思い起こす間もなく、再び深い眠りにつくのだった。






翌朝。


子供たちはそれぞれの家で食事を済ますと、これからの事について話があるとのことで長老の家に行くように言われる。


「おはよう、しっかり眠れたかのぉ?」

「おはようございます。みなさんとても良くして下さいました」


復活した長老の挨拶に、ジュンが代表してあいさつすると、他の子も続いて挨拶する。


「さっそくじゃが、これからの事について話をしようか」

「はい、お願いします」

「うむ。ではまず・・、家を建ててもらおうかの」

「はい・・ぇ!?」


ニヤニヤと腹に一物を抱えたような笑みに、一同顔を見合わせる。

直ぐに真剣な顔になると家を建てる説明を始める。


「わしらはこのままでよいと思っておるし、うちらの子供になって欲しいと思っている者もおるじゃろう」

「「「・・・・・」」」


突然の告白に黙って耳を傾ける。


「おぬしらに帰る家がなければ、養子の話を断りにくいじゃろう。

断ったら断ったでお互い気まずい思いをするじゃろうのぉ。


そこで家を建て、帰る場所を作る。そうすれば養子の話も勧め易くなる。


大工仕事を覚える事で各家の傷んだ所を直して貰える。

家を建てている間は、各家に回って暮らして仲良くなれると一石三鳥の話な訳じゃ」

「・・・ありがとうございます」


子供とはいえ部外者にここまで気を配られて、里の人たちの歓迎と期待の気持ちが分から無いはずはない。

あまりの待遇の良さに感謝の言葉を返すので精一杯だった。


「ただ各家で暮らす間に、注意して欲しい事がある」

「なんでしょうか?」


ここまでの高待遇に一つや二つの条件があって当たり前である。


「もう気が付いておると思うが、子供の事を聞かんでやって欲しい」

「「「・・・・」」」

「魔物使いの宿命と一言では片付けてはいかんのだが、才能の無い者はいたたまれなくなり村を出て行く。

また魔物と向かい合う職業じゃ、若くして命を落としたものも少なくない」

「・・分かりました。聞かないと約束します」

「すまんな・・。感謝するぞ」


長老の切実な言葉に、子供たちはお互い頷きあうと約束を守る事を誓った。


「さっ、重たい話はここまでにしよう。

今からすぐに取り掛かるべき事が山のように待っておるのじゃからな」

「「「はい(うん)」」


長老は手を叩いて暗い雰囲気を壊すと、これからやるべき事を説明する。


こうして五人の新しい生活が始まったのである。






家が建つまで里の人の家を順々に回り親睦を深めながら、狩りや釣り、畑仕事に家畜の世話、薬草や食材集めといった役割をこなしていく。


不思議な事に里の周りや畑には柵がなかった。聞けば魔物が居る所を襲うモノは居ないそうで、もし居たらこっちが一目散に逃げるのだと納得の言葉が返って来た。




そしていつも夜行われていた魔法の訓練が、次の段階に進められた。

魔物を捕獲するための魔法を学ぶのである。


「魔物使いの魔法は大きく分けて四つだけじゃ、その中の一つがもっとも重要じゃ」

「「「一つだけ!?」」」


あまりの事に驚きを隠せない子供たち。そうそうと頷く長老。


「前に話したことがある【強化】と【合成】は説明しておるから省くが、魔物使いの肝ではあるのは確かじゃが、その前に捕まえられなければ意味の無い魔法じゃ」

「「「(コクリ)」」」

「【捕獲】じゃが、術としての形は決まっており、丸暗記して後は魔力さえあれば誰にでも使える。これは内緒じゃぞ」

「「「えぇ!?」」


魔物使いの要である【捕獲】の魔法が丸暗記の一言に愕然とする。


「うんうん、良い反応じゃ」

「「「・・・・」」」


明らかに自分たちの反応がうれしくて仕方が居といった長老にみんな言葉が出てこない。


「最後の一つが最も蔑にされるが、最も重要な魔法じゃ」

「「「・・・・・」」」

「【比較】という」

「「「【比較!?】」」」


初めて聞く魔法に、顔を見合わせる。


「【比較】とは相手と自分の強さのを調べる魔法じゃ。

本来ならスキルの【鑑定】があるのがベストじゃが、必ずしも身に着けられるとは限らん。

魔物使いは魔物の前に体を晒すため、相手の強さを測る必要があるのじゃ」

「「「なるほど(うん)」」」

「【比較】はレベルが上がるほど精度が上がって行く。どんどん使っていくように」

「「「はい(うん)」」」


翌日から【捕獲】の魔法の暗記と、里に居る魔物たちを使った【比較】の訓練が始まった。




里の生活と魔法の訓練という忙しい日々を過ごしながら、一か月程かけて自分たちの家が完成させる。


家を建てる際一悶着あり、里の人たちは一人一人の部屋を作りたかった様であるが、子供たちはさすがに固辞していた。

結果将来的な事も考え男女の部屋を分ける事で納得して貰い、男の子の部屋には三段ベッド、女の子の部屋には二段ベッドが置かれる事になった。




各家から少しずつ必要品を分けて貰い、引っ越しが完了した頃を見計らって長老が、彼らの家を訪れた。大切な話があると言われて。


「すまんのぉ、忙しいのに」

「いえ、大体片付いた所ですから」


長老と子供たちはお互いに家の中をグルッと見回すと、テーブルの周りに集まり、各々好きな所に座る。


「大切な話があるというお話でしたが・・」

「うむ。あぁ、養子の話ではないぞ」


もしかしたら養子の話が来たのかもと考えるが、長老の言葉が先にそれを否定する。


「お前たちにも帰るべき家が出来た。今日から魔物の【捕獲】をしてもらおうと思う」

「「「えっ!?」」」


待ちに待った時が来た事を告げられ、子供たちの胸は高鳴る。


「これから毎日、里の男性陣とおぬしらの内一人が日替わりでチームを組んで【捕獲】を行う。

残りの者は里での仕事をしてもらう。」

「「「はい(うん)!」」」


里の周囲の森には当然危険が潜んでおり、基礎能力の弱い魔物使いは魔物を手に入れてなければ単独で活動する事は無い。


「ある程度やり方を学んだら、次はおぬしたちだけで組んで【捕獲】を行ってもらう」

「「「分かりました(うん)」」」


危険はあるだろうが【捕獲】出来るまで大人たちに頼る訳にはいかない。

それぞれの生活もあるだろうし、いつまでも甘えていては独り立ち出来ないと、当然の判断に理解を示す。


「毎日【捕獲】に行ってしまうと里での事が疎かになるから、八日つまり一週間に一度程度かの。

失敗した反省と対策、準備といった期間も大切じゃ」」

「「「はい(うん)」」」


【捕獲】に必要な物について簡単に話をして、子供たちはローテーションを決める。




和気あいあいと準備を進める子供たちは、非常に難し顔した長老に気付く。


「どうしました、長老?」

「・・・おぬしたちに伝えねばならん事がある」

「「「・・・・」」」


長老の重苦しい雰囲気に押され、黙って話の続きを待つ。


「魔物使いの禁忌、召喚士についてじゃ」


召喚士。魔物使いに似て非なる者たち。

魔物使いが目の前の魔物を【捕獲】するのに対して、召喚士は何処か遠くより魔物を呼び寄せる事ができる。魔物使いの【強化】や【合成】が出来ないため駒の様に扱う。


これだけならまだ良い、何の問題もない。しかしあらゆる厄災の源だと告げる。


もしも大量の魔物を街の中や近くで呼び寄せたらどうなるか。自分たちだけ逃げる準備をして魔物たちを解放したらどうなるか。

曰く、過去に起きた魔物の大氾濫は彼らによるものである。


もしも魔王を呼び寄せる事が出来たらどうなるか? 自分たちは安全な所に居て世界を好きなように支配出来るだろう。

曰く、過去に魔王が現れた原因は彼らである。


聞けは聞くほど恐ろしい存在、闇の者たちと言えるだろう。


あまりの事に言葉を失っていた子供たちが口を開く。


「何故・・そんな事を・?」

「分からん! 愉快犯なのか狂信者なのか。力に溺れただけの者たちなのか・・。

分からん、分からんよ。何をもってそのような大それた事をするのか・・」


子供たちの質問に、首を振って分からないとしか答える事の出来ない長老。


「国の上の者たちは、召喚士を秘匿しておる」

「「「何故うん!?」」」


国が召喚士を守っている? あまりの事に声を上げる。


「考えてもみよ、お前たちの隣人が召喚士だったら? 疑ったら世界は混乱に陥る」

「「「あっ!」」」


事が起きてからで無くては召喚士と分からない。

じゃあ誰がとなれば魔女狩りにすら発展しかねない状況を理解する。


「しかし未然に防ぐ方法が、われ等だけにある・・」

「「「どんな方法ですか(うん)!」」」


自分たちだけしか出来ない。この言葉に彼らの心は揺さぶられる。


「わしらだけが召喚士の悪意を知っておる。

召喚士は魔物使いと似ており、わしらが隠れた召喚士を見つけられる可能性が高い」

「「「なるほど(コクリ)」」」


長老の言葉に黙って頷く。


「故に・・われら魔物使いが、召喚士を殺す・・のじゃ」

「「「!?」」」


あまりの事に愕然としている子供たちに、追い打ちをかけるよう切実な一言を発する。


「世界を救う、人々を守るというどんな綺麗事を並べても、人殺しは人殺し。

どのような罪咎を受けても自らの責とする。この場限り誰にも語ってはならない」

「「「・・・」」」


召喚士殺しを容認し使命とする。

それを誰にも話してはならない。


これが禁忌。


この世の闇を払うという大役に心躍るよりも、殺人という闇に自らを落とさねばならない現実の重さに誰もが沈黙する。





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