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ダンジョンの同居人  作者: まる
魔物と
24/40

魔物使いの里へ

魔物使いの里へ




ヒュン・・ストッ! 一本の矢が街道の真ん中あたりに刺さる。

ヒュンヒュンヒュン・・・スットット! その矢の近くに四本の矢が刺さる。


「よし! 私の矢が一番近いわ。次は私ね」

「ちっくしょー」

「流石マチ、狙い矢では殆ど一番だね」

「うん」

「・・・・(ぶぅ)」


ダダダッと何人かの駆ける足音が聞こえたかと思うと、お互いに矢の位置を確認している。


「じゃあ一番のマチ、次は何にするか決めてくれるかい」

「うん」

「そうね・・・、遠矢にするわ」

「むぅ、今度は負けねぇ」

「・・・(キリッ)」


そう言うとマチは矢を番えて出来るだけ遠くへ放つ。先程の様に矢は街道に刺さる。


「おぉ、結構遠くまで飛んだね」

「うん」

「今度こそ」

「(こくん)」


今度はみんなマチの矢を超えるように矢を放っていく。




そんなみんなの後ろからは風変わりな馬に乗り、にこやかな笑顔を浮かべる魔物使いの長老が付いて行った。


「もう一か月経つか・・早いもんじゃのぉ」


彼らと出会った時の事を思い出す。

魔物使いの長老とその卵たちは、今まさに魔物使いの里への旅の空の下に居たのである。






時は長老が孤児院を訪れた次の日まで遡る。




魔物使いの里の長老の来訪によってもたらされた魔物使いとしての可能性に、様々な感情が入り混じっていた五人だった。


誰一人として相談する事無く、長老の泊まっている宿に向かい、自分たちの気持ちを伝えた。

自分で決めなくてはならない事を理解していたから。


まだ小さいメイだけはシスターがゆっくりと分かりやすく話をして、彼女の決意を聞き出して長老に伝えていた。


全員の答えを聞いた長老は、シスターの所へ赴き、子供たち其々の回答を伝えた。

そしてシスターは孤児院の皆にジュン、エイプ、マチ、ジャニ、メイが孤児院を卒業する事が決った事を話した。




慌ただしく卒業式が執り行われ、その後ささやなな壮行会が催された。




次の日、五人は皆に見送られながら孤児院を後にし、長老の待つ町の門に向って行く。


長老の「お別れは済んだかの?」の声に、黙って頷く子供たちに「では行くか」と街道を進み始め、彼らはその後を付いて行った。


お互いに複雑な心境である事は容易に分かる。

お互いに会話を交わす訳でも無く、長老も言葉を掛ける事無くその日は終わった。




次の日の朝食の時、一晩置いてこれからの事を話し始めた。


「今まで住み慣れた場所を離れる以上、色々と思う事があるじゃろう。」

「「「・・・・・」」」

「考えるなとは言わん。

しかし今日から気持ちを切り替えて欲しい」

「「「はい(うん)」」」


魔物使いに成ると決めて別れを済ませてきた以上、思い出に浸っている場合ではない。

やるべき事はそれこそ山の様にあるのだ。


「さしあたりまずは・・・、旅の方法を決めてもらおうかの」

「旅の方法・・ですか?」


歩いて旅をする他にどんな方法があるのかという気持ちになる。

遠くからこちらに向かてくる蹄の様な音がする。


「不思議に思わなかったのかね?」

「何がですか?」

「わしが用意した野営に使った物を何処から持ってきたのか。

そもそも殆ど手ぶらで旅をしている事に・・、じゃよ」


旅などした事の無い彼らは疑問に思わなかった。

自分たちも着替えといった身の回りの物を入れた背負い袋しか持っていない。


言われて初めて気付く。


「昨日の晩や今朝食べた食材は、どうやって手に入れたと思う?」


知ってる?といった顔を見合わせるが、お互い首を振るだけである。


「その理由があれじゃよ」


嬉しく仕方が無いのか、クックッと笑いを堪えてどんどん音大きくなる方へ指差す。

長老の示した方を見ると、何かの荷物を背負った・・、そうロバに牛の角を付けたような動物がこちらに近づいてくる。

蹄の音はそのロバモドキからであった。


「なによあれ・・」

「ロバ・・?に角ってあったかな?」

「うん」

「魔物か・・」

「・・(こくり)」


恐れるべき魔物の可能性があるにも拘らず、指差す長老とカッポカッポと音を鳴らして近づくロバモドキの長閑さに脱力してしまった様である。

しかしおかしいのは姿だけではなかった。


「向かってきてるはず・・、だよね?」

「うん」

「あれ?」

「おかしい・・わね」

「・・・」


ロバや牛の大きさ位に見えるのに、まだ距離があるよう感じる。


「でか!」

「・・大きい!」

「これは確かに大きいね・・」

「うん」

「・・・(ポカーン)」


普通の牛の三倍ほどの大きさであろうか。

ロバモドキが彼らの傍で止まった時には、見上げるほどの背の高さがあった。


「この魔物に乗って、遠路はるばるやってきたのじゃよ」


驚く子供たちに胸を張る。そして更に驚くべき事を告げる。


「これが魔物使いの【捕獲】と【合成】の結果じゃよ。

まぁ急な事もあってかなり無理な合成をしたので、失敗作ではあるがのぉ」

「「「!?」」」


全く似合わない茶目っ気たっぷりのウィンクをする。

これが失敗作という驚きの表情で長老の顔を見る子供たち。


「色々聞きたいじゃろうが、まずは旅の方法を決めておくれ。

慣れない者が魔物に乗れば落ちる危険があるから、荷物と一緒に縛られて行くか、歩いて行くかのぉ?」


さぁどっちにすると人の悪い笑みを浮かべ、ため息交じりの「歩きます」の声に満足気に頷いて言った。


「では道中、色々と教えてやるとするかのぉ」


そして魔物使いの里への旅が始まった。






子供たちが弓の競争をしながら先を進んでいると、日が傾くにはまだ早い時間から、弓を片付けキョロキョロと辺りを探るように歩いて行く。


「この奥が良さそうじゃない?」

「そうだね」

「うん」

「ちょっと見てくる」

「・・・(こくり)」


街道に沿って広がる森に少し開けた場所を見つけると確認するため奥に入って行く。


「問題ない・・。いいぞ!」

「長老、この奥にしましょう」

「うむ」


確認しに行ったジャニの声を受け、マチが長老に伝える。森の中に入っていく一行。


長老は奥に入るとロバモドキを座らせる。すぐさま子供たちは背負われている荷物を開け野営の準備を始める。


人工的な明かりの無い森では、日が傾き始めると直ぐに暗くなり野営の準備どころではない。そのため明るい内から場所を探していたのである。


「わたしとエイプは枯れ木と食材を集めつつ水場の確認。

ジュンとジャニは狩りをしつつ同じく水場の確認。

メイは野営準備を進めてちょうだい」

「分かった」

「うん」

「任せとけ」

「(コクン)」


子供たちが自分たちで野営を進めるのを、笑顔で黙って見ている長老。


旅に出る時、子供たちが自然とこうなるように荷物か、歩くかの馬鹿げた選択をさせたのである。




野営というのは、時間の管理、場所の選択、水場の確認、マキ集めと火起こし、料理、火の番といったやるべき事が沢山ある。


保存食を使う手もあるが、現地調達出来るなら、それに越した事は無く、必ず狩りは行う。


狩りは気配を殺し、いち早く相手の存在に気付かなくてはならない。

もし獲物を仕留められれば、解体も行う必要がある。


蒔き集めは水分の多く含んだ物よりも、より乾いている枯れ木が望ましい。


野には食べられる草もあれば毒のある草がある。

自分たちの食料とするだけではなく、毒は獲物に使う事も出来るし、薬になる物もある。




つまり旅そのものが魔物使いとしての訓練を兼ねているのである。


残念な事にその日の収穫は無かったが、日が沈むまでの限られた時間では成果は限られる。

得られるにこした事では無いが、皆はその辺を理解している。


「弓もそうじゃか、マチは周りを見る目が良いのぉ」

「えへへぇ」


夕食に加えられたベリーの一種を見て褒める。


「がさつなのに・・ッ!?」

「投擲も・・、一番かのぉ」

「「・・・うん(こくり)」」


ジャニの不用意な一言は、マチの手元にあった木のスプーンを額に受ける事になる。




食後は魔法の訓練の時間となる。


直ぐに魔法が使える筈もなく、五人とも長老の言う魔力を感じるという事が最近まで出来なかったのである。意外にもメイが一番早く魔力を感じる事が出来た。


全員が魔力を感じる事が出来ると、今度は魔力操作に訓練が変わった。


「ジャニ、マチ、もう少し落ち着かんか」

「分かってるんだけど・・」

「なかなかうまく・・」

「ふぅ・・ほかの三人は良いぞ。特にメイは魔力がスムーズに動いておる」

「はい」

「うん」

「(えっへん)」


五人は両手を肩幅程に開いた間を、右へ左へと魔力を移動させている。

メイはお手玉のようにクルクルと魔力を回しているのに対して、ジャニとマチは全力で魔力をぶつける様な感じである。これを火の番で周囲を警戒しながら続けるのである。


これだけ出来ればそろそろ魔物使いの魔法を教えて貰えそうと期待して聞いてみた。


「長老、そろそろ魔法を教わってもいいんじゃないかと思うんだけど・・」

「ダメじゃ」

「なんでだよ、ケチ」

「理由をお聞きしても?」

「うん」

「(コクリ)」

「申し訳ないが、わし一人でお前たちを守る自信がない」


もっともな返事を、すまし顔で言う長老に、反対されたにも拘らず胸に温かい気持ちを感じ、以降同じ質問をする事はなかった。






そのような訓練をしながら孤児院を立ってから三か月程過ぎた頃、旅の終点である魔物使いの里へと到着したのである。


「なぁ、あの鳥おかしくない?」

「そうだね、昨日から付かず離れずといった感じだね」

「うん」

「しかも弓の射程範囲に入ってこねぇ・・」

「(こくり)」


旅を三か月、短いとはいえ濃密な訓練は彼らに危険を感じさせるには十分な時間であった。


「よぅ気付いたの。あれは里からの出迎えじゃよ」

「えっ!?」

「じゃあもうすぐ里に?」

「そうじゃ、急げば今日中にも付こうが夜遅くなるじゃろう。どこぞで野営をして早朝出発しよう。」

「「「はい(うん)」」」


いつも通りにフォフォッっと笑う長老。笑顔で顔を見合わせる。




長老の言った通り、かなり朝早く出発するとお昼前位には村の入口に到着した。


村の入り口では中年の夫婦が四組待っていた。

期待と不安でかなり緊張した様子の五人に、夫婦たちが駆け寄って来て声をそれぞれに声を掛けてくる。


「君がジュンくんかね? よく来てくれた、歓迎するよ」

「あなたはエイプくんかしら? いらっしゃい」 

「マチちゃんね! はじめましてわたしは・・」

「ジャニくんかね。うんうんいい面構えだ」

「あなたがメイちゃんでしょう、長旅お疲れ様」

「ほれほれ皆の衆、子供たちも疲れておるだろうからその辺にしておきなさい」


長老と同じぐらいの年齢の女性が皆に声を掛けると、夫婦たちは少し残念そうに離れる。

女性は子供たちの方を向き声を掛ける。


「遠い所を本当によく来てくれた。

疲れも溜っておるだろうから今日の所は此処に居るそれぞれの夫婦の家に泊まるがいい。

夜には歓迎を含めた宴を開こうな」


とても優しそうな微笑みを浮かべると子供たちに語りかけた。

次の瞬間、正に鬼のような形相になり長老の方へ向けられる。


「爺さん! 分かってるわね」

「ひぃぃぃ!?」


女性は長老の奥方だったようである。長老はいつの間にか村人たちに包囲されている。


「誰が子供たちを迎えに行くか話の途中だったわよね」

「いや・・あれはその・・」」

「長老、家の妖牛が二頭居なくなったんがが知らないか?」

「そうそう、家の怪馬も二頭居なくなったんだが知らないか?」

「あそこの変な魔物は何かしら・・。見た事がないわね」

「・・・」


長老の奥方が指をパチンと鳴らすと、長老は両腕を抱えられ村の奥に連れて行かれる。


「さぁさぁ、子供たちを案内してお上げ。

私にはか・た・づ・け・なければいけない仕事があるからねぇ」


にこやかに笑いかけるが目は笑っていなかった。

この人に逆らってはいけないと本能的に子供たちは察知すると、残った村人の案内に付いて行く。

しばらくすると「勘弁してくれー!」と叫び声が聞こえてきた。




最初に案内されたのが里の共同風呂だった。


どこでも風呂を沸かす労力は大きく、金持ちや貴族以外はめったに入ることが出来無い物が、共同とはいえ里にある事に驚いていた。


聞けは水を張ったり湯に変えるのは魔物の力を利用しているという事で、以外と頻繁に風呂に入っているという事実に魔物を使う事の便利さを改めて感じているのあった。




風呂の後はそれぞれの家の人に連れられ、ベッドで休むように寝室へ案内された。


恐縮して断ろうとするが強く勧められ断るに断りきれない。

言葉に甘えて横になると久しぶりのベッドと緊張や疲れのため、宴に呼ばれるまで起きることなくみんな寝入ってしまう。


しばらくして里のみんなは部屋を訪れ、子供たちのあどけない寝顔を微笑ましく一時眺めると静かに扉を閉めて出て行った。





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