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ダンジョンの同居人  作者: まる
魔物と
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来訪者

来訪者





冒険者ギルドで職員から、魔物使いの厳しい現実を突き付けられる。


それでも尚、魔物使いになろうと覚悟を見せたジャニたちは、それがどんなに小さい覚悟であったとしても冒険者ギルドの合格を得て、魔物使いになる道を示された。


職員へのお礼と挨拶もそこそこに、急いで孤児院へ戻ると残っていた三人とギルドでの出来事について話し合う。



「魔物使いの里か・・、どんな所なのかな」

「落ち着つてマチ。まだ行くとは決まってないよ」

「えっ!? 行かないのジュン?」

「新しい情報も含めて、皆に魔物使いになるか確認しておきたいんだ」

「うん」

「・・・(こくり)」


マチの心は既に魔物使いの里に飛んでいるが、五人全員が魔物使いになるかどうか、きちんと話し合われていない。


「ゴメン。その通りね」

「気にしないで、逸る気持ちは同じだから」

「うん」

「・・・(こくり)」


あれだけ魔物使いに憧れていたのだ、逸るマチの気持ちは十分わかる。


ジュンは先ほど聞いてきた話しと、今までの情報を合わせて皆に確認する。


「正直魔物使いという職業は、不遇職と言われるだけあってかなり厳しい現実のようだね。生半可な気持ちでは無理だと思う」

「うん」


先程の冒険者ギルドの女性職員と同じ様に、皆を脅すような口調で話すジュン。


「こんな話は嫌かもしれないが、魔物使いだけが仕事じゃない」

「僕たちは大人たちから、ギルドの職員から直接現実を聞いてきた。僕がどれほど怖く語ったとしてもほとんど伝わらないと思っている」

「そう思うわ・・。続けて」


ジュンやジャニが本当に厳しいことを伝えたくて、怖がらせてしまう様な言い方になる事が分かったマチが先を促す。


「俺は安易な気持ちで魔物使いになりたいと思っていた・・。だけど別の道もある」

「そうだね。僕も少なからずそういう気持ちは持っている」


ジャニとジュンが正直に今の気持ちを皆に伝えていく。


「だけどジャニが冒険者ギルドで言った事は確かだと思うんだ」

「あんた、何て言ったのよ」

「えーっと、すべては無駄にならない・・だっけ?」

「その通りだよ」


間違いなく孤児院を出る。そのために準備をして置く事は役に立つだろう。


「魔物使いになるかどうかは別にして、冒険者の訓練はやっておきたいと思う」

「うん」

「そうだな」

「そうね」

「・・・(こくん)」


必ずしも魔物使いにならなくてはいけない訳ではない。

冒険者の基礎訓練は、今後の選択の幅を広げるのは確かだろう。


奇しくもシスターの考えに近い答えを出し始めていた。


「今出来る事は二つあると思う。まずは魔物使いの里へ行く事が一つ」

「うん」

「そうね」

「・・・(こくり)」


ジュンはやるべき事をみんなと共有していく。


「後の一つは何?」

「もう一つは・・、シスターを説得する事だね」

「呼んだかしら?」

「「「!?」」」


このシスターは、いつも絶妙なタイミングで現れる。

どこかで出待ちでもしているのだろうか?と疑いたくなる程だ。


相変わらずの登場に子供たちは驚き、声の方を振り向く。彼女は手に何か持っていた。


「えっと・・」

「あのシスター・・」

「何かしら?」


何もかもお見通しよと言わんばかりの笑顔で先手を打たれる。

みんなは言いたいことがあるのに声が出てこない。彼女は救いの手を差し伸べる。


「ふふっ。これを使うといいわ」


手に持っていた皮を差し出す。


「これは・・羊皮紙? これをどうしろと?」

「もちろん手紙を書くのよ、魔物使いの里へ」

「えっ!?」


紙という物はほとんど普及しておらず、貴族や大金持ちと呼ばれる人たちが使う位だ。

一般の人は読み書きが出来ないのが普通で、生れた村や町を出る事さえ稀だ。

精々、商人やギルドが連絡を取り合う手段として、羊皮紙を手紙として使うのである。


「魔物使いの里へ、あなたたちで行くなんて出来る訳ないでしょう」

「「「・・・」」」


全て聞かれていたようである。

いつから傍にいたのだろう、誰も気が付かなかった。


それだけ真剣に話し合っていたとも取れるし、もっとも彼らをずっと見ていた彼女だからこそかもしれない。


「魔物使いにいきなり成ろうとするのではなく、きちんと情報を集め、どういう職業か、どういう準備が必要か、何が出来るかをよく話し合った事はとても大切なことです。


まず魔物使いの里宛に手紙に自分たちの気持ちを書いて、どうしたらいいのか相談に乗って貰ってはどうかしら?」

「はい! ありがとうございますシスター」

「子供の戯言として、手紙を送っても何も返ってこない事もあると思うわ。

その時は改めてどうするのか話し合ったらいいと思うわ」

「「「はい(うん)!!」」






五人はそれぞれの気持ちを整理して手紙に書いた上で、これから自分たちは何をしたらいいのか相談に乗って欲しいという事をありのままに書いた。


シスターに内容の確認をしてもらい、冒険者ギルドで魔物使いの里の場所を教えてもらうと行商人経由で手紙を届けてもらう事にした。



手紙を届ける方法は大きく分けて二通りあり、一つは冒険者ギルドに依頼としてお願いする。これには当然依頼料が発生する。


もう一つは商人ギルドに依頼する事である。

これは商人の買い付けや行商人の移動に合わせて手紙を運んでもらう方法である。確実に届けるにはやはり料金が掛かる。

確実性がなく時間も掛かって良いなら、商人の善意で、何かのついでに運んでもらうのだ。


五人は確実に届けて欲しいと思ったが、手紙の料金を出す事は難しかった。




手紙を出してから、彼らなりに出来る事を始めた。


冒険者ギルドで学んだことを無駄にする事無く、まずはどの職業に就いたとしても必須となる体力作りからである。

手始めに朝のランニングから取り組むことにした。


出来る者は距離を増やしスピードを上げ、出来ない者は出来ないなりに目標を決めて取り組む様にする。






魔物使いの里からの返事を待ちながら、手紙を出してから三か月程経過する。


子供たちの間でも、そろそろどうしようかという雰囲気が出始め、もう一度手紙を出すか、諦めて他の道を探すのかと、幾度となく話し合われたある日の事、彼らの元に一人の旅人が訪れた。




「ジャニ、悪いけどジュン、エイプ、マチ、メイに声をかけて応接室へ着て頂戴」

「はーい」


何故応接室にという疑問が湧いたが、シスターからの声に返事をすると四人を探しに行き、全員が揃って応接室へ向かった。


「応接室なんか入った事無いわよ」

「掃除場所の割り当てにも入って無いからね」

「うん」

「やっぱ壊しちゃまずいものがあるのか」

「・・(こくこく)」


応接室の扉の前に着くと、代表でジュンが扉を叩き声をかける。


「失礼します。ジュンです、お呼びという事で参りました」

「お入りなさい」


扉の向こうからのシスターの声を待って、扉を開け五人が中に入る。

応接室は思っていたよりも質素で、テーブルと三人掛けのソファが一つと、一人掛けのソファが二つ置いてあるだけで、後は壁には以前みんなで作ったキルトが飾られているだけだった。


一人掛けのソファにはシスターが座り、向かいの長いソファには初めて見るてっぺんの禿げあがった初老の男性が座っていた。


「みんなこちらの方は・・」

「はじめまして、君たちが魔物使いに成りたいという子供たちかな?」


シスターが男性を紹介しようとすると、それを遮るように立ち上がり笑顔で彼らに問いかけてきた。


「そうですが・・、あなたは?」

「これは失礼した。あまりにうれしくてね。魔物使いの里で長老と呼ばれる役職にいる者だよ。まぁ名前ばかりのだがね」

「「「!?」」」


これは失敗と言わんばかりに、彼の禿げあがった頭をペチリと叩くと自己紹介をする。

五人はあまりに突然の出来事に口をぽかんと開けている。そんな彼らをニコニコと一人一人の顔を見て回る長老。


「突然の事でさぞ驚いたことだろう。

君たちからの手紙を受け取って直ぐに返事を書いたんだが、里の皆が居ても立っても居られないといってね。里を代表して私が来ることになったんだよ」

「はぁあ・・」


呆然としている彼らに来訪の理由を告げる。


「あまりに急いで来たので、手紙より先についてしまったようだが」

「そうだったんですか」


ジュンが応えると、はっとしてお互い顔を見合わせ、手を取り合り躍り上がって喜ぶ。

尽きる事無い彼らの興奮を、シスターからの咳払いが静める。


長老は来訪の目的をはっつきりと告げる。


「手紙にもあったが、色々と聞きたいことがあるのだろう」

「はい!」

「その前にわしが来た理由だが、はっきり言おう。君たちをわしらの里に迎えたい。

出来るならわしと一緒に里に来て欲しいと思っておる」

「「「!?」」」


唐突な話しに五人は喜びよりも、困惑といった顔でシスターの方を見る。


「あなたたちが来る前に長老さんと話をしていたのよ」

「わしから話をしよう」


シスターの言葉を受けて、長老は頷くと話し始める。


「突然の事で考えが纏まらんだろうし、疑問も解決しておらんだろう。

長旅をしてきた年寄りに免じまずは話を聞いて欲しい」

「「「・・・はい(うん)」」」


頭の中は色々な思いや感情が入り乱れて整理がつかないが、長老の言葉に従って話を聞くことにする。


「今や里では魔物使いの若者がほとんどおらん。

ましてや不遇職という不名誉まで受けて成り手がおらず、このままでは後継者が育たず魔物使いのスキルが廃れてしまうのを待つばかりの状況じゃ」

「「「・・・・」」」


先ほどまでのにこやかな顔から苦々しい思いの表情に変え心の内を明かしていく長老。

子供たちも口を挟む事無く黙って聞いている。


「里の者もこのままではダメだと、危機感を感じていた所へ君たちからの手紙だ。

手紙の内容を見てすぐに里の者たちに話をした所、みなが君たちを是非迎えたいという事になった。まぁ渡りに船だった訳じゃが」

「「「はぁ・・」」」


苦々しい顔から一転笑顔であまりに正直に気持ちを暴露する長老に、子供たちの方が苦笑いになる。

そして今度は君たちの番だと話を振る。


「これが君たちの手紙に書かれていた気持ちに対するわしらの気持ちだ。

しかしこのままでは君たちがはいそうですかと言って付いて来てはくれまい?」

「・・・そうですね」


長老から今直ぐにでも連れて行きたいのは山々なのだが、流石に無理強いしてまで連れて行くつもりもない事が告げられる。


「そこでまず君たちが魔物使いをどれだけ知っているか話してもらえるかな?」

「わかりました。僕たちは冒険者ギルドで聞いた事は・・・」




ジュンを中心にギルドで聞いてきた事を包み隠さず話し、抜けている所があれば他の皆が埋める形で話していく。一通り話を聞くと長老は頷き話を引き継ぐ。


「なるほど、良く勉強している。ギルドの職員もかなり丁寧に教えてくれたようだね」

「はい」

「だが知らなかったのかワザとなのか・・、ギルドの職員が話していない事もある」

「えっ!?」


ギルドで聞いた事以外に魔物使いについてまだ他にもあるとは思いもよらなかった。


「話しの通りなら当の昔に魔物使いは滅んでおるよ。

そんな苦しいだけの仕事など誰がしたいと思うかね? 

ギルド職員が話したのはデメリットの部分だ。

それ以上のメリットがあるからこそ続けられると思わないかね?」

「「「あっ・・」」」


魔物使いを取り巻く現実の厳しさに、考えが及ばなかったのだろう。

誰の得にもならない辛く苦しいだけの仕事がいつまでも残るはずはないという事に。


「魔物使いのメリット、まぁこれが魔物使いの肝でもある訳なんだが・・」

「「「・・・(ごくり)」」」


長老の絶妙な間の取り方で、思わず引き込まれる子供たち。


「魔物使いは魔物を【捕獲】するための魔法の他に・・、【強化】と【合成】という魔法が存在する」

「「「【強化】と【合成】!?」」」


ギルドでは話に上ってこなかった言葉に、みんなは思わず顔を見合わせ、長老はその姿にしてやったりという感じで頷いている。


「どちらも魔物同士を掛け合わせる魔法だが、簡単に言えば強化は片方に経験値を渡し成長させ、合成は別の種の魔物を生み出すことが出来る」

「「「なっ!!」」


何という技術、何という魔法か。

いくら弱い魔物でも次々に掛け合わせれば、強い魔物にする事が出来るというのである。

これならば魔物使いが続くのも納得である。


「すごいわ!」

「確かにこれなら・・・」

「うん」

「そうだね」

「・・・・(んっ)」


夢に描いた魔物使いが急に身近に表れ、みんなの気持ちが昂っていく。


「しかし必ずしもそのような魔物使いに成れないのではありませんか? 

だからこそ魔物使いは・・その・・」

「うむ、その通りだ。確かに才能によって大きく左右される。

そこまで強力な魔物使いに成れるのはほんの一握りだろう。

が、それはどの職業でも同じ事ではないかの?

ギルドの説明から借りれば、魔物使いの訓練はそのまま狩人の訓練になるじゃろう。

実際にそういう者も居たのは確かだ」

「・・・なるほど」


今まで黙って聞いていたシスターが、不遇職に甘んじている現実を結果を問う。

長老はそれを認めた上で道は一つでは無く、魔物使いに成れなかったものが他の職業に変わっていった事を告げる。


彼女としても危険な職業であり心配は尽きないが、彼らに選択肢のある道を示す事が出来るのは幸いであろう。


「みんな。私は魔物使いの里に行くというなら反対はしません。

技術を学ぶ機会は、生かすべきだと思います。

出来るだけ相談に乗りますが、あとはあなたち自身に委ねます」

「今日の今日、答えを出す事は難しいじゃろ。

わしも疲れを癒すためにしばし逗留するから、里に戻るまでに答えを聞かせて欲しい。

もしかしたら手紙の返信が届くやもしれんしのぉ」

「「「はい(うん)」」」


シスターから後押しを受ける。長老も答えを急がず待ってくれるという。


降って湧いた幸運と機会に、喜びと感激、驚きと困惑が入り混じる。

みんなと話し合いたいが言葉が出てこない。


ジャニ自身どうしたいのか、皆はどうするのか。その日は珍しく静かに夜が更けていった。





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