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ダンジョンの同居人  作者: まる
魔物と
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魔物使いになるには

魔物使いになるには





この世界では、15歳になると成人と認められる。


孤児院でも15歳になると職業を決めて出て行かなくてはいけない。

孤児院のなかで日曜大工や食事当番といった仕事をこなすうち少しでも才能があった者は、大工や鍛冶屋、料理人といった職業の弟子や下働きに就く事になる。


しかし殆ど者は身一つで就く事が出来る冒険者を簡単に選んでしまう。

代価は自分の命だというのに。


とはいえ伝手のない子供が、就く仕事など限られてしまうのも確かではある。




魔物使いなると誓い合った朝から、五人の活動は始まっていた。


割り当てられた仕事をサボるとお説教である。

お説教だけならまだいいが、最悪の場合、食事抜きも考えらえる。


よって、その日の昼食の時間を使って今後の方針を話し合いを始めた。

やりたい事に突き進む行動力は子供の特権である。


「まずどうやったら魔物使いになれるかが大切だね」

「うん」

「よく考えれば魔物を使って戦うのが魔物使いという位しか知らないのよね」

「えっ、それでいいんじゃないの?」

「はぁ・・、そう何だけど」


こいつ何もも分かってないわーと、溜息を吐くマチ。


「何が?」

「じゃあ、どうやって魔物を捕まえる気だい?」

「魔物使いになればいいじゃん?」

「・・・(! もぐもぐ、ごっくん)」


ジュンとマチは、ジャニに幼い子に教え諭す様に言って聞かせる。


「あんた馬鹿だと思っていたけど・・本当に馬鹿だったのね」

「今のは無いんじゃないかと思うよ・・マチの意見に同意するね」

「うん」

「なっ!? どういう意味だよ」

「いや言葉の通りよ・・」

「・・・・・(ふきふき、スッ)」


ジュンとマチは深い溜息を吐き、エイプは憐みの表情を浮かべ頷いている。


「もう一度聞くよ? 戦わせるための魔物はどのように手に入れつもりだい?」

「だから魔物使いになればいいのさ」


ジュンは何故分かり切った事を聞くんだと思う。


「その魔物使いになるにはどうしたらいいと思う?」

「そんなの魔物を使って戦えば・・いいかな?」


堂々巡りとなる会話に、自分の言っている事が分からなくなる。


「なんで疑問形なのか聞いてもいいかい?」

「うん」

「私たちのおバカ発言分かってもらえたかしら・・?」

「・・はい」


自分が既に魔物使いになった前提で話していた事に気が付く。


「まぁ後2年あるし、少しずつ調べていけば何とかなると思うけど・・」

「2年って?・・・あっ!」


マチは何かに気が付く。


「どうかしたのかいマチ。そんなに驚いて・・、そっか」

「うん?」

「どうしたんだ二人とも? 急に黙り込んだりして?」


2年という言葉を発端に、ジュンとマチが難しい顔をして頷きあっている。

しかし全く別の方から声が返って来て話が遮られる。


「私もガッカリだわ」

「へっ!?」


後ろを振り向くと、とても優しげな微笑みを浮かべてシスターが立っている。

聖母の様な慈愛に満ちた笑顔なのに、絶対に逆らってはいけない雰囲気がある。


「如何しましたかシスター?」


ジャニの言葉遣いが、何となくおかしくなる。


「ガッカリしたのです」

「何が、でしょうか?」

「せっかく心を込めて作った料理が冷めてしまいました」

「「「あっ!(うん)」」」

「そしてみんなは後片付けを済ませ、午後の仕事に行きました」

「「「・・・」」」


シスターの言葉につられて周りを見渡せば、食堂はきれいに片づけられている。

自分たち四人以外誰もいなくなっている。話に夢中になって全く気が付かなかった。


「あれ!? メイはどこに・・」

「メイなら食事を済ませ、きちんと後片付けをして、もう午後の仕事を始めています」

「さては気が付いて、黙って逃げたわね」

「逃げたではありません! 

もう少し年上として手本を見せて頂戴。あなたたちも直ぐに取り掛かりなさい!」

「「「はい(うん)」」」




メイに置いてけぼりにされ、慌てて食事を済ませ、割り当てられた午後の仕事へ向かっていく。

育ちざかりの彼らが、食事を残すという事は絶対にあり得ない。

食べ終わるまで、シスターが傍についてお説教を聞かせようとも。


仕事をサボって話し込んでいたために、怒られるという失敗をしたにも拘らず、懲りずに同じ様に話し込んで怒られる事を繰り返すのも子供の特権かもしれない。

周りの大人たちにとってはいい迷惑ではあるが。




流石に懲りたのか午後の仕事はしっかりとこなし、夕食もさっさと終わらせ寝る前のちょっとした時間を使って先ほどの話の続きである。


「問題と言えば問題よね・・」

「一番上がジュンとエイプで13歳で、メイが8歳か・・」

「問題はメイが分かってくれるか・・」

「うん」

「なぁメイ、7年待てる・・」

「(フルフル)」

「・・訳ないか」


シスターの登場で途切れていた話と言うのが、成人に達する年齢が全員違う事だった。


各々が成人する歳を考えずに、魔物使いになる事を話し合っていたので、年齢差に気が回らなかったのだろう。

ジュンとエイプが同じ13歳、マチが11歳で、ジャニが10歳、メイが8歳と、当たり前であるが結構な年齢差がある。


上の子供たちは「一緒に」という意味は「同時に」ではなく、「同じ魔物使いに」なるという意味で受け止めていたのだが、まだ小さいメイにとっては、置いてけぼりを喰らう形になり受け入れられるはずがない。


「しかしどう考えたって、一緒は無理だろう」

「・・・簡単」

「簡単ったってどうやってよ?」

「・・・みんなが我慢」


胸を張るメイのドヤ顔で話すアイデアに、年長組は顔を見合わせる。


確かに小さい方や弱い方に合わせるというのは、合理的かつ効果的である。

しかし15歳を過ぎて孤児院に残る事は無理である。


「そっか、さすがメイ。いいアイデアだよ」

「うん」

「うん、確かにその通りね」

「・・・(エッヘン)」

「じゃあ次に本題の魔物使いについてだね」


メイの説得はひとまず諦め、当初の問題である「どうしたら魔物使いになれるか」を話し合う。


「魔物使いにどうしたらなれるか・・か」

「孤児院の中でしか生活していない僕たちだけでは正直何も分からない。

分からないどころか話し合いにすらなっていないからね」

「うん」

「どうするの?」

「・・・・・(! スゥスゥ)」


孤児院という限られた環境で得られる情報、ましてや子供たちだけで出てくるアイデアというのは簡単に底をついてしまう。


「大人たちにに聞いてみるのが一番早いと思う、まずはシスターに話してみよう」

「相談に乗ってくれるかしら?」

「僕たちの将来に関しては相談に乗ってくれると思うよ」

「うん絶対手伝ってくれるよ」

「そうね、明日さっそく相談してみましょう」

「うん」


子供たちが明日からの方向性を決めると、不意に聞きなれた声が聞こえた。


「・・・私を頼ってくれるのはとても嬉しいわ」

「「「!!!」」」


今日3度目となる、後ろからのシスターの声にみんな固まってしまう。


「でも仕事に就く前に、床に着くのが先だと思うのよ」

「シスターうまい・・がっ!」


頭に無言で落とされた拳骨に悲鳴を上げるジャニ。

周りを見渡せば四人以外みんなベッドに入っている、メイも含めて。


末っ子というのは上の兄弟を見て育つため要領がよくなる。

これは兄弟が多くなると下の子に現れる特権と言えるのだろうか。


「もう遅いから早く寝なさい、お話は明日。合わせて相談にも乗るわ」

「「「はーい(うん)」」」


みんなは気が付いていた、シスターとの明日には「お話」と「相談」の時間がある事に。そしてどちらが長くなるのか。諦めて深い溜息を吐く。






翌朝。

まず四人が皆の起きる時間の前に起こされて「お話」を受ける事になる。

その際、夕食後五人揃って食堂に残って「相談」する事を言われる。




「遅くなってごめんなさい。みんな揃っているわね」


夕食後言われた通りに食堂に残っていると、しばらくすると何かの用事で帰りが遅くなっていたシスターが外出先から戻って食堂に現れた。


「じゃあ約束通り相談に乗りましょう。まずはみんな魔物使いになりたいのよね?」

「「「はい(うん)!!」」」


五人に魔物使いという職業に就く意思を確認する。

それが一時の夢であっても、子供たちの目線に合わせるとことは大切である。


「そう・・。周りの人たちに聞いてみたのだけれど、大概の職業は知っていても、ほとんどの人が魔物使いという職業について知らなかったわ。

あまり有名ではないみたいだから、冒険者という事でまずは話を進めるわね」


シスターの言葉に五人とも黙って頷く。


「まず正直冒険者になる事は、私は反対です」

「どうして!」


マチがみんなを代表するかのように、声を大にして撤回を求める。


「静かにね。

あなたたちはまだ冒険者というものがよく分かっていないからよ」

「よく分かってないってどういう事?」


ジャニはシスターの言葉に引っ掛かりを感じる。


「冒険者という職業は、命がけの仕事になる。

街の中で済む仕事もあるけれど、殆どが町を離れて依頼をこなす事になるわ」

「「「・・・・」」」


魔物使いは元より、冒険者についても聞きかじり程度しか知らないのは確かだ。


「教えたとしてもまだ小さいから分からないと思っていたから、きちんと教えて来なかったけど、町の外はとても危険なの」

「そんなの分かってるわ!」

「聞くと見るとでは全く違うのよ」

「・・・」


マチが再び声を上げるのを手で制して、子供たちの考えでは及ばない非常な世界がある事を教えようとする。


「まだ時間があるのだからゆっくりと考えて欲しいの。

料理人や大工といった職は、街の中で安全に少しずつ技術を身に着けていけるわ。

でも冒険者は自分の命を使って生活するの。

夢やロマンと命を、安易な気持ちで天秤に掛けては駄目よ」

「安易なって・・」


熱意を持って真剣な気持ちで話すシスターの言葉は、子供と言えど軽んじることが出来ない雰囲気であった。


そして続けて話をする。


「冒険者になる事は反対です、が正直あなたたちに、これといった職業を示してあげられない事も事実です。

正直、私や孤児院が持っている伝手では、あなたたちが満足に食べていけるだけの職業を見つけてあげる事は出来ません」


成人したばかりの子供が、簡単に就けて生活出来るだけの収入を得られる職業がそう易々と見つかる訳でも、常にある訳でもない。

あるなら生活苦で子供を手放す親など存在しないだろう。


大抵は低い賃金でかなり厳しい肉体労働をするか、最悪犯罪に巻き込まれたり、奴隷にされたり、娼館へ売り飛ばされる可能性だってある。


「あなたたち、冒険者ギルドへ行ってみなさい」

「えっ!?」


冒険者として、魔物使いとしての生活を夢見ていた彼らに、厳しい現実、しかも実際の厳しさの表面にも満たない話をしてきた。

その上でガッカリする子供たちに向かって、彼女は冒険者ギルドへ行くように勧める。


「何時、誰が、冒険者ギルドへ行くのか、必ず私と相談してちょうだい。いいわね?」

「シスターは冒険者になるのが反対なんでしょ?」


マチがシスターの変化に戸惑いながら聞く。


「反対よ。でもそれは私の意見であって、あなたたちの気持ちとは別です。

さっきも言ったように時間がまだあるのだから、冒険者というのをその目で確かめてきたら良いと思うの。

その上であなたたちの将来を決めても遅くはないわ」

「「「ありがとうシスター(うん)!」」」


余程うれしかったのだろう、五人とも思い思いに感謝を伝えながら抱きついてくる。


「さぁ昨日みたいに遅くならないように、早く寝る準備をしなさい」

「「「はい(うん)!!」」


頭を撫でたり、背中を優しく叩くと、子供たちは駆け出して行く。


その後姿を見て微笑む。しばらくすると厳しい顔に戻り胸の内を吐露する。


「(あとはギルドの方々が、あの子たちにどれだけの経験をさせてくれるか・・)」




話し合いに遅れた彼女の外出先は、冒険者ギルドであった。


ギルドの職員に子供たちが来ることを伝えてきたのである。

冒険者になる事を勧めるのでもなく、冒険者にならないように説得するのでもなく、ありのままの冒険者を見せてあげて欲しいと頼んで来たのである。






冒険者ギルドのギルドマスターの部屋に、職員が先ほど来た教会のシスターの頼みの件を報告に来る。


「孤児院の子供たちに、冒険者のありのままを見せて欲しいだと?」

「はい、そのようにおっしゃっていました」

「ふむ・・」

「依頼では無く、お願いという事でしたが如何いたしましょうか?」


このような些末な事でさえ本来は依頼となるが、お願いには意味があった。

依頼としてしまうと、求める結果の通りに演じられてしまう可能性があるのだ。


「うん? もちろん出来るだけ手伝ってやりたまえ。

若い命を容易に失わせることは避けるべきだ。

安易な気持ちで冒険者になるのと、覚悟をもって冒険者になるのでは雲泥の差となる」


新しい冒険者は歓迎だが、近年甘い考えを持った冒険者が増えている。


「承知いたしました。では魔物使いの件は如何しましょうか?」

「・・時期尚早。まずは冒険者の何たるかを教えてやりたまえ」


教会のシスターの希望通り、冒険者について教える様に指示する。


「承知いたしました。そのように取り掛かります」


ギルドマスターの報告を終えると、直ぐに職員は部屋を出て行き業務に戻る。

出て行った扉を眺めると、椅子に深く座り直し、一人呟く。


「きっかけは何であれ、将来を考えている若人に、手を差し伸べるのに何の躊躇いがいると言うのか」


普段の彼はいつもピリピリとして、厳しい表情で次々くる問題に頭を抱えているのだが、この時ばかりはとても楽しそうに笑みを浮かべていた。





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