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ダンジョンの同居人  作者: まる
魔物と
20/40

魔物使いになる

本当はここからの主人公の過去から小説を作ったのですが、ダンジョンが一切出てこなかったため、急きょ章を入れ替え投稿した経緯があります。

魔物使いになる





プロティア大陸、三ノ領南市の西にあるササウの町。

主都から直線で18日程度の距離にある。


健康な人なら一日に四十万グラドゥス(32km)歩くので、結構な距離である。

グラドゥスは距離の単位で、人間の一歩(80cm)である。




教会の裏側に建てられた孤児院では、一週間に一度、夕食の後、子供たちにシスターが物語を読み聞かせる習慣があった。



プロティア大陸では、8を尊い数字として、八日で一週間、八週間で一か月、八か月で一年としている。



今日もシスターが、4歳ぐらいから10歳ぐらいの子供たち集めて『ピーチボーイ』という物語を読み聞かせている。


「昔々ある所に、お爺さんとお婆さんと一人の少年が住んでいました。

少年の両親は魔物たちに殺され、お爺さんとお婆さんに引き取られたのでした。

お爺さんは山へ狩りに、お婆さんは湖で釣りをします。


少年は一人、桃の木の前でひたすら剣の修業をします。


成長した少年に桃の精が現れ、「世界を救う、素質あり!」と大きな桃を授かりました。


桃の中には、武器や防具、進化させる実が入っていました。


少年はピーチボーイと名を換え、魔王を倒す旅に出ます。

途中、犬と猿と鳥を仲間にし、進化させる実を与えると、フェンリル、ジャイアント、フェニックスになりました。


ピーチボーイと仲間は、魔王の城へ乗り込み魔王を無事退治しました。

城で金銀財宝を手に入れたピーチボーイは、三匹の魔物を伴って故郷へと帰り、お爺さんとお婆さんと末永く暮らしました。


おしまい」



パチパチパチ・・

シスターが物語を読み終わり本を閉じると、お行儀よく静かに話を聞いていた子供たちから拍手が上がる。

そしてどのシーンがいいとか、誰がかっこいいとか、思い思いを話し合っている。


「やっぱピーチボーイはかっこいいよな」

「うん、魔王を倒すところなんて・・」

「フェンリルの氷のブレスが・・」

「フェニックスの炎の舞が・・」

「門を一撃で破壊したジャイアントの拳が・・」


登場人物の真似をした、ゴッコ遊びが始まり急に騒がしくなる。

中には、なりたい登場人物の奪い合いから喧嘩をしたり、泣き出す子供たちまでいる。


「はいはい。その辺にして寝る準備をしなさい」


盛り上がる子供たち、喧嘩をする子供たちの仲裁をしたり、泣いている子供たちをあやす一人のシスターが、手を打ち鳴らして寝る支度をするように声が掛かる。

「はーい!」と元気に返事をして散らばっていくが、子供たちの興奮は冷める様子がない。一人の少年を残して。


「・・・やっぱり冒険者になる・・」


遠くで何となしに聞こえてくる、子供たちの会話に耳を傾ける。


(できれば成功して、教会にいっぱい寄付してね。食べ物主に肉でも可!)


シスターが、と思うかもしれないが、町の微々たる援助金以外は、運営の殆どを寄付で賄っている様な孤児院の懐具合はいつも厳しい。

世知辛い世の中かもしれないが、綺麗事を言っても食べ物は得られないのである。




ふと気付くと、物語を聞いている時はボーっとしていたのに、今はその場に唯一残って難しそうな顔をしている、灰色の瞳、黒みがかった灰色の短い髪の少年に目を向ける。


「ジャニ、どうかしたの?」


彼に声をかけ目の前で手を振ってみるが特に反応を示さない。

肩に手を置いて揺すってみると突然ガクンと首が落ちる。


「えっ!?ちょっと・・」


突然の彼の変化に慌て、もしかしたら何か変な病気にかかったのでは?と肩に置かれた手に力を入れ揺すると、恍惚の表情で顔をあげ、両手で拳を作るとガバッと立ち上がる。


「魔物使いって、ヒモだよね。シスター」

「ふぉあ!?」


驚きの声を上げながら、ギリギリのところで彼の頭突きを何とか躱す。


「ヒモって、どこをどうしたら結び付くのかしら? そもそも意味知っているの?」


いくら孤児院の子供たち自由奔放と言っても、明らかにおかしな言動のジャニに、若干引き気味に問いかける。


「シスター、俺、将来魔物使いになろうと思う」


シスターの問いかけが、全く耳に入らないのか思った事が口から出てくる。


「魔物使い? 魔物使いって誰の事かしら?」


スルーされた事はおいても、魔物使いという職業自体あまり聞いた事が無い。


「ピーチボーイに決まっているよ」

「え!? 彼は剣士でしょ?」

「いや、あれだけの魔物を引き連れているんだから、魔物使いだと思う」


シスターは、彼がいったいどうやって、魔物使いという言葉を知ったか尋ねてみる。


「魔物使いって、誰かが教えてくれたのかしら?」

「本の後ろにそう書いてある!」

「・・本の後ろ?」


ページをペラペラと捲って行くと、確かに一番後ろに本の紹介として、主人公は魔物使いであっただろうといった事が書いてあった。

いつの間に本の巻末まで読んだのか疑問に思うが、問い質さず気持ちを汲み取る。


「主人公に憧れちゃった?」

「うん。魔物に働かせて、財宝がっぽりって夢の生活に憧れる」


・・何処かで教育を間違えたのだろうか?と自問自答する。

確かに自立した生活は強調してはきたが、こうまで自堕落な人生を勧めたりはしない。


街中へ買い物などへ行った際に、かなり偏った情報がインプットされたのだろうか。


「・・そう。夢を持つ事はとても大切なことよ、応援するわ」

「ありがとう、シスター」

「でも私も、魔物使いって職業は・・」

「おやすみなさい」

「・・えっ!?」


自己解決したのか、シスターの声を遮って部屋へ戻るジャニ。


彼の後姿を見て、まぁいっかと一言呟き肩をすくめると、残りの仕事を片づけに席を立つ。彼女の夜はまだまだ長い。




そこへ一人遅く部屋に戻ったジャニは、そっと扉を開け割り当てられたベッドへ入る。


部屋には三段ベッドが四つ置かれ、各々今日の物語の続きに花を咲かせている。


「明日ピーチボーイごっこやろうぜ」

「「「「賛成」」」」


寝る前に子供たちは明日の予定を決めて置く。それぞれには孤児院の仕事が割り当てられており、例え思うようにはいかないとしても。


そんな皆の話の中へ、ジャニが割り込んでいく。


「なぁ魔物使いって職業、知っているか?」

「魔物使い? 聞いた事がないぞ」

「ピーチボーイって、魔物使いらしくてな」

「魔物使いとかより、やっぱり剣士がいい」

「魔法が使いたい」

「やっぱり魔物使いって知らないか・・」


部屋にいる誰かしらは、魔物使いを知っていると思ったが当てが外れる。


一度は収まっていた興奮が、ジャニの言葉に再燃し始める。


それぞれお気に入りの登場人物を熱く語るが、魔物使いについては全く出てこない。


「この間読んでもらった『ウェストサイドストリー』だって、そうだと思うんだけど」

「・・あれはない」

「うん、絶対にありえない」

「あり得ないって、何でだよ?」


登場人物よりも、作品そのものに文句があるようだ。


「「「だって、豚だろう」」」


「あぁ豚か・・・、たしかにそれはあり得ないかも・・」


豚と言えば、オークと言う、人間に嫌われる魔物が存在する。


みんなの声に納得しかかると、一人の少女の声がかかる。


「・・・私的には、・・・あり」


小さなとても小さな声だったが、ジャニは聞き逃さなかった。


「そっか、ありか。そういうやつも居るよな」

「えぇ!? おかしいって・・」

「いったいどこがありだよ・・」


豚の一言にみんなが納得する状況に少女が黙ってしまう。

ジャニは援護のために皆に声をかける。


「待て待て。豚が仲間がありって気持ち・・」

「・・非常食」

「だって大切、・・ぇえええ!?」


少女の言葉にジャニは驚き、皆はドン引きする。そして少女から何とも言えない音が発せられる。


「・・・(じゅるり)」


貧しい孤児院で肉を食べるというのは、特別な機会でない限りあり得ない事である。

普段なら食べるどころか、殆ど目にする事の出来ない超高級品である。


そんな食糧事情で気持ちは分かる、分かるが死線を乗り越えた仲間を喰う・・、末恐ろしい発想である。


そんなドン引きな話も含めて、ヒソヒソ話が夜遅くまで続いた。






翌日、ジャニは朝食を終えると、今日の当番である畑仕事へ向かう。


子供とはいえ立派な労働力である。


次の種まきのために畑を耕していると、鳶色の瞳、赤毛をボーイッシュにした一人の少女が、少し離れた所で、二人の少年と話し込んでいた。


時折聞こえてくる言葉の端ハシに、魔物使いと聞こえてくる。

もしやと思い傍へ寄って行ってみる。


「やあジャニ、どうしたんだい?」

「うん」


暗い茶色の瞳と、同じ色の髪を後ろに撫でつけたジュンと、黄色がかった茶色い瞳と同じ色の髪をお坊ちゃま風に切ったちょっとポチャリ気味のエイプが声を掛けるてくる。


「いや魔物使いって言葉が聞こえてきたから」

「あんたも魔物使いに興味がある訳?」


ただ一人の少女、マチが尋ねてくる。


「あんたも? て事は他にも居るのか」

「もちろんだよ」

「うん」

「最初はこの三人だったんだけど、あんたで四人目ね」


ジュンとエイプが肯定すると、ニヤニヤしながらマチが絡む。


「しかし、ライバルが増えたわね・・」

「ライバルってどういう事だ?」


マチがちょっと困った顔をしてそっぽを向くと、ジュンが説明してくれる。


「ジャニは周りの皆に聞いたか分からないけど、魔物使いって殆ど知られていないんだ」

「うん」

「そうそう、誰も知らなかった」


昨晩の部屋の状況から言えば、魔物使いを知っている人は皆無だった。


「もしかしたら魔物使いになれる人が、限られているかもしれない」

「限られている? 才能とかが必要なのか」

「それもあると思うけど、技術を隠しているとも考えられる」

「えーっと、一子相伝とかいうやつか?」

「そうそう、そう言うモノだね」

「うん」


確かに強い職業ならなり手は多いはず。強すぎるがゆえに秘密にしているという子供らしい発想だ。


「一子相伝じゃなくても、人材の振るい分けは十分に考えられる訳よ」

「なるほど。それでライバルか」


技術を秘密にする以上、魔物使いになれる人数も限りがあるだろう。もしかしらた、相手の方からのスカウトなのかもしれない。


「それは確かなのか?」

「うーん、想像の範囲だね。僕も本の巻末に書かれていた事しか知らないから」

「うん」


巻末仲間が、此処にも居た事に勇気付けられる。主に同罪と言う意味で。


「マチは何か情報持っていないのか?」

「私だってジュンと同じよ」


シスターの怒りが分散される事に期待出来る。・・倍増もあり得るが。


「じゃあ皆は、どうして魔物使いになりたいんだ?」

「あれだけの物語を読んで魔物使いにならないなんて、おとこじゃないわ!」

「いやマチ、おまえは女だろう」

「字が違うわ! 漢よ! 漢!」


細かい突込みに、ロマンを理解できないやつみたいみたいな目をされる。


「『竜の依頼』とか『エフエフ物語』だって、魔物を使うところが出てくるじゃない」

「うん。確かにそうだよな」

「多くの物語にはやっぱり魔物がヒーローの味方になって戦っているわ」

「まったくその通りだ」


自分とは目的が違うだろうが、夢を語るマチから熱意が伝わってくる。


続けて他の二人からも魔物使いになりたい理由が話される。


「僕の場合は正直、料理とか日曜大工が得意なわけじゃないし、たぶん大人になったら冒険者になるんだと思う」

「うん」

「・・そうなるか」

「・・そうね」


手に職を持つというのは簡単なことではない。誰でも始められる職業は多くは無い。


「だったら、今からでもどんな冒険者になるか、準備を始めるのは悪い事じゃない」

「うん」


近い未来必ず孤児院を出る事になる。それなら将来を、今から決めておく事は大切だ。

やりたい事や好きな事を仕事にするという考えは、簡単に受け入れられるものである。


「シスターも昨日同じような事言ってたぞ。夢を持つことは大事だって」

「ふーん、そんな事言ってたんだ」


孤児院と言う厳しい環境で生活しているとはいえ、まだまだ子供。

考えもその場の勢いに流されてしまう位に幼い。


「それじゃあ、俺達四人は魔物使いを目指そう」

「「「おう(うん)」」」


子供たちが魔物使いを夢見て手を取り合っている所に、そっと重ねるように手が一つ加えられる。


「なんだい?」

「うん?」

「ん?」

「メイ、あなたも魔物使いになりたいの?」

「(こくり)」


小さな手の少女に、声を掛けると肯定の頷きがある。

ライバルは増える事になるが、同じ夢を見る仲間は喜ばしい事だ。


「これはこれは。大歓迎だよ」

「うん」

「じゃあメイ、みんなと一緒に魔物使いになりましょう」

「(こくり)」


マチの言葉に、茶色い髪をおかっぱにした明るい茶色の瞳を持つ、メイはしっかりと頷く。新しい仲間の参加に全員が喜んで迎える。


ジャニだけは、メイは魔物使いでは無くて、違う目的があるのではと思ってしまう。


「なぁメイ、魔物使いになるって、もしかして肉を食べるためじゃなのか?」

「(こくり)」

「肉を食べるためって?」


昨晩の出来事を、全く知らない三人に事の次第を説明する。

魔物とはいえ、寝食を共にした仲間を食べる発言をした少女こそメイなのだ。


「・・大事な仲間は食べちゃダメよ、メイ?」

「まぁ・・、豚を仲間にすることは無いだろうし大丈夫じゃないかな?」

「うん」

「(こくり)」


引き気味に苦笑いを浮かべながら、三人ともメイのフォローをする。

さすがに大丈夫だろう・・かなと思いつつ、やはり気になり一応聞いてしまう。


「鳥、牛、羊なんか仲間になっても大丈夫か?」

「・・大丈夫たぶん

「頼むから即答して」


一抹の不安を感じながらも、五人はもう一度手を取って、魔物使いになる事を誓い合う。


「・・・(じゅるり)」


メイの手がテカテカといい感じに輝いていたのが、とても気になったのは内緒である。

涎じゃないよな!と心で叫ぶのはジャニ一人だけではなかった。




しかしシスターの鋭い視線は、そんな五人を見逃すはずは無かった。


午前の仕事が終わった後、仕事をサボっていた罰と、お説教を受ける五人がいた。





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