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ダンジョンの同居人  作者: まる
ダンジョンと
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エピローグ

エピローグ





商業ギルド経由で、機材の購入が決まり、いつもの様に行商に精を出していると、フォールのパーティとバッタリと会い、薬作りの経緯を聞かれる。


「なるほど。そういう理由で、市に行かねぇでブラついてるって訳か」


その言い方は酷いと文句を言うと、悪いとジューラにゲラゲラと大声で笑われてしまう。


「しっかし、商業ギルドに嵌められたんじゃねぇのか?」

「えっ!? 嵌められた?」

「だって中級薬だって作れるか怪しいのに、上級の機材まで買わせたんだからよ」

「そ、そういえば・・」


彼らは知らないが、ダンジョンでは上級薬の作成には失敗しているのだ。


「思うによ、町の近くに薬の本や作るための機材を確保しておいて、後々利用させていただきましょうって考えてたのかもよ」

「なるほど・・」


あのオウグがどう考えていたか分からないが、商人たちなら考えそうな事である。




思考の海から帰って来ると、ジューラは代表に絡んでいた。


「しかしよぉ、村長。毎回毎回こんな酒貰っているのか?」

「まぁ役得というやつだな」


一泊のお礼として渡している酒瓶をを軽く揺する。


「本来なら、お前たち冒険者には飲まさん筈なんだが、タイミングが悪かった」


代表がジロッとこっちを睨む。荷物を卸す際、口が滑って喋ってしまったのだ。


「職権乱用だ。ジャニ、あんまり甘やかすとつけあがるぞ」

「ただで泊めて貰っている、お礼のつもりなんだが・・。まぁほどほどにするよ」


一口ずつちびりちびり呑みながら、苦笑いを浮かべるも良い雰囲気だった。




「代表はうまくやってる。ジャニも行商をうまくやってる。うまくねぇのは俺たちだけか」

「うん? 何かあったのか?」


代表の方にも顔を向けるが、知らん知らんと首を振る。


「新しい専属の冒険者が見つからねぇ」

「あぁ、その事か」

「代表、何か知っているのですか?」


ジューラの一言に思い当たる事があったのか、ちょっと困った顔をする。


「あの件以来、新しい冒険者を探してるんだが、なかなか見つからんらしい」

「必要なのですか?」

「流石に2パーティで開拓地を、全て回るのは無理があるようだ」


村長は、問題パーティの奴隷落ち以降、専属のパーティの募集を聞いてようだ。


「応募はあるんだけどよ、前の様なパーティばっかりでな」

「それは・・、ちょっと困るな」

「だろう。そうなると要ねんだよ、専属のなり手が」

「ガラの悪さは冒険者の常だが、犯罪者スレスレではな・・」


代表も開拓地の治安は心配だが、爆弾を抱え込むのも避けたいだろう。


「早く見つかると良いですが」

「「本当だ」」


冒険者と代表が揃って溜息を吐く姿を、笑いを堪えるのが大変だった。






一月ほど経つと、商業ギルド経由で、薬関連の荷物が届けられる。


「結構な荷物の量なんですね・・」


ダンジョンにある錬金術の部屋の機材から、予想はしていたが一度で運べる量では無い。


「上級の薬となりますと、正確さを測る機材が増えますし、中級と上級の本やレシピを合わせると、かなりの量になりますから」


にこやかな笑顔を見ると、思わず先日のジューラの話を思い出し苦笑いになる。






ダンジョンの移動を行った当初は、DPの不足から魔物の購入は出来なかったが、ここ一か月で、各階層にだいたい魔物が行き渡るようになった。


薬作りの機材が届いた事の報告がてら、別荘の一つへお茶を頂きに行く。


『上級薬まで作れる道具ってどんな感じ?』

「流石100アウレウスはするだけの事はあるね。ダンジョンの物と遜色無い」

『へぇー、ワタシと同じ・・。どこら辺が?』


ダンジョンの物と同じと言う言葉に、プライドがいたく刺激されたようだ。


「精度とか、ガラスを言う高価な材質を使っているとか。ただ・・」

『ただ・・、何?』


フェブのヤバい雰囲気を感じ取って、褒めるように持っていく。


「量が少ない。機材の使いまわしをするんだろう。

フェブが用意してくれた錬金術師の部屋の機材は、複数同時に作れるぐらい機材に余裕はあるし、何より破損品の再生や清掃機能は、非常に優秀で何物にも代えがたい」


これでもかと言うほど、ダンジョン製の良さを褒めちぎっておく。


『ま、まぁ、幾ら市販品でも上級薬を作るんだから、それ位は当然でしょう。

ワタシの細やかな配慮と比べるたら、かわいそうと言うものよね』


ダンジョンの仕様なのだが、フェブの方が上という言葉に、機嫌が良くなる。


「これで中級薬を作っても問題が無くなった訳だ」

『上手くいくと良いわね』

「・・・・」

『どうしたの? 急に黙って?』

「な、何でもない・・」


フェブの一言に、非常に嫌な予感をさせながら、入れ替えられたお茶に口を付ける。






薬作りの拠点の地下へ機材を持ち込み、中級の薬を作成する。

薬が出来上がると、試供品として町や各村、フォールのメンバーに配る。


嫌な予感が的中し、衝撃の事実が代表たちや薬屋の店主から聞かされる。


「へぇー、もう中級の薬を作れるようになったのか」

「今回は初めての作成ですので試供品という事で配ってます」

「まぁ必要になったら購入するよ」

「はい。・・えっ!?」

「・・考えなかったのか? 初級でさえ不要なのに中級が要ると思うか?」

「・・・ですよね」


確かに非常時には有用だろうし、何時でも準備出来る環境は何よりも得難い。


予感はしていたが、ショックは隠しきれず固まってしまう。

思わずオウグがほくそ笑む姿を思い描いてしまうのは、仕方のない事だろう。






逃亡生活からは考えられない程、充実した半年近く過ごす‐‐‐






冒険者ギルドの一室には、剣呑な雰囲気を出す古株のパーティがあった。


「情報が無い? 何もか?」

「ああ」

「おいおい、これだけ時間と伝手を使ってか?」

「そうだ」


肩を竦め、お手上げの仕草をすると、メンバーは思い思いに考える。


「いくら二ノ領とはいえ全く情報が無いというのは・・」

「あり得ないな」

「身分証を持たず、ブリーダーの購入情報からも見つけられないとは」

「偽名か・・。何かを隠しているのは間違いあるまい」


旅をする上で、何らかの身分を証明出来なければ、怪しまれるには十分だ。


「なぁ、依頼を受けて貰うかい?」


メンバーの一人が、面白い事を思い付いた様な笑みで話してくる。


「受けて貰う? どういう事だ?」


自分たちは依頼を受ける側の人間が、依頼をするとはどういう意味か。


「【召喚】した勇者様のお相手を探している。難易度が高い方が良い」

「・・ほぉ」


話を聞いて、何か思い当たるのか目が細くなる。


「依頼をしろ。条件は殺さず正体を探る」

「まぁ、やってはみるよ」


直接ぶつかる事無く、相手を知る絶好の機会と捉えた様だ。






重厚な扉をノックする音が聞こえ、侍女が部屋に入って来る。


「姫様。領王様がお呼びです」

「お父様が?」


黒に近い紺色の瞳と、肩で切り揃えられた同色の髪を持つ、美しい女性だ。


「グルロゥゥ」


姫と呼ばれた女性の頭上より、獣の唸るような声が聞こえる。


「ちょっと行って来るわ。いい子にしててね」

「グゥルゥ」


それは15キュビット(720cm)程の大きさの、透き通るような銀色の美しいドラゴンであった。


ドラゴンの頬に手を添え、優しく顎の下を撫でると部屋を出る。


「お父様は何と?」

「依頼が纏まったので相談したいと」

「そう・・。あの方、今度はどんな事をさせられるのかしら」


小さく溜息を吐くと首を振る。


雰囲気を変えるため侍女が話を変える。


「しかし何時見ても、銀氷竜は美しゅうございますね」



【銀氷竜】

最上位であるドラゴンにあっても、更にクラスが分けられる。

種族の名前には、色は下位種に、属性は上位種に付ける習わしがある。

その中に会って金や銀は最上位に付けられる。

色と属性を何持つモノは、レア種となる。



「そうでしょう、あの子は本当に綺麗よね。もっともっと綺麗に、大きくなるわ」


どの様なクラスのドラゴンであっても、15キュビット(720cm)では幼体である。


「そして今回の勇者の【召喚】。

流石はディズの名を継承されるだけの事はあります」

「私一人ではとてもとても。力を貸してくれた召喚士たちのお蔭です」

「ご謙遜を」


確かに彼女一人では、どちらも【召喚】は叶わなかったであろう。

しかし、どれだけの召喚士が居ても、彼女がいなければ【召喚】は不可能だった。


姫と呼ばれた少女は、侍女を伴って領王たる父と勇者に会いに執務室へと向かう。






「あと一か月で、15歳の誕生日だね、メイ」

「うん」

「はいです。ジュンお兄ちゃん、エイプお兄ちゃん」


暗い茶色の瞳と、同じ色の髪を後ろに撫でつけた青年が、茶色い髪をおかっぱにした明るい茶色の瞳を持つ少女に声を掛ける。


その隣では黄色がかった茶色い瞳と同じ色の髪をお坊ちゃま風に切ったちょっとポチャリ気味の少年が頷いている。


「とびっきりの誕生日プレゼントを用意出来そうなのよ」

「本当ですか、マチお姉ちゃん」


今度は鳶色の瞳、赤毛をボーイッシュにした少女が声を掛ける。


「ちょっと時間が掛かりそうで、『成人の儀』に間に合わないと思うんだ」

「みんなと一緒にお祝いして欲しかったです」


ガッカリして寂しさが滲み出ている少女に、三人がフォローをする。


「四ノ領で、魔物を使う者を調べている人たちがいる」

「えっ!? それって」


寂しそうな顔が、何かを期待して急に輝き始める。


「みんなにお祝いしてもらえないのは残念ですが、その獲物は極上ですぅ」

「だろう」

「うん」


二人の兄に、とびっきりの笑顔で答える。


「マチと一緒に冒険者登録して追っておいで。それなりに情報を集めておくから」

「もう少ししたら一緒に行きましょう」

「はいです」


四人はとても深い笑みを浮かべていた。見ず知らずの人が見れば、狂気に染まったとしか見えない笑顔を。






六ノ領にある町の一つにある冒険者ギルド。


40代後半の男性に、受付の女性職員がにこやかな笑顔で声を掛ける。


「おめでとうございます。もうかなり遅いとは思いますが」

「ん? 何の事かな?」


突然の事に訳が分からず、思わず聞き返してしまう。


「ギルドの情報では、優先順位の低い物はなかなか回ってきませんので」

「いや、一体何の事かな?」


一向に話が進まないが、笑顔で話されては無下にも出来ない。


「新しいお仲間が、冒険者登録されたのですよね」

「新しい仲間? 冒険者登録?」

「あれ、ご存じない? まぁ距離が距離ですから無理もないですね」

「どういう事か教えて貰えるかな?」


おかしい、自分の知らない所で良くない事が進んでいる様な気がする。


「えぇ。ニノ領で新しい魔物使いが誕生したそうですよ」

「なっ!?」

「魔物使いって、ほらあまり職業に選ばれる方いらっしゃらないから」

「もう少し詳しく」

「もちろん、分かる範囲ですが」


新しい仲間の事が気になるのだろうと、快く話してくれる。


男性の心中は穏やかではない。

全く新しい魔物使いなら歓迎すべきだ。

もし、もし離反者によるものならば急いで手を打たなければ・・






誰かに養ってもらい、自由気ままに暮らしたいジャニを取り巻く環境は、本人の知らないところで急激に動き始めていた。





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