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ダンジョンの同居人  作者: まる
ダンジョンと
18/40

新しく作ろう

新しく作ろう





ギルド会館の商業ギルドの窓口でオウグを見つけると声を掛ける。


「おや、ジャニさん。どうかされましたか? また何か事件ですか?」


日を開けずにギルドに駆け込まれれば、真っ先に心配されるだろう。

ジューラと言い、人をトラブルメーカーと思っているのか。


「お願いがあってきました」

「お願い・・、ですか?」


オウグは言葉は違っても、持ち込まれる物は厄介事の匂いを感じてしまう。


「この辺の地理を教えて下さい。

合わせて中級の薬の作り方を知っている人の居る町を教えて下さい」


何となく分かったと頷くが、一応確認のため理由を問いただす。


「まず何故、地理についてお知りになりたいのですか?」

「薬の素材となる草や実の新たな群生地を見つけるためです」

「あなたも開拓者ですね」

「そんな偉そうなもんじゃありません」


彼の考えている事とを確信し、笑みが零れる。


「中級の薬の素材を見つけるためですか?」

「そうです。今回の件で、町や村の人たちにたくさん助けて貰いました。思いがけない大金も手にしました。何かお礼が出来ないかと考え・・」

「中級の薬を作れるようになりたいと思われたと」

「はい。その通りです」


オウグが言葉に被せる様に確認してくるので、そのまま肯定する。


「まずこの辺りの地理についてお話ししましょう」

「お願いします」


最初に近隣の開拓状況と、地理について話をする。


「主都同士を結ぶ大環状道に沿って大きな町、市と言いますがあります。

その市の周辺に町や村が形成され、開拓が進んでいきます」

「それは知っています」


基本的な開拓方法の確認を受ける。


「この町は、主都から半月(1024km)と言う距離があり、開拓事業そのものがかなり試験的な物です。

特産品の開発よりも、プロティア大陸の外側にある、果てしない海と繋ぐ、中継点を目指しています」

「果てしない海と!? とんでもない話ですね」

「まぁ最終目標ですがね」


単なる開拓事業では、資金の面からもこれほど大きな計画は出来ないだろう。


「そう言う訳で、一ノ領やこの町の様な例外を除けば、大環状道から大きく外れれば、すべて未開の地となります」

「なるほど、分かりました」


人類発祥の地である一ノ領は歴史も古く、かなり広範囲にわたって開拓されている。

ここ四ノ領や他の領の開拓状況の説明の後、中級の薬の話となる。


「中級の薬についてどの程度知っていますか?」

「全く知りません。薬屋の店主から、誰かに師事すると聞いています」


既に薬は作成しているため、ぼろを出さない様に言葉を選んで話す。


「あの方は雇われ店主ですから無理もありません」

「雇われ店主とはどういう意味ですか?」


開拓者の一人としてやって来たのではなく、町に雇われていると考える。


「開拓当初は戦闘も多く、かなりの量の薬が必要になりましたので、専門に取り扱う店が出来たのですよ」

「・・・薬師では無い?」

「違います。薬の鑑定は出来ますがね」


てっきり薬師で、技術を隠しているのかと思ったが、全く違った様だ。


「簡単に説明しますと、誰でも何処でも作れるのが初級、作業場と機材とレシピがあれば出来るのが中級、専門的な技術が必要となる上級以上となります」

「はぁ・・」


本に書かれて知っている事ではある。知らないフリをするのも難しい。


「薬を作るご自宅があるのですから、機材と薬の本を手に入れれば中級の薬は作れます」

「かなり高額になるのではありませんか?」

「そうですね。薬に関する本と機材を合わせて10アウレウスは必要でしょう」

「はぁ!?・・すいません。そうなんですか」


全額でも足りないかもと思っていた所に、にこやかな笑顔を浮かべ更に言葉を続ける。


「もし100アウレウスあれば、中級と上級の薬の本と機材を買えるでしょう。うまくいけばお釣りがくる思います」

「なっ!?」


所持金と同額で、上級の薬の機材が賄えるとは思ってもみなく、驚きのあまり愕然とする。


「商業ギルドの伝手で出来る限り易く仕入れて見せますが、如何しますか?」

「・・是非お願いします」


放心状態とはいえ、降って湧いたお金だ町や村のためになるなら構わないと思う。


届いたらお預かりしておきますとの声を背に、ギルド会館を出る。






『ふーん、中級どころか上級まで取り寄せ・・なのね』

「またしばらく、ダンジョンを空けると思ってたから気が抜けたよ」


ダンジョンに戻ると、世の中の薬事情は、上級の薬まで本を見て、後は自分で学べという状況を説明する。


『でも有り金全部、使った訳でしょ?』

「あの金は元から無かったと思える物だし、まぁいいかと」

「結果としては最良だったと存じます」


ダンジョンのメイド長の一人が横から口を挟んでくる。


『どういう事かしら?』

「ジャニ様がもし長期ご不在となった場合・・」

「俺が長期不在となった場合?」

「薬作りの拠点はもぬけの空となりました」

「『・・あっ!?』」


もぬけの殻となった拠点の事を考えると、村人や冒険者が来る事が想像に難くない。


『あなた何も考えていなかったわね』

「まったく頭になかったよ」


この大馬鹿者とか怒鳴られているのを、発案者は涼しい顔で見ている。






『じゃあダンジョンの引っ越しを考えましょうか』


薬作りの勉強に関する馬鹿騒ぎが一段落すると、ダンジョンの移転を計画する。


「開拓村から先は殆どが未開の地である。町から果てしない海までの繋げる予定と」

『果てしない海ね・・。そうなると四ノ領から離れた場所に引っ越した方が良いけど、外出メイド一人では難しいだろうし』

「ご命令とあらばいかなる場所でも」


商業ギルドの職員の話から、ダンジョンの移転先を模索する。


「開拓は始まったばかりみたいだし、距離的にはまずここから一週間程の場所に移転して、開拓の進捗に合わせて、更に移転する方が良いんじゃないか?」

『そうね近からず遠からずで移転しましょう』

「私を信じて頂けないのでしょうか?」


移転の方針を決めると、外出メイドは酷くショックを受ける。


「『違う』」

「俺たちは君たちメイドが生まれる前まで、沢山失敗してきた。

特に今回行う移転は初めての事だから、どんな予想外な事態が起こるか分からないんだ」

『失敗できる範囲で、失敗の無いように全力を尽くすのよ』

「流石フェブ様、良いお考えです」

「なるほど、承知いたしました」


メイド長が褒めると、外出メイドが感じ入ったように納得する。


『先ず場所はどこら辺かしらね』

「隣の三ノ領の方に向かおうと思う。

練習と思って東の村から真っ直ぐ東へ往復1週間程の場所にしようと思っている」

『なんで1週間なの?』


1週間、片道4日の根拠を問いただす。


「一つ目は余り近すぎず遠すぎず。

二つつ目は薬作りの拠点を空ける時間。

三つ目は外出メイドに旅の練習かな」

『旅の練習って・・、そうか薬作りの拠点は魔物に乗って速攻の移動だものね』

「そう。今回は実際の旅で片道4日を、正確に測った方が良いからな」

「ご配慮感謝致します」


そう言って頭を下げる外出メイドに、しっかりと求められている事を伝える。


「配慮じゃないよ。正確な距離を測る事は難しい。

これからのダンジョン移転には、君の正確な距離測定が大切になってくる。

以前フェブにも話したが、人は1日4万グラドゥス(32km)旅で歩ける。

この距離をこれからのダンジョン移動の基準にする」

『そうね。オートマトンのあなたなら正確な歩幅と歩数から距離を割り出せるはずよね』

「こういった細かい積み重ねが、次のダンジョン移転に生きてくる事になる」

「畏まりました。ご期待に沿えますよう」


外出メイドは、先程の練習の意味は、自分がダンジョン移転の成否を担うと理解する。


『ダンジョンの階層はどうしようか』

「それは、俺と外出メイドが移転場所を見つけるまで、みんなと相談して決めてくれ」

『お任せあれ』

「DP稼ぎの部屋も同じように作成しますか?」

「あの部屋はあのままなのか、新たに作成するのかも、併せて考えてくれ」

『了解了解』

「畏まりました」


ダンジョンの階層に関しては、フェブとメイドたちに一任する。




打ち合わせの後、外出組は直ぐに移転先探しに、居残り組は階層の設計を行う。

四日後にダンジョンの候補地に到着、土の精霊を【召喚】し地下に問題がない事を調べ、外出メイドに連絡してもらう。


「はい、到着致しました。はい、畏まりました。

ジャニ様、フェブ様より『地面を掘る魔物で、マザースライムみたいな事出来のいる?』との事です」

「勿論いるが、どうする気だ? 階層に間違えて穴ける可能性もあるぞ」


質問に答えると、聞こえるように繰り返しながら伝える。


「階層同士の壁や天井、床の外側は、特殊な能力で無い限り、物理および魔法では傷つかない膜の様な物ので仕切られているとの事です。

魔物を表に出さずに、増やしたり、巣を広げた場合の影響を検証したいと」

「なるほど、それなら蟻系の魔物を【召喚】するから、土のままの部屋を用意してくれ」


先程と同じ様に繰り返す言う様に、返事を伝える。

頷くと地面に手をついて、しばらくの間じっとしている。


「出来ました」


部屋への入り口を見つけると、待機させておいた土の精霊に穴を掘ってもらう。

中に入ると真っ暗のため、ウィル・オ・ウィスプを【召喚】するが、全体は全く見えない。

話を聞けば前のDP稼ぎの部屋と同じ縦横100グラドゥス(80m)との事だ。

突き当りには扉があり、扉の先には転移魔法陣の置かれた小部屋、反対側にも扉がある。

反対側の扉を開けると湿地帯となっていた。


「なるほど、なるほど。こういう風にした訳か」

『分かる? 分かった?』

「あぁ、分かった。こっちは任せておけ。階層は出来ているのか? 先に用意しておかないと穴だらけにされるぞ」

『ちょ、ちょっと待って。スライムの方からよろしく。前回と同じ作りだから』

「了解、湿地帯側には外と通じる出入り口作ってくれ」

『はいな』


前回と同じ様に、土の精霊を呼び出して、通路を作成する。

外へ飛び出し、フェブのダンジョンに居るマザースライムとその子を【召喚】する。


「悪いな、今度はここで頼むよ」

(・・・!)

「フェブ、外との入口を塞いで、そっちの壁にも階段作ってくれ」

『はーい』


階段が出来上がると、通路を作成して、マザースライムにお願いする。

「今度はグルッと一周するように巡回してくれる?」

(・・・!)


子スライムたちは部屋を一周する様に回り始める。


「そうそうその調子。足りなければ増やしていいし、好きにこの場所使って」

(・・・!)


好意的な感覚が伝わってくると同時に、何体かのスライムが生まれてくる。


扉を通って、反対側の土の部屋経由で外に出ながら問いかける


「もう蟻の方は【召喚】してもいいのか?」

『一応20階層と、出来るだけ深い所にワタシの部屋は作ったわ』

「まぁ、穴掘られたところに階層作るとどうなるかの実験にもなるか?」

『そうね。自分の所は分かるけど、相手がどうなったかは分からないから』


無責任ではあるが、追い出した?相手の事を考えるダンジョンコアは無いのだろう。




そのまま外に出て魔物の召喚を行う。


「さってと。‐の地。ビッグアントプリンセス。魔力代謝変換を付与・・【召喚】」


呪文を詠唱し目の前に5キュビット(240cm)程の魔法陣が出来る。

更に詠唱を追加して、二倍ほどの大きさになった魔法陣から人と同じ大きさの蟻が現れる。



ビッグアントは、1キュビット(48cm)程の大きさで、虫系の魔物では最弱である。

そのため巣には、女王蟻と女王候補となる複数の王女蟻が存在する。


その王女蟻を一体呼び寄せたのだ。


単なる土の部屋に戻ると、階段を埋め、下り階段を湿地帯と同じ数だけ用意させる。


「今日から君にここをあげる。この扉を守ってくれればどう使ってもいいよ」

(ギィ)


土の精霊にお願いして階段から先を、10グラドゥス(800cm)程掘り進めておく。


「ただお願いがあって、この部屋では卵を産まないで。

後あそこの全部の穴から、沢山出入りをお願いしたいんだ。良いかな?」

(ギィ)


下り階段を一つ一つ指差すと、肯定的な鳴き声のような音がする。


弱い生き物は、多産であり、生育が早い特徴がある。このビックアントもそうである。

階段一つ一つに入ると、中には既に多くの卵が産みつけられていた。




唯一となった扉を潜り、転移魔法陣でフェブの部屋に向かう。

しかしそこには、以前見た事のあるメイドの階層であり、かなり先に屋敷が見えた。


「えーっと、ここがフェブさんのお部屋でしょうか?」

『そうよ。フェブ兼メイドの階層でーす』

「フェブさんはどちらにいらっしゃいますか?」

『じゃあ、まずそこから見える屋敷に来て貰える?』


仕様としては、前のダンジョンにあったメイドたちの別荘地の階層である。

仕方なく、とぼとぼ歩いて屋敷に向かう。




屋敷の正面にあるドでかい扉を力なく開けると、大広間の真ん中にダンジョンコアが鎮座ましましていた。


「なっ!? お前一体何考えてるんだ」

『それダミーよ』

「はぁ? ダミーって、サブコアの事か?」

『いいえ、本当のダミー、偽物、ただの石っころよ』

「どういう事だ?」

『そうね、上に昇って、外を見てみればいいわ』


言われるままに、ダミーの後ろにある階段を昇り、外を見て驚く。


「なっ!? これは屋敷だらけ・・」

『いっしっしっ。驚いた? 吃驚した? 驚愕した?

この別荘地の階層には、別荘が一つでは無い』

「な、なるほど」

『しかも別荘の形も大きさも違い、ダミーも無かったり、複数あったりする』

「これは面倒くさいな」

『でしょう。ちなみにあなた発案の鏡の階層にも、ダミーコアが複数置いてあるのよ』

「そ、それはキツイな・・」


唯でさえ虚像が移る鏡の間に、ダミーコアを置かれては頭がおかしくなりそうだ。


「本物のフェブは何処に置いてあるんだ?」

『知りたい? 知りたいわよね。どれかの木の根元に、地下室への入り口があるわ』

「えっ!?」


この別荘地の建物では無く、数えきれない木の中の一本に、コアへの入り口が隠されているという。


とんでもないアイデアに目を見開いて、食い入るように風景を見ていた。





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